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第36話 当然の勝利とまさかの敗北

「勝ったのね……」


 初めての実戦と上級攻撃魔法を発動した疲労で足をふらつかせながら、サフィアはそう呟いた。対する敵のほうは黒焦げになり、気絶して地面に倒れている。


「なんとか魔法が成功して良かったわ……。あのバカが毎回毎回熱心に教えてくれたおかげかしら……?」


 訓練場での魔法特訓の様子を思い出したサフィアは思わず笑みをこぼした。だが、サフィアの身体はもう立っているのも限界のようだ。


「……あっ、ヤバッ」


 力が抜けたサフィアの身体は後ろに倒れる。だが、そのさらに後ろにあるドアが開き、そこから出てきた男が地面に倒れそうになったサフィアの背中を支えた。


「お疲れ。よく頑張ったな。サフィア」


「……え? レイン? なんであなたがここにいるのよ?」


「今ここにいるおれは、おれであっておれではない。分かりやすく言うと<分身(アヴァタル)>っていう魔法で生み出したおれの分身体だな」


「……驚きを通り越して呆れるわ。あなた、そんな魔法まで使えるのね」


「まあ、おれは良い親友に恵まれたからな。そいつのおかげだよ」


 レインは魔力障壁を地面に展開してサフィアをそこに座らせた。そのおかげか、多少の余裕を取り戻したサフィアはあることに思い至る。


「ねえ、ミアは? ミアは無事なの?」


「ああ、大丈夫だ。無事だよ」


「そう……。良かったわ……」


 サフィアは安堵の声を漏らす。そして、次なる疑問を口にした。


「そういえば、なんであなたは分身魔法なんて使ってるのよ?」


「お前のことが心配だったからな。万一のときはこの分身体で助けに入るつもりだったんだよ」


「……そう。結局、あたしは足を引っ張っちゃったのね。ごめんなさい……」


「いや、お前と一緒に来ることを選んだのはおれだから、全ての責任はおれにある。お前が気に病むようなことじゃないぞ」


 しかし、サフィアは顔を俯かせ黙ってしまう。それを見たレインはどうにかしてサフィアに元気を出してもらいたいと考え、ある話を思いついた。


「あとはあれだな。おれとしてはお前を連れてきて良かったよ」


「……どうして?」


「だってお前、最後は<神聖(ディバイン)不死鳥(フェニックス)>で見事に勝利を収めたじゃん! しかも、きちんと口上付きで! いやー、あれは感動したなあ!」


「なっ……! あれは違うわ! ……なんというか、その場の勢いでやっただけよ!」


「はっはっは、そんなに照れるなよ。すごいカッコ良かったぞ。サフィア」


「そんなこと言われたって全然嬉しくないわよ!」


 サフィアは恥ずかしさと怒りから顔を真っ赤にし、不満を露わにしてレインを睨んだ。だが、そのやりとりのおかげで、サフィアは無事に元気を取り戻すことが出来た。


「さて、なにか今のうちに話しておきたいことはあるか? ないなら、お前に回復魔法をかけて、この分身魔法は解除するぞ。一応、おれはまだ戦闘中だからな」


「……特にないわね。……強いて言えば、さっきの仕返しにあなたを一発くらいひっぱたきたい気分だけど、それは後にしてあげるわ」


「そうか。まあ、それくらいなら好きにするといい。それと、おれのほうもあと少しで片付くから、それまでここで休んでてくれ。じゃあ、またあとでな」


 レインは<治癒(サナレア)>を発動してサフィアの傷を癒やした。その後、分身魔法を解除したことで、レインの分身体はまるで霧が晴れるかのように消滅していく。


 そして、回復魔法で身体の痛みが消えたサフィアは今しがた思いついたことを口にした。


「……その、今回は色々とありがと、レイン」


 しかし、その言葉を発したときには、すでにレインの分身体は完全に消え去っていた。


「……せっかく人が素直にお礼を言ったんだから、ちゃんと聞いていきなさいよ。レインのバカ……」


 *****


 上での戦闘ではサフィアが勝利し、今はおれの分身体と会話中だ。そして、本体のおれはこっちの敵と体術戦の真っ最中である。


 そして、その敵は余裕の笑みを浮かべながら喋り始める。


「どうやら、貴方はそろそろ限界のようですね」


「…………………………」


「先ほどから明らかに動きが鈍ってきましたよ」


 おれの頭に拳を繰り出しながら、敵がそんなことを言った。今のおれはお喋りまでする余裕はないからちょっと黙ってて欲しい。あと、当然のごとく、おれは相手の拳を避けた。


「どうしました? やはり、会話をする余裕もないんでしょうか?」


「……うるさいぜ!! 少し黙ってろ!!」


「なっ……!」


 突然のおれの怒りの言葉に驚いたのか、敵の動きが一瞬止まった。おれはその隙をついて、大きく後ろに跳ぶことで敵との距離を取る。


 まったく、今のおれは分身体でサフィアと会話をしてるんだから、話が終わるまで黙ってて欲しい。ドアにこっそり穴を開けて見ているときはまだ余裕があったけど、こっちで戦闘をしながら分身体で会話や魔法を使うのはやはりしんどいな。


 まあ、無事にサフィアとの話は終わって分身魔法も解除した。これで、おれもようやく相手を殺さないように力加減が出来る。では、さっさと終わらせよう。


 そのためには一発で充分だが、ここはあえて三発にしておくか。カッコよさでサフィアに遅れを取るわけにはいかないからな。


 というわけで、おれは三つの魔法陣を空中に描いた。そして、それを見た敵は驚きの声を漏らす。


「ま、まさか、上級攻撃魔法を三発同時に!? し、しかし、この炎魔法はいったい……?」


「フッ、冥土の土産に教えてやろう。真の強者が発動する――」


「させませんっ!! <剛塊岩石砲(ガゼシオン)>!!」


「おまっ! ちょっ、ふざけんな! 最後まで聞けよ! くそっ、<三重(トリニティ)神聖(ディバイン)不死鳥(フェニックス)>!」


 おれが放った三体の神聖なる不死鳥は一瞬で<剛塊岩石砲(ガゼシオン)>と敵が防御のために展開した魔力障壁を灰にし、さらに敵を炎の海の中へと突き落とした。


 あーもう、なんでこうなるんだよ……。演劇の話をしてるときとかは、なんかカッコイイ会話が出来てて楽しかったのに最後の最後で台無しだよ。


 しかも、上ではやたらとノリノリで<神聖(ディバイン)不死鳥(フェニックス)>を放つサフィア・ラステリ-スさん(15)がカッコよく勝負を決めてたのになあ。


 こうして、おれはリミアの誘拐犯との戦いには当然の勝利を収めたが、サフィアとのカッコよさ対決ではまさかの敗北を喫してしまった。


36話を読んで頂きありがとうございました。


それで、次の投稿時間の前に現在の状況ですが、12/5(木)に第1章が終了し、その翌日の12/6(金)に第2章が始まる予定です。


なので、第2章が始まるまでの期間である明日12/2(月)~12/6(金)は、引き続き朝の7時頃に投稿します。


以上です。これからも本作をよろしくお願いします。

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