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第30話 これはデートだ!

 おれが紅き(ブラッディ)闇の(ナイトメア)(パレス)を訪れた後、しばしの日数が経過したとある日。


 今日は土曜日であり、おれにはとても大切な用事がある。その用事とは、リミアとのデートだ!


 いやまあ、新生活にも慣れてきたし、そろそろ王都を色々見て回りたいというリミアの希望で一緒に出かけることになったので、これをデートと言っていいかは疑問の余地があるかもしれない。


 だが、これはデートだ! え、理由? それは、おれがそう判断したからだ。よって、二度目の人生にてようやく、おれは美少女とデートをするという実績を解除できることになった。


 待ち合わせ場所にてそんなことを考えていたおれの元に、とうとうその美少女がやってきた。


「すいません、お待たせしました」


「いや、一時間……、じゃなくて一分くらい前に来たから全然待ってない。大丈夫」


 まるで、恋人のようなやりとりからおれ達のデートは始まる。……もうこれ恋人ってことでいいんじゃないの? 駄目?


 まあ、それは置いといて、休日のリミアの姿はどんな感じかな?


「……あれ? 休みなのに制服なのか?」


「……その、わたしが持っている服って、王都では浮いている気がするので……」


 なるほど、そういうことか。言われてみれば、王都までの旅で見たリミアの服はどれも田舎っぽい感じだったからなあ。確かに、リミアの言う通りかもしれない。


 ちなみに、今のおれの服はカッコイイやつだ。ただ、今日はデートだということを踏まえると、これではまだ地味すぎるかもしれない。ならば、もっと腕とかにシルバー巻くとかすれば良かったのだが、残念ながら持ち合わせが無かった。


 そんなことを考えていたおれを見て、不安げな顔をしたリミアが問いを発した。


「……やっぱり、休みの日に制服は変でしょうか? これはこれで、目立ってしまうような気が……」


「いや、そんなことはない。……あ、でも、ちょっと待っててくれるか? すぐ、戻るからさ」


「はい、分かりました」


 おれは急いで男子寮の自室へと戻り、四十秒で支度しなおしてリミアの元へと戻った。なにをしたかというと別の服に着替えたのだが、そんなおれを見てリミアが疑問を口にする。


「……制服に着替えたんですか?」


「ああ、二人とも制服ならリミアも気にならないんじゃないかと思ってさ」


「わたしのために……。ありがとうございます、レインさん」


 まあ、それは二つの理由の内の一つだ。そして、もう一つはこれなら制服デートになると思ったからである。こうして、おれは制服デートをするという実績も解除できることになった。


「……そうだ。服が気になるんだったら、今日はまず洋服屋に行かないか?」


「洋服屋さん……。はい、行ってみたいです!」


 洋服屋という言葉を聞いて、リミアのテンションが上がったようだ。やはり、女の子だから、オシャレに興味があるのだろう。こうして、おれ達の初デートの最初の行き場所が決定した。


 *****


 洋服屋へ向かう道中、おれ達は雑談をしていた。


「そういえば、サフィアは誘わなかったのか?」


「サフィアさんは今日は用事があるみたいです。だけど、明日は空いているそうなので、一緒に出かけようって話になってます」


「そうなのか。まあ、次の月曜日が祝日で三連休だから、色々楽しめるといいな」


「そうですね、楽しみです」


 しかしあれだな。月曜日が休みとか前世のおれなら喜ばしいことなのだが、今世のおれはそうでもない。これはやはり、おれの学院生活が充実しているからだろう。言い換えると、やはりおれの青春ラブコメは充実している、と言えるかもしれない。


 そんな感じで歩きながら雑談をして、おれ達はとある洋服屋へと到着した。あれ、そういえば洋服屋って基本的にシャレオツなリア充の空間っていうイメージなので入店のハードルが高いな。「あっへっへい、大将やってるぅ?」って言いながら入ればいいかな。


 と思ったが、よく考えれば今のおれはデート中な上にカッコイイ格好をしているので完全にシャレオツなリア充だった。よって、普通に入ろう。


「……わあ、洋服がたくさんあります……!」


 洋服屋に入り、店内を見たリミアが感嘆の声を上げた。


「これ、好きに見て回っていいんですよね」


「ああ、いいぞ。一緒に色々と見てみよう」


「はい!」


 普段とは違い、ウキウキしているリミアは新鮮で可愛らしい。その後、おれ達は店内を歩き回るが、可愛い洋服を見て目を輝かせているリミアが一番可愛かった。


「魅力的な洋服がたくさんあるんですけど、どうやって選んだらいいんでしょう?」


「……難しい質問だな」


 これが自分の服であればカッコイイ服を選べばいいだけなのだが、女の子の服を選んだ経験など当然一度もない。どうしたものかと悩んでいると、おれに助け船を出してくれる女性がいた。


「お客様、なにかお探しでしょうか?」


「あ、わたしが洋服を買いたいんですけど、どれを選んだらいいか分からなくて……」


「そうなんですね。あらあら、でも……」


「なんですか?」


「彼氏さんとデートで洋服選びなんですね。いやー、羨ましいです」


「! ち、ち、違います! わたし達はそういう関係じゃないです」


 リミアは店員さんの言葉に対し、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、両の手のひらを振って否定していた。え、違うの? いやうん、まだ違うね。ここで、『まだ』と付けるのが重要だ。


「そ、それより、洋服ってどうやって選んだらいいんですか?」


「そうですねえ。まず、ご予算はどれくらいでしょうか?」


「すいません、あまりお金はないんですが、これくらいで……」


「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」


 そう言って、店員さんはおれ達を店内の一角へと案内してくれる。ざっと見た感じ、安めの服が並んでいるコーナーのようだ。こちらの懐事情を汲んでくれる親切な店員さんで良かった。


「お客様、もしかして洋服店は初めてなんですか?」


「はい、そうです。実は、少し前まで小さな村で過ごしていたので、こういうお店は勝手が分からなくて……」


「あらあら、そうなんですね。では、せっかくですし、色々と試着してみましょう」


「え、でも、たくさん買うお金はないですし、ご迷惑じゃ……」


「大丈夫ですよ。ただ、もし良ければ、今後も当店でお買い物をしてくださいね」


「分かりました。ありがとうございます」


 こうして、店員さんによるリミアのファッションショーが始まった。可愛い系、きれい系、大人系、清楚系、セクシー系、さらにはボーイッシュ系に至るまで、その全てがリミアには似合っていた。やはり、美少女というのはなんでも似合う物だな。


 そして、リミアが新しい服に着替える度に、おれは素直に可愛いという感想を伝えているのだが、リミアは毎回頬を赤くして照れていた。そんな姿も可愛らしいので、ずっとこうしていたい。だが、そんな眼福な時間もそろそろ終わりのようだ。


「お客様、どうなさいますか? 良ければ、もっと試着なさっても構いませんが」


「い、いえ、さすがにもう大丈夫です。ありがとうございました。色々な服を着られて楽しかったです」


「楽しんでもらえたならなによりです。それでは、なにかお気に召した洋服はございましたか?」


「そうですね。じゃあ、これとこれと……」


 最初はなにを買えばいいか分からなかったリミアだが、無事に買いたい物が出来たようだ。おれとしても、リミアの色々な姿が見られたので、この店員さんには感謝しかない。


 ただ、ここで一つ問題が発生したようだ。


「うーん、これだと予算オーバーになってしまいますね」


「あ、そうですね。じゃあ、なにか一つ減らさないと」


「どうしましょうねえ……。私としてはサービスして差し上げたいところですが、さすがに一着分となると厳しいですし……」


 ふむ、ここはおれの出番だな。今日はデートなので、当然おれの全財産を持ってきている。まあ、全財産と言っても大した金額ではないのだが、これは言葉のトリックみたいな物だな。


 似たようなことだと、「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」という言葉があるので、数字には注意が必要だ。……別におれが嘘つきってことじゃないよ。レイン、ウソツカナイ。


 さて、真面目な話、おれとしては一着分と言わず全額出してあげたいところだが、絶対にリミアは遠慮するだろうから、ここはおれが先に遠慮しておこう。


「リミア。その一つはおれが出すよ」


「え? い、いえ、駄目ですよ。悪いですし」


「まあまあ、ほら、あれだ。ちょっと遅いけど、魔法学院の合格祝いってことでどうだ?」


「……そういうことなら、わたしもレインさんの服をなにか一つ買わせてください」


 そうきたか。だが、なにか一つと言っただけで値段に関する言及がなかったのがポイントだな。つまり、この店で一番安い服を選べばいい。おれはリミアに聞こえないように店員さんに耳打ちする。


「すいません、この店で一番安い服ってどこにありますか?」


「それでしたら、あちらになりますね」


 教えてもらった場所にあるのは、どうやらワゴンセール品のようだ。どれも安いし、これならリミアの懐はほとんど痛まないだろう。


 まあ、どれでもいいんだけど、せっかくだからカッコイイのを選ぼうと思って見ていたら、おれの琴線に触れる服があった。


 そこにあったのは、無地の白いTシャツ。そして、服の中央に『最強』という文字が黒色で刻まれていた。


 素晴らしい……。


 この一切の無駄を省いたシンプルなデザインに、あえて真逆の色で文字だけを書くことでそれを強調させている。これを作った人は相当にカッコイイセンスを持っていると一目で分かる一品だ。


 しかし、これがワゴンセール品とか超ラッキーだな。なぜ、こんなにカッコイイ服がこんなに安いのかはまったく分からないが、思わぬ掘り出し物を見つけてしまった。おれはその服を手に取ってリミアの元へ戻る。


「じゃあ、リミアはこれを買ってくれ」


「……え、これでいいんですか?」


「……だ、駄目かな?」


「……さすがに安すぎるような気がして」


 なんだ、そういうことか。リミアが困惑したような表情を浮かべていたので、まさかカッコ悪い服だと思われてるのかと考えビビってしまった。なお、安い上にカッコ悪い服だと思われてる可能性は残っているが、気にしたら負けだ。


「確かに安いかもしれないが、金額は重要じゃない。おれはこの服のデザインのカッコよさに強く惹かれたんだ。だから、他の高い服よりもおれはこれが良い」


「あ、そういうことですか。分かりました」


 どうやら、リミアはおれの好みが分かってきたようで、今度は素直に了承してくれた。無事に話もまとまったところで、おれ達は会計を済ませる。


「ありがとうございました。またのご来店を心よりお待ちしております」


「こちらこそ、色々とありがとうございました」


 こうして、おれ達は買い物を済ませ洋服屋を出た。


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