第28話 紅き闇の館
こちらの世界も暦の概念はだいたい日本と同じようで、土日は休みだ。まあ、さすがに祝日とかその辺は違うようだが。
それで、その休日におれは親友に会いに行くため、王都のとある路地裏を奥へ奥へと進んでいる。こういう狭い道ってなんかいいよね。こう、心が惹かれるというか。
そして、その路地裏を何度も右へ曲がったり左へ曲がったりして行き着いた先にとある魔道具店がある。
その魔道具店の名は、紅き闇の館。
ちなみに読み方は、ブラッディ・ナイトメア・パレス。
名は体を表すという言葉の通り、店の外観は紅と黒の二色を基調とした、禍々しくもカッコイイ風貌だ。その見た目のよさから、つい一時間くらい眺めていたくなってしまう。
もう、あれだよね。この店の場所と名前と外観から、この店の店長がいかにハイセンスな人間かがひしひしと伝わってくるよね。
そして、おれはそのハイセンスな店長に会うために店の扉を開いて店内に入る。
「いらっしゃいませ……ってアークじゃないか。久しぶりだね」
「ああ、久しぶりだな。ミハエル」
店内でおれを出迎えたのは灰色の髪をした爽やか系イケメン。この店の店主にしておれの親友だ。
「おや、それは魔法学院の制服だね。ということは……。合格おめでとう、アーク」
「ああ、ありがとう。けど悪いな。本当はもう少し早くお前に報告に来るべきだったんだが。まあ、色々と楽しくてついな」
「別に構わないよ。楽しいと言うことはキミの理想通りに青春を謳歌できているってことだろう。それなら、ボクも嬉しいよ」
おれの合格報告が遅くなってしまったことを気にしないどころか、おれが学院生活を楽しめていることを我がことのように喜んでくれた。やはり、こいつは見た目だけでなく性格もイケメンだ。
ついでに言うと、こいつのフルネームはミハエル・アシュフォードで、なんかやたらとカッコイイ。つまり、名前もイケメンだ。
さて、おれが休みなのに制服を着てきたのは合格報告の意味合いなのだが、イケメンであるミハエルがその制服を見て口を開く。
「よく似合ってるよ、その制服。ただ、マントがあるともっと良いんだけどね」
「やっぱお前ならそう言うと思ってたぜ。でも、大丈夫だ。実はアイシス先輩って人から同じマントを貰えることになってるんだ」
「へえ、それはいいね。以前、街中で見た覚えがあるけど、アイシス様が付けているマントはとてもカッコよくて印象に残ってるよ」
「アイシス先輩を知ってるのか? お前は魔法学院の生徒じゃないだろ」
「エディルブラウ公爵家の三女・アイシス様と言えば有名人だ。生徒じゃなくても知っている人はたくさんいるよ。まあ、ボクは以前に何度かお会いしたことがあるんだけどね」
「ふーん、そうなのか」
ミハエルはこのカッコイイ魔道具店以外にも普通の魔道具店を経営してて、けっこう大きい店らしいからなあ。きっとその辺の繋がりなんだろうな。
「それで、話を戻すけど、魔法学院に合格したキミに良い物を用意しておいたんだ」
「ええっ!? なにこれ、カッコイイ!!」
ミハエルがテーブルに置いたカッコイイ代物におれは目を奪われる。そこにあったのはあの<神聖不死鳥>を模した像だった。像というよりはフィギュアと表現したほうが分かりやすいかもしれない。
「以前、キミに見せてもらった<神聖不死鳥>にボクは強い感銘を受けたからね。魔道具として再現してみたんだ」
「えっ!? ちょっとまってくれ! 魔道具ってことはもしかして!?」
「さすがアーク。察しがいいね。試しに魔力を込めてごらん」
「おおっ!! すげえ!!」
ミハエルに言われた通りに神聖不死鳥像に魔力を込めると、まるで魔法の<神聖不死鳥>かのように、炎を発している。
実際には熱くはないので見た目だけなのだが、その再現性は完璧だった。さすがはイケメンのミハエルだ。
「なにこれ欲しいんだけど! いくら? あ、でもあんまりお金がないんだよなあ……」
「それなら安心してくれ。無料でいいよ」
「えっ、いいの!?」
「あとで店にも並べる予定だけど、まずはキミの合格祝いとして作った物だからね。遠慮せず受け取ってくれ」
「マジかよ!? サンキュー、ミハエル!!」
「そんなに喜んでもらえるならボクも嬉しいよ」
わざわざ合格祝いに新しく魔道具を作ってくれるとかこいつ、ちょっとイケメンすぎないか。おれが女だったらもう惚れてるぞ。いや、そもそも顔を見た瞬間に惚れてるかもしれない。
さて、それはそれとしてこの神聖不死鳥像を部屋のどこに飾ろう? やはり枕元か? いや、窓際において太陽に照らされるようにすべきか? それとも、なにか台でも買って、部屋の中央に置くべきか? ……まあ、それはあとでゆっくり考えるか。
ああ、やはりミハエルに会いに来てよかった。おかげで、先日の<神聖不死鳥>お披露目会で受けたおれの心の傷が、まるで不死鳥の復活のように癒やされ回復していった。
「そうだ、ミハエル。せっかくだし店内を見て回ってもいいか。久しぶりにここの商品を見ておきたいし」
「もちろんいいよ。残念ながら、この店はいつも閑古鳥が鳴いていて、商品を見るどころか、お客さん自体あまり来ないからね」
「なんでだろうな……? こんなにカッコイイ場所にあるカッコイイ店なのに」
「まあ、センスは人それぞれだからね。仕方ないよ。それに、利益のほうは普通の魔道具店のほうで充分に出ているから、こっちは道楽みたいな物だしね。だから、好きに見ていってくれ。そのほうが商品も喜ぶよ」
おれはその言葉に甘え、店内にある商品を見て回る。店内にはドラゴン、ガイコツ、グローブ、眼帯、十字架など、どれも心を惹かれるカッコイイ商品が並んでいる。もちろん、マントもあった。
だが、そんな中でおれの琴線に触れない商品がひとつあった。
………………分からない。これはいったいなんなんだろう?