第26話 メインヒロイン喪失の危機
本日の授業は終了し放課後。
「あの、レインさん、お願いがあるんですが……」
「ん、どうした、リミア?」
「もし、迷惑じゃなければ、帰る前に魔法の特訓に付き合ってもらえないでしょうか?」
「それはもちろん構わないが、なにかあったのか?」
「いえ、そうではなくて。将来のためにわたしもレインさんやサフィアさんみたいに早く強くなりたいなと思いまして」
そういうことか。確か、リミアは故郷の村のためにお金を稼ぎたいという健気な良い子だからな。おれとしては当然、協力せざるを得ない。
「分かった。じゃあ、訓練場に行くか。確か、部屋が空いていれば自由に使っていいはずだ」
「ありがとうございます」
「ちょっと待って。そういうことならあたしも行ってもいいかしら?」
おれとリミアの話を聞いていたサフィアが声をかけてきた。
「サフィアも強くなりたいのか?」
「それは理由の半分ね」
「じゃあ、もう半分は?」
「ミアのために決まっているでしょ。友達が頑張ろうとしているなら協力するのが当然よ」
「あ、ありがとうございます、サフィアさん!」
リミアはサフィアの右手を両手で握って感謝の意を表していた。うんうん、美しい友情だな。いや、もしかすると百合情かもしれない。
そういうわけで、おれ達は訓練場へと向かう。すると、その途中で美しい少女がこちらへ歩いてきた。おれの三人目のメインヒロインことアイシス・エディルブラウ先輩だ。
「バーンズアーク、ちょうどよかった。今から君のところへ向かうところだったんだ」
「もしかして、あの件ですか!?」
「ああ、君が欲しがっていたマントの件だが、生徒会の皆に許可は取れた。ただ、製作に少々時間がかかるそうだから、もうしばらく待ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます、アイシス先輩!」
ああ、早く欲しいなあ。今、目の前にいるアイシス先輩が身に付けているカッコイイマントを見ながら、おれはそう思った。
「それで、そちらの二人は確か君の隣に座っていた生徒達だな」
「あ、せっかくなので紹介しますね。まず、こっちが」
「え、ええと、わ、わ、わたしは……」
「お、おい、落ち着けリミア! どうした?」
「だ、だって、この方ってなんかとてもすごい方なんでしょう?」
どうやら、田舎出身のリミアは地位の高い貴族であるアイシス先輩を前にして動揺しいるようで、なにやら言葉遣いがおかしくなっていた。そして、そんなリミアの両肩に手を置いて、アイシス先輩は優しく語りかける。
「身分の差なら気にしなくて構わないよ。普段、友人と接するのと同様の対応でいい。私はアイシス・エディルブラウだ。君の名前は?」
「……は、はい。あ、ありがとうございます。……あ、あの、リミア・アトレーヌです」
「そうか。よろしく頼むよ。アトレーヌ」
「よ、よろしくです。あ、アイシス様」
まだ、多少の動揺はあるみたいだが、一応自己紹介は終わったようだ。さて、次は。
「あたしの番ね。あたしはサフィア・ラステリ-スです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。ラステリ-ス」
「ちなみに、アイ先輩って呼んでも良いですか?」
「もちろんだ。好きに呼んでくれて構わないよ」
リミアとは対照的にサフィアは堂々と挨拶を交わしていた。こいつは王都育ちとは言え、俺やリミアと同じ平民なのに度胸あるなあ。まあ、先ほどリミアが動揺した際に、アイシス先輩が言っていた言葉を聞いていたのも理由かもしれないが。
「ところで、こっちは出入り口ではないが、君達はどこへ行こうとしていたんだ?」
「訓練場に行って魔法の練習をしようかと」
「そうか、まだ入学して間もないというのにそれは感心だな。君達さえ良ければ、私も協力させてもらおう」
おれは二人のほうを見てその意志を確認するが、特に問題はなさそうだった。
「じゃあ、お願いします。アイシス先輩」
「ああ、では行こうか」
*****
訓練場に到着すると、サフィアが口を開いた。
「せっかくなので、アイ先輩の魔法を見せてもらえませんか?」
「私のをか?」
「はい、七星魔術師の先輩の魔法に興味がありますし、学べる部分もあると思うので」
「そうか。いいだろう」
アイシス先輩は手を使わずに魔法陣を一つ描き、的に向かって<絶零氷柱槍>を放つ。その魔法により的は貫かれ、その場の周辺が一瞬で凍結した。
「す、すごいです……」
「ち、ちなみにアイ先輩は他の上級攻撃魔法も使えるんですか?」
「ああ。では、まとめてお見せしよう」
アイシス先輩は魔法陣を三つ描き、<剛塊岩石砲>・<灼熱火炎弾>・<旋嵐疾風刃>の三発を同時に放った。
それらは当然のように的に命中し、ひとつは的を押しつぶし、ひとつは的を焼き尽くし、ひとつは的を切り刻んだ。
「……じょ、上級攻撃魔法を三発同時に。す、すごい……」
「……こ、これが七星魔術師の実力」
リミアとサフィアはアイシス先輩の魔法をみて、驚愕の表情を浮かべていた。
「ど、どうしたらそんなに強くなれるんですか?」
「どうしたらか……。私は幼少期からずっと鍛錬を重ねていたからな。やはり、日々の鍛錬が重要だろうか」
「じゃあ、アイ先輩はどうしてそんなに小さいころから頑張っていたんですか?」
「私は貴族だからな。上に立つ者として民を守るのは当然の責務であり、そのためには力がいる。それが理由だよ」
……な、なんて立派な人なんだ。幼少期から鍛錬を重ねていたのはおれも同じだが、その理由には圧倒的な差があった。
そして、そんなおれとは違う素晴らしい理由を聞いていたリミアとサフィアは、アイシス先輩に羨望の眼差しを向けていた。
……ま、待て!? これはマズイんじゃないか!? アイシス先輩は女性人気も非常に高い。だとすると、このままではおれのメインヒロインであるリミアとサフィアが、同じくおれのメインヒロインであるアイシス先輩に取られてしまうのではないか!?
いやまあ、三人の美少女による百合展開には興味がある。あるが、いけない。それでは、おれがこの学院に来た目的が頓挫してしまう。駄目だ、これは……。早くなんとかしないと……。
……よ、よし、理由のほうはどうにもならないので、ここはおれがアイシス先輩以上の実力があることを見せつけるしかない。
ならば、まずはアイシス先輩と同様に三つの上級攻撃魔法を同時に放ち、同程度の実力と思わせる。そして、その次に四つの上級攻撃魔法を同時に放ってさらなる強さを見せつける。よし、完璧だ。これでいこう。
「みんな、今度はおれの上級攻撃魔法を見せてやろう」
おれは、<剛塊岩石砲>・<絶零氷柱槍>・<旋嵐疾風刃>の三発を同時に放った。結果は先ほどのアイシス先輩のと同様だ。さて、反応やいかに?
「……れ、レインさん、あの……」
あれ、なんかリミアの反応が変だな。またおれ何かやっちゃいました?
「……ねえ、なんで一星魔術師のあなたが三種類の魔法を使えるの?」
……あ。やっべー、三人のメインヒロイン喪失の危機に動揺して、風魔法しか使えないって設定をすっかり忘れてたわ。
また、やっちゃったZE☆