第187話 リミア・アトレーヌ
またしても、賑やかになっていた控え室に静寂が訪れる。そして、その静かな時間はノックの音で再び破られた。
ドアから入って来たのは一組の家族。その中でおれの目を引くのは美しい純白のウエディングドレスを身に纏った娘であり、その女性の名はリミア・アトレーヌだ。
「良く似合っていてとてもきれいだぞ、リミア」
「はい、ありがとうございます、レインさん」
「ええ、本当にきれいよ、リミアちゃ――」
「うおーーーーーん、リミアーーーーー!!」
「あなた、さっきからうるさいです。少し黙っててください」
「そ、そんなこと言ったってーーーーー!!」
どうやら、お義父様は愛娘の花嫁姿に感極まって涙が止まらないようだ。まあ、気持ちは分かる。おれも将来自分の娘が結婚するなんてことになったら、同じ反応をしそうだしな。
そんなお義父様を部屋の端へと連れて行ったお義母様がこちらへと戻ってきて、おれとリミアに声をかける。
「二人とも、結婚本当におめでとう」
「ありがとうございます」
「お母さん、ありがとう」
「むしろ、こっちがありがとうって言いたいくらいよ。だって、お母さんも自分のことのように嬉しいもの」
その言葉の通り、お義母様は右頬に手を当てながら嬉しそうにこちらを見ていた。だが、そんなお義母様の目から涙がこぼれ落ち、それを見たリミアが慌てだす。
「お、お母さん、どうしたの!?」
「あらあら、年のせいで涙腺が緩くなっちゃったのかしら? ……ううん、そうじゃないわね。こんなに幸せそうな娘を見たら涙が出ちゃうのは、親なら自然なことよね」
「…………うん、わたしは今、……ううん、二年前からずっと幸せだよ」
「……リミアちゃ――」
「うおーーーーーん、良かったな、リミアーーーーー!!」
「だから、あなたうるさいです。おかげで、涙が引っ込んじゃったじゃないですか」
部屋の端に追いやられたお義父様は、いつの間にか近くに来ていたようだ。お義父様は服の袖で自分の涙をゴシゴシとぬぐうと、おれの目を見て口を開く。
「レインくん、俺も男だ。今更、君達の結婚を反対するような真似はしない。だが、万が一にでも娘を不幸にしてみろ。そのときは絶対に許さないからな」
「大丈夫です、安心してください。リミアさんのことは一生大切にして、一生幸せにしますから」
「………………分かった。男と男の約束だぞ」
「はい……」
お義父様との約束を交わした後で視線を感じ、そちらを向くとリミアが熱っぽい目でおれを見つめていた。そんなリミアを微笑ましく眺めながら、お義母様が声をかける。
「レインくんが旦那さんになってくれて本当に良かったわね」
「……うん。レインさんのお嫁さんになれて、本当に嬉しい……」
「……ところで、リミアちゃん。一ついいかしら?」
「なに?」
「レインくんのこと、いつまで『さん』付けで呼んでいるの? 後、レインくんと話すときは未だに敬語よね?」
「そ、それは呼び方とか変えるタイミングが分からなくなっちゃって」
「それなら、良い機会だから今変えちゃいなさい。こういうのは勢いが大事よ」
お義母様の言葉を聞いて、リミアは恥ずかしそうに俯いた。そのまま、しばし顔を下に向けていたが、とうとう覚悟を決めたのか赤い顔をしておれを見る。
「………………じゃ、じゃあ、改めて、これからよろしくね、レイン」
今までとは違う親し気な話し方と照れくさそうな笑顔に、おれは思わずドキリとしてしまった。




