第171話 どうしても話したいこと
おれの放った最強の一撃で真っ二つになったプリスアルマは微動だにしない。魔力反応も消えたし、完全に機能を停止したようだな。
「もう大丈夫ですよ、アイシス先輩」
「……そのようだな。助かったよ、レイン君。本当にありがとう」
立ち上がってそう言ったアイシス先輩だが、身体がフラフラと揺れている。プリスアルマとの戦いでかなり消耗しているみたいだし、早く休ませたほうがいいだろうな。
「とりあえず、ここから出ましょう。歩けますか? キツイようなら、おれが――」
「その前に、どうしても話したいことがある」
おれの言葉を遮ったアイシス先輩は頬を赤く染め、おれの服をギュッと握りながらそう言った。
「なんですか?」
「……今回、命を落としかけたことで、今すぐにでも言うべきだと感じた。……私は、私は……」
アイシス先輩は真っ赤な顔で、言葉の続きを口にする。
「……私は君のことが好きだ。だから、私を君の恋人にして欲しい」
「……!!」
その言葉でおれの心臓が大きく跳ねるのを感じた。アイシス先輩がおれのことを好きだと言ってくれて心の底から嬉しい。だが、だからこそ、今のおれの状況をきちんと説明しないといけない。
「ありがとうございます。アイシス先輩の気持ちはすごく嬉しいです。だけど、おれにはもう恋人がいるんです。それで――」
「……!! ……そうか。そうだよな……。君ほどの男性なら、恋人がいるのは当然のことだ」
「はい、それで――」
「その恋人とはやはりリミア君か? それとも、サフィア君?」
駄目だ。おれが話を続けようとする前に、涙を流したアイシス先輩がそれを遮ってしまう。仕方ないから、まずはこのまま質問に答えるしかないか。ちょっと答えづらい質問なのがアレだけど。
「……えーっと、両方ですね」
「……そうか、両方か。………………いや待て、両方だと?」
アイシス先輩の目からピタリと涙が止まると、おれに詰め寄ってきて声を上げる。
「レイン、貴様!! 両方とはどういうことだ!? まさか、二股を……っ!」
「ちょ、大丈夫ですか、アイシス先輩!」
おれは倒れてきたアイシス先輩の身体を抱きとめた。一応、回復魔法はかけておいたが、さすがにまだダメージが残っているようだ。
「まずは身体を休めて治療しましょう。その後で、ちゃんと説明しますから」
「そうだな……。取り乱してしまいすまなかった」
おれは再びアイシス先輩に<治癒>を発動する。…………よし、治療はこれくらいで大丈夫だろう。
「それで、話の続きなんですけど、確かにおれは二股をしています。ですが、どちらかに隠れてもう一人と付き合っているとかではなく、ちゃんと二人の了承を得て堂々と付き合ってるので……」
「そ、そうなのか……。……にわかには信じがたい話だが君がそんな嘘をつくとも思えないし、二人に了承を得ているのなら問題はないのだろうな」
「良かった、分かってくれましたか」
「ああ、状況は理解した。……だが、なんにせよ、すでに恋人がいるなら私が君と恋人になるのは無理……、いや待て」
そこでピタリと言葉を止めると、アイシス先輩は頬を赤くして上目遣いでおれを見た。
「……そ、そういうことなら、私を君の三人目の恋人にしてもらえないだろうか……?」
そんな可愛い顔でお願いされて断れる気がしないし、元より断る気もない。
「アイシス先輩さえ良ければ、もちろんおれはいいですよ。リミアとサフィアのほうもたぶん大丈夫だと思いますし、もし駄目でもおれが絶対に説得します。じゃあ、善は急げということで、今から二人のところに向かいますか?」
「うん、頼む……」
そう言って、アイシス先輩がおれに抱きつこうとする……ところで、この部屋のドアが開く音がした。
「ご無事ですか、会長!?」
「し、シェーナ君!? それに、皆も!?」
「周辺住民の避難は完了したので、いてもたってもいられず戻ってきてしまいました。……ってバーンズアークさん!? なぜ、貴方がここに!?」
「アイシス先輩がピンチだと知ったので、急いで駆け付けたんですよ。で、暴れてたプリスアルマって奴はおれが倒しました」
「まあっ、そうだったんですね! さすがは、会長がお認めになった御方です!」
シェーナ先輩はうっとりとした表情でおれ達を見ている。シェーナ先輩は知らないが、先ほど告白されたことを踏まえるとアイシス先輩に認められたというのもあながち間違いではないな。
「戦闘が終わったのならば、オレ達の次の仕事は事後処理だな!」
「そそそうですね、頑張ります」
「……その件なんだが、一ついいだろうか?」
生徒会メンバーの方を見て、アイシス先輩が申し訳なさそうに口を開いた。
「個人的なことで大変申し訳ないが、私は急ぎで行きたい場所ができてしまった。だから――」
アイシス先輩が言いきる前に、シェーナ先輩はアイシス先輩の両手を握る。
「そういうことでしたら、この場はわたくし達にお任せください!」
「うむ! 会長殿をフォローするのが、我々の仕事だ!」
「かか会長さんはどうぞご自由に!」
「………………ああ、皆ありがとう……。こんなに素晴らしい仲間に恵まれて、私は本当に幸せ者だよ……」
シェーナ先輩達の熱い眼差しに、アイシス先輩は嬉し涙を流しながらそう答えた。その姿にシェーナ先輩は目を見開いていたが、おれのほうを見て口を開く。
「では、会長はバーンズアークさんにお任せします。お二人とも、行きますよ」
「了解だ!」
「はははい」
三人はくるりと後ろを向いてドアから出ていき、再びこの部屋はおれとアイシス先輩の二人きりになる。
「じゃあ、王都に戻りますか?」
「そうだな。……そういえば、君はどうやってこんなに早くここまで来たんだ?」
「そうだ、説明しそびれてましたね。実は、<転移>って言う魔法で一瞬でここまで転移して来たんです」
「そ、その魔法はお祖母様に聞いたことがあるが、君はそんな魔法まで使えるのか……」
アイシス先輩は目を丸くしていた。なんだか、今日はアイシス先輩の驚いた姿を何度も見ているな。
「まあ、元々の使い手は師匠なので、半分は師匠のおかげですね。でも、その師匠からは使うなと言われてたんですけど」
「それはなぜだ?」
「これは亜空間を移動する魔法ですからね。下手をすると、その亜空間に飲み込まれてそこから脱出できない危険があるって言ってました」
そう説明すると、アイシス先輩はまた申し訳なさそうな顔をしていた。
「そのような危険を冒してまで私を助けに来てくれたのか……。本当に申し訳ない……」
「いえいえ、そうは言っても師匠の経験ではそのリスクは限りなく低いとのことですし、それになによりおれがしたくてしたことですから気にしないでください。ただ、念のため王都には<飛行>で戻りましょうか?」
「……申し訳ないついでと言ってはなんだが、<転移>で戻ってもいいか? なるべく、早めに結果を知りたいんだ……」
アイシス先輩は不安げな顔でおれを見た。確かに、自分の告白の結果がどうなるかを待つのはしんどいだろうし、その想いには応えてあげたい。
「分かりました。万が一、亜空間に飲み込まれてもおれがなんとかしますよ。なんたって、おれは最強ですからね。じゃあ、おれに掴まってもらえますか?」
「うん……」
おれがそう言うと、アイシス先輩はおれに抱きつき背中に両腕を回してきた。
「……あの、アイシス先輩。そんなに密着しなくても大丈夫ですよ」
「駄目か……?」
……そんなに赤い顔をして、子どものように甘えられたら駄目と言えるわけもない。まあ、もうすぐおれ達は恋人になるわけだし別にいいよね。というわけで、おれもアイシス先輩の背中に両腕を回した。
「いえ、大丈夫です。では、行きますよ」
おれは<転移>を発動して、二人で王都へと転移した。




