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第14話 初めての指名依頼 その2


 レドルフからの指名依頼を受けて、私はヤツデの森で依頼された素材を採取していた。


「おっ、ヒルカリ草発見~」


 依頼されているのはヒルカリ草とカムラグ草とナツナの実。どれも5個ずつの採取と数は多いが、問題はない。

 見つけたヒルカリ草を根っこから引き抜く。この辺りはヒルカリ草が良く生えているようなので、すぐに必要数集まりそうだ。


 それにしても、レドルフに奥さんがいる事には驚いた。

 ゲームでは独身で、一人で診療所を営んでいたから――ん? 独身?


 何かが引っ掛かり、ヒルカリ草を採取していた手が止まる。


 ……あれ? レドルフって独身だったっけ?

 え――……っと、独身だった、よね……?

 でも、“カローナ”って名前はなんか見覚えがあるんだよなぁ……。

 どこでだっけ……?



≪――妻は、カローナは、その時帝国の兵士に殺されて……≫



 ふいに、あるゲームの画面が脳裏に甦った。

 その瞬間、私は一気に思い出した。


 ああああああああああ!! そうだ! カローナだ!!

 レドルフの妻、カローナ!

 ゲームでは、帝国の動きが活発化して来た時のゲームのシナリオの中で、みんなが口々に帝国に対する不満をぶちまけていた中にレドルフのものがあった。

 それはカローナが近隣の村に訪問診療に行った時、その村が帝国の兵士たちに襲われて、村人たちと共に命を落としてしまったという内容だった。


 って、あああああああああ!! ヒルカリ草が茎の部分で切れちゃってる――!!


 おそらく、カローナの事を思い出した時に無意識に力を入れてしまったのだろう。使えないわけではないが、これでは依頼されている高品質のものにはならないだろう。

 解析鑑定を発動して手に持っているヒルカリ草を鑑定してみれば、やはり品質は“普通”と示されていた。低品質ではなかっただけまだマシか。

 とはいえこれはレドルフに納品は出来ない。自分でポーションを作る時の材料としよう。


 それにしてもカローナか……。

 ゲームだとすでに亡くなっていた人物にまさか出会えるなんて――いや、違う。



 “今はまだゲーム開始前の時間軸”なんだ!



 主人公がサルビアの町に来るゲームの開始時点の4月ではもうすでにカローナは亡くなっていた。

 彼女が生きているという事は、つまりそう言う事だ。

 今は11月で、ゲームの開始は4月から。

 あと5か月の内に、カローナはどこかの村で襲ってきた帝国の兵士に殺されてしまう。

 けれど、それを阻止できれば、カローナはこの先もレドルフと共に歩んでいける。

 これは何としても、カローナの死を食い止めなければ!


 ……でも、カローナに関する情報は、レドルフのセリフしかない。

 彼女がいつ、どこの村の訪問診療に行って、帝国の兵士に殺されるのか、彼の口からはそこまで詳細に語られなかったし、シナリオを進めて行ってもそれが深堀された事はなかった。


 いきなりどん詰まりじゃないか!


 いやいや、落ち着け。落ち着けフィリア。

 まだ時間はある。

 訪問診療って事は、定期的に村に診療に出かけているって事だ。

 だから、どうにか自然な形でその診療に出るスケジュールを掴んで、どうにか自然な形でその訪問診療に同行し、帝国の兵士からカローナを守る! うん! これでいこう!


 と、なればこの採取依頼を早々に終わらせて、まごころ診療所に戻ろう。

 私は気合を入れて、残りの素材の採取に取り掛かった。




◇   ◆   ◇




 お昼を過ぎた頃、私はサルビアの町に戻った。

 そのまままごころ診療所まで足を運ぶ。


「こんにちはー」


 扉を開けて中に入って見れば、数人の患者さんが待合室の椅子に座っていた。視線を向けられて、とりあえず軽く会釈する。


「あら、フィリアさん!」

「こんにちは、カローナさん」


 待合室にやって来たカローナが、私の姿を見て目を丸くする。


「もしかして、もう……?」

「? はい。採取してきました」


 何をそんなに驚いているのだろうか?

 カローナは「ちょっと待っててね」と言って、待合室で待っていた患者さんを呼んで診察室へと連れて行った。

 私は空いている椅子に腰を下ろして、次にカローナが呼んでくれるまで待った。忙しい時に来てしまったようで、申し訳ない。




 最後の患者さんの会計が終わると、カローナから呼ばれた。


「ごめんなさいね、お待たせしちゃって」

「いいえ。忙しい時に来てしまってすみませんでした……」

「いいのよ。今日はたまたま患者さんが多かっただけだから」


 座って、と言われて私はカウンターの前に置かれている椅子に腰かける。カローナはレドルフを呼びに診察室へと消えていった。

 しばらくして、カローナと共にレドルフが待合室までやって来た。


「お待たせしました、フィリアさん。もう素材を採取したとカローナから聞きましたが……」

「はい、こちらに」


 私は肩から提げているマジックバックから依頼されていた素材を取り出し、カウンターの上に置いて並べた。

 すると、レドルフも先ほどのカローナと同じく驚いた様子を見せた。


「こんなにも早く採取して頂けるとは思いませんでした……」


 そんなにも早かっただろうか?

 まあ、確かに今日はカローナの件で早く済ませようと急いでやりはしたけれど、そんなに驚かれるとは。


「一応、品質の確認を行っても良いですか?」

「フィリアさんを疑ってるとかじゃないからね? 決して!」


 突然カローナが身を乗り出す勢いで言ってきた。

 疑うも何も、依頼主が素材の品質確認をするのは当然なのでは? 今回は品質を指定しているわけだし。


「はい。お願いします」


 レドルフが鑑定メガネを使って私が納品した素材の品質確認を行っている間、カローナがお茶を用意してくれた。私は待合室のソファに移動してカローナが淹れてくれたお茶を飲みながら、彼女との話に花を咲かせる。

 これは訪問診療の日程を聞くチャンスだ。


「そういえば、近隣の村に訪問診療に行ってるんですよね?」

「ええ。月に2回。5日と20日に」


 よっし! 訪問診療日の情報ゲットだぜ!


「大変じゃないですか?」

「うーん。大変じゃないって言ったら嘘になるけど、小さな村には医者なんていないし……。それに……助けられる命が目の前にあるのに、見て見ぬふりなんてできないもの。むしろ月に2回しか行ってあげられないのが申し訳ないわ……」

「カローナさん……」

「お待たせしました!」


 カウンターからレドルフの声がした。素材の品質の確認が終わったようだ。

 カローナとのお話を切り上げ、私はカウンターへと戻った。


「納品いただいた素材は全て高品質の物でした。本当にありがとうございました」

「いいえ! ご期待の物をお届けできて良かったです」

「こちら、今回の依頼の報酬です」


 カウンターの上に革袋が一つ置かれた。中を開いて確認してみれば、今回の報酬がきちんと入っていた。


「確認しました。この依頼書にサインをお願いします」

「はい」


 レドルフから彼のサインが入った依頼書を受け取る。

 あとはこの依頼書をギルドに提出すれば、今回の指名依頼は完了だ。


「フィリアさん、今日は本当にありがとうございました。おかげでより効果の高い薬やポーションを作ることが出来ます」

「いえ! お役に立てて何よりです!」

「今後ともよろしくね!」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 これは今後もレドルフから定期的に薬草などの素材の指名依頼が入りそうだ。やった!

 私は二人に見送られながら、まごころ診療所をあとにした。




 ――助けられる命が目の前にあるのに、見て見ぬふりなんてできないもの




 先ほどのカローナの言葉が蘇る。

 振り返って見れば、二人はまだ診療所の前で私の事を見送ってくれていた。手を振るカローナに、手を振り返す。


 いつ訪問診療を行うのか、その情報を手に入れることが出来た。大収穫だ。

 今月の訪問診療はあと一回。その日は朝から自然を装った形でまごころ診療所に来よう。

 助けられる命が目の前にあるのに、見て見ぬふりはできない。私もそう思う。




 私は絶対にカローナを助けてみせる!




 決意を胸に秘め、私は依頼達成の報告をする為に冒険者ギルドを目指した。




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