第13話 初めての指名依頼 その1
「ご指名?」
「あれ? “指名依頼”ってご存知ないですか?」
ご存じないです。
私が頷けば、ラナさんは「こちらへどうぞ」と言って、依頼受付カウンターに私を案内した。
「“指名依頼”っていうのは、簡単に言うと依頼主から名指しで依頼が来る事です」
通常の依頼に比べて指名依頼の場合は報酬が上乗せされるそうで、依頼主と良い関係が築ければ定期的に依頼を貰えるので稼ぎには悩まずに済むそうだ。
「それはとてもありがたい話ですね……」
「でしょう? フィリアさんが毎回納品する薬草とかって、全部高品質なものだったじゃないですかぁ。それでフィリアさんの評価が上がって、指名依頼が来るようになったんですよー!」
冒険者になってまだ一週間程しか経っていないのに指名依頼が来るのはとても珍しい事だそうで、それだけ私の評価が高いのだとラナさんは話した。照れくさいが、とても嬉しい。
「今回きた依頼の内容はヒルカリ草とコテガシ草とナツナの実の採取ですけど、どうします? 受けますか?」
「もちろん、受けます!」
「それじゃあ、手続きしますね~」
ラナさんに冒険者カードを差し出し、依頼の受理手続きをしてもらう。
……ラナさんちゃんと仕事出来るんだなぁ。
こんな事思うのは失礼なのかもしれないけど、ラナさんが手続きを行っている様を見ながらそんな事を思う。
ヴィーラさんが苦労してそうだったから、ラナさんがちゃんと仕事をしている姿は意外というか何と言うか。
「はい、手続き完了でーす。あ! 依頼主さんからは、“挨拶をしたいから採取に出る前に自宅まで来てほしい”との要望がありましたよ!」
「わかりました。依頼主さんの自宅の場所を教えてください」
「依頼書の裏に書いてありますよー」
ラナさんから依頼書を受け取り、裏返す。そこには冒険者ギルドから依頼主の自宅までの地図が書かれていた。わかりやすくて助かる。
「指名依頼の場合、納品はギルドじゃなくて直接依頼主にしても良いですよ~」
「え? そうなんですか?」
「はい! 依頼主に直接納品する場合は、依頼書に依頼主のサインを書いてもらって、それをギルドに提出してください」
「わかりました。それじゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃ~い」
◇ ◆ ◇
依頼書の裏面に記載された地図を頼りに、私はこの町にある診療所“まごころ診療所”に来ていた。
手元にある依頼書に書かれている依頼主の名前を見た時には気づかなかったが、今目の前にある診療所を見て私は思い出した。
今回、私を指名してくれた依頼主は、ゲームに登場していたキャラクター“レドルフ・クリロット”だ!
レドルフは恋愛攻略対象キャラではなく、サブキャラクターだ。このまごころ診療所を営んでいる医者だ。
まごころ診療所では状態異常の治療を受けることができ、またHPが0になった場合は自動的にこの診療所に飛ばされて治療を受ける事になる。あと診療所では風邪薬や状態異常を回復できる薬なんかを販売している。
私は気持ちを落ち着かせて、診療所の扉を開いた。
「こんにちはー」
「こんにちは」
扉を開けてすぐ、濃い金髪のシニヨンヘアーの女性と出会った。クラシックなロングスカートのナース服に身を包んでいるので、この女性は診療所で働いている看護師さんだろう。
しかし、ゲームで看護師なんて登場していただろうか? この診療所はレドルフが一人でやっていたような……?
「どうされましたか?」
思い出そうと思考を巡らせていると、目の前の女性に尋ねられた。
「あっ! えっと、レドルフさんから素材採取の指名依頼を頂きまして、ご挨拶に伺いました!」
「あら? レドルフの? ……という事は、あなたがフィリアさん!?」
看護師の女性が急に目を輝かせて詰め寄って来た。
一体なんだ!?
「あらやだー、こんなに可愛らしい冒険者さんだったなんて! ちょっと待ってて! すぐにレドルフを呼んで来るから! テキトーに座って待っててちょうだいね!!」
そう言って看護師さんはバタバタと奥に引っ込んでいった。
なんとも元気な看護師さんだなぁ、と思いながら私は待合室にあるソファに座ってレドルフが来るのを待った。
「お待たせしてすみません!」
バタバタと足音を立てながら、先ほどの看護師さんと茶髪の眼鏡をかけた優しそうな白衣を着た男性がやって来た。
レドルフだ!
私はソファから立ち上がり、レドルフに向き合った。
「初めまして。レドルフ・クリロットです。この度は依頼を受けて下さりありがとうございます」
「フィリア・メルクーリです。こちらこそ、ご指名の依頼を頂きありがとうございます」
「いえいえ、そんな……。あ! フィリアさん、少しお時間頂いても良いですか?」
レドルフからの問いに頷けば、「こちらへ」と言ってカウンターへと案内した。
カウンターの向こう側にレドルフと看護師さんが行き、私はレドルフの向かいに腰を下ろす。
「改めて。依頼を受けて下さりありがとうございます」
「いえ! こちらこそ!」
レドルフに頭を下げられて、私も慌てて頭を下げる。
ただの素材採取の依頼なのに、なんだか大袈裟な気がして落ち着かない。
「まさかこんなに若い冒険者の方だとは思いませんでした」
「私も! びっくりしちゃったわ!」
レドルフの隣に座っていた看護師さんが言った。
そういえば、この人は誰なのだろうか?
レドルフの事を呼び捨てにしているし、彼とは親しい間柄なのだろうか?
「紹介が遅れました。こちらは妻のカローナです」
「カローナ・クリロットです。よろしくね!」
にこりと笑ったカローナさん。
私は驚きの余り、口をあんぐりと開けてしまった。
妻!?
レドルフに妻!?
あれっ? 彼は独身だったはずじゃ……?
「どうしました?」
「えっ!? あ、いえ、なんでもないです!」
いかんいかん。
私はレドルフとは初対面なんだから、妻を紹介されて驚いてちゃダメだ。
……でも、カローナってどこかで見覚えが……。
「今回の依頼ですが」
レドルフの言葉にハッと我に返る。
そうだ。今は頂いた依頼に集中しなければ。
「依頼書にも書かせてもらいましたが、ヒルカリ草とコテガシ草とナツナの実をどれも5個ずつ採取をお願いしたいです。品質は全て高品質の物をお願いしたいのですが……」
「わかりました! お任せください!」
どの素材も村にいた頃に採取した事のある物だ。正しい採取の方法もわかっているので、高品質の採取はそんなに難しくはないだろう。
ゲームでは単純にAボタンを押したら素材を採取出来たのだが、現実のこの世界ではAボタンなんてものは存在しないのでそうはいかない。すべて自分の手で採取しなければならない。
最初はそれが面倒くさかったが、解析鑑定で書かれていた採取方法で品質の高い素材が取れる事を覚えると、素材の採取を苦に思う事は少なくなった。今ではちょっと楽しかったりする。
「……頼もしい限りです」
「よろしくね、フィリアさん」
「はい!」
レドルフとカローナさんとの挨拶を終えた私は、さっそく依頼された素材を採取する為にヤツデの森に向かった。
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