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1日目-09

「……ねぇ、コエダちゃん。どうして魔法の事なんて聞いたの?」


 小枝が口を閉ざすと、当然のごとく、クレアから質問が飛んでくる。脈絡も何も関係無しに、魔法が使えるかどうかを聞いたのだから、なぜ聞いたのかを疑問に思って当然だった。


 対する小枝は、あらかじめ考えておいた理由をクレアへと向ける。


「……実は私、冒険者じゃないんです」


「えっ?」


「冒険者になりたいと思って、山奥からこの先の町に向かって出てきた村娘で……」


「あ、そうなの……」


「村で魔法が使えるのは、私しかいなかったもので……クレアさんが使えるなら、ちゃんとした魔法を見てみたい、って思ったんです」


 小枝のその言葉に含まれていた嘘は1つだけ。山奥に住んでいたというのは事実である。村娘というのも、ガーディアンたちが住まう場所を"村"と捉えるなら、強ち間違いではなかった。冒険者になりたいというのも、興味があるという点では、本心だったと言えるだろう。


 彼女の嘘は、魔法が使える、という点である。この場面において、自身の力の理由を説明するには、"魔法"という単語がどうしても必要だったのだ。尤も、小枝に搭載されている様々な機能は科学の英知によって作られているのだから、この世界の人々から見ると、ある意味で魔法のように見えるのかも知れないが。


「ふーん。じゃぁ、コエダちゃんは魔法が使え……って、もしかして、昼間に岩を壊したのって、魔法が原因だったの?!」


 クレアは小枝が何を言わんとしているのか悟ったようである。どうやら小枝の策略にまんまとハマってしまったらしい。


 対する小枝は、はい、と小さく首肯してから……。空を見上げつつ演技を続けた。


「小さい頃から魔法の制御が上手くいかなくて……気を抜くとあんな風に、強い力が出ちゃうことがあるんです」


「それ、大変だね……」


「えぇ……。だから、あまり自分の魔法については言わないように、って姉様から言われていたのです。まぁ、余計な事さえしなければ、変に力が出ることもないので安全ですけどね」


 小枝はそう言うと立ち上がって……。地面に生えていた花を10本ほど集めた。彼女はその花の茎を器用に曲げて……。そして花の腕輪を作り上げる。


 夜に咲く白い花を使ったその腕輪は、沈み行く月の光を反射して、淡く輝いていた。それを見たクレアは、花びらのように、眼をキラキラと輝かせる。


「それも魔法?」


「……いいえ?編み方に工夫があるんですよ。教えましょうか?」


「えっと……お願い!」


 そして、小枝とクレアは、近くに生えていた野草の花を集めて、楽しそうに腕輪や冠を作り続けたようである。


 それは2番目の見張りであるジャックが起きてくるまで続いて——、


「……お前ら、何やってんだ?」


——大量の花輪を見た彼に、2人とも呆れられてしまったのであった。



 その夜は何事も無く、一行は静かな一夜を過ごした。そして日が昇るよりも少し早いくらいの時間から準備を始め……。一行は再び馬車に乗り込んで、一路、町を目指して出発する。


 小枝は、移動の間、クレア以外の他のメンバーたちにも、自身の怪力は魔法の暴走が原因、という説明をした。その他にも、自分が本物の冒険者ではないこと。今まで山奥に住んでいたこと。そして、ただの村娘である事などを説明して……。どうにか無事に、信じて貰えたようである。その結果、商人であるリンカーンなどは、冒険者()()の小枝に小さくない興味を抱いたようだが——、


「どうだい?嬢ちゃん。うち専属で護衛を——」


「申し訳ございませんが、お断ります」


——即、断る小枝を前に、為す術は無かったようだ。なにしろ、小枝の目的は、妹のワルツを探すこと。生活の安定を求めることが彼女の目的ではなかったのだから。


 そんなこんなで一行は、昼前頃に、町が見える丘へと到着する。


「うわぁ……」


 切り出した石を積み重ねて作った町の壁。その奥には、赤や緑色の屋根をもった町並みが広がっていて……。小枝は宝石箱を見た子どものように眼を輝かせた。


 彼女はこれまで山の中で生活してきたのだ。ゆえに、日本の一般的な町の光景すらも見たことが無かったのである。当然、西欧諸国の町並みを見たことがあるわけも無く……。それに似た異世界の町並みは、彼女の記憶回路にしっかりと焼き付いたようだ。


「あれがブレスベルゲンだ」


「ブレスベルゲン……」


 リンカーンが口にした町の名を、小枝は繰り返す。


「知ってるとは思うが、国の中で一番端っこにある町だから、周囲の開発が行き届いてなくてな……。冒険者たちにとっては、絶好の活動拠点だ。まぁ、それを知ってたから、嬢ちゃんもここに来たんだろ?」


「いえ、今、初めて知りました」


 小枝は迷うこと無く即答する。


 それを聞いたリンカーンは、思わず首を傾げた。


「じゃぁ、嬢ちゃんは、何をしにブレスベルゲンまで来たんだ?」


「妹を探しに来ました」


「妹?」


「はい。えっと……生き別れになった妹です。村に来た知人に、この町にいるかもしれない、という噂を聞いて、それを確かめようと思いまして……」


「そうだったのか……。てっきり俺は、冒険者として活動するために来たのかと思ったぜ」


「それも魅力的ではありますが……第一の目的は、妹を探すことなんです」


 小枝はそう言ってから……。続けてこう問いかけた。


「どうすれば妹を探せますかね?」


 見知らぬ土地でどうやって妹を見つけ出せば良いのか……。小枝はそんな疑問を、リンカーンだけでなく、冒険者たち3人組にも投げかけた。するとどういうわけか、4人共が——、


「「「「……えっ?」」」」


——眼を点にして固まってしまう。どうやら彼女は、この世界の者たちにとって、当たり前のことを聞いてしまったようだ。


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