2.3-15 ブレスベルゲンの探検12
ブラウを追いかけて1分ほど。サヨの前を歩いていたブラウが急に止まる。
止まったブラウは、尻尾をパタパタと振りながら、サヨの方を振り向いた。
「おん」
「んにゃ?」
ブラウが立ち止まったのは、大きな建物の前。その看板を見て、サヨは目を見開いた。
「ぼ、冒険者事務局……」
いくら探しても見つからなかった冒険者事務局が見つかった瞬間だった。
「どうして今まで見つけられにゃかったのにゃ……」ガクッ
呆気なさ過ぎる冒険者事務局への到着は、サヨにとって衝撃的だった。彼女は町の中を何度も歩き回って、冒険者事務局がどこにも無いことを確認したはず……。にもかかわらず、冒険者事務局に辿り着いてしまったのだから、彼女の頭の中は"なぜ"の言葉で一杯になっていた。今いる場所も、屋根の上から確認済みの場所だった。
なぜ彼女が冒険者事務局を見つけられなかったのかというと、理由は単純で、冒険者事務局の看板が大通りからよく見えるようにと少し傾斜していたために、屋根の上から見えなかった事が原因である。人を避けようと、サヨは屋根の上を歩いたために、看板を見落としてしまったのである。
しばらく看板を見上げていたサヨも、その原因に気付いたらしい。
「んにゃっ?!これは……か、看板が悪いにゃ!」
しばらく、ぷんすかと憤慨した後、サヨは正気に戻る。
「そういえば、あいつは、サヨの考えを分かっていたのかにゃ?」
あいつ——つまりブラウは、サヨの考えを読んだ上で、冒険者事務局にサヨのことを連れてきたのか……。と考えるサヨだったが、どうやら違うらしい。
「〜〜〜♪」ぱたぱた
ブラウは尻尾を振りながら、冒険者事務局の建物の中へと入っていった。その背中からは、期待の色が満ちあふれていた訳だが、彼女の反応を見たサヨは、すぐにピンと来る。
「(あれは、ウチの十兵衛が、おとーちゃんにおやつを貰うときと同じ気配にゃ)」
ペットの犬、十兵衛。彼(?)がサヨの父親からおやつを貰うとき、同じような雰囲気を出すらしい。ブラウも同じだとすれば、彼女はおやつ目当てで冒険者事務局へとやってきた、ということになるというわけだ。
それを察したサヨは深く溜息を吐いた。
「つまりサヨは、あいつと同格、と?」
この時、サヨの中で、とある構図が完成していた。ブラウ≒サヨ。つまり、ブラウは、冒険者事務局におやつを食べに行こうとして、ついでにサヨを誘ったのだ、と。
「サヨはれっきとした化け猫にゃんだから、ただの犬と一緒にしないでほしいにゃ!」ぷんすか
サヨは不満げに頬を膨らませながら、冒険者事務局へと歩き始めた。彼女の頭の中に、おやつが欲しいという思考は存在しない。なぜながら彼女は、高貴な化け猫。空まで届きそうなほど高いプライドがあるのだから。
◇
「おいしいにゃ!」ころころ
数分後、冒険者事務局の中にいた猫娘の口の中では、1つの飴玉がカラコロと音を立てながら転がっていた。受付嬢のカトリーヌから貰った飴玉である。サヨの隣には、魔物の骨に齧り付く狼娘の姿もあったが、まぁ、彼女のことは置いておこう。
「お待たせしました。これがサヨさんの冒険者カードになります」
「ほわぁ……ガラスみたいにゃ」
「ガラス……ではありません。落としても割れませんし、こうして曲げることも出来ます。ただ、破損や紛失には注意して下さい。再発行の際は、手数料が掛かりますので」
「ありがとうにゃ。カトリイヌさんは、サヨみたいな小娘にも優しくて大好きにゃ!」
「……えぇ、それはよかったです」
と、答えるカトリーヌの顔には、どことなく影が差していた。後悔の色だ。前に、何か取り返しの付かないことをした経験でもあるらしい。
しかし、舞い上がっていたサヨは、カトリーヌの表情に気付くことは無かった。彼女は透明な冒険者カードに夢中で、日の光に翳してみたり、中をじっくりと覗き込んだりと、大忙しだ。
その後、カトリーヌから、冒険者についてのイロハの説明を受けて、サヨは正式に冒険者になった。その間、ブラウは、少し離れた椅子の上から、サヨの様子をジッと眺めていたようだが、サヨが冒険者カードを受け取った後も、ブラウが椅子の上から動く気配は無い。
用事が終わったサヨは、だいぶ日が傾いてきていたこともあり、木下家に帰ろうとする。問題は、木下家の場所だ。木下家が冒険者事務局の近くにあるとは言え、いまだサヨは、迷子の子猫状態に変わりは無かったのである。
「(あいつに聞くか、それともカトリイヌさんに聞くか……)」
サヨが選択肢に悩んでいると——、
ドガッ!!
——冒険者事務局の扉が乱暴に開かれた。




