2.3-13 ブレスベルゲンの探検10
昼食を終えたサヨが、ネコの姿に戻り、日向ぼっこをしながら毛繕いをしていた——そんな時。
『この町から出て行け!』
『や、やめてくれ!そんなことしたら死んじまう!』
路地裏の方から、そんな声が聞こえてきた。大声というわけではない。小さな声だ。
サヨの目から見ても、近くにあった路地裏は、あまり治安が良さそうには見えなかった。ボロボロ屋根の荒ら屋があったり、ゴミが所々に落ちていたり……。物乞いや浮浪児の類いはいなかったものの、あまり近付きたいとは思えない場所だ。
何事かと思ったサヨ猫が、路地裏を見下ろすと、なにやら複数の男たちが言い争っている様子だった。具体的に言うと、3人の男たちが、1人の男を追い詰めているという構図だ。武器を手に取っている様子は無いが、いつ斬り掛かったとしてもおかしくない雰囲気が立ちこめていた。
そんな一団の様子を見て、サヨ猫は考える。
「(人間も大変だにゃぁ……)」
彼女にとっては他人事。首を突っ込めば碌でもないことにしかならないことを、彼女は理解していたようだ。
ゆえにサヨ猫は、事の成り行きを、屋根の上から観察した。
「この町にお前の居場所はない。このままこの町に残っていたら、死ぬより恐ろしい目に遭うぞ?それでも良いのか?」
「(んにゃ?サヨが思っていた展開と、何か違う……?)」
「……あぁ、分かっている。分かっているが、今までこうして商売を続けてこられていたんだ。お目こぼしをされているおかげだと思わないか?」
「コエダ様は慈悲深いお方だ。だが、お前——いや俺たちのような破落戸を野放しにするほど寛容ではない。あの方が、この町にとって害だと判断すれば……お前は一瞬で破滅だ。それもお前が思うより遙かに残酷な方法で、な。……お前はまだ知らんのだ。あの方の恐ろしさを……」
男はそう言って遠い視線を空の彼方へと向けた。どうやら小枝が関係することで、恐ろしい目に遭った経験があるらしい。
そんな男たちのやり取りを見て、サヨ猫は、その眉間に皺を寄せる。
「(あれにゃ。同じ穴の狢にゃ)」
やはり下手に介入しなくて良かった……。サヨ猫の中から、男たちへの興味が失せる。
すると、今度は別の場所で——、
ガッシャーンッ!
——何かが割れるような音が聞こえてきた。距離はそう離れていない。同じ地区の別の路地裏らしい。サヨ猫は、何が起こったのかを見ようと、屋根伝いを移動する。
彼女が到着すると、路地裏では——、
「た、助けてくれ!」
「良いから、金よこせ!」
ズバッ!
ドシャーーンッ!
——蜥蜴の獣人(?)が、同じく蜥蜴の獣人に斬り掛かられているところだった。
「(今度は事件の予感……!)」
と考えるサヨだが、やはり介入はしない。武器を振り回している人物に近付くほど、彼女は不用心ではないからだ。
「金など無い!すべてテンソル様に献上した!」
「む?ノーチェ様じゃないのか?」
「ん?まさか貴様、ノーチェ様派か?!一族の裏切り者め!」
「ま、待て!」
「問答無用!!」
ガシャーーンッ!
「(治安が悪いにゃぁ……)」
サヨ猫は路地裏を覗き込むのをやめて、毛繕いを再開した。この時、彼女の頭の中には、すでに獣人たちの会話内容は残っていない。獣人たちのやり取りには、色々と聞き捨てならない内容が含まれていたが、すべて聞かなかったことにしたようだ。
前の男たちの争いにしろ、獣人たちの衝突にしろ、話の内容をまともに聞いてしまうと、木下家に帰れなくなる……。そんな気がしてならなかったようだ。
多分明日はアップロード出来ぬのじゃ。




