6・お前もか
(ん?鑑定板?)
硬直状態でも空腹は実感する上に空腹のあまり気持ち悪くもなる、という空気の読めない胃袋に気を取られていた思考に鑑定板という言葉が引っかかった。
鑑定板?ってことは、いよいよステータス的な何かがわかるんだろうか?
だとしたらレベルは間違いなく1だろうなー
などと考えてると、右手を誰かに取られて板のようなものに当てさせされる。
『ほ〜これはこれは・・・』
『やっぱりか』
見えないからよくわからないが、私?の鑑定結果?を二人が見て各々に感想を漏らした。
『やっぱりかって、おめえさんこれ知ってたのか?』
『いや、知っていたわけではない。・・・この【状態:状態異常(恐怖)】というのは、対人恐怖症などの精神的なものも含まれるのか?』
『いいや。それだったら【状態:健康/精神不健康】って出る。この表記はモンスターとかに状態異常攻撃を食らったり呪いのアイテムを持っちまった時と同じやつだな〜。』
『モンスターか呪い・・・』
『思い当たる節があるのか?』
『いや、逆にない。昨日この子はドクターと鑑定士に状態を診てもらっている。その時は健康だと診断されたし呪いなどのアイテムも確認されなかった。』
『ドクターと鑑定士?あ〜あのデコボコ夫婦か?』
『あぁ』
『ん〜だとしたらおかしいなぁ。鑑定士が居て診断をミスるわけねぇもんなぁ〜』
・・・・・
あんたの眼だよ絶対!!!
と、言いたいのに身体も口も動かない。
それにさっきから二人してマジマジとこちらを見るのをやめて頂きたい。
見えなくても分かるのよ。ひしひしと恐ろしい視線を感じるの。おかげで身体がカッチカチだよ。
もうちょっと、レベルとか種族とかスキルとかパラメーターとかの話をされるか期待したのに、さっきから会話の内容は健康状態一択。
外的な要因で状態異常を起こしてるのに原因が全く思い当たらない、と、二人はああでもないこうでもないと先ほどから話し合っているが、私が一言・・・一言でいいから言えれば・・・はぁ。
にしても、まさか本当にイービルアイだったとは・・・
あ、目の化け物って意味じゃなくて、眼から邪眼的な意味で。
ゲームに出てくる眼系のモンスターの多くは状態異常攻撃をしてくる。
彼らはまさしくそれなんだよなぁ。
実は人っぽい外見をしているだけで彼らはモンスターなんだろうか?
それ、やばくない?
まぁ、だとしても、自分ではどうにもならないけど。
そのあともしばらく二人のやり取りは続いたけれど(それしかできないし)
一向に健康状態の話しかしなかった。
あれ?健康状態以外の事はいいの?むしろ私は健康以外が知りたいんだけど?
食用な私の健康状態さえわかればいいって事?
いや、食用なわけはないとは思うんだけど・・・・・ないよね?
ないと思いたい。
あとほんと言わせてほしい。こっち見んな。
『で、どうすんだ〜?このあと』
ようやく二人の会話が次に進んだ。
よく分からない話や略名?が飛び交ってほとんど理解できなかったけど、
うーんと唸るレイさんに言いたい。お願い、朝ご飯がまだな事を思い出して下さい!
そうそう、二人の会話で知ったけど、エルフもどきさんの名前はレイというらしい。苗字もあるっぽい。
もう一人のおっさんっぽい声の人はライルさん。こっちは苗字はあるかわからない。
で、話は戻るけど空腹で気持ち悪いのがもうずっとMAXヤバイ。
何がMAXかとか知らないけどとにかく空腹で死にそう。身体は1ミリもいう事を聞きませんが。
ほんとにもう、本当に、切実に、頼むから見ないでほしい。
特にレイさん。こっちの視線がヤバイ。
ライルさんの視線(たぶん)は怖い程度なんだけど、レイさんの視線(たぶん)はヒィ!って感じで身体が固まる。
もう固まってるけど、上乗せ?みたいな。
なんかもう本当にこのまま食べられるんじゃないかと不安になる。
そうじゃないと頭では思うのだけど度重なる恐怖心で混乱する。
胃が空いてる方が調理しやすいのかな・・・・・やるなら一思いにお願いします。
『せめてこのお嬢ちゃんと話すか筆談が出来ればなぁ?』
私もそう思う。
ん?そういや私が文字が読めない事、なんで分かってるんだろう?
『それができないからここに来て居る。』
『だよなぁ〜』
ですよねー
『どうしたもんかな〜結局コレ治ってもまたなるんだろ?話そうとするだけでよ。っつーか・・・今もなり続けてるよな?』
『あぁ。ここに来てから半刻は経過している。「恐怖」の状態異常なら、もう自然治癒で治っているはずだ』
『っつーことは〜・・・人が居るとなるのか?』
『おそらく』
いやいやいやいや、こっちを見ないでくれれば平気ですよ?
彼らが自分達の事も私の事も「人」と思っている事に安堵しつつ、進まない会話にイライラしてくる。
あとほんと、その視線やめて。
『ん〜・・・とりあえずさ、俺飯食っていいか?腹減ったわ』
ライルさんの立ち上がる音が聞こえる。あ、私の分もお願いします。
『そうだったな。気が利かなくてすまない』
『いいってことよ。お前らも食うか?』
『いや、俺はいい。けどこの子の分は頼んでもいいか?』
『今さら遠慮してんじゃねぇよ。どうせお前も食べてねぇんだろ。待ってな〜』
ライルさんはどうやらレイさんの返事を待たずにさっさと何処かへ行ってしまったらしい。
レイさんが何か言いかけてたけど、ライルさんには聞こえてないだろう。
なるほど、ライルさんはレイさんの扱いに慣れているようだ。
『レイ!おめぇさんも手伝え。そのままじゃお嬢ちゃん硬直したままだぞ〜』
ライルさんは一旦戻ってくると、そう言ってレイさんを連れて行ってくれた。
ライルさんありがとう!ご飯の件といい、私の中でライルさんへの株が急上昇中です。
声で無骨なおっさんをイメージしてたけど、むしろその逆なのかもしれない。
・・・・・
30分くらいは経っただろうか?
ようやく身体の硬直が完全に解けて動けるようになった。
居なくなってから徐々に硬直が解け始めた事からも、
やっぱり彼らに、というより主にレイさんに見られる事が状態異常の原因で間違いないと思う。
そっとタオルの目隠しを取ると、目の前の床に大きなガラス板が刺さっていた。
長方形で、ちょうどベランダに出る窓ガラスくらいの大きさで、
上の方に赤い逆三角形のマークがついている。
いや、これ、窓ガラスだよね?
赤い逆三角形のマークはよくビルの窓に貼ってあるやつとそっくりだ。
どう見ても窓ガラスにしか見えないガラス板には、マーク以外には何も書かれてもうつってもいない。
周囲を見渡しても、窓ガラスを中心に窓のない小さな部屋なだけで、灯り以外には何もない。
ということは、これがさっき話していた鑑定板という事になる。
「どう見ても窓ガラスなんだけどなぁ・・・・・」
さっき手を当てさせられたのはこれで間違いないと思うのだけど、ただの窓ガラスにしか見えないこれでどうやって鑑定するんだろう?
思い出すように窓ガラスに手を当ててみると、
赤いマークが光り出し、突然窓ガラスにずらずらと文字が浮かび上がり出した。
「うわ?!」
驚いて手を離すと、文字はすうっと消えてまたただの窓ガラスに戻っていく。
「あ、そうか、そういうこと?」
そういや異世界だった、という事を納得しつつ、また再度触れると、またマークが赤く光って文字がずらずらと浮かび上がる。
今度は手を離さずに、そのまま文字を目で追うと、また別の事で驚いた。
その文字は私のよく知る文字で、読めたのだから。
食い入るように文字を目で追った。
・・・・・
一通り鑑定板の内容を読んで思った。
これ、「人間ドック」だ。
異世界の鑑定なんていう言葉に、ファンタジー的な要素を期待した私を裏切るように、
淡々と鑑定板には以下のことが書かれていた。
上の段には年齢、性別、健康状態、
真ん中には身長、体重、スリーサイズ、足のサイズ、
その下に、少し表示に時間がかかったけど、身体の年齢、遺伝子、特性、健康状態(精密)
この健康状態(精密)が物凄くて、血圧から総コレステロール、肺や胃などの機能から始まり、
GOTとかヘマトクリット値とかよく分からない項目がずらずらとびっしり書かれている。
以前、思いきって人間ドックやった時に見た気がするなぁーと思う。
ちなみに人間ドックとは、健康診断よりもさらに精密な検査を行う健康診断のこと。
保険適応外だし、結構高いのでなかなかやらないのだけど、隠れた病気があったら嫌だなと思って一回だけやってみたんだよね。
結局、健康だけど運動しろ、って事しか私には理解できなかった。
なんだろう、このガッカリ感。
手の皮膚を通して私の身体の状態を全て把握したこの板の高性能さにもビビるけど、
こう、もっとこう・・・・・
スキルとかレベルとかファンタジーなものとか・・・。
ところで、あの二人はこれを見た上で一番上の健康状態にしか触れなかったって事だろうか。
ある意味それ、すごくない?突っ込みどころすごいあるのに。
まず年齢。上の段と下の段に二つあるんだけど、
上の段には「年齢:10代」
下の段には「身体の年齢:0年」って書いてある。
さっき、何をもって年齢としてるのか気になって鑑定板に触れていない方の手で文字を触ったら文字の説明も出た。
年齢・・・・・・見た目から察する、おおよその年齢(10区切り)
身体の年齢・・・身体の細胞から察する、産まれてからの肉体経過年齢
これって、普通に赤ちゃんから生まれて育てばどちらの年齢も同じくらいの数字になるんじゃないかと思う。
私の場合、20代って出るのが正しいはずなんだけど、童顔だしギリギリこの世界では若く見積もって19歳くらいに見えるのかもしれないと考えればまぁいいとして、
身体は生まれてから0年って明らかにおかしいよね?これをあの人達はスルーしたの?
体重とスリーサイズに触れないのは正しい。触れるな危険。触れたら噛む。
それはともかく、遺伝子もおかしいと思う。「NODATE」ってでてる。
項目の説明には、
遺伝子・・・・・遺伝子から察する、血筋の系統。
とある。よくわからない。よくわからないけど、エラーって異常ってことだよね?
本当にこれを見て彼らはごく自然にスルーしたの?
怖っ!!
怖いよ?!
やっぱ食べられるのかな・・・食肉だしどうでもいいのかな・・・・・
『飯できたぞ〜!ここに置いておくぞ〜?って、なんだそれ?!』
不意打ちうぎゃあああああああああああああ!!!
あ、硬直した。
いきなり背後から聞こえたライルさんの大声に身体が飛び跳ねたと同時に、
ライルさんの視線によって硬直した私は、
鑑定板に手を当てたまま悲鳴もあげられずに固まった。
ライル・・・お前もか・・・
もう本当にどうにかしたいよその視線
以後1〜2週間ごとに週末の夜に投稿予定です。




