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最終話 夢の中でなら

「もう他の世界に行っちゃうのね、この世界も寂しくなるわ」

「そうだな、これだけ騒がしいやつがいなくなったら静かになるだろう」「そうだね、この世界は静かになるでしょ。これからは君たちがこの世界の物語の担い手だ、頑張ってよ」


 私はあの後何事もなくこの町に戻ってきた。

 セレナには特に異常はなかった、何でも自分の体に“遅延”の刻字を掛けていたのだ。

 自分に遅延を掛けることにより周りの影響を受けるのがゆっくりになる。

 例を挙げるなら刃物で切られても血が出にくくなるって感じ。

 これで体の魔力の流れもゆっくりになっていたからあの“災厄”も起動できなかったってこと。

 これに私が気が付いたのはセレナをカプセル越しに見た時だ。


 だからあの場所でセレナを見るまでは本気で“災厄”が起きると思っていたよ。

 セレナを甘く見ていたね、正直これまで咄嗟の出来度に対して適切な対応が出来ると思ってなかった。

 セレナは鍛え上げれば必ず稀代の大魔法使いに成れるよ、その資質がセレナにはある。

 もっとも私の体と言う圧倒的優位な条件も踏まえての話だよ。


「セレナちゃんも、元気でね。短い間だったけれどとっても楽しかったわ」

「まるで娘が出来たみたいだったな!」

「今までありがとうございました。私の体の都合上コクと離れることは出来ませんから……。私もお二人と別れるのはとてもさみしいです」


 セレナは私と一緒に行くことにした。

 この世界にいたらいつまたあいつらが現れるかわかったものじゃないし私が近くにいないとセレナの体は実体を保てないんだ。

 あのカプセルの中から出した時にぐったりだった理由がそれだよ。


 あのカプセルは魔力を遮断する素材でできてたんだ。

 だから一時的にその魔力の供給が全て切れてぐったりしてたんだ。

 私が意図的に少しの間切ったこともあったけれど、この近くなら私の気が充満してるから長期間にわたらなければさして問題ない。

 正直あいつらはこの町には大分前から目を付けていたんだと思う。

 そう言えばそのことも聞いておかなきゃか。


 そうそう、イグナはこの家に残ってオースティンに稽古を続けてもらうそうだよ。

 いつかの不確実な未来の為にもっと強くなるんだってさ、バカみたい。

 契約はもう解除した、私の力はもうイグナにはいかない。

 これでもうこの世界を離れる準備は完了した。

 今はもう異世界へのゲートを開き、旅立とうとしているところだ。


「セレナ、お別れの挨拶はもういい?」

「うん、もういいよ。二人とも、今までありがとうございました」


 意地でもイグナにはお礼を言わないつもりなのね。


「なら先にゲートに入っておいて、私も後からいくから」

「わかった、なるべく早くしてね」


 セレナはゲートに飛び込んだ。

 この世界間転移は一度待合室みたいなところに飛ばしてから他の世界に飛ぶ形だから私がいない限り他の世界に行ってしまう可能性はない。

 さて、セレナもいなくなったし本題に入ろうか。


「シアン、一体いつごろからあいつらはシアンたちに接触していたの?正直に答えて」


 シアンが驚いた表情になる

 実は少しだけセレナの記憶をのぞかせてもらった。

 その時にシアンが私の事を“自らとんでもない汚れ役を引き受けられる”と言っていた。

 シアンたちには私の本当の名前を伝えていない。

 今はもう憶えてないけど、本当のことを言っていないのは確かのはず。


 なのに私の仕事を知っていた。

 これはどう考えてもおかしい。

 なら私の正体を知っているあいつらに教えてもらったと考えれば合点がいく。

 私を捉える手伝いをしてほしいって頼まれて、ね。


 シアンは一瞬迷った表情をしたがすぐに答えてくれた。


「コクがこの町に訪れて出ていったすぐ後よ。あいつらにあったのは私だけでオースティンは何も知らないわ」

「それは知ってる。この不器用な男が私相手に隠し事が出来るわけがないからね」

「おいちょっと待て。誰が単細胞馬鹿だ」

「そんなこと言ってない。でも外れてもいないかもね」


 オースティンが怒る。

 シアンが宥める。

 あっと言う間に収まる。

 これで私もすっきりした、思い残すことは何もないや。


「それじゃ、私も行くよ。さよなら」

「ええ、さよなら」

「さよなら」

「そうそう、イグナにセレナに代わってお礼を言っておくよ。ありがとう、あとさよなら」


 イグナが何か言いたげな感じだったがそれに構わず私はゲートに入る。

 さよなら、シアン。

 さよなら、オースティン。

 さよなら、イグナ。

 さよなら、世界。


==================================


「遅いよ」

「そうだね、少しばかり遅くなっちゃった。ごめん」


 セレナが何もない空間で座って待っていた。

 一応時間の流れは外と変えてはいないからあの話の間このなにもないところで一人だったはず。

 そりゃ怒るか。


「シアンさんたちと何を話してたの?」

「セレナは知らないほうがいいよ。それよりも、準備はきちんとしてきたよね?と言っても今からは戻れないけれど」

「大丈夫だよ」


 確認オッケー。

 戻れないから意味を持たない確認なんだけどさ。

 さて、次の世界を確認しようか。


「コク、今から行く世界ってどんなところなの?」

「確か“ゲイザー”から聞いた話だと色々な種族たちが混ざり合って生活している世界のはずだよ。実力者も多いし何よりも最近新しく有望そうなのがその世界に入ったそうだからあいつらも簡単には追ってこれないと思う」

「“ゲイザー”って?」

「私の知り合いみたいなものだよ」

「ふうん」


 セレナはまだ寂しそうな表情をしている。


「ねぇコク。もうシアンさんたちには会えないの?」

「…そうだね、実際に会うのは大変だね」


 さらに寂しそうな表情になる。


「でも、夜は私の世界だよ。闇に包まれ、闇が支配する、私の時間だ」

「それがどうしたの?」

「ま、簡単に言うのなら私が支配している中でなら会えるかもってこと」

「……それって」

「そ、夢の中でならきっとまた会えるよ」


 私はその言葉を最後にセレナの手を握り、転移する。

 新しい世界についたらまずは宿を探さないと。

 私一人ならともかくセレナもいるからね。

 やれやれ、楽しそうじゃないか!

 これにて本編は終了になります。

 彼女らの続きのお話はまた別の作品で書かせていただきます。

 それまでは、お別れです。

 読んでくださり有難うございました!

 あとは人物紹介とおまけをお楽しみください。

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