第二十話 感情持つべきで無い者の憤怒
今回残酷描写ありです。
「ここが研究室だね、入るよ」
「こ、心の準備を……」
「もう遅い、開けちゃった」
研究室の前までやってきた。
あの時に私が殺した兵士がこの施設にいた兵士の大半だったのかあれっきり兵士は出てこなかった。
そしてうだうだ言っているイグナは無視して私は研究室の扉を開ける。
「……やぁ、君か。“君”を取り戻しに来たのかい?」
「お前か。私に一度殺されたことの腹いせか?“それ”じゃその“災厄”を最大限起動させることは出来ないだろう?」
「まったくその通りだよ。セレナ君じゃ“闇”を起動させれられないしどうしようかと悩んでいたところなんだ。そこで君の登場と言ったわけだよ」
「こ、これは一体……?どうしてあなたがここにいるんですか?」
研究室の中には一人の男がいた。
どこかで見た憶えがあるその男、名を何と言ったっけな……思い出せない。
イグナも憶えているみたいだね、私が一度殺したこの男の事を。
男は何が何なのかわからなくなっているイグナの方を向いて実に気持ち悪い笑みを浮かべて挨拶をした。
セレナは……大きなカプセル容器の中に閉じ込められている。
意識はなく、あのカプセルの電源が抜ければ時間で死んでしまうだろう。
「やぁ、イグナ君か。久しぶりだね、君のお母さんは元気かな?あっはっはっはっはっは!!!」
「え、あ………」
この言動から考えるにあの村はやはりこいつらに襲われたとみて間違いないだろう。
この場所からあの村があった場所の距離を考えてこいつが死んでから兵士がここから出撃したんだと思う。
簡単に言うとこいつがこの世界での主犯ってこと。
「それで、死ぬ準備はしてきたのかい?仮にも“わたし”に手を出したんだからね」
「ははは、わたしが君が来るのをわかっていてなんの準備もしていなかったと思っているのかい?冗談にしても笑えないね」
そう言うと男は拳銃を取り出して私に向ける。
やれやれ、また変なものを取り出してきてさ。
「“子供の工作”に付き合ってあげてもいいけれど。取りあえずセレナは返してもらったよ」
「な!いつの間に!?」
私の両手の中には意識がなく、身に何も纏っていないセレナの体があった。
首飾りがある今空間転移ぐらい簡単なものだよ。
こっそりカプセルに穴を空けてそこから吸い出したのさ。
さて……これからどうしたものか………」
「イグナ、セレナをちょっと持ってて」
「うわ!」
私はセレナをイグナに渡し、二人をオースティン達のところまで飛ばす。
これでこの場にいるのは私とこの腐れ男だけだ。
「これは驚いた……ここまで出来るとは………」
「いいから。やるならさっさとやれば?この基地が吹き飛ばされる前にね」
私は微笑を浮かべながら男に近づく。
…ああ、名前を思い出した。
確か“平坂”と名乗っていたかな、当然異世界の住人だ。
こんな辺鄙な世界に異世界の奴がいる時点でそうだとは思っていたがね。
殺したのに今目の前にいるのは驚いたよ。
その平坂は私に拳銃の銃口を向けたまま語りを始めた。
「これでようやく“闇”が起動出来るな。私も昇進間違いなしだ」
「いかれ野郎が何を言うか。それと私が飽きる前にしないとせっかくの工作の発表が出来なくなるよ」
「その余裕がお前の敗因だ、“闇の始祖精霊”」
平坂が拳銃のトリガーを引き、私に弾が当たる。
…ただの弾じゃないな、魔力の弾でも鉛玉でもない。
これは……。
平坂がにやりと醜く口元をゆがめる。
「気が付いたか。その弾は“対魔族用魔力霧散弾”と言うお前ら精霊には絶対的な威力を誇る弾だ、今どんな感じだ?」
「……………」
この弾はおそらく打ち込まれた者の魔力に働きかけ、魔力を集中できなくさせる効果がある。
私たち精霊は魔力の塊だから魔力を集中出来なくなる=死亡と思ってくれて構わない。
私にとってはだからどうしたなんだが。
「…で、これで工作は終わりか?か弱き人間よ」
「…へ、流石に一発じゃ足りなかったか。もっと喰らえ!!!」
平坂は連続してトリガーを引く。
その弾は全て私に当たり、銃の中にあった弾は私に全て吸い込まれた。
「はぁはぁ、これでどうだ……?」
「この程度とは、がっかりだよ、人間」
「なっ!」
人間が口をぱくぱくさせている。
そんなに意外だったのか?
愚かな。
「そろそろ私も飽きた、終わりにしようか」
「ひっ!来るな!なんで何ともないんだよ!お前は!!!」
私は少しづつ人間に近づいていく。
人間は尻餅をつき、そのまま後ろに下がっていく。
やがて人間は壁に届き、そのまま私を指さし喚く。
「普通ならとっくに消えてなくなっているはずだろ!どうしてお前はまだ実態を保っていられるんだ!」
「核爆弾を宇宙に打って宇宙の法則が変わるか?象に砂粒ぶつけて象が倒れるか?人間に空気中の粒子が当たって倒れるか?私にとって今の粒はその程度の物だ」
所詮人間の作ったモノ。
例え魔力を乱すと言ったってその規模はたかが知れている。
そこら辺の魔族ならいざ知れず、この私の魔力をこの程度で使えなく出来ると考えられていたのは屈辱だな。
「さて、今度はどのようにして殺してやろうかな?」
「ひぃ!どうして貴女様のようなお方があんな小娘程度をお気にかけているのですか?どうかそのお怒りを鎮めてください!?」
…本当に愚かだね、この人間は。
私が怒る、その本当の意味を知らないだなんて。
本当に愚か。
「私が怒っていた?本当にそう思っているのならあなたほど愚かなモノはいないでしょうね。滑稽滑稽」
「なら一体何なんだ!この反応は明らかに今までよりも大きい。更に声色、話のテンポともに人が怒っているときと類似している!」
そうだね確かに今は怒ってるよ。
ついさっき、こいつが私を怒らせた。
「お前はいい加減その口を閉じたほうがいい。私を本当に怒らせたくないんだったらねぇ!!!」
「…………!」
私が憤りをあらわにして怒鳴りつけるとたちまちこいつの口は開かなくなる、開けなくなる。
言葉の代わりにこいつが出したものは大量の汗。
まるで滝のよう。
「私が怒っている原因がわからないと言うのならそれはまたひどく癪に障る話だ。今一度訊き直そう、本当に何故私が怒っているのかわからないのか?」
こいつは首を横に振る。
しかしこいつの回答は全くの的外れな回答だった。
「残念、はずれ。そんなんだからお前らはいつも滅亡の道から逃れられないんだよ」
こいつの顔色が最悪と言えるほど青くなる。
私が怒っているだけで何が起こるかわからないのを知っているからだ。
そしてその怒りの矛先を向けられた人間がどうなるかなどそれこそ見当がつかない。
私は気まぐれだからね。
「この世界はまだ生きるべき世界。人々には生気があり、協力出来ている。心から信じあっている者たちもいる。私はそんな世界が大好きだ、救いたいし守りたい。だからこの世界を荒らそうとしたお前たちを許さない」
今度こいつの顔に出てきたのは恐怖と絶望の色。
だがどこかに安心も見える。
おそらくただ殺されるだけならまた生き返ることが出来るからだろう。
だから私はそれをぶち壊す、最大限の恐怖を与えた後に。
「…せっかくだから私の本気の姿を見せてあげるよ。冥土の土産ってわけじゃないから勘違いしないいように」
…小便もらしたよこいつ。
汚い。
私は抑えていた分の気を少しずつ外に出す。
すると首飾りの輝きが薄れていき、私の髪の色も黒に染まっていく。
青かった左目も元々の赤い目に戻っている。
子供の背丈だったのも大人の女性の背丈に伸び、昔の私の姿に戻っていく。
完全に戻った私の姿は儚くも絶望に満ちた姿だと形容されたことがある。
さて、こいつはどうしてやろうか。
死人のような顔になってるけど……
「お前は死なら怖くないようだから別の方法を用意したよ」
私はゆっくりと平坂の目の前まで移動する。
もう平坂に抵抗する気力は残っていない、ピクリともしていない。
私は平坂の胸に手を突き刺し、心臓を抜き取る。
ここで平坂が痛みのあまり悲鳴を上げ、意識がはっきりしたようだ。
そして呻く。
「わ、私の心臓……どうして、私生きて………」
「痛みと意識ははっきりしてる、感覚リンクも完璧。後はこの心臓を握りつぶして、終了だよ」
「ま、待て。待ってく――」
「ばーん」
私は持っていた平坂の心臓を握りつぶした。
心臓は木端微塵になり、その辺に飛び散った。
平坂は心臓が潰された苦しみで地面に倒れこみ、ごろごろ転がっている。
「あがああああああああ!!!!うぐおおおおおおおおおお!!!」
「お前は死なない、死ねない。お前の心臓部には私が創り出した魔力結晶を埋め込んだから。朽ちることのないその体で未来永劫苦しみ続けろ」
「うがああああああああああ!!!」
私は平坂の四肢を踏みつぶして切断する。
その後痛みでのたうち回っている平坂を捉え、喉を潰す。
これで呼吸も出来なくなった。
だが平坂は死なない、生き続ける。
これは私を怒らせたモノの末路だ。
耳障りな叫び声も出せなくなった平坂にはもう興味ない。
私は基地の外に転移し、その後基地をもう一度見る。
…そして基地を丸ごと、平坂ごとどこか遠い空間に飛ばした。
これで今回の一件は終了だね。
私は元の姿に戻り、セレナたちのところに走った。




