夜
残されたニッケランとザザンは、茶を飲みながら武器を目の前に取り出す。
「目立った問題もなさそうだ。そっちは?」とニッケラン。
「こっちも問題はないね。盾以外は」
次にニッケランは服の中に忍ばせていた小さな袋を取り出す。
「獣皮の塊? あ、袋か」
ザザンの言う通り確かに茶色の毛皮の塊にしか見えない。しかし、よく見てみると袋に木製でできた口がついている。
「袋って言うよりは水筒だがな」
羊の胃で作られた水筒。一般的に出回っている物の小型版だ。
「中身は?」
「油さ。亜麻から取れたやつ」
ニッケランは質問に答えると、もう一度服の中に手を突っ込んだ。そして、小汚い布を取り出す。
「お前も使うか?」
ニッケランの質問に彼は「あぁ、お言葉に甘えさせてもらう」と笑顔を見せながら答えた。
そんな彼を横目にニッケランは水筒の蓋を開け、布に油を少量垂らすと、武器に擦りつけ始めた。
「ちょっと邪魔だな…水筒持っててくれ」
「ん? あぁ、良いぜ」
彼に水筒を渡し、余った方の手で剣を持ち上げた。
縦、横、斜め。
様々な角度から剣を眺め、どこか痛んでいる部分は無いか探る。
「ハーフソードに問題は無さそうだ…次はロングソードだな」
ハーフソードを鞘に納め、ロングソードを取り出そうとしたところでニッケランはザザンに止められた。
「待て、順番があるだろ? 今度は俺の番だ」
「仕方ねぇなぁ。とっとと油を塗っちまえ」
「あぁ、分かってるよ」
彼は同じように布に油を染み込ませると、油をニッケランに返した。
彼が水筒の蓋を閉め、懐にしまったのを確認したザザンは口を開ける。
「そういやこの油によ、蜂蜜だったかを混ぜると長持ちするらしいぞ?」
ザザンに彼は苦笑いを見せた。
「蜂蜜じゃなくて、蜜蝋だろ? 蜂蜜なんか混ぜたら虫が寄ってきちまうよ」
「え? いや、分かって言ったんだ。お前を試したんだ」
「嘘つけ!」
ニッケランもザザンも笑いながら言い合った。作戦前夜とは思えない雰囲気だ。しかし、悪い気はしない。むしろ、これぐらい気を抜いていた方が、本番に力が発揮できるような気がする。
すると、いつの間にか作業を終えたザザンが布を渡してきた。
「まだ油残ってるから使えよ」
「あぁ、使わせてもらう」
ロングソードに布をこすり始めると、ザザンに気になっていたことを問う。
「拳狼って兵士時代も聞いたことあったか?」
「あぁ、あるね。と言うか噂になりまくり。出会ったら逃げろとか、勝てないぞとか、そういう話ばっかりだったな」
兵士の中でも恐れられていたとは、余程強い男のようだ。全くうれしくない情報に、手入れをする手に力が入ってしまう。
手入れを終え、剣を鞘に納めると途端にやることが無くなってしまった。何かやることは無いかと考え込むが何も思いつかない。
「ここから何するよ?」
余った茶をグルグルと回し遊んでいる彼に「わからねぇ」と答える。
茶を飲もうとカップを拾い上げるが、スズメの涙ほどしか残っていない。仕方なく、樽の中に入っている水を飲みにゆく。
樽の中を覗き込むと意外と綺麗な水が溜まっている。カップで汲もうと手を伸ばす。しかし、寸でのところで手が止まった。
「俺、やる事見つけたわ」
「お? なんだよ」
この状況で暇を持て余すのは嫌だろう。ニッケランも焦燥感に駆られ、足がムズムズと動く。しかし、彼が期待している提案をすることはしない。むしろ逆だ。
「寝ようと思う」
「寝る? 冗談だろ? 明日だぜ?」
本来であれば必死になって作戦の土台を築くべき時間だ。しかし、本当にやることがないのだ。むしろ下手に動いて作戦を台無しにしかねない。
だが、それ以上に気がかりなことがニッケランにもあった。
水に移った顔が自分のモノとは思えないほど疲れていた。
今朝見た夢のせいか、立て続けに戦い続けた弊害か。少なくとも体は休息を欲している。
何かを言いたげな彼を余所に、汲んだ水を一気に飲み干し、そして、寝具に体を滑り込ませた。
「おいおいマジで寝るのかよ」
「下手に動くよりはましだろ? それに疲れてんだよ。最近、戦いっぱなしだし」顔を寝具から半分覗かせた状態で「お前も寝たら?」と言った。
「…確かにな…寝るわ」
彼も体に異常を感じ取っていたのか、思いのほか簡単に承諾した。茶を一気に飲み干し、そして寝具に体を滑り込ませる。
これ以上話すことは無い。二人とも今は明日に備えることにだけ集中する。
すみません。キリが悪いので今回の短いです。
最後までお付き合いいただき感謝いたします。
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