戦の展望
オキタルが口を開く。
「王国につく話に戻るけどさ、これからどうやって戦うのさ?」
ジョンはそれにうなずいて見せると語り始めた。
「まず、初っ端から前線で戦うのはやめる」
ザザンは驚き眉を上げていた。オキタルは意図を探るように考え込んでいる。
思わず口をついて出たのは、騎士たちの突撃についてだった。
「地位の高い騎士とかは初っ端から突っ込んでくるのにか?」
ジョンはザザンの言葉に反応し、目で「早まるな」と静かに訴えかけてきた。
「今のところ、魔法は開戦してすぐ使われるからだ」
「味方と魔法使いを先に戦わせて、様子を見るってことか?」
ザザンは苦い顔をしながらジョンに話しかける。
「…なんか、少し狡いな…」
「そうも言ってられんだろ? 今のところ打開策は見つかってないんだからよ」
ジョンの言い分はもっともだった。それにオキタルは納得したようにうなずいている。
釈然としない思いは残ったが、ジョンの言葉には理があった。無理やり納得するしかない。
「魔法に弱点ってあるのかな?」
オキタルが小さくささやいた。それにジョンは苦笑いを見せている。
「あったとしても、戦うとなったら死闘だろうな」
寒気を感じる。首が地面に落ちる音が耳にこべりついて離れない。
音をかき消すように大きな声でザザンは吠えた。
「遠距離で戦うのはどうなんだ?」
「近づきたくないのは分かるが、弓が効果的だとは思えないな。なにせアイツら、頑丈な鎧を身にまとって歩兵に紛れてるからな」
ザザンは頭を掻きむしりながら、ジョンから目を反らした。
これ以上自分からまともな意見は出そうにない。
ジョンは続けた。
「結局俺たちはいつも通り、近づいて殺すしかないのさ」
ため息が出る。あの現実離れした攻撃をかいくぐる自信はなかった。
オキタルの方を見ると、腕を組み考え込んでいる様子だ。
その姿が気になって肩を叩いた。同時に言葉が自然と口からこぼれた。
「何をそんなに考え込んでいるんだ?」
「…え? いや、なんでもないよ」
視線が左右に揺れ、まるで、逃げ場を探しているようだ。
「やけに焦ってるな。 なんか悪いことでもしたのか?」
オキタルは焦ったように身振り手振りで話し始めた。
「ち、違うよ! 次の戦をどう戦い抜こうか考えてたんだ!」
「ん? 戦い抜くってのは、敵に見つからないようにってことか?」
答え方に違和感を感じて思わず聞いてしまった。
しかし、彼の目はさらに動く。まさに泳いでいるようだ。
すると、ジョンが低い声を出した。
「…まさかお前敵兵と戦う気か?」
それに食らいつくようにオキタルは口を開いた。
「そんな訳ないよ!」
するとジョンはため息を吐き出しながらオキタルを見、呆れたように、静かに言葉をこぼした
「まぁ、俺はとやかく言わないけどな? でもニッケランはどう思うんだろうなぁ…?」
オキタルは口ごもった。まるで無理やり口を塞がれたようだ。
「俺たちは兵士じゃない。追いたいものを追うのが役目だ。ニッケランに見つかったらそう説明すればいい。」
オキタルが可哀そうだ。そう思い、ザザンは彼を擁護した。
その言葉に彼の顔が明るくなっていくのが目に見えて分かった。
すると、ジョンが突然手を叩き話題を変えてきた。
「となると、武器の手入れをしないとな!」
その言葉に、オキタルは勢いよくうなずく。
ザザンもジョンに同意の意を込めた目線を送った。
するとジョンは勢いよく立ち上がり、武器を立てかけてあるところに歩き始めた。
彼はレイピア風の短剣を腰に掛け、ダガー二本と傷だらけの剣と盾を抱えて戻り、座っていた場所の前にそれらをドサッと置いた。
オキタルは笑顔でジョンの方を向く。
「ありがとう」
その言葉に少し照れくさそうに鼻をさすりながらジョンは答える。
「ついでだよ、ついで」
ザザンはそれを横目に使いこまれた剣を持ち上げた。
「ありがとうな、リーダー。 しかし、俺の剣…もうダメかもなぁ…」
オキタルが首を傾げる。
「たしかに傷とか凹みとかあるけど、別に切る剣じゃないんでしょ? それ」
「なんでこれが斬撃用の武器じゃないって知ってるんだよ」
急に、ジョンが笑い出した。
「なぜってお前。よく自慢してるじゃねぇか、それ」
「…そうかぁ?」
オキタルもつられて笑い始めた。
ムズムズとする感覚がするがそれを無視して続ける。
「なんとなく、覚えているような気がするが…まぁいい。」
ザザンは勢いのまま話を続ける。
「こいつは、グラディウスって言う武器でな。もちろん斬撃にも使えるがメインは…」
「まった!」
急にオキタルが叫んだ。
「斬撃も使えて刺突にも使える万能な武器って言いたいんでしょ?」
「これも話したことあったか?」
その言葉にオキタルもジョンも深くうなずいた。
その様子に話したい気持ちが萎えてしまい、ザザンは手短に済ますことにした。
「でだ、ここまでボロボロだと、次の戦で折れちまいそうだな」
ジョンはザザンの剣を見ながら話し始めた。
「新しい剣を軍からもらったらどうだ?」
ザザンは苦虫を噛んだような顔をした。
「うーん。軍の奴ら、俺が盾持ちだってのにロングソードとか渡してくるからな。」
オキタルが興味に満ちた顔を見せる。
「ロングソードってニッケランと同じやつ?」
「あんな長いの片手で振り回せると思うかぁ?」
オキタルもジョンも首を横に振っていた。
「次の戦で似た剣を持ってる奴から奪うかぁ…?」
ジョンが訝しそうに聞いてきた。
「敵の剣って…手になじむのか?」
「まぁ、慣れってやつだ」
ジョンは納得したようにうなずいた。
一通り話し終えたとザザンは感じ、剣先と剣元を持ち上げ、剣元から刀身、剣先を舐めるように見る。
「思ってたよりひどいなぁこりゃ。」
胸が締め付けられる感覚がした。兵士時代から戦で握り続けたこれは、相棒と言ってもいいほどだ。
ザザンの顔はみるみる影を落としていく。そんな様子にジョンが声を掛けてきた。
「その剣、愛着あるんだろ? 実は王国軍のお抱え鍛冶師知ってんだよ」
その言葉を聞き、顔の影が薄れた。しかし、「お抱え」というフレーズが頭を何度もよぎり、顔に落ちた影の濃さが元に戻ってしまった。
ザザンは唇を尖らせながらジョンに質問した。
「お抱えって…高いんだろ?」
「まぁ普通に考えるとな?」
なぜかジョンはニヤついている。やけに悪い顔だ。
「なにか意味ありげな言い方だな?」
「その鍛冶師てのが訳ありなんだよ」
「どういう意味だよ?」
オキタルも不思議そうに耳を傾けている。
「それは言えないな。言わない約束なんだ」
「安くなるんだったらなんでもいいよ」
ザザンは先ほどとは打って変わって明らかに気分が良くなり、剣の身の部分をなぞる指の動きが先ほどよりも軽やかになっていったーーー。
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