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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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ターゲット

「三人だ」


 想像していたよりも少ない。二千人もの規模を束ねるとなれば、もっと居てもいいはずだ。


「やけに少なくないか?」とニッケラン。

「本来はこの町は魔操志が仕切っていたわけだ。法律なんて関係ない。奴にとって気に食わない者が出れば殺せばいいだけの話だからな。恐怖による支配。これが魔操志の十八番さ」


 彼は続ける。


「でだ、今この町を仕切っている奴は拳狼とその三人な訳だ。ただし、拳狼は例外だ。あいつは仕切るだとか、リーダーになるとか、そういったことには興味がないらしい」

「なら、その三人を殺せば、だいぶ作戦は簡単になるわけか」


 ニッケランの発言にモヤトはニヤリと笑った。


「あぁ。事が上手くいけば、拳狼の味方はこの町には居なくなる。後は全力で奴を殺せばいい。そんな状況を作り出せばいいのさ」


 上官を殺さない限り、一般兵がニッケランたちに牙をむく可能性があるという話だ。


 作戦は単純だが、同時に三人を殺さなければならない。一人でも騒がれてしまえば、そこから波紋が広がり、大きな波となってニッケランたちを飲み込んでしまう。


 ニッケランは脳みそを必死に回す。


 やはり情報が足りない。上官三人の行動や住んでいる場所を把握しない限りは殺すなど机上の空論でしかない。


「じゃぁ、とりあえず三人の名前と特徴、あとはどこに住んでいるのかを教えないとな」


 モヤトも同じ考えだったようだ。しかし、彼は突然、立ち上がると「ついて来いと」と言った。

 説明をするというのに移動するとはどういうことなのだろうか。ニッケランは気になり質問をする。


「人の説明に移動する必要があるのか? それとも人に聞かれるとまずいからか?」

「違う違う。実際にその目で見てもらうんだ。ターゲットを」


 そんなハイリスクな事をしてもいいのだろうか。もし、怪しまれるようなことがあれば、斬首にされるかもしれない。


 しかし、彼は平然な顔で目的胃へと向かってゆく。


 大通りに出て、人ごみに紛れながら進んでゆく。


 すると、一人目の家に着いた。


「ここだ。ここが一人目の家。バヒ様の家だ」


 ニッケランは家をよく観察する。


 レンガ造りの標準的な家だ。話に聞く傲慢な上官が住む家とは思えない。違和感がどうしようもなく溢れ、質問を飛ばす。


「こんな家に上官殿が?」

「外観はな」


 彼は軽蔑するような目で家を見ている。そして「窓をよく見てみな」と言った。

 目を凝らすと、網のようなものが張り巡らされていた。


「網? 金網かありゃ」とザザン。


 モヤトは満足そうにうなずき、口を開いた。


「あの家はこの町の大事な物品が保管されてた場所でな。安全性が桁違いなんだ。壁も他の家と比べて厚いし、ドアだって貧相に見えるが、実際は普通のものの何倍も頑丈なのさ」


 余程命を奪われることが怖いらしい。それが嫌でも伝わってくるような家だ。


 ニッケランは家の中に侵入する算段を思い浮かべる。


 窓を割ることはダメだ。音で周囲にバレてしまう。近くの家に衛兵を配置しているだろうから、大きな音を立てることは絶対にダメだ。


 外で暗殺することも好ましくない。もし、誰かに見つかりでもすれば何が起こるのか想像に難しくない。


 一番好ましいやり方は、ドアから侵入することだ。しかし、ニッケランやザザン。もちろんオキタルにも鍵を開ける技術など持っていない。


 一通り考え終えると同時に、モヤトが口を開いた。


「家の中に侵入することを考えているのなら任せてくれ。頼もしい奴が一人いるんだ」


 彼はそう言うと、また、移動し始めた。


「おい、顔をまだ見ていないぞ」とザザン。


 しかし、彼は足を止めず「まぁ、着いて来いって」言った。

 ニッケランたちは彼を止めるわけにもいかず、そのまま身を任せる。


 何故だろうか。人の波が突然途絶えた。透明の壁があるようにニッケランたちが出た広場を避けて波は動いている。


「あそこに忙しそうにしているのが居るだろ」


 モヤトが突然小声になった。目線の先には太陽の下にひと際輝く宝石を身に着けた男。

 しかし、装飾に目が行ったのは一瞬だった。ニッケランたちの目は男の手に握られているものに釘付けになった。


「なんだあれは…」


 目の前の光景が信じられないのかザザンが呟いた。

 宝石を身に着けた男の手には生首が掴まれていた。掴まれているというよりか、首の髪を握り込んでいると言った方が正確かもしれない。


 宝石の華麗さと生首という組み合わさる事のないような光景に思考が追い付かない。

 呆然と眺めていると、男が動いた。


 手に握られていた生首を目の前に放り投げたのだ。目は首の行方を追ってゆく。

 距離はあるというのにゴツンという鈍い音が響き、耳を塞ぎたくなった。


 男の影に首が隠れ見えなくなったことで、ようやく気が付いた。男の首を握っていなかった方の手には剣が握られ、目の前には首の持ち主であろう死体が転がっている。


 しかし、やけに死体が小さい。年寄りを殺したのだろうか。


「さっきの家の持ち主さ」


 そう言われ、死体から男へと視点を移す。男が振り向こうと動いているのが見えた。


 三人は同時に人ごみの中に飛び込み、隙間から様子を窺がう。


 ニッケランは男の特徴を目に焼き付けようと必死になる。


 全体的にふくよかで大柄だ。しかし、身長は高くない。身に着けている服は豪華で宝石を体の至る所に身に着けている。


 顔は絵にかいたような悪人面だ。昔に見た山賊の頭領にそっくりだ。


 この町から奪った財で私腹を肥やしたに違いない。そんな見た目だ。

 すると、男は広場からどこかへ移動していった。


 さすがに、いきなり奴の立っていた場所に移動する気にはなれない。もしかすると、移動していった方で待ち構えているかもしれない。


 十分に時間が経ち、三人は同時に死体の元へと駆け寄った。

 ニッケランは死体が老人だろうと予測していた。しかし、嫌な方へ外れてしまった。


 子供だ。

 オキタルよりも幼い子供が首を切り落とされ死んでいる。


 突然、背筋に冷たいものが走り、目を背けた。しかし、脳に焼き付き、何度も同じ光景が再生される。


 子供の首と目が合ってしまったのだ。


 必死な表情で固まっている。逃げている表情、驚いている表情とも違う。必死に命乞いをするような表情だ。


 死してなおニッケランに対して何かを訴えかけているようで、もう一度見る気は起こらなかった。

 同時に、沸々と怒りが湧きあがってゆくのを感じる。


「奴が一人目だな?」


 ニッケランの飢えた獣のような声にモヤトは驚いていた。彼は「ああ」と小さく言うと、子供の首に手

を伸ばす。恐怖で支配された目を手で覆い隠し、そして、閉じた。


「お前たちは向こう側のベンチで座って待っていてくれ。この子を運んでくる」


 二人は指示に素直に従った。座って彼の動向を窺がう。

 彼は優しく、首を拾い上げた後、ターゲットとは逆の方向へ移動した。そしてすぐに戻ってくると、今度は体を持ち上げ、同じところへ運んでいった。


 後には赤い水たまりが広がり、血のりがいたるところに飛び散っている。

 彼は戻ってくると「行こうか」と静かに言った。


 再度、人ごみの中に入り会話を始める。人ごみの中でしか話せないような言葉が歯止めなく飛び出して来そうだからだ。


「あのくそ野郎は最初に殺す」とニッケラン。

「気持ちはわかるけど同時にだってば」


 モヤトが悔しそうな表情で言った。

 彼が子供の遺体を運ぶ姿を思い出し我に返る。この中で一番苦しいのは彼に違いないのだから。

 これ以上この会話を続けると、作戦を無視して今すぐにでも奴を始末しに行きそうだ。


「今どこにむかってるんだ?」


 ザザンが言った。


「あぁ、あのドアを開けられる奴に会いに行くのさ」


 今度は住民が住んでいる地区へと進んで行った。足早に感じたことは気のせいではないだろう。


 地面はぬかるみ、時折、靴に浸み込むのが不快だ。モヤトも一緒なはずなのに、居も介さずに進んでゆく。それほどまでに今回の出来事は彼の触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。


 すると、突然立ち止まった。


 目の前には、一段とみすぼらしい見た目の小屋が立っている。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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