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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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会話

 ――会話が途切れ、目的を失った三人は大通りに戻ることにした。


 大通りへ戻る途中、気になる事が出てきた。ニッケランはモヤトに質問をする。


「そういえば、井戸はあそこにしかないのか?」

「いや、町の真ん中にもある。だが、水を利用するにも人が多すぎてな…それにキルタもいたからちょうど良かったんだ」


「そうか…すまないな。気を使わせてしまって」


 彼は「いや、当然の事をしたまでさ」と言うと別の話題を始めた。


「お前たちはこの町に来てどのくらいなんだ?」

「三日さ。全然来た感じもしねぇよ」


 ザザンの機転の利いた回答にモヤトは何かを疑うような素振りは見せない。


「三日かぁ…それじゃ俺以外の兵士とは中々関係を持てないだろ?」

「あぁ、まったく。右も左もわからないまま森に行かされたからな」とニッケラン。


 モヤトはうなずくと、足を速めた。


「じゃぁ、まずは配給だな。戦場から帰ってきて腹減ってるだろ?」


 ニッケランはザザンと目を合わせ、同時にうなずく。帝国軍の食事事情は知っておきたいところだ。


 主要都市や大型の街を攻め落とす際に敵の食料の配給について知れることは、戦略を練る上で重要だ。ましてや、反乱軍のような規模の小さい軍隊が帝国軍を相手取るには、とにかく情報が必要だった。


 二人が大きく頷いたのを見て、モヤトは足を速めた。彼らが余程腹を空かしていると思ったのだろう。


 大通りに戻り、彼の先導で配給場所へと近づいてゆく。近くなるほどに人が増え、とうとうまったく進めなくなってしまった。


 さすがに彼も、まったく進まないことに違和感を覚えたのか、周囲の兵士に原因を聞き込み始めた。


 すると、彼はため息を大きく吐き出したかと思うと、ニッケランたちの方を振り向いた。


「いやぁ…参ったなぁ…」


 彼は背を丸め、顔に大きな影を落としている。何か非常事態が起こっていることは確実だ。

 ニッケランが言う。


「どうしたんだ? 何か起こったのか?」

「いやな…最近になって始まったことでもないんだけどな。今日は配給が無いって話だ」

「配給がない?」とザザン。

「あぁ…帝国軍も落ちたもんだ…詳しいことはちょっとここでは話せないから」


 彼はそう言うと、ニッケランたちを別の場所へと案内する。


 来た道を戻り、町の路地へと入ってゆく。住民が追いやられた場所とは違い、しっかりと舗装された道に安心感を覚えた。


 路地を歩いてゆくと、突き当りにぶつかった。そこには大型のテントが張られており。その前には生活用品が木箱の上に置かれている。


 モヤトはその中にある小さな椅子に腰を重力に任せて下ろすと口を開いた。


「まぁ、お前たちも座ってくれ」


 彼は何も乗っていない空き箱を指さし、それに二人は従う。

 座ったことを確認し、彼は説明し始めた。


「帝国国内で魔法至上主義が流行していることは知ってるだろ?」


 二人は魔法至上主義という聞きなじみのない言葉に首を傾げた。彼は驚いた顔を見せ「どんな田舎から連れてこられたんだよ」と言った。


 彼は続ける。


「文字通りだよ。魔法以外はくそ! そんな感じの思想さ。さらには制度まで作られちまって…俺たち普通の人間に人権なんてもんはなくなっちまったのさ」


 魔法が使えない者を差別する空気であるとは聞いていたが、まさか思想にまで広がっているとは思いもよらなかった。魔操志がいかに強大な力を持ってしまったのかが理解できる。


「で、その差別的な思想と配給が何の関係が?」


 ニッケランの疑問に彼はため息で応えた。よほど配給が無かったことに落胆しているようだ。


「お前たちは農民出身か?」


 脈絡のない質問に戸惑う。ここで農民と答えると辻褄が合わなくなりそうなので違うと答えた。


「農民じゃないのか…とにかく、今、俺たちみたいな一般階級の出の奴らが兵士として徴収されまくっているのさ」


「そんなに?」とザザン。


「考えてもみろ。この辺境の町に二千人送る余裕があるんだぞ? しかも、今回負けたこともあってさらに人数を増やすなんて噂まで立ってやがる。飯を作る人間も兵士になっちまって、配給が間に合ってないのさ」


 想像以上に帝国国内は悲惨なようだ。兵士を食わせられないということは兵士以外の一般人はもっと貧しい生活を送っているに違いなかった。


 彼は続ける。


「非常食でも食うかぁ…」


 立ち上がり、彼はテントの中へと入って行った。

 すると、何かを巻いている包み紙を持って出てきた。反対の手にはカップが三つ握られている。


「ニック(ニッケラン)。あそこに樽があるだろ? あの中に水が溜まってるから、このカップに入れてきてくれ」


 うなずくと、カップを受け取り、樽の中の水をくみ上げる。後ろでモヤトとザザンが木箱を移動させ、簡易的なテーブルを用意しているようだ。


 三人は食事の用意が整うとお互いの顔が見えるように座った。

 包み紙の上には香辛料をふんだんに使用し乾燥させた魚が乗っている。


「これはモヤトが用意したものなのか? それとも配給品?」

「こんなにいいものが配給で出るわけないだろ? ザット(ザザン)はここに来るまでいい飯を食ってたのか?」


 彼は慌てて首を横に振った。


「いや、軍人は結構いい飯が食えるって聞いてたからさ…こういう感じの想像してたんだよ」

「まぁ、魔操志が現れる前までは、こういうのも配給で出る時があったって聞いたことがあるな」


 モヤトは「まぁ、そんなことはどうでもいい」というと、魚をナイフで切り分け始めた。

 彼は時間をかけ、均等に切り分けてゆく。やけに慎重な彼の姿に笑いがこみあげてきた。


「笑うなよ。均等に分けないと殺し合いに発展するかもだろ? 実際に殺傷事件まで起こってるんだからな?」


 ニッケランは「すまない」と言うと魚が切り分けられるのを待った。


 彼が「よしっ」といい魚を一切れ取り、口に放り込んだことを確認し、ニッケランたちも食事を始める。


 見た目通り、魚は水分が抜けきったおり、塩辛くて仕方がない味だ。しかし、配給が得られないこの状況で贅沢は言えない。


 食事を終えると、早速ニッケランたちは情報収集へと取り掛かる。


「モヤトはこの町に来てどれくらいなんだ?」とザザン。

「えーと…大体半年って所だな。確か春ぐらいから本格的に兵士が送り込まれ始めたらしいから、その少し後って所だな」


 短くはない期間、この町に住んでいる事を考えると、帝国軍の内部事情について少しは知っていそうだ。期待を込めて質問を繰り返す。


「さっき言った通り、右も左も分からねぇわけよ。田舎出身で自分の国の事すら何も知らないからよ。教えてくれよ」


 ニッケランの懇願に彼は気持ちよく心得てくれた。


「そうだなぁ…帝国と王国が争っていることはさすがに知ってるよな?」

「さすがにそれはな」とザザン。

「まぁ王国の話は要らないとして…帝国の何を知りたいんだ?」


 ニッケランは迷う。内部事情にしても聞きたいことが多すぎる。


 帝国国内で反乱が起こっているのか。食糧事情はどうなっているのか。帝国軍の規模はどれほどなのか。この町のトップは誰なのか。など様々なことが思い浮かぶ。


 しかし、まずはこの町について詳しく知ろうと考えた。この町を奪還することすらできなければ、帝国をひっくり返すことなど夢物語でしかない。


「魔操志が殺されて…」

「待て待て! 様を付けろ」


 彼が慌てた様子で静止してきた。何事かと思い、ニッケランは押し黙る。


「誰に聞かれているか分からないだろ? 呼び捨てだなんて斬首だぞ!」

「まさか…冗談だろ?」とザザン。


 しかし、彼の表情は真剣そのもので嘘を言っているようには見えなかった。

 ニッケランは「わかった」と言うと、話を再開する。


「魔操志様が死…亡くなられて撤退したわけだけど、今この町を仕切っているのは誰なのか教えてくれないか?」

「なんでそんなこと聞くんだよ? まぁ、いいや。側近のノルエ様だな」

「側近?」


 ザザンの言葉に彼はため息をついた。


「お前らどんなところから連れてこられたんだよ…ノルエ様と言えばこの国の英雄の一人だろ?」

「英雄なのか…なら通り名があるだろ」とニッケラン。

「拳狼だったかな」

「拳狼!」


 名前を聞き驚いてしまった。まさしく、英雄と呼ばれるにふさわしい男だとニッケランの記憶には刻まれている。


 武器を使わず拳のみで戦場に立ち、数多の戦で活躍したとされる豪傑。


 戦場で実際に見た訳でもないし、彼の武勇伝も疑うようなものばかりだ。しかし、実力あってこその逸話だろう。そう考えると警戒せずにはいられない。


「拳狼ってそんなに有名なのか?」とザザン。


 潜入している事を忘れてしまうほどに呆れる。ニッケランはため息をついた。


「お前なぁ…とんでもない男だぞ、拳狼ってのは。例えば…一里先の敵めがけて槍を投げただとか。あとは、拳を一振りするだけで竜巻が起こるとかな」

「さすがにそれは嘘だろう」


 ザザンの言うことは本当だろう。しかし、うわさ話だけ聞くと魔法のように聞こえる。これで魔操志だ

ったらこの町を奪還することは難しいだろう。


「魔法使いだったりするのか? 拳狼は」


 ニッケランの質問にモヤトは頭を悩ませる。


「いや、火を出したりだとかそういうのは見たことがないな…でも、あの力は規格外だからな」

「え? 近くで見たことがあるのか?」とザザン。

「ここの領主との小競り合いの時にあの人が戦ってるところ見たけどよ、もうあれは人間じゃねぇな。本当に素手で戦う訳よ」

「素手は本当なのかよ」とニッケラン。

「実際にはぶっとい剣を腰に携えてるんだけどな? でも使わねぇの。使わなくていいの間違いかもしれないけど、拳一つで敵をなぎ倒す姿には心底驚いたね」


 これ以上は聞く気にはなれなかった。そんな化け物を相手どることが決まっている事を考えるとめまいがする。


 他の情報を得ることに専念する。


 ニッケランは口を開いた。

「ここは安全か?」

「え?」

「いや、すまん。言葉足らずだったな。ここでの会話は他人に聞かれることはあるのか?」


 モヤトは自信がなさそうに「多分…無いだろう」と答えた。

 それを聞いてニッケランは話を続ける。


「この町にいる兵士たちは不満じゃないのか?」

「え?」


 まさか、こんな命知らずの質問をし始めるとは思っていなかったようで、彼は目を点にさせた。


 ニッケランは続ける。

「いやな? 無理やり戦わされるし、飯は食わせてもらえないし、寝床すらもない。こんな環境じゃ、いつ反乱が起こってもおかしくないだろ」


 モヤトは彼の話を遮ろうと動いたが、ぐうの音が出ないような内容に押し黙ってしまった。


 モヤトは気まずそうに水をグイっと飲み込むと、口を開ける。


「まぁ、お前の言う通りだよ。正直、一部の兵士たちの中では反乱を起こそうと動いている節があるし、実際一度起こりかけた」


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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