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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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 騎馬兵二人はとうとう顔が視認できるほどの距離になった。


「そこのお前たち止まれ!」


 騎士の一人が叫んだ。同時に腰に掛けている剣を抜きり、先をこちらへ向ける。


「貴様ら! 一般兵か!」


 ニッケランは慌てて返事をする。


「は、はい! その通りでございます」


 まるで先ほどまで敵から逃げていたような憔悴しきった様子で彼は答えた。その姿にザザンとオキタルは感心したような目になっている。

 騎士は続ける。


「なぜ先ほどの隊列から外れていたのだ!」

「反乱軍の奴らに追い掛け回されていたのです…ずいぶん森の奥へと侵入してしまって気がついた時には…」


 今度はザザンが答えた。彼も同じように疲れ切ったような言い方だ。

 騎士はまだ疑っているようだが、ある程度の信頼は得られたようだ。次の話へと進んでゆく。


「貴様ら二人は良いだろう…しかし、そこのガキはなんだ」


 ここからが難題だ。ニッケランとザザンは鎧を着ているから何とでも言い訳が付くとして、オキタルに関しては完全に反乱軍の所属と言われても違和感がない。


「私はこのお二方に助けられたのです!」


 ニッケランが必死に頭を回転させていると、オキタルが答えた。

 内心は冷え込み、彼が何をするのかと怯える。しかし、行ってしまったことは仕方がない。彼の話に従うことにした。


 オキタルは続ける。


「私はイトク町出身の者で、騎士様と一緒に反乱軍を打倒しにゆきました…しかし、反乱軍の者に騎士様が討ち取られ、命からがら逃げだして…」


「う…うむ」


 さすがの騎士もこの言い分には何も言い返せないようだ。これ以上は何も言わず「とっとと町に戻れ」と言うと馬を走らせ戻っていった。

 十分距離が離れたことを確認し、ニッケランは口を開く。


「これも十分肝が冷えるな…それにしてもオキタル。今の言い分は最高だったな」


 ニッケランの誉め言葉に彼は嬉しそうに背を伸ばした。


「それじゃぁ、行くか」


 ザザンの言葉にうなずき、町へと進んでゆく。

 近づいてゆくと、町の様子が見えてきた。


 町は規模こそ大きくないもののしっかりと整備されており、道には石畳が敷かれている。しかし、本来無いはずのバリケードや即席の小屋。物資が入っているのであろう箱が乱雑に広げられている。


「それにしても二千人ってのは無理がないか?」


 明らかに町の規模にそぐわない人数が闊歩している。さらには、スラムのように地べたに座り、打ちひしがれている兵士も多い。


「兵士の扱いがひどいっていのは本当なんだね」


 小声でオキタルが言った。それにニッケランはひどく共感していた。

 魔法が登場する前の帝国であれば兵士にこんな生活をさせることなどありえなかった。むしろ帝国国内では兵士は憧れの職業のような、そのような立場だと聞いたこともあった。


「それだけ魔操志の力が強大なのだろうな」


 町の中に入り、適当に歩きながら話していると、後ろから声を掛けられた。


「おい、アンタら。今帰って来たのか?」


 警戒しながら後ろを振り向くと、疲れ切った顔をした若い兵士が立っていた。


「あぁ、今帰ってきたところだ」とニッケラン。


「どおりでそんなに汚れている訳だ。井戸まで案内するから、とっとと汚れた服を掃除しなよ」


 そう言うと彼はニッケランたちを井戸の元へと案内し始めた。町の中心に近づいてゆくほどに、人の数

は増え、道の端に寝転がっている兵士も当たり前の光景に変わってしまった。


 すると、道案内の彼が口を開いた。


「アンタら兵士になって何年だ?」


 彼が振り向きもせずに聞くものだから、誰が答えるべきか分からない。しかし、一番歴の長いニッケランが答えるべきなのだろう。彼が口を開いた。


「まだ一年も経ってないよ。この前入ったばっかりさ」


 そう言うと案内役は笑い「自分もだ」と言った。彼は続ける。


「あれだろ? お前たちも強制徴集された口だろ」

「え? あぁ、そうなんだ」


 怪しまれないように共感を示したことは良かったが、強制徴集と言う聞きなじみのない言葉が引っかかる。話を広げたいが、下手にやると墓穴を掘りかねない。


「やっぱりそうなんだなぁ…ここの町、今何人ぐらいの兵士が居ると思う?」

「えーと…二千人?」

「お! 少年は物知りだな? その通りだ。このちっちゃな町に二千人も兵士が集まってやがる」


 反乱軍の諜報機関の優秀さに感動しつつも、実際に町の様子を見ると、彼の言っていることは本当なのだろう。これでは基地と言うよりも収容施設だ。


 すると、案内役は薄暗い路地へと入ってゆく。


 その路地にニッケランは違和感を覚える。先ほどの道は狭くとも整備されており、家に至ってはレンガ造りのしっかりとしたものばかりだった。しかし、ここはどうだ。


 木製の粗雑な作りの家が乱雑に並び、大きさもまばらで美しさの欠けらもない。さらに道も石畳ではなく素地で、道が狭すぎるせいで日も入ってこない。地面はぬかるみ、まさにスラム街だ。


「やけに周囲を見てるけどよ、アンタここに来るのは初めてなのか? まぁ、これだけ人が多いと町の中を探索する気も起きないよな」


 彼は説明する。


 ここは元々この町の領主の屋敷があった場所らしい。しかし、帝国軍が領主に町を基地化することを伝えると、謀反を起こし、帝国軍と町の住民とで小競り合いが勃発。その結果、領主は捉えられ打ち首。屋敷は取り壊され、町の住人たちはこの粗末な家へ移動を余儀なくされたという話だ。


「ひでぇな」


 ザザンの言葉に彼はひどく頷いている。


「あぁ、その通りだ。だがな、気を付けろ。この町で下手に帝国批判なんてしてみろ、素行打ち首だぞ?」


 ニッケランたちはお互いを見つめ、今後の言動に気を付けることを誓った。


 そんな会話を続けていると、いつの間にか井戸にたどり着いた。

 井戸の周りには町の住人なのだろうか。身なりの汚い者が数人集まっている。


 鎧が擦れる音が聞こえたからだろう。体を震わせ、勢いよくこちらに全員が振り向いた。


 一番距離の近い男が口を開く。


「これは! 帝国兵さま! すぐに井戸をお譲りしますので」


 案内役の顔がみるみる曇ってゆく。怒りが湧いているというよりは、嫌悪感を抱いているような表情だ。


 彼は右手を上げると、口を開こうとした。しかし、その動作が住人の彼らには剣を抜くように見えたのだろう。何人かは頭を抱え、しゃがみ込んでしまった。


「すまない。井戸を借りたいだけだから、順番はちゃんと待つからさ」 


 笑顔の彼の姿に、敵意がないことが伝わったのだろう。住人たちは「すみません」と何度も口々にしながら、井戸を後にした。

 その様子を見届けた彼の表情は悲しみに満ち、目線を落としていた。


 彼は一つ息を整えると、話始める。


「さ! 井戸の水で汚れを落とせよ」


 明るい口調だが、明らかに無理をしている。

 ニッケランたちは複雑な感情を抱えながらも、素直に彼に従った。ここで彼に気を遣うのも違う気がしたからだ。


 水を頭から被ったニッケランは言う。


「そういえば…名前は?」

「――あぁ。モヤトって言うんだ。お前たちは?」

「俺はニッケ…ニックだ。」


 魔操志を倒したニッケランは帝国兵にも名前が知られているかもしれない。ここは偽名が正解だろう。


「ザットだ」とザザン。オキタルはキルタと名乗った。


「よろしくな三人とも。といってもキルタ(オキタル)とは中々会えないだろうけどな」


 兵士が大量に居る町で、この場所だけ兵士の姿が見えない。彼らは住人に対して罪悪感を抱いているのだろう。もちろん、モヤト自身も。


 彼は話を続ける。


「キルタ(オキタル)はここに残るのか? それとも俺たちと一緒にいるか?」


 オキタルはニッケランたちに目配せをし、判断を仰いだ。ニッケランは今後の展望を考え、オキタルを住民たちの中に置いておくことを決める。


 ニッケランが言う。


「いや、彼はここにいてもらおう。戦場に駆り出されて散々な目にあったわけだしな」

「うん、そうするよ。町を占領されたと思ったらすぐに連れてかれちゃったわけだしね」とオキタル。

「すまないなぁ…力になれることがあればすぐに言ってくれよ。出来ることならすぐにしてやるから」


 モヤトはそう言うと頭を下げた。それに「ありがとう」とオキタルは言うと、暗い路地の中へと消えてゆく。


 咄嗟にニッケランは彼に「気を付けろよ!」と言うと、暗い路地から「うん!」という元気の良い声が聞こえてきた。


 ニッケランは町を奪還する間、何も起こらないことをを祈った。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

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