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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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 この世のモノとは思えないような笑い声。上を向き、肩を思い切り揺らしながら笑っている。


 途端に静まりかえった。ゆっくりと顔を下げ、こちらを窺がってくる。


 顔はやはりと言うべきか、悪魔のような顔だ。しかし、そんな予想当たっても嬉しくない。


 ニッケランは必死に体を起こそうと力を振り絞る。しかし、どうしようもないほどに体はいうことを聞かない。他の誰かに支配されている気分だ。


 奴はとうとう歩みを進め始めた。動きは遅く、一歩一歩踏みしめるように近づいてくる。

 距離が短くなるほどに、獣の手で握られる想像が現実味を帯びてくる。黒焦げになるのは確実だ。


 必死に足に力を入れるが膝が笑い、額からは冷や汗が流れ出る。このままでは本当につかまれてしまう。


 周囲に何か利用できるものは無いか探した。すると、魔操志の背後に人影が見えた。


 オキタルだ。その左右にエイリとミャアドが顔を覗かせていた。すると、追い詰められていることを察してくれたのかエイリが剣を抜いて、背後から奴に襲い掛かった。


 彼は声を殺して切りかかった。しかし、足音を聞かれていたのか、魔操志は勢いよく振り返り、大きな目で凝視した。


 一瞬で体を後ろに向け、獣になった腕でエイリの剣を掴んだ。目に見えるほどの電流が剣に流れ、彼の体を伝う。即座に彼は手を放したが、その一瞬で地面に倒れ込んでしまった。


「おい! エイリ!」


 ニッケランは声を掛ける。しかし、反応はない。もしかすると絶命しているかもしれない。


 狩の邪魔をされた奴は明らかに不機嫌そうな顔を見せたが、こちらを凝視し、笑みを再開した。どんどんと距離が縮まり、射程圏内に入る。


 戦場で見た焦げた死体。それと自分を重ねる。恐怖が支配し、余計に体の力が抜けてしまった。


 ニッケランは剣を不格好に握り、敵に投げつけた。

 奴は獣の腕で勢いよく薙ぎ払い、遠くへ吹き飛ばす。このやけくそな攻撃に嗜虐心が刺激されたのか、大きく笑い出した。


「ギャギャ! 貴様には贅沢すぎる最後…ギャギャ」


 とうとう腕を勢いよく振り上げた。掴むのではなく、殴りつける気のようだ。


(ここまでなのか…)


 そう思ったニッケランは目を閉じようとする。しかし、どうも諦めきれない。このまま諦めてしまえば、夢も潰え、仲間も殺されてしまうかもしれない。


 そう思うと、目の前の敵が憎くて仕方が無くなった。同時に全身を奮い立たせようと、気張る。


 とうとう攻撃が飛んでくる。必死に気張り、どうにか避けようと力を足に込める。


 体力は多少回復していたようだ。足はニッケランの命令を聞き、後ろに彼を移動させた。


 移動した距離は微々たるものだった。しかし、直撃は避けられる距離だ。女魔操志も同じ考えなのか、振り下ろした腕を下げ、また距離を詰めてきた。


 その一瞬が命運を分けた。


 後ろからオキタルが木の影から顔を覗かせたかと思うと、口に何かを咥えている。

 筒だ。敵に向けて何かを飛ばそうとしているのだ。


 すると、筒から何かが飛び出し、魔操志の腰のあたりに刺さった。


 敵は一瞬体をびくりとさせ、オキタルの方を振り向いた。しかし、ダメージが無さ過ぎたのか彼を無視し、振り向くことを辞めてしまった。


 ニッケランは再度下がろうと足で地面を蹴る。しかし、ほんの少し後ろに進んだところで、腰に固いものが当たった。木が逃げることを阻んだのだった。


 立ち上がることは出来ない体だ。これ以上は打つ手がない。ニッケランは今度こそダメだと思った。


 敵の顔を見ると笑顔を保ち、舐めるように見下ろしている。しかし、不思議なことに動かない。ニッケランが恐怖におののいている姿を楽しんでいるのだろうか。


 奴は変が声を上げ始めた。水の中に沈められ、息が出来ないネズミのような声だ。口からは少しずつ泡があふれ始め、地面に次々に落ちてゆく。


 突然、奴の獣の腕が消えた。消えた途端、残っている方の腕で首を抑え、地面に倒れ込み、のた打ち回り始めた。


 ニッケランはこの光景に驚き見入っていたが、トドメを刺す衝動にかられ、周囲に武器が無いかを探す。ロングソードはどこかへ飛んで行き、ハーフソードも同じだった。

 ――エイリが握っている剣が見えた。


 ニッケランは魔操志の横を這って進んでゆく、体は土にまみれ、口の中にも時より入った。何とかエイ

リの元へ着くと、武器を握っている手を開こうと触れた。


 手は温かく、死んでは居ないようで安心した。しかし、気絶したまま全力で握っているのか、まったく開く気配がない。


 必死にこじ開けようともがいていると、足を掴まれた。ゾッとし、誰が掴んだのかを確認する。やはりと言うべきか、魔操志が苦しい表情で足を掴んでいる。


 ニッケランは焦りを感じ、必死に武器を取ろうとあがく。徐々に這い上がってきているのか、苦痛にまみれた声がだんだんと大きくなっている。


 ニッケランは焦りから、目が激しく泳いでいる。そこで気が付いた、エイリの胸元が何故か光っている。そこを覗くと短剣が顔を覗かせていた。


 すぐさまそれを引き抜き、這い上がってきている奴の顔めがけて突き立てた。


 奴は咄嗟に剣を手でガードした。手には短剣が突き刺さり、反対側から顔を覗かせている。

 奴はすでに腰の近くまで這い上がってきており、ギラギラと歯を見せつけてきている。奴は喉をかみ切るつもりなのだ。


 焦りを覚え、短剣を引き抜いた。途端に血があふれ、苦悶の表情を浮かべる。しかし、それが契機になったのか、一気に這い上がって来た。


 ニッケランはもう一度突き刺す。今度も手に刺さったが、力一杯に刺したおかげで、手と首の両方を突き刺すことに成功した。しかし浅い。


 刺さった状態で奴はニッケランに覆いかぶさり、首に噛みつこうと獣のように飛び込んだ。二人の下敷きになっているエイリに起きる気配はない。


 ニッケランは剣の柄を必死に握り、押し込む。奴の口からは血が溢れ、彼の首元で動きを止めた。


 途端に力なく横に倒れ、痙攣し始めた。刺した箇所からは滝のように血が溢れ出ており、地面へと浸みこんでいっている。


「ゲホッ!」


 すると、下敷きになっていたエイリが咳をし、目を開けた。

 彼はニッケランと目が合い、安堵したように息を吐き出した。


「魔操志は?」

「たぶん、殺した…」

「たぶん?」


 ニッケランの目線の先を辿った彼は、驚いた声を出すと、ニッケランを突き飛ばし、魔操志へと近づいた。


 ゴボゴボと血が吹き出て、痙攣しているもののまだ息はあるようだ。それを確認した彼は魔操志の顔に剣を突き立てた。


 一瞬、大きく体を震わせた魔操志は静かになった。次の瞬間、剣が突き刺さっている個所から煙が立ち始める。


「うお!」


 エイリは魔法が繰り出すと思ったのだろう、途端に木の影に飛びこむ。吹き飛ばされ、うつ伏せになっているニッケランも必死に立ち上がろうともがいた。しかし、杞憂だった。


 奴の顔は煙を上げただけで、他には何も起こらなかった。

 エイリと顔を見合わせ、二人は同時に息を吐き出した。


 今回も魔操志との戦いは生きた心地のしないものだった。しかし、確かに生き残り、魔操志をうち倒した。それを二人は噛みしめた。


 ――足音が聞こえた。


 戦闘中の音は想像を絶するほど大きいものだった。そのことを考えると周囲の敵が集まってきていてもおかしくはない。


 ニッケランはどうにか体を起こし、周囲を見渡す。


 すると、少し離れた場所からオキタル達が近づいてきているのが見えた。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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