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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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上戸の森

 ニッケランたちはミャアドとエイリを先頭に地下トンネルの中を歩いていた。中は暗闇で、ミャアドの持つ松明のみが頼りだ。


「想像以上にしっかりしてるな」ザザンが壁を叩きながら呟いた。


「二十年近く建設し続けたって長老は言ってたからな」とエイリ。


 トンネルの壁は出来るだけ形を統一した石がぎっしりと積まれており、小石の混ざった石灰モルタルが隙間を埋めていた。


「とりあえず、戦況について話しておこう……先ほど話した通り、帝国軍は森の中で散開して俺たち反乱軍を分散させている。その結果、練度の高い兵士に対し我々が少数で襲い掛かる形になってしまっているんだ。ゲリラをしているから、何とかなっているもののこちらが劣勢なことには変わりはない」


「質問いいかな?」とジョン。彼は間を開けると「ゲリラってのは具体的に何をしてるんだ?」と。


「そうだな…簡単に言ってしまえば、隠れて敵が来たところで攻撃するんだ。弓とか槍とかで」

「隠れるって、茂みに?」

「えーと…おい、ミャアド。目的地までは後どのぐらいだ?」

「え? …ちょっと待ってろ」


 突如質問された彼は、当たり前のように壁に耳を当て始めた。その突拍子のない行動にニッケランたち四人の目は点だ。


「何してるんだ?」とニッケラン。すると、勢いよく手を突き出したエイリが「シッ!」と彼を遮った。


 最早、見届けるしかない。ニッケランは得も言われぬ表情で滑稽な状況を傍観する。


「上に居るな…数人…帝国兵かも」とミャアド。彼は再び耳を押し当てると「後退するか?」

「いや、このまま進もう。帝国兵がここまで侵入するには早すぎる」とエイリ。その表情は自信満々で、ニッケランたちにミャアドを自慢するような表情を見せた。


「待て待て。お前らなんの話をしてるんだ」


 彼らの会話に、思わずニッケランは言ってしまう。何もかもが意味不明な状況だった。


「ミャアドは耳が良いんだ。壁に耳をくっつけると、地面を歩いている奴の足音が聞き取れるのさ。まぁ、敵か味方か、はたまた動物かは見分けがつかないけどな」とエイリ。


「そういう……」とニッケラン。


 にわかには信じ難い話だ。本当だとしたら人間離れしている特技だ。しかし、彼の自信に満ち溢れた表情を見るに嘘ではなさそうだった。


 そのまま彼らはミャアドの意見に従い進んでゆく。


「ヤクトンとラキアは?」とオキタル。

「前線だよ。俺も前線に居たんだが、さすがに長老に報告しないと話にならないからな・・・お?」


 突然、ミャアドが立ち止まり壁に耳を添わせる。 


「そろそろだな…」

 

 先ほどよりも長い間それをし、トンネルは呼吸音すら気になる静寂に満たされた。


「よし周囲に誰も居なさそうだ。上がるぞ」


 そう言うと彼は再び歩き出す。すると、上へとつながる道が現れた。


 上へとつながる道は狭く、上幅も小さいもので、階段も乱雑なものだった。それを六人は上ってゆく。


 すると、ミャアドが松明の火を消してしまった。その瞬間、辺りは暗闇に包まれるかに思えた。

 しかし、上の方にか細い光が見える。


「お前ら、ここからはしゃべるなよ?」


 ミャアドが真面目な声で言う。もちろん、この場に喋っている者などすでにいないが、一応のために言ったのだろう。


 さらに奥へと足を進めると、ミャアドが動きを止めた。彼の目の前には何かの隙間から細い光が漏れ出ている。


 彼が隙間を作っている何かに手を添えたのか光の幅が微かに大きくなり、次の瞬間には新鮮な空気とまばゆい光が彼らを包み込んだ。

 

 ミャアドが顔を出し、周囲を確認する。

「よし、居ない」

 すると、彼は勢いよく外へ飛び出し、植物の擦れる音だけを残していった。

 残された五人は続く。


 各々が茂みに隠れたことを確認したミャアドが囁いた。



「とりあえず、作戦を伝えるぞ」

「最前線はこの先だ。この先で味方がゲリラをして、帝国兵と戦っているだろうから、俺たちは背後から支援する。あわよくば、位の高い奴の首を狙いたいね」


 すると、木を縫うように怒号が彼らの元へ届いた。


「お、噂をすればってやつか?」と怒号の響く方を見るエイリ。

「よし、いくか」とミャアド。


 草をかき分けながら進んで行くと、何かがチラリと見えた。木々が邪魔をしてはっきりとは見えなかったが、剣と剣がぶつかる音が響いている。


 先頭を行く、ミャアドが振り向きうなずいた。この先で戦闘が勃発しているのは確かなようだ。


「お前たちの実力を見せてくれ。魔操志を倒した実力を」


 後方で周囲を警戒していたエイリが囁いた。

 ニッケランたち四人はお互いを見合い、誰が一番最初に動くのかを確認し合う。


「俺で良いか?」


 ニッケランが真っ先に言う。魔操志を倒したことを少しでも証明せねばならない。


「あぁ、構わないぞ」とジョン。残る二人も静かに頷いてくれた。


(味方の方が多いな…帝国兵は五人ってところか…)と前方へ移動したニッケラン。


 ゲリラの襲撃に陣形はバラバラになっているものの、個の力が強く反乱兵が複数人で攻めているにも関わらず互角だ。


 ニッケランは背負っているロングソードを抜き去ると目を閉じ、集中する。


(―――よし!)


 次の瞬間、足音を立てないように駆け出した。雑草の擦れる乾燥した音をわずかに出しながら彼は着々と近づいてゆく。


 敵は反乱兵の対処で手一杯のようで、ニッケランを一切視認していない。一瞬にして、彼は間合いへと踏み込んでしまった。


「くそ! お前らこいつ等を早く殺すぞ! じゃないと援軍が…」と反乱兵。敵の背後に忍び寄るニッケランに一瞬戸惑っていたが、帝国兵でないことを悟ったのか表情から敵に悟られないように目を逸らした。


 それと同時にニッケランは剣を強く握り、飛び込んだ。


 手には鎧を貫いた固い感触が伝わったが、それは束の間の事だ。次の瞬間、敵は大きく仰け反り、叫び声をあげた。返り血は鎧の中で押さえられ、ニッケランには届かない。しかし、手に伝わる命の鼓動と剣から滴り落ちる血を見れば、結果は十分に分かった。


 敵の背に蹴りを入れ、刺さった剣を強引に抜き去る。敵は、ニッケランに反撃するどころでは無いようで、剣を放り投げ、のた打ち回っている。最早、とどめを刺すまでもない。


(よし…まずは一人……)


 彼は周囲の状況を確認する。残りの敵は四人。

 しかし、敵の一人はニッケランの出現と仲間がやられたことに戸惑ったのか、足を滑らせ、反乱兵に一方的に攻撃されている。


(残りは三人か…)


 残る三人はこの状況を打開しようと、必死に剣を振り回している。しかし、目に見えるほど焦っており、先ほどまでの剣術を使用した帝国兵らしい戦い方は鳴りを潜めてしまった。


「俺以外にも見せ場を作ってやらないとな…おい! お前ら!」とニッケラン。背後を向き、叫んだ彼の視界の端に何かが横切った。


「あとは任せろ!」とザザン。同じようにジョンもオキタルも敵の元へと向かっている。


 どうやら端からそのつもりだったようで彼らはニッケランの後を付いてきていたようだった。


 すると、敵の一人が叫んだ。


「降参! 降参だ!」


 残りの敵兵も同じような事を叫んでいた。


「頼んどいてすまないが、殺さないでくれよな」と背後からゆっくりと近づいてくるエイリ。その奥で腕を組み、仁王立ちのミャアドも頷いている。


 ニッケランは降参し、武器を捨てた兵士を眺めながら質問を飛ばす。


「捕虜にでもするのか?」

「そんなところだ。だが、何よりも情報が欲しい。戦況が完全にはつかめていないからな」とエイリ。


 すると、敵から武器を取り上げている反乱兵の一人が言った。


「ありがとうなアンタ。結構ギリギリだったんだ」

「良いんだ別に。それよりも聞きたいことがあるんだ。戦況がどんな感じなのかなんとなくでも分からないか?」

「そうだなぁ…アンタらはどこまで知ってんだ?」


 ニッケランはエイリに目くばせする。


「敵軍が小隊に分かれて森の中で大きく広がっている所までは…」とエイリ。

「大体それで合ってるよ。敵はいまだに分散して集まる気配もない。まぁ、集まったら俺たちに徐々に減らされることが目に見えてるから、集まることは無いだろうけどな」




「なら、この戦は帝国からすれば負け戦じゃないか?」とニッケラン。


 すると、兵士は困った顔をし「その…魔操志が…」と。


「やはり来ていたのか……」とミャアド。彼は嫌そうに「ちなみに、魔操志がどこら辺に居るか分かるか?」と問う。


「最後に見たのは…あっちの方でしたね」


 兵士は森のさらに奥の方を指さした。ふと、兵士の後ろを見ると帝国兵が縄で腕を縛られているところだった。


「そうか…ありがとうな。お前も仲間と共に捕虜を運んでくれ」


 エイリに兵士は敬礼をし、そそくさと移動していった。先ほどニッケランたちが出てきたトンネルの方へと。


 すると、森の奥で強い光が走った。共に轟音が鳴り響き、上空では鳥たちが慌てふためいている。


「魔操志はまだアッチの方に居るらしいな」とジョンが小さく呟いた。


 それに小さく頷いたミャアドが「このまま進むぞ」と言った。



 茂みの中に身を沈めながら進んでゆく。魔操志に近づいていると思うほどに心臓は音量を上げていき、変に息が切れる。目的地へ進む道中、何度も敵兵と出くわすかと思っていたが、なかなか出くわさない。それが、余計に違和感を抱かせ、緊張してしまう。


 二度目の閃光だ。先ほどよりも距離が近くなったからか、光も音も強くなり、振動が体にまで伝わった。


 突然、左前方の茂みが激しく揺れた。

 それに皆が反応し、体を出来る限り硬直させ、音を立てないことに努める。


 敵だ。敵が一人現れた。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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