表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き日  作者: 溶接作業
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/83

上戸の森

 ニッケランたちはミャアドとエイリを先頭に地下トンネルの中を歩いていた。中は暗闇で、ミャアドの持つ松明のみが頼りだ。


「想像以上にしっかりしてるな」


 ザザンが壁を叩きながら呟いた。

 エイリが答える。


「二十年近く建設し続けたって長老は言ってたからな」


 トンネルの壁は出来るだけ形を統一した石がぎっしりと詰まれており、頑丈そうな見た目をしている。これは、本当に二十年近く掛かっていても不思議ではなかった。


「とりあえず、戦況について話しておこう」


 エイリが足元を度々見ながら、口を開いた。彼は続ける。


「先ほど話した通り、帝国軍は森の中で散開して俺たち反乱軍を分散させている。その結果、練度の高い

兵士に対し我々が少数で襲い掛かる形になってしまっているんだ。ゲリラをしているから、何とかなっているもののこちらが劣勢なことには変わりがない」


「質問いいかな?」


 ジョンの声に、彼はうなずいた。


「ゲリラってのは具体的に何をしてるんだ?」

「そうだな…簡単に言ってしまえば、隠れて敵が来たところで攻撃するんだ。弓とか槍とかで」

「隠れるって、茂みに?」

「えーと…おい、ミャアド。目的地までは後どのぐらいだ?」


 突然、エイリに質問され、彼は少し戸惑っている。すると、立ち止まり壁に耳を近づけた。


「何してるんだ?」

「シッ!」


 ニッケランの声をエイリが遮った。さすがにこれ以上、声を発することは出来ず、ミャアドの行動を見届ける。


「上に居るな…数人…帝国兵かも」

「後退するか?」


 エイリが彼に質問を飛ばす。


「いや、このまま進もう。帝国兵がここまで侵入するには早すぎる」

「待て待て。お前らなんの話をしてるんだ」


 彼らの会話に、思わずニッケランは言ってしまった。何もかもが意味不明な状況だった。


「ミャアドは耳が良いんだ。壁に耳をくっつけると、地面を歩いている奴の足音が聞き取れるのさ。まぁ、敵か味方か、はたまた動物かは見分けがつかないけどな」


 エイリが答えてくれた。


「そういう…」


 にわかには信じ難い話だ。本当だとしたら人間離れしている特技だ。しかし、彼の地震三満ち溢れた表情を見るに嘘ではなさそうだった。

 そのまま彼らはミャアドの意見に従い進んでゆく。すると、オキタルが話始めた。


「ヤクトンとラキアは?」

「前線だよ。俺も前線に居たんだが、さすがに長老に報告しないと話にならないからな」


 エイリが答えた。

 それにオキタルは満足そうにうなずいている。


「そろそろだな…」


 突然、ミャアドが立ち止まり壁に耳を添わせる。先ほどよりも長い間それをし、呼吸の音すらも気になるほどの静寂に包まれた。


「よし周囲に誰も居なさそうだ。上がるぞ」


 そう言うと彼はまた歩き出す。すると、上へとつながる道が現れた。


 上へとつながる道は狭く、上幅も小さいもので、階段も乱雑なものだった。それを六人は上ってゆく。


 突然、ミャアドは松明の火を消してしまった。その瞬間、辺りは暗闇に包まれるかに思えた。しかし、上の方にか細い光が見える。


「お前ら、ここからはしゃべるなよ?」


 ミャアドが真面目な声で言う。もちろん、この場に喋っている者などすでにいないが、一応のために言ったのだろう。


 六人はどんどんと進んでいった。すると、天井に当たったのか、ミャアドが止まった。彼の目の前には扉の隙間から漏れ出ているようなか細い光が出ている。その壁に彼が手を添えた。


 すると、天井が開き、新鮮な空気と目を刺すような光が入り込んできた。そのまま、ニッケランたちは進んでゆく。


 目が慣れてくると、ミャアドが開いた蓋の先は森のどこかだった。六人は体を屈めながら、周囲の茂みに身を沈める。


 ミャアドが顔を出し、周囲を確認する。すると「よし、居ない」と小さくささやいた。


 彼は続ける。


「とりあえず、作戦を伝えるぞ」


 他の五人がうなずいたのをミャアドが確認した。


「最前線はこの先だ。この先で味方がゲリラをして、帝国兵と戦っているだろうから、俺たちは背後から支援する。あわよくば、位の高い奴の首を狙いたいね」


 すると、森の奥の方で怒号が響いた。


「お、噂をすればってやつか?」


 ヤクトンが怒号のする方を見て呟いた。


「よし、いくか」


 ミャアドの声に全員がうなずいた。ゆっくりと、音を立てないように進んでゆく。

 草をかき分けながら進んで行くと、人が見えた。木々が邪魔をしてはっきりとは見えなかったが、剣と剣がぶつかる音が響いている。


 先頭を行く、ミャアドが振り向いた。この先で戦闘が勃発しているのは確かなようだった。


「お前たちの実力を見せてくれ。魔操志を倒した実力を」


 後方で周囲を警戒していたエイリが囁いた。

 ニッケランたち四人はお互いを見合い、誰が一番最初に動くのかを確認し合う。


「俺で良いか?」


 ニッケランが真っ先に言う。魔操志を倒した片鱗を少しでも見せなければいけないと考えたからだ。


 他の三人は納得してくれたのか、頷いてくれている。

 ニッケランは徐々に前に移動し、敵の配置を確認する。


(味方の方が多いな…帝国兵は五人ってところか…)


 ゲリラの襲撃に陣形はバラバラになっているものの、個の力が強く反乱兵が複数人で攻めているにも関わらず互角だ。


 ニッケランは背負っているロングソードを抜き去ると、一瞬目を閉じ、集中する。


 次の瞬間、足音を出来るだけ出さないように駆け出した。


 敵は反乱兵の対処で手一杯のようで、ニッケランを一切視認していない。一瞬にして、彼は間合いへと踏み込んでしまった。


 反乱兵は敵の背後に忍び寄る彼の姿を発見し、一瞬戸惑っていた。しかし、その姿が帝国兵のものではないことを認識し、表情から敵に悟られないように目を反らした。


 それと同時にニッケランは剣を強く握り、飛び込んだ。


 手には鎧を貫いた固い感触が伝わったが、それは束の間の事だ。次の瞬間、敵は大きく仰け反り、叫び声をあげた。返り血は鎧の中で押さえられ、ニッケランには届かない。しかし、手に伝わる命の鼓動と剣から滴り落ちる血を見れば、結果は十分に分かった。


 敵の背に蹴りを入れ、刺さった剣を強引に抜き去る。敵は、ニッケランに反撃するどころでは無いようで、剣を放り投げ、のた打ち回っている。


 ニッケランは、刃走りの時と同じように構え、一瞬で終わらせた。死体はビクビクとうねりを上げている。


 周囲の状況を確認する。残りの敵は四人。

 敵の一人はニッケランの出現と仲間が殺されたことに戸惑ったのか、足を滑らせ、反乱兵に一方的に攻撃されている。


(残りは三人か…)


 他の三人はこの状況を打開しようと、必死に剣を振り回している。しかし、反乱軍が思いのほか強く、ジリ貧になってしまっているようだ。


 ニッケランは逃げられるとは思っていなかったが、仲間を呼び出した。すると、ジョン、ザザン、オキタルが背後から現れる。


 すると、敵の一人が叫んだ。


「降参! 降参だ!」


 残りの敵兵も同じような事を叫んでいた。


「頼んどいてすまないが、殺さないでくれよな」


 背後から現れたエイリが言った。それに茂みに隠れているミャアドもうなずいている。

 ニッケランは降参し、武器を捨てた兵士を眺めながら質問を飛ばす。


「捕虜にでもするのか?」


 エイリが答える。


「そんなところだ。だが、何よりも情報が欲しい。戦況の状況が完全にはつかめていないからな」


 すると、一人の反乱兵がニッケランに話しかけた。


「ありがとうなアンタ。結構ギリギリだったんだ」

「良いんだ別に。それよりも聞きたいことがあるんだ」


 兵士は「何が聞きたいんだ」と言った。


「戦況がどんな感じなのかなんとなくでも分からないか?」

「そうだなぁ…アンタらはどこまで知ってんだ?」


 ニッケランはエイリに目くばせする。彼は口を開いた。


「敵軍が小隊に分かれて森の中で大きく広がっている所までは…」

「大体それで合ってるよ。敵はいまだに分散して集まる気配もない。まぁ、集まったら俺たちに徐々に減らされることが目に見えてるから、集まることは無いだろうけどな」


 ニッケランはふと気になる事が出てきた。


「なら、この戦は敵意取ったら負け戦じゃないのか?」


 すると、兵士は困った顔をした。ここからが本題のようだった。


「その…魔操志が…」

「やはり来ていたのか」


 気が付くと茂みから出てきていたミャアドが言った。彼は続ける。


「ちなみに、魔操志がどこら辺に居るか分かるか?」

「最後に見たのは…あっちの方でしたね」


 兵士は森のさらに奥の方を指さした。ここで気が付いたが、捕虜になった三人の兵士たちはすでにどこかへと連れられた後だった。


「そうか…ありがとうな。お前も仲間と共に捕虜を運んでくれ」


 エイリに兵士は敬礼をし、そそくさと移動していった。先ほどニッケランたちが出てきたトンネルの方へと。


 すると、森の奥で強い光が走った。共に轟音が鳴り響き、上空では鳥たちが慌てふためいている。


「魔操志はまだアッチの方に居るらしいな」


 ジョンが小さく呟いた。


 それに小さく頷いたミャアドが「このまま進むぞ」と言った。


 茂みの中に身を沈めながら進んでゆく。魔操志に近づいていると思うほどに心臓は音量を上げていき、変に息が切れる。目的地へ進む道中、何度も敵兵と出くわすかと思っていたが、なかなか出くわさない。それが、余計に違和感を抱かせ、緊張してしまう。


 二度目の閃光だ。先ほどよりも距離が近くなったからか、光も音も強くなり、振動が体にまで伝わった。


 突然、左前方の茂みが激しく揺れた。それに皆が反応し、体を出来る限り硬直させ、音を立てないことに努める。


 敵だ。敵が一人現れた。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ