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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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この先

「おい、起きろ」


 聞き覚えのある声で起こされたニッケランは目を開ける。視界の端には草原の植物がユラユラと動き、中央には嫌いな人物が居た。


「なんだよ」

「稽古だ」


 夢の中の父は稽古しかしない。もう少し楽しい夢を見せてほしいものだ。


「またかよ…」

 ニッケランは心の中で舌打ちをし、起き上がる。足元には慣れしたしんだ剣が転がっていた。

 それを拾い上げ、父を睨む。その姿に満足したのか、彼は薄い笑みを浮かべた。


「お前は運命ってあると思うか?」

「は?」


 剣を振るってくると思った矢先の質問。思わず、変な声を出した。


「だから、運命だよ。未来の事は決まっているって考えだ」

「知らねぇよ。そんなこと」


 父は突然真剣な顔で見てきた。その目は、自分を見ているようにはなぜか感じない。


「まぁ、そのうち嫌でも考えることだ」


 そう言うと彼は突然、剣を構えた。咄嗟に守りの体勢に入る。


「ここから先、守ってばかりじゃ続かないぞ?」

「なんだよ、先って」

「後悔は無しだ」


 父はそう言うと、突然とびかかって来た。左手の剣を上に振りかぶり、脳天を割る気なのだ。しかし、前回のようにはいかない。今回は不意打ちではなく、しっかりと動作を観察できているからだ。


 ニッケランは父が振るった剣を避けるようにして、前へ飛び込み、攻撃に転じる。父の剣が空を切り、ニッケランの鼻面をかすめる寸前で横切ってゆく。大きな隙が生まれ、腹に剣をねじ込もうと動いた。


 剣は、父の腹めがけて飛んで行く。


(もらった!)


 このまま剣は腹を貫き、勝利できると思った。しかし、父は想像に反した動きを見せる。


 体をねじり、連続で剣を振るってきた。今度は突き刺すモーションだ。剣との距離が近いこともあり、

ニッケランの方が先にやられてしまいそうだ。


 さすがに相打ちは避けたい。横に飛び退き、父の剣を寸で避ける。

 父は驚いた顔を見せたが、特に焦っていた様子は無く、ニッケランの行動は予想の範疇だったらしい。


「ちょっとは学んでるみたいだな」

(ふざけやがって)


 父の言葉に苛立つがそれどころではない。明らかに息の根を止めに来ている攻撃だった。開けられていなかったら、体のどこかに穴が開いていただろう。


「おい! 稽古なんだよな?」


 何故か答えてくれない。しかも、父は再度剣を構えた。

 さすがに、夢だからと言って死ぬ気は無い。覚悟を決め、剣を構える。

 微動だにしない時間が流れる。何故だか、奴は攻撃をしてこない。


(まさか、待っているのか?)


 今度はニッケランが攻め手に回ったのだ。奴は攻めてくることを期待している。それに乗るべきか迷う。しかし、このまま何もせずに終わってしまう方が嫌だった。


 彼は体勢を低くし、剣を胸元へと寄せる。父の様子を見ると、不思議そうにこちらを見ていた。


 刃走りのイメージを膨らませる。足に力をため、地面を蹴り上げるイメージ。それを何度も繰り返す。


 そして、地を蹴った。蹴り上げた地面がえぐられ、土が顔を覗かせる。しかし、その場に彼は居ない。すでに、目標めがけて飛んでいた。剣先は心ノ臓を捉えている。


 突き刺す、寸でのところで父の顔を窺がった。どんな間抜けな表情を見せているのかと期待したからだ。しかし、違った。


 父は恐ろしいほど冷静で、凍ってしまいそうな目をしている。こちらが圧倒的に優位なはずなのに、追い詰められている気分になり、脳みそは危険信号を発する。


 それを振りほどき、とにかく突き刺すことに集中する。奴の仕草はすべてブラフだと言い聞かせて。

 しかし、想像通りに事は進まなかった。父が目にもとまらぬ速度で切りつけてきたのだ。


 途端に今まで味わったことのない激痛が走り、後方へ吹き飛ばされた。


 地面に転がり、体の節々に鈍痛が響く。しかし、それ以上に剣を持っていた腕から、耐えようのない痛みが出続けている。


 恐怖心に駆られ状態を確認する。


 無い。剣を握っていたはずの腕の一部が無くなっている。血が絶え間なく流れ、生気を吐き出していることが分かる。しかし、それ以上に恐怖と痛みに襲われ、何も冷静に考えることが出来ない。


 父が迫ってきている。ニッケランは不格好に体を引きずり、必死に逃げようともがいた。


 草原にニッケランの血が広がり、父の後ろには自分の腕が転がっていた。


「やめて! これ以上はとても」

「じゃぁな」


 父はそう言うと、剣を胸に突き刺した。


 心臓を突き刺されたからか、血を流し過ぎたからか、意識が遠のいてゆく。最後の力を振り絞り、父の顔をうかがう。


 悲しい顔を見せていた。自分で殺したくせに。


 すると、父は口を開き囁いた。


「すまない」



最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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