上戸の森
死地の旅団になって一週間が経ち、その日が来た。
ジョンが完治し、同時に将軍に頼んでおいた物が届いたからだ。
「いつになったら、その例の村ってのにつくんだ?」
ニッケランはミャアドに問う。
「そろそろのハズなんだが…」
彼はキョロキョロと周囲を見渡し、森の中を見分けようと必死になっている。
ここは帝国の端、上戸の森。
ミャアドの話によれば、この森の中に反帝国思想の人間が集まっている村があるという。反乱軍はそこに拠点を構え、ゲリラをしているらしい。
しかし、前哨基地を出発して三日は森の中だ。まさかとは思うが、ミャアドは道に迷ってしまったのか。それとも、反乱軍の話は嘘で、我々をはめようとしているのではなかろうか。そんなよこしまな考えが脳裏にちらついて仕方がない。
仲間も同じ考えなようで、三人とも度々ミャアドの顔を窺がっている。しかし、こう考えてしまうのは仕方がないことでもあった。
道中で巡回中の帝国兵に見つかりそうになったこともあったし、野生動物に襲われたこともあった。しかも、長くても三日で着くと将軍に彼は説明したため、すでに食料が底を尽いてしまった。残っているのは少量の飲み水だけだ。しかも、すでに夕方で夜はすぐ目の前だ。
「おい、ミャアドまだなのか?」
「さっき聞いたばかりだろ!」
声を荒げられ、ニッケランは苛立った。しかし、ここで口論になり、帝国兵にでも見つかってしまえば作戦は全部水の泡だ。感情を必死に押し殺し、耐える。もう少しで目的地だと自分に言い聞かせながら。
突然、前方の茂みが音を立てた。
五人は一斉に散らばり、近くの遮蔽物に身を寄せる。
ニッケランはゆっくりと顔を木の影から覗かせ、様子を窺がった。
「ん?」
野生動物か、帝国兵の姿が見えると思っていたが、実際にそこに現れたのは、ぼろきれを着た男だ。
「おい! そこのお前。ヤクトンか?」
突然、ミャアドが叫んだ。とうとう、精神に異常をきたしたのだろうか。
ヤクトンと呼ばれた男は声のする方を振り返り、驚いた顔を見せた。
「その声…ミャアドか!」
男は嬉しそうな顔を見せ、一直線に走り込んできた。
(罠か?)
背中に背負っているロングソードを握り、いつでも切り込めるように身をかがめる。しかし、その必要はなかったようだ。
ミャアドが男に姿を見せ、握手を交わし始めた。その姿に、男が敵ではないことを悟った。
「紹介するよ。四人とも出てきてくれ」
呼ばれたニッケランたちは顔を見せる。それを認識したヤクトンは顔を強張らせた。
「なんだこいつらは! まさか、帝国の?」
「違う違う! 王国から来た助っ人さ」
ヤクトンは懐疑的な顔を見せたが、一応は理解してくれたらしい。ニッケランたちに握手を求めてきた。
「俺の名前はヤクトン。反乱軍に所属しているモンだ」
「よろしく、俺はニッケラン。で、こいつらが…」
ヤクトンに自分と仲間を紹介し終えると、気になっていたことを質問する。
「その…反乱軍のアンタがここにいるってことは、拠点はすぐ近くか?」
「あぁ、そうだが…まさか、迷ってたのか?」
聞くやいなや、彼はミャアド方を振り向いた。
「お前、あれほど道は覚えろと!」
「悪かったって! 正直、王国軍が勝つなんて思ってなかっただろ!」
彼はミャアドの言い分に鼻を鳴らすと、顔をこちらに向けた。
「まぁ、疲れているだろうし、案内するよ。村ここから三十分ほどさ」
ニッケランたちは顔を見合わせ、勢いよくうなずいた。これ以上、この森の中をさまようなんて考えたくもなかった。
ヤクトンの案内で、歩いて行くと、人の話し声が聞こえてきた。求めていた生活音が聞こえ、心が安らいでゆく。
すると、いきなり開いた場所に出た。
「おぉ、思っていたよりも…」
ジョンが口を開いた。その意味をニッケランも理解していた。
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