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赤き日  作者: 溶接作業
一章

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55/107

チーム

「入るぞ」

「お、すまなかったな。一人で行かせて」


 最初に口を開いたのはザザンだった。


「いや、大丈夫だ。むしろ一人でよかった」


 尋問官が居たことが伝わったのか、露骨にザザンもオキタルも嫌な顔を見せた。


「俺も行きたかったんだがな」

「ジョン、お前はその体だろ? その体にした張本人も居たしよ。俺だけで本当に良かったんだ」

「…そうか…ありがとうな」


 ジョンはそう言うとそのまま話続ける。


「それで、将軍はなんて?」

「あぁ、えーと。どこから話せばいいかな?」


 頭の中で話を整理し、分かりやすいように三人に伝える。


 今回戦った敵は王国側につくかもしれない事、魔操志の中にも才能の差がある事、帝国は魔操志を優遇し、魔法を使えない者を差別し始めたこと。出来る限り分かりやすく伝えた。


「…悲惨だな。ある意味、王国よりも」と囁いたジョン。


「あぁ、王国は仮に敗北したとしても徹底抗戦に出るだろうな。詳しくは聞かなかったが、帝国の一般人たちが悲惨な目に合ってることを考えると軍門に下ることはないだろうな」とニッケラン。三人は彼に同意の意を示した。


「それにしても、今回の帝国兵がまさか、反帝国思想を持った奴らだったとは…」とザザン。

「だから、魔操志が死んだあと、皆、素直に連行されていったんだね」


 オキタルの声に記憶が呼び起こされる。

 連行されてゆく帝国兵の姿。変に静かで、何も考えたくないような重苦しい表情。勝利した者たちも嫌な気分になる記憶だ。


「初めてだな、帝国の人間に同情したのは」とザザン。

「もし、王国が勝利することがあったら、国を統合できるかもな」とジョン。突拍子のない発言に三人は苦笑いを見せた。理屈は分からなくもないが、夢物語としか思えない。


「そりゃ、平和な世界が訪れてほしいぜ? でも、それは無理なんじゃないか?」とニッケラン。

「問題は山積みだが、どこかに解決の糸口があると思うんだ。だが、そのためにはどちらかの国が滅ぼされなければならない。そうだろ?」

「この今までいない状況が、ジョンにそう思わせるの?」とオキタル。

 彼は大きく頷くと「そうだ」と。

「ふーん…」と難しそうに顔をしかめるオキタル。その反応は無理もない。


 常識的に考えても、この状況を覆すには、何もかもが足りなかった。

 時間も、資源も、人も、王国には何もなかった。


「ニッケラン。王国は俺たちに大きな支援は出来ないらしいな?」

「あぁ、そうだ。そんな余裕はないそうだ」


 どうしてかジョンは微笑む。


(帝国兵に連れ去られる前に頭でも打ったんじゃねぇだろうな?)と彼の頭を見るニッケラン。


 そんな彼の様子を気にも留めないジョンは「俺たちがもし、帝国をひっくり返せればどうなると思う?」と。

「さぁ…反乱がおこるか?」

「そうだ。その通りだ。帝国の民は魔操志を恐れて行動に出せないでいる。魔操志の数は多くはない。それを俺たちで始末できれば、仲間を大量に集めることが可能になる」

「待ってくれよ、ジョン。理屈は分かるが、そんなの無理だろ」とザザン。

「そうだぜジョン。大体、今回のだってたまたま生き残れただけで……あれが何度も続いたら命がいくつあっても足りないぜ?」


「お前ら、もしかして今回、勝てたのは運が味方したからだとか考えているのか?」と三人を見渡すジョン。


(コイツ本当に頭を打ったんじゃないだろうな?)とニッケラン。他の二人も不可解そうに目を泳がせていた。


 三人の様子に「俺たちの実力は相当なもんなんだぞ? 力のザザン。臨機応変なオキタル。技のニッケラン。頭脳の俺だ。確かに、魔操志は強大だ。でも、俺たちが力を合わせれば、勝てるさ」と話すジョン。


「無茶苦茶だな…しかし、面白くはある」と笑うニッケラン。机上の空論のはずなのになぜだか自信が溢れてくる。


 ジョンの言葉には不思議な力がある。絶望的で暗闇が支配する状況でも、まだ一筋の光があるのではないかと期待させるような不思議な力だ。


「そうだな、ジョン。俺たちは強い。なんてったって、四人そろってなくても魔操志を倒したもんな」とザザン。彼は期待に満ち溢れているのか拳を握り込んでいる。

「僕たちならやれるよ!」とオキタルも。

「よし、やってやろう。魔操志なんて怖くねぇ!」


 気が付くと、ニッケランも叫んでいた。妙に高揚し、目の前に魔操志が現れたとしても戦える自信があった。


 ジョンを見てみると、大きな笑顔を見せている。


「じゃぁ、チーム名でも決めよう」

 ジョンの提案に「賛成!」と立ち上がったオキタル。


「それ良いな!」とニッケラン。隣のザザンも「なんで今まで決めてなかったんだろうな」と。


「はい! はいはーい!」


 ジョンが微笑みかけ、オキタルに発言を促す。


「四騎士は?」

「騎士じゃないだろ俺たち…」


 オキタルが思い切り睨んできた。ニッケランはまずいことを言ったと反省し、口を押させる。


「次は俺だな!」


 ザザンは自信ありげだ。


「四影なんてどうだ?」

「なんか刺客みたいな雰囲気だな」


 ジョンが笑いながら言った。


「だって、これから帝国に侵入すんだぜ? 帝国からしたら刺客だろ?」


 妙に納得してしまう説明だ。しかし、どこか採用したくない案だった。

 他の二人も同じようで、首を傾げている。


「ニッケランはどんな案があるの?」


 オキタルが問い詰めてきた。先ほどの仕返しだろう。

 正直、チーム名がない傭兵と言うのは珍しく、知り合いの傭兵たちも皆、名声を戦場に轟かせるためにも、名前を付けていた。


 四人は正直、ここまで傭兵生活が長続きするとは思っておらず、名前を付けることを棚上げしていたのだった。特に、ニッケランは名前なんて一度も考えたことがない。


「そうだなぁ…少し時間をくれないか? 先にジョンの意見を聞きたいしな」


 時間稼ぎを兼ねて、ジョンに問題を押し付ける。


「いや、俺は純粋に…四剣とかどうだ?」


 他の三人は顔を見合わせた。確かに、覚えやすくて良さそうな名前だ。


「いいと思うけど…なんかシンプル過ぎて、もう名のある傭兵集団とか居そうじゃない?」


 オキタルの心配はもっともだった。実際に知り合いの話によれば、簡単に思いつく名前は既に有名な傭兵集団がおり、使ったとしても意味がない場合が多いらしい。


「じゃぁ、ニッケランの番だな」


 まさか、ジョンはそれを知っていてシンプルな名前を提示したのではないだろうか。そうとしか思えない流れだ。

 ニッケランはしてやられたと思い、少し後悔した。しかし、ここまで来たからには、自分の発想力を信じるほかない。ゆっくりと口を開いてゆく。


「そうだな…死地の旅団とかどうだ?」


 他の三人が急に静かになった。


「どうした…お前ら?」


 三人は真剣な顔でニッケランを見ている。何を考えて居るのかさっぱりわからない。


「いいんじゃないか? まさに俺たちそのものだしな」


 ジョンが口を開いた。

 他の二人も賛同しているようで、強く頷いている。


「まてまて、なんていうか安直すぎないか? その……子供っぽさもあるし」


 このままではファンタジーのような子供が好きそうな名前になってしまう。こんな名前をオキタルはともかく、ジョンやザザンが気に入っているのかが分からない。


「子供っぽさは確かにあるけどよ、伝説の傭兵感があっていいじゃねぇか」

「やめてくれよザザン。伝説の傭兵って、俺たちが?」


 帝国に対して、たった四人で攻めてゆく姿を想像すると、確かに物語に出てきそうな感じだ。しかし、これは現実だ。ジョンの四剣の方がよっぽど現実味がある。


「よし! 死地の旅団で決まりだな!」


 ジョンが叫んだ。それにニッケラン以外は拍手している。


(はめられた…)


 完全に罠だ。オキタルに関しては不適な笑みを浮かべてこちらを見ている。


 それに苦笑いでニッケランは返すと、気が遠くなってゆく。まさか、こんな名前になってしまうとは。


 もし、本当にこの作戦が成功すればこの名前で大陸中に広まってしまう。そう考えると、恥ずかしくて仕方がなかった。



一章完。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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