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赤き日  作者: 溶接作業
一章

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二度目

「また…夢か?」


 風が頬を伝い、土の湿った香りが鼻をくすぐる。

 左を向くと、懐かしい建物が見えた。


「自分の家か…」


 草原の中に一つだけ建っている。まさしく、幼少期を過ごした家だ。


「おい、休憩は終わりだぞ」


 懐かしく、どこか恐怖を覚える声にニッケランは振り向いた。


「…父さん」

「ニッケラン、構えろ」


 父は剣を構え、殺気すら感じさせる目を見せる。


 途端に、右手に重たく、体温を奪ってゆく冷たいものを感じた。


 ずっしりとしている無機質な質感。

 覚えのある感触だ。


 目線を右手へ落とすと、いつの間にか剣を握っていた。

 子供の頃に毎日のように握っていたハーフソード。


 稽古の後は手がいつも鉄くさく、嫌な思い出ばかりが詰まっている剣。それが握られている。


「どこを見ている!」


 気迫のある声に悪寒が走り、勢いよく顔を上げた。

 そこには、いつの間にか間合いを詰めた父が居た。


 視界の左には空を切る音と細い影が迫ってきている。


(剣か!)


 ニッケランは咄嗟に体を小さくし、迫っている音に耳を傾けた。


 風切り音と共に、金属が震える音が聞こえる。

 音が頭上を通り過ぎ、反射で目線を上へと向かわせてしまう。


 すでに、視界の右側へと移動しているが、父は剣を横一線へ振るったようだった。


 しかし、父の目線はニッケランを観察するように見下ろしており、これだけで終わるとは到底思えない。


 突然、父が前のめりになり、片足を後ろへ振り上げた。

「え?」


 ニッケランは体勢を低くしたまま、呆然と上げられた足を眺めている。


 突然、目の前に壁が現れた。


 それが、ニッケランの顔にめり込み、遅れて激痛と鈍い音が脳みそに伝わった。

 視界がキラキラと光り、目標が定まらない。しかも、思考まで鈍っている。


「ぐあぁ…」


 気が付くと地面に変な格好で仰向けになっていた。


 首を動かすと、強く痛む。顔には熱い何かが流れているようで、鼻から顎へとゆっくりと動いている。


 なんとか腕を動かすと、手の甲がめくれ上がり、何か所も血の塊が出来上がっていた。


「くそぉ、どれだけ寝ていたんだ?」


 一瞬で気が付いたのならば、血が固まった状態になるはずはない、その証拠に顔を触れると固く、所々鋭利になった血の塊を感じることが出来た。


 夢の中での出来事であると考えると、確証は得られないのだが。


 諦めたように脱力し、空を見ると、先ほどまで青かった色が赤みがかったものに変わっている。

 少なくとも何時間は気絶していたようだった。


「やっと起きたのか」


 冷たい声が聞こえた。

 声の主がゆっくりと視界に現れ、見下ろしてくる。


「起こすの手伝えよ」


 ニッケランは挑発するような口調を飛ばす。その声は聞きなじみのない声だった。

 いや、微かに覚えている。


 幼少期の自分の声は中々思い出せないが、微かに聞き覚えのある声だった。


 父は、鼻で笑うと手を差し伸べてきた。


 それを掴もうと必死に腕を伸ばすが、全身の痛みがそれを上回り、なかなか思うように動かない。

 それを見かねてか、彼は背中を支え、体を起こそうと手伝ってくれる。


 背中に伝わる手の感触は固く、戦士を思い起こさせる。しかし、妙に温かく、安心してしまう。


(こんな記憶あったか?)


 父が自分に優しくしてくれた思い出は皆無だった。覚えていないというよりかは、むしろ、されたことがない方が正しい。

 そんな、最悪な父との記憶に、こんな出来事はあったのだろうか?


 彼を嫌うがあまり、記憶が勝手にすり替わっているだけか。それとも、夢の中だからだろうか?


 すると、彼は口を開いた。


「初めてだな、お前が俺の一太刀を避けられたのは」

「え? そうだった?」


 記憶は一方的なものばかりだ。確かに、避けられた記憶はなかった。


(所詮は夢か…)


 父の手がこんなにも温かく感じたことは無かったし、父が優しい口調で話しかけてきたのもこれが初めてだった。


 変に期待した自分が阿保らしく感じる。


 ふと、父の顔を覗くと、なぜだか、悲しい顔を見せている。憐れみを向けるような、そんな顔だ。


 それを見た途端に、視界の端が狭まってきた。

 空が色褪せ、父の顔にも黒々とした砂嵐が纏い始めた。

 

 父の口が開き、何かを囁いている。しかし、何も聞き取れない。

 視界はどんどんと狭まり、とうとう暗闇に支配された。

 

 体は宙をさまよい、なんの感覚も得ない。

 突然、一筋の光が走った。


 その光に向かって、ニッケランは手を伸ばす。

 いつの間にか、体は元に戻り、馴染みのある大きさに変わっている。


 そのまま手を伸ばし続ける。とにかく光のある方へ。光がまぶしく目を開けられない。

 必死に目を開けると、天幕の入り口に一筋の光が入っているのが見えた。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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