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赤き日  作者: 溶接作業
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鎖に繋がれた男

 ニッケランは耳を澄まし、ジョンではないかと期待した。しかし、聞こえてきた声は記憶にある声とは

程遠く、酒やけを起こしたようなかすれた声だった。


 目が慣れてくると、最初に服に目が吸い寄せられた。


 作業服のような頑丈そうな服を着ている。だが、所々赤黒い色に染まっており、まがまがしい雰囲気を漂わせていた。


 すると、今度は鉄くさい匂いがお香の匂いをかき消した。

 この場にいる全員が匂いを認識したのか、全員鼻にしわを寄せて男を見ていた。


 顔に目を移す。


 男の顔は痩せこけており、頬に黒い影を落としていた。だが、その反面、目は大きく見開き、大きな口で笑顔を見せていた。


(魔操志の最後みたいだな…)


 男の顔と魔操志の悪魔のような顔は似通っている。想像するだけで身震いしてしまう顔。それと同じ表情をしている男も、また異常者なのではないかと想像してしまう。


 男の顔に見入っているニッケランの耳にルートの声が届いた。


「おお、尋問官ではないか! 仕事が終わったのかね?」


 ルートの言葉により一層大きな笑顔を見せた尋問官は口を開いた。


「えぇ。いつも通り完璧に仕事をこなしました」


 ニッケランは恐ろしくてたまらなかった。

 悪魔のような顔をした男が悪名高い尋問官というだけで寒心にたえないのに、「仕事をこなした」という言葉がより一層冷たいものを感じさせる。


 オキタルは恐ろしい顔に釘付けになっているようで、気にしているような素振りは見せていない。しかし、ザザンは尋問官の事を一切見ず、目を開けまいと力を入れている。


 ニッケランは途端にジョンの事が気になった。まさか「仕事」というのはジョンの事ではないだろうか。


「尋問官殿。失礼ながら質問をお許しください。その『仕事』というのは誰に対して行ったのですか?」


 声は震え、心臓は鼓動を速めた。尋問官の口からジョンと言う言葉は聞きたくなかった。

 尋問官は不気味な目をニッケランに向け、嬉々とした声で説明し始めた。


「あなたの事はルート様からお聞きしております。この場合、私は名乗るべきなのでしょうが、帝国の者から私は嫌われているので、名前は誰にも教えられないのです。お許しください」


 ニッケランは、帝国の者に対して何をしたら命を狙われるまでになるのか、想像したくなかった。そして、できれば長く話したくもなかったので適当にうなずき、話を進めることを促した。


「それで仕事と言うのは、何をしたのかを聞きたいのですか?」

「いえ、誰に対して行ったという話です」


 尋問官が笑った。口が裂けそうなほど大きな笑顔。その笑顔はこの上ない不快感を与え、目を自然と背けさせる。


 すると、尋問官は何も言わないまま天幕の外へと移動していった。


 脳裏にジョンが悲惨な姿で現れる。尋問官がこの場に彼を連れてくるのではないかと想像すると変に汗ばんでしまう。


 すると、笑顔を浮かべたまま尋問官が戻ってきた。しかし、その手には太い鎖が握られていて、鎖は天幕の外へと続いている。


「まさか…」


 ザザンが隣で囁いた。顔は見なかったが声が震え、ニッケランと同じ事を考えていることを分かった。


 視界の端に捉えているオキタルの後ろ姿は震えており、息遣いが荒いのか鼓膜に音が届いていた。

 尋問官が鎖を引きずりながら、ルートの元へと歩みを進める。ジャラジャラと鎖が引きずられる音を響かせながら進んでいく。すると、鎖の先に人影が現れた。


 その影は生気を失い、死人のような姿にニッケランの目には映った。その影がジョンにはどうしても思えない。自分が知っているジョンは、あんなにも頼りない影を落とす男ではなかったはずだ。


 影が鎖に引きずられ、大きくなっていく。この天幕の中に姿を現そうとしているのだ。


 すると、お香の匂いが再び届いてきた。先ほどよりも明らかに存在感を増している。


 とうとう、鼻腔が甘ったるい香りで満たされた。先ほどのお香の匂いが何倍にも膨れ上がったような匂いだった。


 影の主の足が見えた。その足はニッケランの目を釘付けにする。

 足は裸足で、爪は中途半端に剥がされ、血に濡れた釘が突き刺さっている。


 その痛々しい姿に、ジョンでないことをニッケランは強く祈った。尋問官の顔を見ると、狂気に顔をゆがめ、今にも嬉々として跳ねまわりそうだ。


 ルートの前に止まった尋問官は鎖をより強く引っ張り、影の主を完全に天幕へと引き込んだ。


 ニッケランの呼吸が喉の奥で止まってしまった。


 鎖の主は痩せこけ、ぼろきれの服を身にまとい、か細い息を激しく繰り返している。

 肌の色は色白だが病的なまでに白く、生者を思わせない見た目だ。


 ニッケランは顔を確認する気にはなれず、後ろにいるザザンの方へ振り向いた。


 ザザンは目を見開き、鎖の主の顔を凝視して固まっている。まるで、魔法で石化されてしまったようだ。


 ニッケランは覚悟を決めようと拳を強く握った。


 もしかすると、ジョンではないかもしれない。帝国の者を尋問し、この場に連れてきただけかもしれない。


 必死に脳を騙そうと、暗示を掛け続ける。息を一つ吐き、気持ちを落ち着かせる。


 鎖の主の顔を見た。


 その顔は痩せこけており。、所々に火傷の痕のある、見るに堪えない姿になっている。


 しかし、ニッケランにはそれを認識することは出来なかった。


 姿は変わり果てているが、目に映る男の姿は、まさしくジョンだった。


ジョ―――――――――――ン!

最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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