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赤き日  作者: 溶接作業
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断末魔

 ニッケランは握っている剣にできる限りの力を込めて、地面を蹴り上げた。

 しかし、火事場のバカ力とも言うべき魔操志の力が、それを圧倒的にしのいでいた。


(まずい!)


 こうしている間にも魔操志は何かを唱え続けている。どんどんと空気が熱くなり、握っている剣も熱を帯び始めた。


 彼は咄嗟に奴の顔を見た。口が裂け、笑顔と言うよりも、命を狙って、ほくそ笑んでいる悪魔のように見える。


 彼は焦りと恐怖心から湧き上がって来たさらなる力に頼って、さらに剣を押し込んだ。


 少しずつ。少しずつだが剣が動き始める。剣がめり込んでいくたびに、悪魔の口からは血が噴き出し、苦悶の声を上げている。しかし、顔はより一層醜悪になり、目をぎらつかせてニッケランを舐めまわすように凝視している。


 さらに必死になって力を込めるが、剣が進む速度よりも周囲を取り巻く空気の方が熱くなっていく。


「くそ! ここまでなのか!」


 突然、後ろから強い衝撃が伝わり、剣がより速いスピードで動き始めた。


「ニッケラン! さっさとそいつ殺してよ!」


 オキタルが背中を押してくれているのだ。しかし、それはニッケランの望んでいる事ではなかった。


「オキタル、お前はとっとと離れろ! 巻き込まれるぞ!」


 後ろで首を横に振っているのか背中を押す力が左右へ揺れる。


「いやだ! ニッケランに死んでほしくない!」


 その声は恐怖に震え、絞り出したようにかすれていた。


(ここまで来たらやり遂げるしかない)


 ニッケランは再び剣にありったけの力を込めた、ずるずると動き、内臓をちぎる感覚が手に伝わる。魔操志はさらに血を吐き出し、唱えている言葉も頼りないものになってきていた。


「あと少しだ! 踏ん張れオキタル!」


 後ろから唸るような声が聞こえ、ほんの少しだがオキタルの力が強くなったように感じた。


 すると、剣がより速い速度で動き出し、奥深くへと差し込まれていく。


 突然、腕を掴む力が無くなった。

 剣は二人分の力が掛かった状態で一気に加速し、魔操志の背中を貫いた。


 あまりの熱さから、血で濡れている部分が音を立てて沸きあがっている。


 ふと、魔操志の顔を見た。先ほどと同じように恐ろしい顔をしているが、硬直し、目からは血が噴き出していた。


 突然、体が痙攣し始め、叫び始めた。


「熱い! 熱い熱い熱い!」


 ニッケランは剣から手を離すと、オキタルと共に下がった。そこで気が付いたが、乱戦は魔法に巻き込まれたくなかったからか、ニッケランを取り囲むようにして行われていた。


 しかも、周囲を囲んでいる者たちは戦いを放棄し、戦いの行方を見守っていたようだ。

 目を魔操志へと移すと、いつの間にか地面に転がり、のた打ち回っていた。すると、体から黒い煙が上がり始め、肉の焼ける匂いが立ち込めてきた。


「うっ…」


 オキタルは人間の焼ける匂いに吐き気を催したのか、手で口を押えている。

 ニッケランは怒涛の出来事と光景に脳みそが間に合わず、呆然と眺めていた。


 体の温度は止めどなく上がっているのか、大地の上に降り注いだ血がふつふつと泡を浮かべ始めた。


 次の瞬間、営火のように体が燃え上がった。


「ぐあぁぁぁぁぁ! なんで! なんで俺がぁぁぁ!」


 ニッケランと同じように転がり回っているが、体を取り巻く炎も魔法なのだろう。消える気配はなく、むしろ、より強く燃え上がろうとしている。


 奴は自分の死を悟ったのか突如、制止すると、自分の腹に刺さっている剣を抜き去った。そして、地面に力なく座り込んだ。


「なに?」


 何かにとりつかれたように感じさせる行動には驚き、二人は後ろに下がった。


 魔操志の顔を見ると、人間の顔つきに戻っているが、どこか虚ろで、無意識に動いているように見える。


 剣を首に立てかけた。


「まさか…」


 ニッケランはこれから起こる凄惨な光景を頭に思い浮かべ、震えた。オキタルも同じように目を見開き、結末を見届けようとしている。


 剣が動き始め、首に徐々に食い込んでいく。炎に包まれているせいで高温になった剣は、肉を切り裂いた瞬時に焼き付け、止血してしまう。


 空気にはむせ返るような、焦げた匂いがさらに充満した。


 魔操志は痛みと酸欠からか歯を食いしばり、大きく唸る。次の瞬間、剣に思い切り力を掛け、自らの首を吹き飛ばしてしまった。


 その首はニッケランの方へ転がり、足元へたどり着いた。

 首は地面を向いて制止したが、その首を裏返し、表情を確認する気は起きない。


 今度は、体の方を見ると、首が飛んだと同時に一気に燃え上がり、一瞬にして灰と化して消え去ってしまった。


 不思議なことに、剣や鎧には全く熱による外傷がなく、体が燃え尽きた後は、重力に従って落ちていった。


 突如、ニッケランの足の力が抜け、地面に倒れ込んだ。


「生きた心地がしねぇ……痛っ!」


 余韻に浸る時間すら与えられず、死闘が終了したことで、体は安堵に包まれた。同時に、体の不具合が気に脳へ押し寄せ、節々が痛くて動けない。


 小さな穴を開けた肩を優しく触りながら、ニッケランはふと違和感を覚える。


「あれ…? 乱戦が収まってる…」


 周囲の兵士たちは敵味方関係なく、ニッケランを凝視していた。


 ニッケランたちの事を確認できない位置の乱戦も収まっていることから、観戦していた者たちが結末を戦場に広めたのだろうか?


 突然、オキタルが負傷している方の肩を叩いてきた。


 激痛が走り、思わずオキタルを叱りつけようと、目を凝視した。しかし、その発想はオキタルの目を見ると吹き飛んでしまった。


 今までにないほど輝いた目をしたいる。すると、口を開いた。


「何やってんだよ。皆、勝鬨を上げてほしいんだよ」


 ニッケランは昔見た、将軍が剣を高らかに掲げ、叫んでいる様子を思い出した。


「それを俺もするのか?」


 オキタルは何度もうなずくと、さっさとしろと言わんばかりに顎をしゃくった。

 ニッケランは肩を庇っていた手を空へ掲げると、大きく息を吸いこんだ。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 それに呼応するようにオキタルが叫び、少し遅れて王国兵たちが一斉に声を上げた。


 戦場は王国兵の雄叫びに包まれ、対照的に帝国兵たちは剣を地面に投げ捨て、ニッケランを呆然と眺めている。しかし、帝国兵の顔は悲しみや憎悪に満ちたものではなく、どこか安心しているようなものを感じさせた。


 すると、後ろの戦場から徐々に歓声が静まり返り、それが伝播するようにして、戦場は突如、静寂に支配された。


 ニッケランは何事かと思い、耳を澄ました。すると、背後から馬の足音が複数聞こえ始め、声を掛けられた。


「そこのお前か? この歓声を巻き起こしたのは」


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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