魔法使い
「くそっ!」
ロングソードを引き抜くと、その勢いのまま目の前の敵を切り捨てた。
しかし、敵はすぐに補充される。
ニッケランは剣を強く握ると、目の前に現れる敵兵を一瞬で始末する。まるで、枯れ木をなぎ倒すように。
「なぜだ? なぜこんなにも弱い?」
幾度となく戦ってきた帝国兵はこんなにも弱かっただろうか。記憶の中の敵は少なくとも一つや二つの攻防は見せてくれた。
それに表情もいつものそれではなかった。
職業軍人なだけあって、帝国兵は冷静に剣を振るう。しかし、今はどうだ。
焦りに満ちた顔で剣を振るい、その軌道も規則性がない。まるで徴集された兵ではないか。
妙な不安を覚え、嵐の前の静けさのようなものを感じ取る。
しかし、今更乱戦から脱出し、様子をうかがうには遅すぎた。
最早、魔法使いを討つしか道はない。ジョンのように奇策を立てる脳みそもなければ、ザザンやオキタルのように突出した何かがあるわけでもない。
頼るのは経験からくる記憶、そして勘だけだ。
ニッケランは次々に現れる帝国兵の首を飛ばし、腕を切り落とし、蹴り飛ばしていく。
少しずつ。少しずつだが目的地へと迫ってゆく。
「隙を見て、後ろから頭を割ってやる」
目の前にまた敵が現れる。剣を狂ったように掲げ、振り下ろそうとしている。
(体躯が良いな…一旦受け流そう)とニッケランは剣を横に構える。
剣同士がぶつかり、火花を散らすかに思えた瞬間、目の前が赤く光った。ロングソードの背面が頭に当たり、体を包み込むようにして熱風、そして衝撃が伝わった。
「な、なんだ!」
空へと吹き飛ばされたと思った。実際には、後ろに吹き飛ばされただけなのだが、熱風とあまりの衝撃に目を開けられない。
とても長い時間に感じた空中浮遊の旅は突如終わりを迎え、背中には鈍痛が響き、地面を跳ねながら転がった。
「痛い…どうなってる…」
ゆっくりと目を開けると眼前には地面。口には血の味が広がっていた。舌で傷口を確認すると、ザラザラとした感触。どうやら砂を噛み、切ってしまったようだ。
「くそ…起き上がらないと」
耳鳴りにしては大きすぎる金属音のようなものが脳みそを震わせ、体の力を奪っていく。
彼はどうにか地面に手を付けたとき気が付いた。手に何かが刺さっている。
白く、固い何か。
「欠けた骨…か?」
ニッケランは初め、己の骨が折れ、飛び出しているのかと思った。
しかし、手に刺さっているそれを引き抜くと分かった。自分の骨ではない。
では、誰のものなのか。
どうにか顔を動かし、辺りを見渡す。
先ほどまで立っていた場所に、小さな穴が出来上がっている。
それを認識した途端、全身に悪寒が走った。
目の前に立ちはだかった敵が爆散し、骨が矢のごとく飛び散ったのだ。
慌てて立ち上がろうと腕に力を入れるが、足が言うことを聞かない。もしかすると、足が無くなっているのではないかと思い、恐る恐る確認する。
手と同じように骨が刺さっているが、特に歩けなくなる様子でもなさそうだった。
ニッケランに突然、記憶がよみがえる。
「脳震盪か…?」
昔、町の酒場で喧嘩を目撃したことがあった。偶然かどうかわからないが、顎に一撃食らった男が一瞬にして倒れる。その様子を見ていた一人の男が脳震盪と呟いた記憶。
今、自分にはそれと同じことが起こっているのではないだろうか。
すると、前方からガシャガシャと音が聞こえた。顔を上げ、絶妙に焦点が合わない目で前を向くと紫色のマントが見える。
「くそ…今はないだろ…」
必死に顔を動かし、剣を探す。するとチラリと何かが光った。
(あんなところに…)
ロングソードは彼よりも飛ばされたようで少し離れたところに位置していた。
紫色との距離を確認すると、まだ少し猶予がある。
慌てたように体を引きずりながら、剣へと近づいていく。必死に地面を引っかくように。
(また、あれを食らったらお終いだ!)
「そこの這いつくばっているお前。よく生き残ったもんだ! あの爆発で!」とあざ笑う声。
笑い交じりの声を発しているがよく覚えている声。砂嵐を止め、最初の大穴を開けたあの魔法使いの声だ。
そのまま魔法使いは話を続ける。
「お前は俺を楽しませてくれそうだ! 待ってやる。とっととその剣を拾ってかかってこい」
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