狂気
敵はいつの間にか走ることをやめ、血に濡れた味方を眺めている。すると、ザザンは我慢できなくなったのか、突撃を再度始めた。
敵は恐怖に顔を引きつっている。ニッケランの方からは見えないが、ザザンは鬼のような顔で敵に迫っているのだろう。
想像すると、妙に緊張し、拳に力が入る。
すると、ハーフソードを持った男が半狂乱状態で突撃し、剣を無茶苦茶に振り回した。
ザザンは一瞬戸惑ったように固まったが、上手く軌道を見切り、盾でそれを吹き飛ばす。
あまりの勢いに敵は剣に引っ張られるように仰け反り、ザザンが剣先を男に向けた。
敵は咄嗟に手を前に突き出した。考えたのではなく反射で出てしまったようで、後で露骨に焦った顔を見せる。
しかし、時すでに遅し。
グラディウスは敵の腹を裂くことは叶わなかったが、手を切り捨てることに成功した。
ハーフソードの男は勢いのまま倒れ込んだが、剣を放り投げ、切り落とされた手を庇うように丸まり、低く唸っている。
「お前は最後だ」
ハーフソードの男にザザンは低い声を放つと、残りの二人に剣を向ける。
その剣は血に濡れ、太陽の光を浴び、妙に輝いて見えた。まるで、生き血を啜れたことを喜んでいるようだ。
すると二人の兵士は斧を地面に放り投げ、跪き、命乞いを始めた。
「た、頼む、助けてくれ…捕虜になるからさぁ」
一人の兵士が甘えるような声でザザンを見上げる。
もう一人はそれに首がおかしくなるような勢いで頷いている。
「そうだなぁ…」
ザザンは徐々に二人の兵士に近づいて行った。二人は距離が近くなればなるほど青ざめていく。
するとザザンが一人に思い切り蹴りを入れた。
蹴りを入れられた男は吹き飛び鼻から血を流し、口からは泡が溢れ出てきている。
「ま、待て、ザザン!」
ニッケランは一瞬遅れて駆け出した。
ザザンには聞こえていないようで、もう一人の兵士の方を向いたまま微動だにしていない。
しかし、それは束の間の出来事に過ぎなかった。
突然、その男にも蹴りをお見舞いしたかと思うと、馬乗りになり、グラディウスを兵士の方へ移動させた。
覆いかぶさり、何をしているのか分からない。
しかし、ニッケランはなんとなく何をしているのか分かっていた。
なにせ、敵はザザンが手を動かすたびに激しく暴れ、この世のものとは思えない悲痛な叫びをあげている。
手を庇いうずくまっている敵を通り過ぎ、ニッケランはザザンの肩を掴み思い切り揺さぶる。
「おい、何してるんだ!」
走った息を整えようと一気に空気を吸うと、途端に吐き出してしまった。
濃い血の匂いがする。
恐る恐るザザンが何をしているのか覗いてみると、グラディウスで敵の顔の皮や肉を削いでいた。
「っ!」
言葉にならないものをニッケランは吐き出し、目を背ける。
昔に見た拷問された兵士の顔を思い出し、気分が悪くなった。しかし、使命感に駆られ慌ててザザンの顔を覗く。
笑っている。しかし、目は虚ろな感じだ。
「おい、しっかりしろ!」
肩を揺らし、目の上で手をバタバタと動かしてみるが反応がない。
仕方なく、ニッケランはザザンの顔を殴りつけた。
一瞬殺意に満ちた鬼のような顔を見せたが、誰かを認識するやいなや、驚いた顔を見せる。
「なんで俺を殴ったんだよ!」
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