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赤き日  作者: 溶接作業
一章

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18/107

合流

「なんだこれは…」


 噴火? 土砂崩れ? 隕石でも落ちたのか。

 様々な憶測が頭の中を飛び交う。


 しかし、穴の向こう側に堂々と立っている騎士により原因は判明した。


「我が名はロ=ヴェルト! 魔操志なり!」


 妙に透き通る声が戦場に響く。


 周囲を見渡すと、王国の者たちは困惑したような顔をしている。


 騎士は遠目でも分かる不満な顔を見せ、もう一度叫んだ。


「こういえば分かりやすいか? 俺は魔法使いだ!」


 途端に後方へ駆け出したニッケラン。 


「やばい、距離を取らないとやられる!」

 周囲の兵士たちも同じように動くだろう。誰よりも早く動くつもりでいなければ、人の波に巻き込まれ、魔法の餌食だ。


「あいつを討ち取れば名を売れるぞ!」


 遠くの方で王国軍の騎士が叫んだ。


 次の瞬間、魔法使いの近くにいる王国の兵士たちが突撃をし始めた。


(冗談だろ? そういや農民だらけだったな! 今回の戦!)


 そう思った瞬間、ジョンの言葉が脳裏によぎる。


 彼は王国のために、王国に住む人間のために戦っているのだ。


 もしかすると、あの中に彼や仲間が混ざっているかもしれない。


(俺だけ逃げるわけにいくかよ!)


 気が付くとニッケランは魔法使いの元へ駆け出していた。しかし、突然後ろから、腕を掴まれ、勢いよく地面に倒れてしまった。


(ヤバイ殺される!)


 そう思うと同時に、敵がいるであろう所に剣を勢いよく突き刺す。


 しかし、予想とは逆に異常に固い感触が伝わった。


「落ち着け、ニッケラン」


 逆光と剣を受け止めている盾で姿は良く見えない。しかし、声は聞きなじみのあるものだった。


「ザザン!」

「お前も生き残ってたんだなニッケラン」というと彼は手を伸ばし「お前もあの中に突撃するのか?」

「お前たちがもし居たらと思うとな?」


 ザザンは微笑み、嬉しそうな顔をした。

 しかし、すぐに表情は元に戻り、力強い眼差しに戻る。


「その気持ちは嬉しいが、作戦を忘れてもらっては困るな」

「そういえば…そうだったな」


 先に味方に突撃させ、魔法使いの弱点を探るという作戦だった。


「まぁ、近づかないといけない事には変わりはない」


 ニッケランは小さく頷いた。後ろを振り向き、魔法使いが居た場所を観察する。


「魔法使いの奴、特徴的なマントを羽織っていたよな?」とザザン。

「あぁ、紫色の少し光に反射する高価そうなやつだろ?」


 魔法使いが叫んでいた時の様子を記憶から引っ張り出す。


 派手に装飾された鎧に、帝国の国旗が刻み込まれた紫で光を反射するマント。

 貴族の中でもあそこまで派手な装飾をされた装備を身に着けた者は中々いない。


 貴族階級の刃走りでも、多少の装飾のされた服を身に着けているに留まっていた。


「あそこまで派手となると、もしかすると中将。もっと言えば将軍の可能性もありそうだ」そして「あいつを殺せば少なくとも戦況は圧倒的にこちらに傾くと思うんだ。怖いが…隙を見て奴を殺してしまおう」


 ザザンは目を見開いた。


「すぐ逃げ出すお前からそんな言葉を聞く日が来るとは…」

「うるせっ! ほら、行くぞ!」と彼の肩を叩く。



 ――穴を迂回し、魔法使いが立っていた場所へと近づいていく。


 目的地の方へ目をやると、王国兵も帝国兵も同じところに集まり、乱戦になっている。


 ここで、ニッケランの足取りが止まった。

 ザザンは急に止まったことに驚き、体が遅れて止まっていた。


「なぜ魔法を使わない? 帝国兵はなぜ自ら魔法に巻き込まれに行っている?」


 ニッケランの疑問にザザンも注意深く乱戦を眺め始めた。

 

 妙に心臓の音が脳みそに響いてくる。

 

 走った直後だからか。それともなにかに期待しているのだろうか。


「まだ確証はないが・・・もしかすると魔法は…」とザザン。彼は自信なさげだ。

「魔法の使用にはクールタイムがあると考えて居るんだろ?」


 彼が振り向いたその表情には強い期待のようなものが宿っている。


「どのくらいのクールタイムが必要だと思う?」

 ニッケランは眉を曲げ無精ひげを擦った。

「多分、それは考える必要はないんじゃないか?」


 思いもよらない回答に色々なことを聞きたくなったのだろう。彼の口が開いたり閉じたりしている。


「どうせ俺たちは戦況が大きく動くまでは動けないんだ。そして、戦況が大きく動くとしたらそれは魔法が使われた時だろう?」


 ザザンは不快感を含んだ目をニッケランへ向けた。しかし、何か納得したように自分から口を開いた。


「あの乱戦だ。何人死ぬか分からないぞ?」


 ニッケランは肩を落とした。

 長いこと戦場に身を置いているが、こんな気分になったのは初めてだった。


「俺だって全員救ってやりたいさ。でもな、今までもこの先も屍の上に俺たちの生活が成り立っているのは変わりないだろ? それに、今回の戦は全滅する覚悟で挑んだ戦だ。今更遅いさ。」


 ザザンは大きくため息をつくと、乱戦から目を離した。


「乱戦にいきなり参加するのは得策じゃないだろう? でも、何もしないで立っている訳にもいかないだろうし、外で傍観している敵兵に戦いを挑もうぜ」


 ニッケランは大きく頷き、共に歩を進める。


 ここから先は一つのミスも許されない。周囲で傍観している敵兵の元へ近づいていくほどに、その気持ちが強くなっていく。


 会話は無い。


 きっと彼も話す気分ではないのだろう。分かっていながら味方を犠牲にする決断をしたのだから。


 乱戦の方を度々向いているうちに、敵兵と顔を見合わせる距離に着いた。


(お、こっちに気がついたな)とニッケラン。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

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