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赤き日  作者: 溶接作業
18/30

合流

 急に視界が明るくなり、目を細めた。

 

 目が慣れてくると、すこし歩いたら着くような距離に、落とし穴にしては中途半端に深い穴が開いていた。


「なんだこれは…」


 噴火? 土砂崩れ? それとも魔法か。

 様々な憶測がニッケランの頭の中を飛び交う。


 しかし、穴の向こう側に堂々と立っている騎士により原因は判明した。


「我が名はロ=ヴェルト! 魔操志なり!」


 妙に透き通る声が戦場をこだました。


 様子を窺うように周囲を見渡すと、王国の者たちは困惑したような顔をしている。


 ロ=ヴェルトと名乗った者は不満そうな顔を見せ、もう一度叫び始めた。


「こういえば分かりやすいか? 俺は魔法使いだ!」


 その言葉が聞こえた瞬間、ニッケランは後ろへ駆け出した。


「やばい、距離を取らないとやられる!」


 周囲の兵士たちも同じように動くと思っていた。しかし、実際には違った。


「あいつを討ち取れば名を売れるぞ!」


 遠くの方で王国軍の騎士がそう叫んだ。


 次の瞬間、魔法使いの近くにいる王国軍の兵士たちが一気に突撃し始めた。


(全員やられてしまう!)


 そう思った瞬間、ジョンの言葉を思い出した。


 ジョンは王国のために、王国に住む人間のために戦っているのだ。


 もしかするとあの中にジョンやザザンもあの中に混ざっているかもしれない。


 そのことを思うと、ニッケランはこのまま逃げようとは考えられなかった。


 気が付くと魔法使いの元へ駆け出していた。しかし、突然後ろから、腕を掴まれ、勢いよく地面に倒れてしまった。


(ヤバイ殺される!)


 そう思うと同時に、敵がいるであろう所に剣を勢いよく突き刺す。


 しかし、ニッケランの予想とは逆に異常に固い感触が手に伝わった。


「落ち着けニッケラン」


 逆光と剣を受け止めている盾で姿は良く見えない。しかし、声は聞きなじみのあるものだった。


「ザザン!」

「お前も生き残ってたんだなニッケラン」


 ザザンがそう言ってくると同時に、手を差し伸べてきた。


 その手を掴みニッケランは起き上がる。


「お前もあの中に突撃するのか?」


 ザザンは片方の眉を上げて窺うように聞いてきた。


「お前たちがもし居たらと思うとな?」


 ザザンは微笑み、嬉しそうな顔をした。

 しかし、すぐに表情は元に戻り、力強い眼差しで見てきた。


「その気持ちは嬉しいが、作戦を忘れてもらっては困るな」

「そういえば…そうだったな」


 先に味方に突撃させ、魔法使いの弱点を探るという作戦だった。


「まぁ、近づかないといけない事には変わりはない」


 ニッケランは小さく頷いた。後ろを振り向き、魔法使いが居た場所を観察する。


「魔法使いの奴、特徴的なマントを羽織っていたよな?」


 ザザンが自信なさげに聞いてきた。


「あぁ、紫色の少し光に反射する高価そうなやつだろ?」


 ニッケランは魔法使いが叫んでいた時の様子を記憶から引っ張り出す。


 派手に装飾された鎧に、帝国の国旗が刻み込まれた紫で光を反射するマント。

 貴族の中でもあそこまで派手な装飾をされた装備を身に着けた者は中々いない。


 貴族階級の刃走りでも、多少の装飾のされた服を身に着けているに留まっていた。


「あそこまで派手となると、もしかすると中将。もっと言えば将軍の可能性もありそうだ」


 ニッケランはザザンに意見を伝え、話を続ける。


「あいつを殺せば少なくとも戦況は圧倒的にこちらに傾くと思うんだ。怖いが…隙を見て奴を殺してしまおう」


 その言葉にザザンは目を見開いた。


「すぐ逃げ出すお前からそんな言葉を聞く日が来るとは…」


 むず痒さを感じ、 ザザンの肩を叩いた。


「うるせっ! ほら、行くぞ!」


 その言葉に笑いながらザザンは頷いてくれた。


 ニッケランたちは穴を迂回し、魔法使いがいた場所へと近づいていく。


 目的地の方へ目をやると、王国兵も帝国兵も同じところへ集まり、乱戦になっている。


 ここで、彼らの足取りが止まった。

 ザザンは急に止まったことに驚き、体が遅れて止まっていた。


「なぜ魔法を使わない? 帝国兵はなぜ自ら魔法に巻き込まれに行っている?」


 その言葉を聞きザザンは注意深く観察するように乱戦を眺めている。

 妙に心臓の音が脳みそに響いてくる。

 走った直後だからか。それともなにかに期待しているのだろうか。


「まだ確証はないが・・・もしかすると魔法は…」


 ザザンが思いついたように口ずさんでいる。

 ニッケランはザザンの言いたいことが分かり、代わりにはっきりと答えた。


「魔法の使用にはクールタイムがあると思ってるんだな?」


 ザザンが振り向いた。目には強い期待のようなものが宿っている。


「どのくらいのクールタイムが必要だと思う?」


 聞かれ、無精ひげをさすりながら考え込む。


「多分、それは考える必要はないんじゃないか?」


 思いもよらない回答にザザンは色々なことを聞きたくなったのだろう。口が閉じたり開いたりしている。


「どうせ俺たちは戦況が大きく動くまでは動けないんだ。そして、戦況が大きく動くとしたらそれは魔法が使われた時だろう?」


 ザザンは不快感を含んだ目をニッケランへ向けた。

 しかし、何か納得したように自分から口を開いた。


「あの乱戦だ。何人死ぬか分からないぞ?」


 ニッケランは肩を落とした。

 長いこと戦場に身を置いているが、こんな気分になったのは初めてだった。


「俺だって全員救ってやりたいさ。でもな、今までもこの先も屍の上に俺たちの生活が成り立っているのは変わりないだろ? それに、今回の戦は全滅する覚悟で挑んだ戦だ。今更遅いさ。」


 ザザンはため息をつくと、ゆっくりと乱戦から少し離れた場所へ歩み始めた。


「乱戦にいきなり参加するのは得策じゃないだろう? でも、何もしないで立っている訳にもいかないだろうし、外で傍観している敵兵に戦いを挑もうぜ」


 ニッケランは大きく頷くと、共に歩みを進める。


 ここから先は一つのミスも許されない。周囲で傍観している敵兵の元へ近づいていくほどに、その気持ちが強くなっていく。


 会話は無い。


 きっと彼も話す気分ではないのだろう。分かっていながら味方を犠牲にする決断をしたのだから。


 乱戦の方を度々向いているうちに、敵兵と顔を見合わせる距離に着いた。


 相手もこちらに気が付いたようだ。


ザザンと合流!一人はやっぱり怖いもんね!

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