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赤き日  作者: 溶接作業
13/25

突撃

 程なくして、王国軍と帝国軍が衝突するのが見えた。


「始まったな」


 タワーシールドを構えた敵兵が吹き飛ぶ様子を見て、ジョンが呟いた。

 

 それにニッケランは小さく首を縦に動かす。


 ザザンは難しい顔をして、なにかを考え込んでいるようだ。


 ふとオキタルの安否が気になり、ジョンに尋ねる。


「あいつ、死なねぇかな?」


 オキタルは敵兵が奇襲してくることを警戒し、森の中で身を潜めているのであった。


「まぁ、大丈夫だろ。オキタルは逃げるの上手いからな」


 ニッケランは不安を抱えながらも、始まった以上、気にしないことにした。


「あの帝国の陣形は後方に騎馬兵を回り込ませる陣形か?」


 あまり戦場では見かけたことのない陣形だったのでジョンに質問をした。

 彼は昔覚えたという戦術本の内容をひねり出すように、頬をさすりながら少しの間黙っていた。


「たぶん、そうだろう…」


 彼もあまり見かけたことのない陣形だったので困ったようだ。


 帝国軍が展開している陣形は三日月形で、内側へと誘い込むような形になっている。そして、その外側で騎馬兵が待機している。


 ジョンは続ける。


「多分だが、内側に敵兵を閉じ込める作戦だろう」

「なぜそう思う?」


 ザザンが突然参加してきた。


「王国側が今は数と士気の差で若干おしているだろ? だが、これは一時的なものに過ぎない。」


 ニッケランはその言葉に過去の戦を思い出す。

 序盤は勢いが良かったのに中盤以降は敵と拮抗してしまい、長期戦になった戦は数多く経験してきた。


「つまり長期戦になると?」


 ニッケランの言葉に、ジョンは首を傾げながら熟考し始めた。


 彼が熟考している間にも戦況は進んでいく。

 突然、王国兵士達から歓喜の声らしきものが上がった。


「大物の首でも取ったか?」


 歓声を聞き、ザザンが言う。


 すると、前方の方から騎馬が一機こちらに走ってくるのが見えた。


「敵か⁉」


 周りの兵士が口々に発し、少し混乱が広がる。しかし、距離が縮まると王国の国旗を掲げていることに気が付き、皆は安心したように各々周囲の者と話し始めた。


 騎兵の馬の足音が聞こえ、徐々に鎧のガシャガシャという音が聞こえ始める。


 すると、騎兵が大声で戦況を伝え始めた。


「王国軍将軍ルートファイ様自らが、敵中将ミッドレイを討ち取ったぞぉ!」


 それに兵士たちが歓声を上げた。しかし、それにニッケランは反応を示さなかった。

 いや、示さなかったというより、唖然とし声が出なかった。


 そして、首を抑えながら呟いた。


「ミッドレイがこんな序盤から出陣って…」



 四年前の戦だ。

 ジョンとはぐれ、敵味方が交錯する混沌の中――奴は現れた。


 名はミッドレイ。泥喰の異名を持つ、戦場に棲む老兵。


 ニッケランはそこで奴と相まみえ、半刻にわたり刃を交えた。


 力任せに攻防を崩そうとした一瞬、ミッドレイは隙を見逃さず、首元を突いてきた。


 咄嗟に身をひねって避けたが、刃は皮膚を裂き、命の境界をかすめた。


 その感触が、今も首筋に残っている。




 感傷に浸っているとジョンが聞いてきた。


「ミッドレイってお前の首を吹き飛ばしかけたとかいう?」


 ニッケランは少し眉をひそめた。

 しかし、それを気づいていないのかジョンは続けた。


「泥喰だったか?」

「そうだ」


 それにジョンは何度も頷く。なにか納得がいったようだ。


「やはり長期戦にはならないだろうな。ミッドレイを討ち取ってもさほど効果は無さそうだしな」


 ニッケランはそれを疑問に思い、質問をする。


「それは序盤に猛者を配置しているからか?」


 ジョンは小さく頷いて見せた。


「それは、最悪だな…」

「あぁ…」。


 ジョンとの会話が終わり、戦場の方へ目を向けるといつの間にか、戦況を報告してきた騎士は持ち場へ戻っていったようだ。


「お…?」


 先ほどまで敵の陣形が乱れていたのに、陣形が綺麗に整い、王国軍が挟撃のような追い込まれ方をしている。


 すると外側で待機していた敵の騎馬が動き始めた。


「まずいな」


 ジョンが短く言葉を落とした。


 敵は王国軍の背後に回り込むつもりのようだ。

 軍旗を掲げた騎馬が王国軍の背後へ移動していく。


「来たか…」


 ザザンが緊張した声で呟く。


 すると背後から、太鼓の低い音が空気を震わせた。


 王国軍の軍旗を掲げた騎兵が横を駆け抜けていく。


 太鼓の音は次第に大きく、速くなる。


 騎馬兵たちが前に並び、武器を掲げた。


「王国万歳! 王国軍万歳!」


 叫びとともに、彼らは前線へと突撃する。

 砂煙が舞い、馬の蹄が地を叩く。


「行くぞぉぉ!」


 号令が響き、兵士たちが次々に飛び出す。


 ニッケランたちもそれに続いた。


 足音、金属音、砂の匂い——戦場が迫ってくる。


 ザザンが盾を握り、構える。


「矢だ! 矢が飛んでくるぞ!」


 どこからか叫んだ兵士の声に太陽を見上げた。黒い矢の雨が降ってきている。


 ニッケランは剣を抜き、盾のように構えた。


 矢が落ち始めた場所から兵士の鈍い声が聞こえ始め、鉄と地面に矢が当たる音が近づいてくる。

 武器に衝撃が走り、周囲の兵士が悶えるような声を発し始めた。


 すると、目の前の兵士が肩を射抜かれ、血が飛び散り、倒れ込んだ。


 ニッケランはそれを飛び越え、走る。


 ――その瞬間、肩に何かが叩きつけられた。


 痛みはない。


 ロングソードの陰から出ないように目線だけを動かし、恐る恐る確認する。


 肩に矢が刺さっていた。しかし、鞘を背中に掛けるための革のベルトに刺さり体にまで到達しなかったようだ。


「ニッケラン。運がいいな」


 隣のザザンが話しかけてきた。

 ザザンの盾を見るとかなりの数の矢が突き刺さっている。


「お前もどこにもくらってないみたいだな!」


 お互いに何事もなかったことを確認し、再び前方を見た。


 ジョンの安否が気になるが、横でジョンの息遣いのようなものが聞こえるので生きていると信じ、前方のみに集中する。


 すると、前方で大きく砂ぼこりが舞った。


 先に突撃した騎兵たちが、回り込もうとしていた敵の騎兵とぶつかったらしい。

 進んでいくと、横で味方の騎士が敵の騎士たちを阻み、激闘を繰り広げているのが見えた。


「あれが崩れる前に敵の陣形を崩さなければ」


 周囲の音に負けないよう隣のジョンが大きく声を発した。

 声を聞けて安堵し反応を示そうと思ったが、もはやそんな余裕はなくなっていた。

 

 もうすぐ奮闘している味方の兵士たちと合流する。

 

どんどんと敵は大きくなり、顔が視認できるほどになった。するとニッケランたちの流れに逆らうように流れ込んでくる兵士たちが現れ始めた。

 

 敵だと思ったが、王国の腕章をつけているのが見えた。どうやら、先に戦っていた兵士たちを味方陣地へと撤退させているようだ。


「そろそろ敵とぶつかるぞ!」


 ジョンが言葉を発した。

 それに応じるようにニッケランたちは武器を握りなおすと、無意識のうちに剣を走りやすいように持ち直していたことに気が付いた。


 しかし矢の雨が過ぎ去った後ではどうでもいいことだった。

 すると突然、前方で大きな衝撃音が聞こえ、足が止まった。


「交戦し始めたぞ!」


 少し前方にいる兵士が叫んだ。


 戦闘が始まったことで行進が止まったらしい。


 ニッケランは息を整える。


 いつ敵と戦うことになってもおかしくはない。


 仲間の安否を確認するため左右を確認すると二人とも息を整えているようだ。

 すると、徐々に前へと進み始めた。


「陣形が乱れ始めたな」


 ジョンが荒れ気味の声を発する。


 彼の言った通り、お互いに合わせたように横に並んで戦っていた戦場が乱れ始めたのが見える。


 前線で戦っている帝国軍の体力が底をつき始めたようだ。


「そろそろ乱戦に入るってことだな?」

「ああ。そうだ」


 ザザンの質問にジョンは冷静な雰囲気で応える。


 二人とも息は整ったようだ。


 しかし、ニッケランは不安を覚えていた。


「まだ魔法使いが現れていないぞ…」


 ニッケランは小さく呟いた。


 予想では、帝国軍が劣勢気味になったところに魔法使いが現れ押し返してくると考えていた。


 そうなれば、ニッケランたちは魔法使いの戦い方を高みの見物できると思っていたからだ。


「あぁ、まずい」


 ジョンが目を細め言葉を吐いた。


 途端、一気に前進し始めた。

 帝国軍の陣形が崩れたのだ。


 想定よりも早く崩れた。これは素直に安堵してよいのだろうか。


 兵士の波は帝国軍の腹を食い破るように入り込んでいく。しかし、ニッケランは不安で満ち溢れていた。


 あの精鋭揃いの帝国軍がただの物量に負けるとは思えなかった。

 ラットトラップ。


 父親から教わった言葉が頭をよぎった。都合がよすぎるものは疑わなければならない。

 しかし、流れは収まらない。


 吸い込まれるように、ニッケランたちは帝国軍の腹の中へ進んでいった。


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