婆
ニッケランたちはシュンカリへと向かう。
彼らはジョンが率いる騎馬隊に乗馬させてもらい城近くの森で離脱する予定だ。
「すまないなジョン。馬に二人で乗るなんて窮屈だろ?」
ジョンは馬を操りながら大きな声で言った。
「そんなことは無い。お前たちに歩かせるわけにもいかないしな。城まで歩くとなると体力的にキツイか
らな」
彼に「ありがとう」とニッケランは言うと後ろを振り向く。
オキタル達も同じように馬に乗せてもらっている光景。さらにその奥を見る。
反乱軍の全兵士を連れてくるわけにもいかず、規模は五千人ほど。しかし、同時に連れてくると砂煙が高く舞い上がり、敵に行軍していることがばれてしまうかもしれない。そのため、ジョンは千人ごとに部隊を分け、さらに行軍を開始する時間帯もわけることで敵に見つかるリスクを下げていた。
それでも千人。後ろに続く兵士たちの波を見て、ニッケランは胸を高鳴らせていた。
「なぁジョン。将軍になった気分だな」
すると彼は笑い「あぁ、まったくだ」と言った。
現在はイトク町のさらに奥。名もない平野を移動中だ。
ニッケランは空を見上げる。朝早くの行軍で太陽は顔を覗かせたばかり。平野を駆け巡っている風が肌寒く感じる時間帯だ。
「あの丘が見えるか?」
ジョンの言葉に視点を移す。
目の前に小高い丘が見えた。特段変わった様子もない丘だ。あの丘に何があるというのだろうか。
「あの丘を越えると城が見えるぞ」
「あぁ、そういうね」
彼らは丘をゆっくりと上がってゆく。時間は十分にあるので急ぐ必要はない。
丘を上がりきるとニッケランは感嘆のため息を漏らした。
「美しいな…」
ジョンも小さく「あぁ…」と囁いた。
巨大な壁に囲まれた城。まさに聞いていたシュンカリそのものだ。
しかし、想像していたよりも外見は美しく、王が住んでいてもおかしくない場所のように感じる。
「グルっと森に囲まれているだろ? この森が俺たちの潜伏場所だ」
ジョンの言葉に深く頷く。
丘を下りてすぐの所に森が広がっており、その森を抜ければまたしても平野が続く不思議な土地だ。その不思議さがまた、あの城をより美しいものにしていると思う。
彼らは歩みを進める。森の中は上戸の森と大差はなく、変わった様子も特にない。
「良い場所だな…ってあれは敵か?」
ニッケランの言葉にジョンは皆を制止する。しかし、再び歩みを進めると「あれはうちの斥候だ」と言った。
「ジョンさん。この森に敵はいないようだぜ。人の足跡が一つも見当たらないからな」
彼は斥候に「そうか…引き続き頼む」と言い「もう少し進んだら展開しよう。拠点を設けて潜伏だ」とも。
彼らが進むこと数分。拠点にするのに良さそうな場所が現れた。近くには泉、周囲には木が生い茂ており、隠れるには十分な場所だ。
「俺たちはここでお別れだ」とジョン。
ニッケランらは馬から降りると武器を彼らに託す。彼らが城内になだれ込んだ際に武器を返してもらう予定だ。
「このまま真っすぐ向かえば、城へ続く道が現れる」とヤクトン。
ニッケランはうなずき「行ってくる」と言い歩き始めた。
森を抜け、道をたどる。道中に仲間との会話は無い。無駄話で正体がバレることを避けたいからだ。
とうとう城門にたどり着いた。巨大な門に巨大な壁。とてつもない威圧感を放つそれらの前に二人の兵士が立っている。
「お前たち城内に入りたいのか?」と右側の兵士。
「そうです。私たちは上戸の森近くに住んでいた者でして…」とニッケラン。
兵士たちは彼らをなめるように見る。その視線が不快で仕方がない。
「武器は?」と左の兵士。
ニッケランは丸腰をアピールする為に両手を大きく広げた。
「そんなものございません。持っている物と言えば水筒ぐらいですよ」
すると兵士たちは彼らへ近づく。
「規則で確認せねばならん」
するとニッケランは笑顔で言う。
「どうぞ、どうぞ。どこにも武器などありませんから」
彼の言葉に兵士たちは顔を見合わせ、そして確認を始める。
彼らの足や腰などを触り、武器があるかどうかを確認する。
「どこにも…ないな。よし、お前たち通っていいぞ」
兵士へ全員がお辞儀をする。まるで、反乱軍から逃げてきた善良な村人のように。
「ちょっとまった」
門をくぐろうとしたところで全員が呼び止められる。途端に冷や汗がにじみ出た。
「魔操志様の事は知っているな? 滅多に姿はお見せにならないが…もし町の中に現れたら絶対にひれ伏すんだぞ? 絶対にだ」
兵士の言葉に皆が顔を見合わせ、そしてうなずいた。
彼らは再び進んでゆく。ニッケランは横目に閂が壁に立てかけられているのを見た。
(でかいな…あれは一人では確かに無理だな)
丸太を四角く正解したような大きさ。あれをどうにかしない限り、ジョン達を中へ迎え入れることは叶わないだろう。
次に跳ね橋を渡る。跳ね橋は二本の鎖で支えられており、それが城壁内部へとつながっているようだ。その鎖の先に、巻き上げ機のある部屋がある。
城壁と一体になった門をくぐる。ここには城門のような巨大な門扉は無く、簡素なものが備え付けられている。しかし、問題は次だ。
今は下がっていないが夜になれば下げられる落とし格子。壁と一体になり収まっていた。人力で上げることは不可能な大きさだ。巻き上げ機を使用し上げるほかないだろう。
彼らはそれを確認し終えると壁内へ進む。
門を抜け、太陽が彼らを照らす。
目が慣れ、前を向くと圧巻の景色が広がっていた。
完全に舗装された道に、レンガ造りの家々。まさに、ニッケランが思い描く城そのものだ。
しかし、ニッケランが思い描く城の光景に欠かせないもの。それがこの場所には欠けていた。
「活気がないな…」とザザン。
彼の言う通り、活気の欠けらも感じない場所だ。大勢の人々が歩いているものの、どこか哀愁を漂わ
せ、顔には深い影を落としている。
馬の歩く甲高い音。鎧が発する金属音。人々の足音。環境音ばかりが聞こえ、人の話し声は一切聞こえない。
「とりあえず…寝泊りの出来そうな場所を探すか?」
ミャアドの言葉に全員がうなずいた。
彼らは街並みを見ながら歩く。周囲を歩く人々の顔は陰鬱で美しい街並みが台無しになってしまってい
る。
「お、広場だな…って暗いなぁ…」とエイリ。
広場に出た彼らだが、人々はただ歩いているだけで商店も何も開かれていない。
噴水の周りに設置されたベンチ。それに空を呆然と眺め座っている人々が見えた。
これ以上歩き続けたところで何も見つからないような気がした彼らは、声を掛ける。
「すいません。良いですかね今」とザザン。
空を見上げていた人々の一人。都市に長く住んでいそうな老婆だ。
彼女は空からザザンへ視点を移し、彼らを確認した。
「なんね。旅人さんかね?」
ザザンはうなずき、続ける。
「ええ、そんなところです。ところでどこか止まれる場所は知りませんか? この町に滞在したいと思っ
てまして」
老婆は笑い飛ばすと言った。
「宿? そんなもん全部閉まってるさ」
そんなはずはない。主要都市の宿が全部閉まっているなどありえることではない。そうザザンも思ったのか「ご冗談でしょ?」と言った。
「冗談じゃないさね…そんなに泊まりたい場所が欲しいのかい? ならうちに泊まりさね。私一人の家に
しては大きくて寂しいからね」
この老人を信用していいのかどうか。全員の頭にその疑念が浮かび顔を見合わせる。しかし、宿がない
となれば仕方がない。彼女の言葉に彼らは甘えることにした。
「ご迷惑でなければ是非」とニッケラン。
それを聞いた老婆は立ち上がり「ついてきな」と言った。
彼女を先頭に町を歩いてゆく。皆が不安そうに顔を見合わせついてゆく。あわよくば宿屋を見つけられ
ないかと周囲を見渡すが、宿屋どころか露天商すら見当たらない。もしかすると彼女の言葉は嘘ではない
のかもしれない。
すると一軒の大きな屋敷が現れた。城に勝るとも劣らない貴族の別荘とでもいった外見だ。
「ここさね」
老婆の言葉に皆が顔を見合わせる。途端に不安に押しつぶされたからだ。彼らはこの町でも有数の権力者と鉢合わせしてしまったことに気が付いたのだから。
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