表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子高生流 ただしいゾンビの殺しかた  作者: 原案:首狩りうさぎ 執筆者:六角 橙
正しいゾンビの殺し方
9/18

女子高生は隕壽ぁ繧呈アコ繧√∪縺励◆❶

 眠っても、眠っていなくても、変わらないような時間が過ぎていく。あれから、何度かチャイムが鳴った。その数を数えることさえ怖くて、自宅の布団の中から出ることはできない。楓たち、だとは思う。でも、そうじゃなかったら?

 もし万が一、バケモノたちが触れていたら?


「うぅううっ……」


 自分の想像に吐き気を催し、私は布団の中にもぐりこんだ。数日人が饐えた臭いがする。

 その時だった。


── ぎょぉおおお


 声が、響く。外からだ、そう思って、反射的にカーテンを開ける。道では車が転がり、遠くでは火事、人々の叫び声とバケモノのうめき声。この近さなら、家のすぐそばまで来ているだろう。


「やっぱり、そうなんだ……」


 震えながら、私は窓から離れる。ベッドの上にうずくまり、じっと目を閉じた。どうせ死ぬなら、この家の中で死んでおきたい。せめて、安心できるここで、死んでしまいたかった。

 階下から、足音が聞こえる。

 ああ……もうじき、私は死ねるんだ。


「悠ちゃん!!」


 勢いよく、部屋のドアが開いた。ボロボロの制服姿を隠すように、パーカーを羽織った楓が、私のそばに駆け寄る。片手にはどこかで拾ったらしい、曲がった傘があった。


「か、楓?」


 布団をばっと取り上げられ、私はベッドの上でポカンと彼女の顔を見上げた。


「逃げよう、悠ちゃん! 街から、ここから出よう!!」


 ドアの向こうでは、金属バットを握った留美が、じっとあたりを警戒している。ペットボトルが入っているらしい袋を握るのは、雪ちゃんだ。二人とも、同じように制服がボロボロだ。留美はジーンズのジャケット、雪ちゃんはジャージの上着を羽織っている。

 今日は少なくとも、学校だったはずだ。

 だから……本当なら、そのまま逃げれば、助かったかもしれないのに。


「み、みんな……」


「悠ちゃんが何かに苦しんでいるの、私には分からない。でも! でも、あきらめちゃダメ! 生きなくちゃ、いきてっ……お父さんとお母さんに、会わなくちゃ!」


「楓……どうして、楓だって」


 みんなに家族が居るのに、どうして私を優先したんだろう。

 そう思っていると、楓が泣きそうな顔をして、だけど笑った。


「お母さんたちも、きっと、逃げてるから。生きようとしているから。だから。私も、生きる。でも、悠ちゃんを見捨ててなんて、いけないよ」


「楓……」


「行くぞ、二人とも! そろそろ、玄関のバリケードがやぶれる!」


 油断なく外を見ていた留美の声に、私ははっとして頷いた。急いで、部屋にある運動靴を履いて、コートを羽織った。せめてもの武器として、カッターナイフを2本とりだした。


「いこう! みんな!!」


「うん! 悠ちゃん、こっち!!」


 楓に手を引かれ、雪ちゃんに背を押され、私は走り出す。


「裏口からなら、街の外に出る道に近いよ!」


 そう叫ぶと、留美が頷いた。


「分かった!」


 家の裏口から外に出ると、赤々と空まで立ち上るような火の粉が見えた。どこかが、燃え上がっているんだろう。唇を噛みしめながら、私たちは走った。


「ひぃ!?」


 先頭を走る楓が、悲鳴を上げる。バケモノが、ずるりと、と顔を出した。


「こ、こないでっ!」


 思わず後ずさる楓の横をすり抜けて、留美がその頭へ金属バットを叩きつけた。ぐしゃっ、とバケモノの頭がつぶれるけれど、それでもはいずりながら近寄ってくる。


 頭をつぶしても死なないんだ……!


「立ち止まっちゃダメ! 走ろうっ!」


 留美が懸命に叫ぶ。私も楓も、それではっとなった。立ち止まっていたら、後ろからもバケモノに襲われるかもしれない。逃げ道がなくなるまえに、私たちはどうにか進み続けなくてはならない。

 狭い路地へ、水があふれかえるようにバケモノがなだれ込んでくる。挟み撃ちされたら、死ぬしかない。

 少しでも手薄な前の方へ、何とか走る。でも、途中の横道から、バケモノが突撃してきた。腰に絡みつく腕を、必死に振り払って、カッターナイフでその首筋を切りつける。


「ひぃいいっ!」


 情けない悲鳴を挙げて、でもとにかく、噛まれるのだけは避けなくてはいけない。


「みんなっ、絶対に噛まれちゃダメっ! 同じバケモノになるっ!」


「分かった!」


 留美が前に出て、バットをブンブンと振り回した。


「あぁああぁああっ!」


 でたらめに当たるバットに、バケモノが少しずつ後ずさるけれど、それも少しだけだ。後ろからくるバケモノたちの足は、止まることがない。雪ちゃんの振り回した袋の中身は、水が入っていたみたいで、ぼぐっ、と音を立ててバケモノの足を遅くしている。

 だけど、足りない。


「そうだ、これで!」


 道端にあった工事現場のお知らせの看板を、取り外す。一抱えもあるそれを何とか持ち上げて、


「でぇやっ!!」


 と、投げつけた。

 がしゃぁん、と大きな音を立てたそれが、バケモノにぶつかり地面に落ちる。足を引きずるように歩いてくる彼らは、それに引っかかって躓いた。次々とバケモノ同士が重なり合い、山となっていく。


「っ、今のうちだ!!」


 私が叫ぶと、留美がことさら大きくバットを振った。楓は傘を突き出して、バケモノを遠ざけるように突き刺す。

 そして少しだけ、道が開いた。

 路地を抜けると、広い道に出る。だけどそこも……、事故で横転した車や逃げ惑う人々、それを襲うバケモノの群れで満ちていた。火事が起きて、青空が赤く焼け焦げているかのようだ。

 少しでもバケモノが少ないところを進むために、私たちは歩道からそれた道を行くことに決めた。


「どうしよう……!」


 雪ちゃんが悲鳴のような声をあげて、なんとかよじ登った階段の上で泣きそうになっている。


「行くしかないよ!」


 固いジーンズのジャケットを羽織った留美は、ぎゅっと金属バットを握り締めた。彼女のフルスイングが、バケモノの頭に直撃する。でもそれは、とても力のない一撃で、バケモノは少しふらついた程度だ。


「行くしか、ない!」


 留美はまるで、自分に言い聞かせるように言った。

 楓が落ちていた傘を、見よう見まねで槍のように突き出す。バケモノの心臓にそれが当たって、バケモノは階段から転がり落ちた。人じゃないのに、まるで人そのものの形をしている。だから、心が、どんどん、痛くなる。


「前の方、手薄になってるっ! 急ごうっ!」


 いつの間にか、楓が先に走り、雪ちゃんを真ん中に私と留美が後ろを守るという形になっていた。雪ちゃんは袋を捨てて、途中で拾ったプラスチックの看板を使って、バケモノを押しのける。

 少しずつ、でも確実に、私たちは前へ進んでいた。

 街の出入り口である、山越えの道路へ進んでいる。

 けれど街の中には……あまりにも多くの、バケモノが居た。積み重なる死体、でもそのすべては死んでいるけど、生きている。生きているけど、死んでいる。


「楓ちゃん、危ない!」


 ふいに、雪ちゃんが楓を突き飛ばした。


「雪ちゃん!?」


 何が起きたかと思って振り返ると、雪ちゃんがうずくまっていた。楓も留美も、私も何が起きたか分からないし、何が危なかったか理解できなかった。


「……みんな、行って。私、ここで、足止めするから」


 雪ちゃんの言葉に、私たちは立ち尽くす。


「そんな、なんで!?」


 30体近いバケモノが、ゆっくりとこちらへ向かってくる。足を引きずり、体をきしませ、呻き声をあげている。雪ちゃんはそちらを向くと、手に持つプラスチックの板を、震えながら持ち上げた。


「ごめんね、ごめんね」


 泣きじゃくる彼女は、真っすぐに、バケモノの方を見つめている。

 そして私は、気が付いた。雪ちゃんの、足だ。右のふくらはぎがざっくりと避け……血を、流している。肉の間から、白い骨のようなものも見えた。

 傍らにある横転した車の扉のとがった部分に、真っ赤な血がついていた。


「まさか、あの車のとがったところから楓を庇ったってこと……?」


 雪ちゃんはこちらを、振り返らない。


「いいから、行って!!」


 悲鳴を上げて、彼女が板を振りかぶった。それはバケモノを打つと同時、彼女への注目を集める。ゆっくり、少しずつ、彼女は片足で跳び跳ねるようにバケモノへ近づいた。

 反対に私は、叫んだ。


「雪ちゃんっ!!」


 嫌だ。雪ちゃんも、進めるはずだ。


「悠ッ! 戻っちゃだめだっ!」


 私を怒鳴りつけながら腕を取る留美に、思わずもがく。


「大丈夫、雪ちゃんも進めるっ! 一緒に行けるっ!! だって怪我してるだけじゃないっ!!」


「そうだけどっ、そうじゃないんだっ!」


「一緒にいなきゃっ! ゆきちゃん、ゆきっ!?」


 私の顔の横を、唸りをあげて板が飛んでいった。


「いいからいけよ、いっでよ゛ぉ!!」


 荒々しい声を精一杯に張り上げて、雪ちゃんがこっちを見た。

 泣いていた。


「いいから、いって、おねがい、いきて……!!」


 彼女の首を、バケモノが噛む。彼女の腕を、バケモノが引きちぎる。


「おいしいでしょ……! わたしを、たべて、まんぞくしてよ!!」


 雪ちゃんは自分から、バケモノにしがみついた。彼女の体に、次々とバケモノが群がる。


「行くぞ!!」


 留美の手が、私を力強く引っ張った。つんのめるように、私は前を向いた。雪ちゃんから怒鳴られたこと、バットを投げつけられたこと、そして自分から食べられに行ったこと。

 その全部が、私の頭の中で渦を巻く。


(わたしが、にげていれば、ゆきちゃんも……)


 留美のバットが、出てきたバケモノを殴りつける。私のカッターナイフはどこかへ行ってしまい、今は手に何もなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ