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悪役令嬢の歩き方  作者: 高坂千穂
  1月。
91/161

91、見方を変えれば見えてくるもの

「遠く東方の国の報復か? 昨年の海戦の。グロケット公爵への復讐を、リルルが防いだのか?」

 ティンクはリルルの顔から視線を逸らそうとはしない。

「…どうして、そう思うの?」

「私たち貴族の間で、あの事件は結構大きな出来事だった。自国の利益を優先するか、他国の利益を優先するかとなった時、自国を選ぶのは当たり前だ。グロケット公爵が選んだやり方が正しいと言えるのかどうかは怪しいところだったが、今回、報復という形で結果が返ってきているのなら、遠く東方の国は助けても損をする国という印象に代わる。」

「違うわ、それは本当に違うの。」

 リルルは、そんな当て推量で国と国がいがみ合うのは嫌だな、と思った。

「夢を見て、矢が飛び交うことになると判ったのは本当だけれど、狙われたのはグロケット公爵じゃないわ。犯人もきちんと捕まったし、一応解決もしているもの。噂は悔しいけれど、そんな噂で国が守れるなら、私は平気よ?」

 ティンクの顔色が変わる。リルルは言いすぎた、と口を手で隠した。

「リルル、今、矢が飛び交う、と言ったか? まさか、自分で的になりに行ったのか?」

「大丈夫、当たらなかったもの。的にはなってないわ。」

「それは結果なだけだ、何を考えているんだ、」

 ティンクは怒りを抑えながらリルルを見つめた。無鉄砲すぎる。

「私は王女だもの。民衆を、領民を守る義務があるわ。流れ矢なんかで誰かが傷つくのは嫌だし、新年の祝祭が混乱で終わるのも嫌だったの。」

「リルル…、」

 そんな理由で、王女が的になっていいわけないだろう、とティンクは頭痛がする思いがした。

「グロケット公爵は事情を…、すべてをご存知なのか?」

「ええ、知っているし、そのおつもりもあったみたい。一緒に歌って下さったし、一緒に捕り物に協力もしてくださったわ。」

「何があったんだ? きちんと説明してくれ、リルル、」

「痛いよ、ティンク。手を放してくれたら考えるわ。」

 リルルは自分の手首を握るティンクを見つめた。ゆっくりと手を放したティンクに、リルルは小さな声で、見た夢のこと、何が起こったのか、その後どうなったのかを淡々と伝えた。


 話し終えたリルルを抱きしめて、ティンクは何度もリルルの頭を撫でた。

「無事でよかった、無事でよかった、」と繰り返して、リルルの頬にキスをする。

「ティンク…、」


 リルルはティンクの背中を抱きしめて、この人は私のことを愛してくれているんだ、と実感して、胸がいっぱいになっていた。

 ミーシャがくれない愛情を、この人はいとも容易く私に差し出してくれる。

 お父さまやお母さまがくれるような愛情を、この人は私に対して示してくれる。

 いつもはぶっきらぼうで、酷いことしか言わないのに。この人は私を心配してくれる。

 ティンクはいつもバーカとしか言わないのに…。振り返らない私のことを思ってくれている。


「二度と的になろうだなんてするな、リルル。リルルがいない人生なんて、私は耐えられそうにない、」

「大げさね、ティンクは。そんなんじゃ…、私が中つ国に留学したら、どうするつもりなのよ?」


 しっかりとティンクを抱きしめて、リルルは囁いた。一緒に来てと言えない。ティンクにはティンクの将来がある。私の将来に、ティンクはどこまで付き合ってくれるのだろう。

 いつまで、振り返ればそこにいてくれるのだろう。


「毎日夕方に昼寝して、リルルが会ってくれるのを待つよ。」

「は?」

「あちらとこちらでは時間の流れが違うのだろう? なら、私はリルルの時間の流れに合わせて、リルルが会いに来てくれるのを待とう。」


 ティンクの誕生日に会いに行ったことを覚えていてくれているんだわ、とリルルは思った。ごめん、私、また来年も一緒にいないかもしれないのね。留学すると、会えないんだわ。


「リルルが寂しくないように、いつでも会えるようにして待つよ。それが、リルルに対して私が出来ることだからな、」

「ティンク…、」

 リルルは嬉しくなって目を細めた。ティンクよりも、ずっと私は、酷いね。

「ティンクはいつからそんな優しい人になったの?」

「昔からいつだってリルルの傍にいて、いつもこんなだっただろう?」

「そうだったかしら?」

「リルルが気が付いていなかっただけだろう?」

「そうなのかな?」

 二人は微笑みあって、キスすると、「会いに行く、」と誓い合った。


 ※ ※ ※


 お城に帰ると、サミラとクグロワ、新しく入ったヴェラがリルルを待っていた。サミラとヴェラは昨日も出勤してくれていて、リルルはこの同い年の二人の組み合わせは面白いかもしれないと思って観察していた。

 デキル女サミラと、不思議なヴェラの飄々とした印象は、クグロワが絡むとさらに面白く感じられた。

「リルル様、今週末にグロケット公爵家の皆様が、昼食会にいらっしゃいます。女王陛下とヨハネス殿下、ラウラ様とリルル様、クリストフ様、と、今回はコニール様も同席されます。」

 クグロワに着替えを手伝ってもらいながらリルルはサミラの話を聞いた。ヴェラはリルルの脱いだ制服を片付けてくれている。

「そっか。軍港の件だっけ?」

「ええ、先日軍港建設の件と、8大公爵家の補充はせず7大公爵家とすると公式に発表がありましたから。」

 アーリャが生きていた痕跡はこうやって消されていくのね。リルルは寂しく思えて瞳を伏せた。

「あとは…、大変女王陛下は今回の新年の祝祭の一件を気にされていらっしゃるそうです。非公式とはいえ、お詫びになるのかもしれませんね、」

「お母さまがお詫びになるの?」

 リルルは思わず声が裏返ってしまった。

「はい。巷でリルル様がグロケット領の新年の祝祭を横取りしたといった噂になってしまったことを気にされていらっしゃるそうですよ? 本当のことを公表できないことをお詫びされたいのだとか。」

「まあね。遠く東方の国の事情でごたごたがあったなんて、国際問題になるよね。」

 リルルはお気に入りの生成り色のニットワンピースに着替えて、ソファアに座った。絶妙なタイミングで、ヴェラがお茶を入れてくれる。

「リルル様を狙った弓矢と言われてしまうと、王族と遠く東方の国との対立になりますしね。かといってグロケット公爵家を狙った弓矢となると、昨年の海戦の一件で遠く東方の国が逆恨みしたと言われてしまいますものね。」

 ヴェラはカロヨンよりきりっとした雰囲気で、ヨネアよりも身のこなしが軽やかな印象だった。

「悔しいですね、リルル様の御活躍で誰も傷つかずに済んだのに、公表できないなんて…、」

 クグロワが眉を顰めた。

「私は王族だから民の為に泥を被るのは当たり前のことだもの、仕方ないわ。でも、雨の中を馬を走らせてくれたのに…、ごめんね、サミラ。」

 リルルは確かにあの時、グロケット公爵よりも目立っていた自覚があるので、否定はできないなと思った。何しろ壇上で、民衆を扇動して国歌を歌ったのだから。

「いいえ、私は大丈夫です。お役に立てて光栄です。馬を教えてくれた父に感謝したくらいですから。父は、リルル様の秘密は知りませんが、姉がお城から命を受けて馬を走らせることになった時、喜んでいました。」

「ピフルール公爵様とゼノン様がお揃いで事後にあたられたのでしょう? それ、普通に考えて大ごとですから。リルル様、私、あと一カ月早くお傍にお仕えできていたらと、悔しく思いましたわ。」

 ヴェラは本音なのか、キリキリと歯ぎしりした。あまり貴族令嬢の歯ぎしり、しかも美人の歯ぎしりって見ないわね、とリルルは呆気に取られてしまう。

「噂なんてくだらないことですから、気になさりませんように。賢い方なら、すぐに遠く東方の国とのつながりに気が付かれますから。」

「ちなみに、噂って、誰から聞いたの?」

 リルルはクグロワたちの顔を見た。

「それって、王都の乗馬クラブだったりするの?」

 ティンクはそんな風に言っていたわね、とリルルは思い返していた。

 クグロワとサミラは首を振って、「実はお城で、女官長様から聞いたのです、」と答えた。「こういう噂があると報告があるから、噂からリルル様をお守りするようにとのご配慮がありました。」

 女官長はお城で働くすべての女性を束ねる長官で、女王である母の侍女でもあった。リルルは小さい頃に会った姿を思い出して、最近会ってないけど元気なのかな、とふと思った。

「私は、お城の食堂で聞きました。地方から来たどこかの領の領官たちが噂話をしていて、まるで見世物でも見て帰るかのような物言いで、リルル様を一目見て帰りたいなって言っていました。」

 ヴェラが手を上げて言うと、クグロワとサミラが気色ばんだ。

「どこの領官? いつのこと? 何色の領官服を着ていた?」

「土曜ですかね? リルル様が帰っていらっしゃる日のお昼でした。私は一人でのんびりお昼を頂いておりました。服の色は…、あずき色に茶色の腕章でしたね。少し東部訛りがありました。なので、私、グロケット公爵領に近い領の者だと思いました。」

「早速その者たちを調べて、ヨハネス殿下にお伝えしなくてはいけないわね、」とクグロワが言うと、サミラが「土曜に出勤していた財務官や執務官たちにあたってみます、」と頷いていた。

 まさか土曜に出勤していた者たちの顔と名前を把握しているわけじゃないよね? とリルルは思ったけれど黙っておいた。サミラはあの顔が広いケイティの妹なのだ、何でもありな気がしてきた。


 ※ ※ ※


 グロケット公爵家の馬車が到着されましたと伝達が届いた時、リルルはヴェラとヨネアに髪を結い込んでもらって白い花のコサージュを両耳の下に結わえて貰っている最中だった。リディアがお化粧の仕上げをしてくれていた。今日のリルルはマックスの瞳の色に合わせて若草色の春めいたドレスを着ていて、指にはご褒美でもらったサファイヤの指輪を嵌めていた。

「リルル様、お支度しあがりました。大丈夫です。行ってらっしゃいませ、」と送り出され、リルルは小さく微笑むと、自分の部屋を出て、姉のラウラや弟のクリスの待つ王族の控室へと向かった。

 控室にはすでにラウラとクリスがいて、ラウラは柔らかい菫色のドレス姿で、クリスも正装していた。ラウラの隣には髪を綺麗に整え、正装しているコニールの姿もあった。少しだけラウラより背が高いコニールは、少しだけラウラより優しい目をしている。

「コニール様とお姉さまがお並びになると、とっても素敵ね、」とリルルは目を細めてラウラを見つめた。やっぱり新人数学教師と美人生徒会長の禁断の恋の雰囲気がする。リルルは妄想に胸がときめいた。

「そうでしょう、リルルお姉さま。あの夏の人よりも、ラウラお姉さまにお似合いですよね。」

「クリス、しつこいわよ? あの人はもう新しい方がいらっしゃるでしょ?」

 リルルが口を尖らせると、クリスは笑った。

「ラウラお姉さまに捧げる賛辞の言葉って、難しいのです。リルルお姉さまみたいに単純じゃないから、」

「何よ、クリスったら、」

「まあ、」

 ラウラが楽しそうにくすくすと笑うと、コニールは嬉しそうにラウラの顔を見つめた。愛おしそうな柔らかい表情に、ラウラも照れて頰を染める。

「ラウラ様は本当はそんな風に笑うんですね。私もラウラ様にそんな風に笑っていただけるようになりたいな。」

「コニール様はラウラお姉さまとこの先ずっとお付き合いが続くんですから、焦らなくても楽しめると思いますよ?」

「ま、リルルったら、」

「案外ラウラお姉さまは可愛いんですから、ね、クリス?」

「そうですね、リルルお姉さまよりも、」とクリスが言いかけたところで、ドアが開き、父のヨハネスが母のゾフィーと一緒に部屋に入ってきた。侍従や侍女たちは廊下に控えてくれているので、控室の中は家族とコニールだけになった。

「揃っているようだね、では、広間に行こうか。もう既にあちらのご家族は揃っているようだからね、」

「リルル、今日はあなたの婚約者の家族との大切な昼食会です。もしかすると今日決めてしまうことになるかもしれません。お母さまはそれでも構わないと思っています。いいわね?」

「お母さま、それは困ります。まだ決めてしまう気はありません。それだけはご勘弁ください。」

 母は不機嫌そうにリルルを見つめた。

「グロケット公爵にできる最大のお礼でしょう? では、その代わりを提示しなさい。そうね、あなたの今年の15歳の誕生日は、彼と過ごすこと。それが出来ないなら、一人減らしなさい。」

「減らすのは…、」エリックですよね、と言いかけたリルルを、母はぴしゃりと牽制する。

「もちろん、中つ国のハープシャー公爵家の子息以外の3人からひとりを減らすのです。特別が二人いるのなら、特別以外の者を、」

 ラウラと父と目を合わせて頷いた母の様子から、もうマックスとティンクがリルルの特別なのだとバレているのだとリルルは思った。

 特別じゃないのはミーシャだけだわ、それだけは嫌よ。

「わかりました。誕生日にマックスと過ごします。それでいいですか?」

 ラウラは目を見張り、父も母も満足そうに微笑んだ。

「決まりましたね、リルル。では、広間へ向かいましょう。」

 家族の間だけでの柔らかい母の顔は、廊下に出ると女王の母の顔に切り替わった。

「よいか、リルル。先程のこと、守るように、」

「はい、お母さま、」

 誕生日に一緒に過ごすって、特別って言っているようなものよね、とリルルは今更ながら気が付いた。


 ※ ※ ※


 リルルがおとなしくお行儀よく王女として振る舞い、父も母も普通にリルルの両親として向き合ったグロケット公爵家との昼食会は、無事に終了した。リルルはほっとして、話が盛り上がり王族の私的な応接室に向かった両親とグロケット公爵夫妻とを見送って、マックスとオルスと一緒に客室へと向かった。姉のラウラとコニールはラウラの部屋へ行き、クリスは自分の部屋に戻ったのだった。

 王族の私的な客室にはすでにヴェラやヨネア、リディアが支度を整えて待っていてくれていた。

 オルスは侍女の中にヨネアを見つけて、嬉しそうな顔になった。あれは思い付きの恋話ではなかったのね、とリルルは思った。ヨネアにはそれとなくオルスについて尋ねてみたことがあったけれど、「社交辞令でしょうから、」と笑っていた。

 ソファアにリルルとマックスが並んで座り、向かいにオルスが座った。

「今日はお城には、あまり人がいないのだな?」と出された紅茶を飲みながら、マックスが尋ねた。

「ええ、来週に登用試験が控えているから、元小姓は登城を禁止されているの。」

「試験問題の漏洩を気にしているのか?」

 お城での試験で、まさかそんな姑息なことをする者はいないだろうとは思う。マックスは冗談半分で尋ねてみた。

「あのね、私は以前おばあさまから聞いた話だから、今もそうなのかは知らないのだけどね、」とリルルは戸惑いながらマックスを見つめた。

「試験に落ちる人には、見えちゃうんだって。」

「何を?」

 マックスもオルスも不思議そうな顔をする。だよね~、とリルルは思った。何しろここに住んでいるリルルたちは見たことがない。

「白い狼みたいな犬が歩いているのを、見つけるんですって。」

 それは神獣のことだろうか、とマックスは思った。まさかお城に住んでいるのか?

「私は見たことがないのだけど、昔、試験を受ける予定だった元小姓の学生が、試験近くにお城に働きに来ていて、白い犬みたいなものに追いかけられたって話をしたことがあるみたいなの。試験に落ちた者同士、慰めあっているうちに、そういう話になったのですって。」

 ふと、ヴェラたちと目が合った。やはり聞いたことがあるのだろう。リルルが小さく頷くと、ヴェラもヨネアも小さく頷いた。

「ねえ、ヴェラやヨネアも…、もしかして、そういう話を聞いたこと、あったりするの?」

 リルルの問いかけに、リディアたちはお辞儀をしてから一歩前に出た。マックスもオルスも、黙って頷いてくれたので、「お客さまの許可が下りたから大丈夫、」とリルルは促す。使用人が主人の許可なく話をすることは、貴族社会において当たり前のタブーだった。

「はい、私たち侍女も登用試験を受けに来ますから。試験が近くなると、国の守り神様がお城で働く者を選別されると聞いたことがあります。」

 リディアは微笑みながら答えた。

「私も、先日お城の登用試験を受けに来たのですが、その時も試験の申し込みの書類を出しに来た時も、何も見なかったので、大丈夫だろうと姉や妹に言われました。」

 ヴェラが手をあげてはっきりと言った。小さく頷いて、ヨネアも「私も見たことはありません、」と答えた。

「ありがとう、」とリルルが微笑むと、侍女たちはぺこりとお辞儀して、また自分の持ち場へと戻った。

「そういう言い伝えがあるから、不用意にお城に近付いてはダメなの。お父さまは不正防止の為って公には理由をお話されているから、見える話は知らない者の方が多いわ。だから、今週の土日は元小姓たちはお城に来ないの。他の、小姓を経験したことのない受験者は、もともと来ないでしょう?」

「そうか、小姓たちは土日には通ってこない者が多いんだったな。だから、いつもよりも年齢層が高く感じるのだな、」

 リルルの手を握りながら、マックスは登城してから広間に行くまでに会った従者や執務官たちの顔を思い出していた。

 意識している訳ではないけれど、お城に来るといつも、ミハイルやティンカードがいるのかどうかを確認してしまう癖がついていた。

「あとは、単純に、師範学校や高等学校の入学試験が近いから、登城していないだけなのかもしれないわね、」とリルルは肩を竦めた。来月に試験を控えている学生も多い。ティンクも多分、自分の屋敷で勉強しているのだろうとリルルは思った。

「マックスは大丈夫なの?」

「ああ、期末試験は二月の最終週だ。だが、父の誕生会もあるし、来月は忙しい。」

「私も、行くんだったわよね。グロケット公爵のお誕生会。」

「そうだな、父の為に歌を披露してくれることになったからな、」


 先程の昼食会で、リルルはお詫びとばかりに、グロケット公爵の誕生会で、一人で歌を披露することになってしまった。

 話の流れとしては、世論の流れを汲んで、新年の祝祭でグロケット公爵の顔を潰したリルルが、王都の公爵邸で昼間に行われるグロケット公爵の誕生パーティーに王族として出席して、特別に国歌を歌い、グロケット公爵とリルルが握手して仲直りをするという貴族向けのアピールをするらしかった。


「本当のことが公表できないばかりに、どんどんリルルは深みに嵌っていく気がするな、」とマックスは気の毒そうに笑った。

「仕方ないわ、私はそのためにいる王族だもの。明るい道ばかりを選んで歩くわけにはいかないわ。」

 リルルは小さく微笑んだ。国と国とが戦争となるくらいなら、こんな些細なことくらい大したことはないと自分に言い聞かせた。本音を言えば、もっと他の方法はないのかしらと思えてならなかった。くだらない噂に負けたようで、ちょっぴり悔しい。

「ヴァルターのしくじりはヴァルターに取らせたいな、」

 オルスがぽつりと言った。私怨が入っている、とリルルは思った。

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