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悪役令嬢の歩き方  作者: 高坂千穂
  1月。
85/161

85、傍にいるだけで十分だと思えるもの

 捕らえられた遠く東方の国の将校たちは、実行犯が4人と、逃げ出そうとした者とで合わせて5人いた。

 最初にリルルの指さした方向にいた者を捕まえたのは、お城から来ていたリディアの夫のアンディで、彼が堂々と遠く東方の国の海軍の将校を捕まえたのがきっかけになって、王城の近衛の騎士が出来るならと領官や領の騎士たちも遠慮することなく捕まえられたのだと、事後処理をする公爵とマックスから話を聞いた。いくら罪人でも、異国の軍人を捕らえるには領官たちには思い切りが必要だったのねとリルルは思った。

 祝祭最後の夜の盛大な打ち上げ花火を見ながらの夕食後に呼ばれた執務室で、リルルは、少しだけと、話を聞かせて貰えているのだった。ソファアにマックスと座り、向かいのソファアに座る公爵の話を聞いていた。

「理由は、聞いたのですか?」

「ええ、彼らはこの国の法律で裁きたいところですが、いかんせん、あの国の現役の軍人で、狙ったのが上官に当たるヴァルター第二王子殿下です。今しか聞き出せないでしょう。」

 グロケット公爵は3人しかいない執務室なのに、さらに声が低くなる。

「ヴァルター第二王子殿下はあの国では、女遊びをする者として認識されているそうです。結婚を望んでも、体だけの関係と割り切って何人も愛人を持っていると、彼らは言っていました。いくら愛人を持つことが許されている国でも、ものには限度というものがあります。思うに、やり過ぎた、ということなのでしょう。」


 この国は実質一夫一婦制で、遠く東方の国の王族は一夫多妻制だった。中つ国の国王にも寵妃がいる。リルルは少し考えてみる。一夫多妻制が許されている王族がやりすぎと思われるって、ヴァルターって私が思っている以上に遊んでいる人なのかもしれないわ…。

 ん? 愛人がいないのはペンタトニークのおじさまぐらいじゃないの?

 

「あの方は…、女性に子供が出来て結婚を望んでも、結婚は出来ないと突っぱねて子供も認知することはないそうです。しかも、相手となる女性は、下々の、そういうことを生業とする娼館の女性を対象にするのではなく、貴族の令嬢、しかも上級貴族の娘ばかりだそうです。」

 淡々と語り、グロケット公爵はリルルの顔を見た。

「あの者たちは、自分の姉や妹がそういう扱いをされることが許せなくても、いつかは、と希望を抱きながら見守っていたそうです。ですが、それが今回、リルル様、あなたが現れた。」

 リルルの手をぎゅっと握って、マックスが険しい表情をする。

「遠く東方の国の王子のままなら、ヴァルター第二王子殿下とこの先の縁も期待できたでしょうが、この国の王族の伴侶になってしまうとうかうかと手が出せなくなる。この国の王族は愛人の存在を認めてはいません。子供は認知されることなく父親の顔も知らずに育つと決まったのと同じです。何より遠く東方の国からこの国までは距離がありすぎる。簡単に会えなくなると思うと、仇を討つにはこの機会しかないと思ったそうです。」

「それは…、あの広場であの時でないと、いけなかったのですか?」

 この国に来るまでの航海の最中ではダメだったのだろうか。

「リルル様、あれでも、警備の何もかもが遠く東方の国よりも緩いのだそうですよ。民衆と貴族があんなに近くに接することもないそうです。民衆の混雑のどさくさに紛れて逃げて、犯人はこの国の人間と細工をする予定だったそうです。彼らが手にしていた弓矢は、この国の騎士たちが使うものと似せてあったと聞いております。あの場で、あんな風に盛り上がってしまうとは思っていなかったので予定が狂ったのだと、彼らは言っていました。」

「あれは…、グロケット公爵が民衆をうまく導いてくださったから、出来たことだと思います。日頃からの公爵への民の信頼がなければできないと思います。」

 リルルだけの力ではできないことだったと思えてならない。あれは、あの瞬間であの時だけの奇跡に思えた。

「それは、リルル様でも同じことでしょう。あなたが商人たちにしたことは、この街に住む者なら既に知っていることです。」

 リルルはマックスを見上げた。優しい瞳でリルルを見つめ、マックスは小さく頷いてくれた。

「誰も、怪我がなくてよかったと思います。公爵がご無事で、民も怪我がなく、ヴァルターや、マックスが何もなくてよかったと私は思います。」

「私も、楽しかった。来年からは国歌は領民と歌ってもいいと思いました。」

 ふふっと笑うと目を細めて公爵と微笑みあうと、リルルは「指揮者のようでしたものね、」と頷いた。

「だが、リルル様、何もなかったから良かったものの、私を庇うように前に出られた今回のようなことは、今後お止めいただきたい。私にはマックスがいるが、あなたには代わりがいない。王族が異国の兵士に撃たれたとなると、戦争となる。お判りいただけますかな?」

「…すみませんでした。」


 リルルは自分はあの時、自分に注目を集めるつもりがあったことを思い出した。それってつまり、的になろうとしたってことよね? と今更ながら寒くなる思いがした。四の五の言っても、王女としては向こう見ずな行動なのは否めない。


 王女に苦言を呈するのはいかがなものかと自分でも思いながら、シュンとするリルルに溜め息ひとつついて、公爵は小さく微笑んだ。目の前にいるのは自分を庇って立った勇気のある女性であり、自分と共に賊に立ち向かった度胸のある女の子でもあった。


「遠く東方の、捕らえられた兵士たちは我が領地の牢獄へ閉じ込めてありますが、引き渡すのも時間の問題だろうと思われます。リルル様の当初のご公務よりも早く、殿下は出国されることになるかもしれません。」

「それは、仕方のないことだと思います。こちらも、引き留め難い状況ですもの。」

「名のある家の令嬢として育った自分の姉や妹が弄ばれたとしたら私とておかしくなっただろうと同情はするが、異国の地で異国の兵士の武器を真似て自分の罪を異国の誰かに押し付けて罰を逃れようとする根性は、とても許せるものではない。ましてや、我が国の王族に弓矢を向けたのだから。」

 グロケット公爵は憮然とした表情で言った。

「あの場で、ヴァルター殿下が手討ちになさらなかっただけでも、こうやって我々が行動の理由を知れただけでも、彼らにとっては僥倖だったと割り切っていくしかないでしょうな。王配殿にはもう早馬を飛ばして知らせてありますからな。あとは、王城からの伝令待ちとなります。」


 何も起こらなかったのに、後始末が待っているのね、とリルルは思い唇を噛んだ。

 何もなかったことにはできないのが、世の中の理なのだろうと思う。


「リルル様、よろしいかな?」

 悩ましい顔つきで黙ってしまったリルルの顔をじっくり見つめて、公爵は静かに切り出した。

「ええ、何でしょうか。」

「今、王城には、もしかして時見の巫女様がいらっしゃるのではないのですか?」

 リルルは言葉を失って、グロケット公爵の瞳を見つめた。

「私の取り越し苦労なら良いのだが、今回の王城からの伝令といい、前回の出港停止命令といい…、何か未来を知る者の予言を叶えまいと王配殿が動いておられるように感じてならないのです。」

 じっとリルルを見つめるグロケット公爵に、リルルは何も言えずにただ見つめ返していた。

「リルル殿が異国を公務で旅行されていた時期も、なにかしらと王配殿は不可思議な伝令を飛ばしておられた。それを思うと、リルル殿ではないような気がするが…、」

 公爵は首を傾げ、試すようにリルルに問いかける。

「父上、お戯れはおよしになってください。リルル様は王族です。我々の知らないことをご存知なだけなのかもしれません。ただ、知っていても、我々には教えられないだけのことやもしれませんが。」

 意味ありげなマックスの顔を見て、しばらく考え込んだ後グロケット公爵は目を細め、「お前はそれでよいのだな?」と尋ねた。

「ええ、私はリルルのことを愛していますから。どんな者であろうとこの手を放す気はありません。」

 リルルはマックスを見上げた。嬉しくて涙が零れそうになる。どうしてそこまで言ってくれるのかと思うと、マックスがリルルを思ってくれる気持ちが本物だからだろうと気付く。

「そうか、お前まで婚約を解消すると言い出すのかと、私は気が気ではないね。その手を放してはいけない、マクシミリアン。」

「お前まで…?」

「ああ、オルスは婚約を解消すると言っている。今はリチェット伯爵家も混乱しているだろうから、日を改めてのことになるだろうが…、」

「何かあったのですか?」

 リルルは絶対にヴァルター絡みだわ、とこっそり思う。

 公爵はマックスに忌々しそうに、「ああ、セシリカ嬢が、男性の部屋に忍んで行ったのだ。夜着で、な、」と言った。

「リルル様とお前の関係は、婚約者だから許されるものだが、何もない清い関係だとも知っている。セシリカ嬢はオルスの婚約者だというのに…、実は今回が初めてのことではないようだ。」

「え?」

 思わず聞き返し、リルルは瞬きをして公爵を見つめた。たったひとつしか変わらない年齢で、そういう人生を選んでしまった貴族の令嬢がいるのねとびっくりもする。

「オルス以外の男性と関係を持っている。判っているだけで複数人、そういう関係の者がいるようで、どれも伯爵家に縁のある者なようだ。あの娘にはまだ子供がいないだけましだが…、婿養子にやるには相手が悪すぎる。」

 ヴァルターの話をしていたばかりなので、生々しく思えてくる。

「伯爵はなんと?」

 公爵は途方に暮れたように微笑んだ。

「奥方はとうに把握済みだったようだ。『婿は婿です。遠く東方の国の王子を愛人にもてるのなら、大したことないじゃないの、』と言ったのだとか。あの王子には、恨みを買ったり憧れを持ったりと、周りの者はいろんな感情を抱くようですな。」

「そうですか…、」

「まあ、オルスはいざとなれば財務官として王城で働けばいいと私は思う。その方が、お前の助けになってくれる存在になる。」

 公爵はマクシミリアンを見て、にやりと笑った。リルルにも微笑みかける。

「リルル様の侍女や侍女の妹や、カーチェの会の者は、まだ、婚約者のいない者もおりますかな、リルル様、」


 世間での王女リルルの評判は、『沢山婚約者をお持ちで、いいものばかりを見ていいものばかりを食べているわがままなお姫様』だった。自分の息子のマクシミリアンが縁を持ったことがきっかけで、実際どういう人物なのかを公爵は知る機会が出来た。

 実際13人という婚約者を持ち、そのうちで8人は解消して1人は亡くしてしまっているとはいえ、過去に婚約者だった者はそれなりに評価の高い若者たちだった。同じ8大公爵家のティリニー公爵の息子のアレフレッドは、文武両道で性格の落ち着いた若者だと公爵自身も高く評価していた。

 従えている侍女たちはいずれも美人揃いで教養も品もあり、誰も王女の傍を離れたがらないと聞いていた。カーチェの会の者の親たちは揃って事業を拡大し成功させ、社交界での注目を浴び発言権も増していておいそれと無視できない勢力になりつつあり、会を通じて王政を盛り立てていた。

 所有するアレナージュ領では高級品であるトリュフが収穫でき、小さな領地な割に収益を驚くほどの勢いであげている領地だった。

 お忍び歩きがきっかけでグロケット領の産業も盛り上がっていた。領内の食文化が注目され観光客が増え、経済が回っている。海戦で滞りかけていた景気が、ぐんぐんと上昇していた。

 王女はそういった『いい者たち』を見て育っていると思えた。『いい物ばかりを食べている』という比喩も、正確だと思う。

 公爵は王女本人が婚約者を決められなくても、侍女や近しいものからグロケット領へ取り込んでいこうと考えていた。


「ええ。確かに…、」

「そういった御縁も、王城で働けばいくらだってあるだろう? マクシミリアン。」

 変な雲行きになって来たわね、とリルルは思った。隣で自分の手を握るマックスを見上げると、目が合うと優しく微笑んでくれた。

「今日はゆっくりとお休みいただきたい。リルル様。」

 公爵は立ち上がると、リルルの手を包み込むように両手で握手した。リルルも立ち上がり、微笑んで、「教えてくださってありがとうございます、」と握り返した。

「今夜、ヴァルター殿に今日の出来事を報告する。私たちはお引き留めはするが、もしかすると、船へと帰られるかもしれません。明日、王城から刑務官と外交官が来る予定になっています。そこで、拘束した兵士を引き渡すことにはなっているのだが…。」

 公爵は気まずそうに視線を逸らした後、リルルとマックスに念を押すように言った。

「今晩は、リルル様の部屋には誰も訪れることはないだろうと私は思うが…。添い寝でもいい、用心の為にマクシミリアンは警護に向かうように。」

 公爵は意味ありげにマックスを見た。ヴァルターが何を考えているのか判らない今、王女であるリルルをひとりにはさせられない。やけを起こして既成事実を作られては困る。

「マックスは、私の隣で眠れるのかしら。マックスの方こそ、ゆっくりとした休養が必要なのでは?」

「不安で眠れないよりは、傍で眠る方がいい。リルル、明日には港は朝市が始まる。新春の初売りが始まるんだ。可能なら、一緒に行こう。」

「そうね、そういうのも楽しみね。」

 気にしていない様子のリルルに、公爵は安心する。勘付いて怯えられては過剰な反応になるだろう。

「明日は私たちの祖先の墓所へ花を手向けに参ります。リルル様も同行されると聞いておりますが?」

「ええ、せっかくだからご挨拶していくわ、」

 リルルが微笑むと、公爵はマックスと顔を見合わせて、婚約者が先祖に挨拶する意味をわかっていて言っているのだろうかと思い、それでも婚約者をマックスに絞らない不思議に首を傾げた。


 ※ ※ ※


 ナイトウェア姿のリルルが自分の客室でケイティやリディア、ヨネアやクグロワとのんびりとお茶をしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 どうぞと声をかけると、ヴァルターが入ってきた。

「リルル、」というヴァルターの声に、リルルたちには緊張が走った。一緒に夜眠る約束は昨日限りのはずだった。

「なあに? 」

「少し話があってきた。」

「お茶しているところなの、一緒にいかが?」

 澄まし顔を作って歓迎すると、ヴァルターはリルルの前のソファアに足を組んで座り、「そうだな、頂こうか、」と微笑んだ。まだ着替えていないのか、昼間あったときのまま、ヴァルターは正装していた。心なしか疲れが顔に浮かんでいる。

「王都から持ち込んだお菓子があるの。リディア、ご用意を。」

 リディアがヴァルターの前にチョコレートと紅茶を用意すると、ヴァルターはポイっとチョコレートを口に放り込んだ。

「ああ、リルル、君はもう眠るのだね。私も一緒に眠りたいくらいだ。」

「何もしないなら、ね?」

「何かをさせてほしいが、君は誰ともそういうことをしないのだろう? なら、一緒に寝るだけでも他の者よりは上だと割り切ることにしよう。」

 リルルはヴァルターの顔を見ながら、この人は懲りないのね、と思った。

「落ち着いて自分だけのベッドで眠った方がいいと思うわ、ヴァルター。あなた、忙しいのでしょう?」

「それもそうだな、」と小さく笑って、ヴァルターはリルルを見つめた。

「明日のことだが、私は軍人としての仕事があって、一緒に過ごせない。もしかすると、帰国する事態になるだろう。」

「どうしてなのか、聞いてもいい?」

「ああ、王都から来る者たちと面会することになった。時間はそれ次第だが、国に帰らないといけない。」

 それ以上を告げずにヴァルターは微笑んだ。ふうん、と思いながらリルルはヴァルターを見つめた。

 ヴァルターは犯人が誰なのかを聞いたのだわ。王都から来る法務官と外交官との引き渡し交渉がうまく進まないと、自国で裁判を起こすこともできないのだろう。

 紅茶を口に含むと乾いた口を潤し、ヴァルターは瞳を伏せた。

「リルルには話していなかったが、私には子供が私が知っているだけで二人いる。他にもいるかもしれないな。まあ、聞いただけのことだ。実際に存在しているのかどうかは知らない。会ったこともないし、この先も会うつもりもないが。」

 あの将校たちの誰かの甥っ子か姪っ子なのだろうなとリルルは思った。ヴァルターの周りには女の人がいっぱいいるんだわと思うと、ヴァルターと婚約をしないでよかったとほっとする。

「私の子供を勝手に望んで勝手に産んだ女の身勝手な子供だ、と言ってしまうことはできるが、近親者に犯罪者が出てしまっては、そういう子供の先のことを、将来を考えてやらなくてはいけないだろう。」

 あら、ヴァルターって優しいのね、とリルルは思った。

「私は、リルルが欲しい気持ちには変わりはないが、このようなことが繰り返さないように考えていかないといけない。」

 繰り返す? 襲撃を? 報復を?

「何をするの?」

「…子供を殺すようなことだけはしない、とでも言っておこうか。」

 リルルの、カップを持つ手が震えた。目の前のヴァルターは何か良くないことをしようとしていると感じた。止めさせないと。良い方向へと、目を向けさせたい。

「ヴァルターは、何を目標に生きるの?」

 カップを置くと、リルルは背筋を伸ばして座りなおし、膝の上で手を重ねた。

「目標?」

「お父さまが言っていたわ。未来に、将来に希望を持つことで、生きていく理由が出来るって。少しずつでも目標を持って長生きしてほしいと願っているって。あなたは今、未来を見失っているのではないの?」

「リルル、」

「子供は、あなたの子供は、あなたの背中を追いかけて生きていくのよ? 光の中を進むのか、闇の中を進むのかは、あなた次第だと私は思うわ。」

 じっとリルルを見つめて、ヴァルターは「君をあの時選んでおけばよかったな、」と笑った。

 かける言葉を見つけられないリルルは、黙って視線を逸らした。

「あの時、歩む道が分かれてしまったのだろうな。」

 本当にそうなのだろうか。

「残念だ、リルル。あの時、君を選んでいれば、私は…、」


 それでもヴァルターは、女遊びと言われるような派手な女性関係を持っていただろうなとリルルは思った。

 どんな選択をしたって、人間の本質は変わらないだろう。同じような道を選んでしまいそうな気がする。


「私が選ばなかったかもよ?」

「年が離れすぎているからか?」

「かもね? ラウラお姉さまはああ見えて、顔ではなくて心で選ぶ人だと判ったわ。」

「だろうな。コニール殿は大層ありふれた印象だった。違いがあるとすれば中身か?」

 馬鹿にしたようにヴァルターは言う。

「私には昔から優しいわ。特別扱いはしないの。」

「君は、特別が普通で、普通が特別だから、だろう?」

 リルルは言っている意味が判らなくてキョトンとした。

「帰国する前にまた来るよ、リルル。最後の夜くらいは二人で過ごしたかったが、そうもいかないようだな。」

「マックスは婚約者だけど、あなたは違う。きっと、当たり前なのよ?」

 リルルが笑って手を振ると、ヴァルターはリルルの頬にキスをして、部屋を出て行った。

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