↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の歩き方  作者: 高坂千穂
  12月
79/161

79、準備はしておくもの

 海鮮やに行くまでの道を人混みをかき分けるように進むリルルは、海鮮やが近くなるとさらに人が増えたように感じた。

「ねえ、もしかして、海鮮やまで行けないんじゃないかな?」

 リルルはマックスにぴったりと寄り添うように腕に手を絡めて歩いた。ぶつかる人混みが、少しだけ怖かった。

「リルル、とにかく前へ歩こう。引き返せないなら進むしかない、」

 マックスは少し大きな声で言うと、その後は無言で歩き始めた。リルルは人に溺れるみたいねと思いながらマックスに従った。

 海鮮やの前まで来ると、店の中に飛び込んだ。店の中は空いていて、やっと人混みから離れられたと思った。

「マックス、」と見上げると、マックスは憮然とした表情で店の外を見ていた。リルルを見て、頭に乗せたベレー帽を直してくれ、「怪我はないか?」と尋ねてくれた。

「ええ、大丈夫、マックスは?」

「私も無事だ、」

「護衛の者たちは?」

 マックスの前に歩いていた二人はいた。

「もうじき来る、」

 はぐれちゃったんだわ、とリルルは思った。少し遅れて後ろの護衛の者たちがやってくると、リルルたちに気が付いたのか、店の奥から海鮮やの若い者たちが出てきた。

「若様、リルル様、」

「すごい人だな、毎年こんなだったか?」

 マックスの声に、若い衆は、困ったような照れ笑いを浮かべて話し出した。

「海鮮団子やチーズボールで街を盛り上げているので、食べ歩きをするそっち目当ての観光客と、来年の新年の祝祭に若様とリルル様が揃ってお出ましになると公爵様のお話がありましたので、お二人の姿を拝見しようといろんな領地からやって来た観光客とが、押し寄せているんです。」

「どこのホテルも予約がいっぱいで、雑魚寝でもいいからと民宿にも人が押し寄せているんですよ。」

「今、女将さんを呼んできますね。おやっさんと一緒に店頭で海鮮団子を売ってるんです。女将さん、お二人がお見えになるのをそれはもう楽しみに働いているんです、」

 リルルは苦笑して、マックスを見上げた。

「ねえ、宣伝するようなことなの?」

「リルルはグロケット領では有名人だからな。」

 港町の海鮮団子やチーズボールのことやコーヒーのことは、街の商人なら誰もが王女リルルに関係しているのだと知っていると、マックスは領官たちから聞いていた。同じことを、もちろん公爵夫妻も知っている。

「リルルが着ていたあの赤い異国のドレス姿も、知ってる者は知っているのだ。」

「珍しいからかな?」


 首を傾げたリルルに、海鮮やの若い者たちは、美しいからです! と心の中で突っ込みを入れた。

 女将を始め海鮮やの従業員たちは、リルルとマックスの並んだ美しい姿を家族に話していた。その話を家族の者たちが知り合いに話したおかげで、第二王女殿下がグロケット公爵家の若様と朝市にお出ましになると噂も広がっていた。王族が食べたという噂は領民の好奇心を刺激して海鮮団子の売れ行きに拍車をかけたのだと、回り回って戻ってきた噂を聞いて従業員たちは思っていた。


「若様、リルル様…!」

 店の表の方から、女将と主人が大慌てで店の中に入ってきた。店内に僅かにいた観光客が外へ出され、店の開き戸を閉めて看板を出している。

 み、店じまい? リルルは首を傾げた。

「来ていただけるとは、ありがとうございます、」と深々とお辞儀して、女将は自然にリルルの手を両手で握り、何度も頭を下げた。

「コーヒーの試飲会に、港町の商人も、このグロケット領の商人も…、私たちみんなで行かせてもらいました。貴族様のお飲みになるようなものを、私たちにも扱わせていただけるなんて…、リルル様のお声がかりだと伺っております。」

「チーズボールも持ち込ませていただけて、グロケット領内の他の地域の商人たちに宣伝も出来ました。コーヒーは、苦くて、でも、旨かったです。」

 女将と主人がリルルとマックスを前に泣き出さんばかりに挨拶をしてくれ、海鮮やの従業員たちがリルルたちの周りにどんどん集まってきていた。

「そろそろ、リルルと海鮮団子を食べたいのだが、今日は無理そうか?」

 空腹のマックスが尋ねると女将は顔をぱあっと輝かせて、「ぜひとも、こちらへ」と、リルルとマックスと護衛の騎士たちを店の奥の従業員たちの休憩スペースへと案内してくれた。

 暖かい部屋にリルルがするりとコートを脱ぐと、女将が恭しく受け取って丁寧にハンガーにかけてくれた。

 紫色のニットのロングワンピースを着たリルルは、艶めかしく美しかった。コートを若い従業員に手渡したマックスが見とれていると、リルルは「なあに?」と尋ねた。「なんでもない、」と答えたマックスに、リルルは変なの、と思ったけれど黙っておいた。見つめ合う二人に、周りの者たちは胸をときめかせた。本物のお姫様と王子様だ。まるで絵物語のように美しい…!

「店が繁盛してありがたいことですが、リルル様たちには落ち着いてお召し上がりいただけないだろうと主人と話しまして、思い切って改装したのです。従業員用の食堂ですが何時お越しいただいても大丈夫なように、今朝も早くから総出で磨きました。」

 そんなに気を使わなくていいのに~、とリルルはマックスと顔を合わせて苦笑いをした。従業員食堂のいくつか並んだうちの真ん中のテーブルの席に座るように勧められて、リルルとマックスは並んで座った。見回せば確かに改築したのか、壁の木材も床のタイルも新品なのか新しい。

「女将さん、私、マックスと買い食いをして食べ歩きをする新婚さんごっこをしているだけだから、気を使わなくていいのよ?」

「リルル様と若様がお越しになるだけで、街が潤います。これくらいなんてことはないのです。海鮮団子も、チーズボールも、すぐにお持ちしますから、おかけになってお待ちください。」

 女将が手を打つと、従業員たちが厨房や店内のあちこちから、食べ物を手に現れた。

「こちらが海鮮団子と、あとは、私たちの店で売っている、自慢の海産物です。どうかお召し上がりください。」

 並べられていくお皿を前に、リルルはマックスに尋ねた。

「ねえ、マックス。お礼は何をしたらいいんだろう。」

「美味しいと感謝すればいいのではないか?」

「そうです、若様の仰る通りです。リルル様、お召し上がりください。」

「女将さんありがとう、いただくわ。」

 微笑んだリルルの美しい顔を見て、海鮮やの女将たちは照れて俯いた。


 この方はご自分が何をなさったのか判っていらっしゃらないのだろうな、と女将は思う。領主の持つ商会から平民の自分たちがすんなりとコーヒー豆を買えるようにしてもらえたなんて、いまだかつてありえないことなのだとは気が付いておられないだろう。

 貴重な食材は貴族だけで消費して、貴族相手の商売をする裕福な商人からぼったくられてわずかな量を高額で掴まされるのが普通だった流れが、いきなり、庶民でも少し背伸びすれば買えるような金額で良質なものを手に入れられる仕組みにしてしまわれたのだから、感謝以外の何をこの方に差しあげればいいのかわからない。こうやって話をさせていただけるだけでも恐れ多いことなのに!


「リルル、私がいるから安心して好きなだけ食べればいいからな、」

 マックスがにっこりとリルルに微笑みかけた。

 リルルが嬉しそうに食べ、その隣でマックスが見事な食べっぷりで腹を満たす光景に、護衛の騎士たちにも海鮮団子を振舞いながら、海鮮やの者たちは感激で胸をいっぱいにしながら見つめていた。

 裏口から、聞きつけた港町の商人たちが、自分の店の商品を持って海鮮やの従業員食堂に集まってきていた。誰かが持ち込んだコーヒーが香る。

「あら、コーヒーもあるのね。」

「ええ、リルル様に飲んでいただこうと、ご用意しました。」

「確か、以前、粉糖掛けのチーズボールを作ってくださった方よね?」

 たまたま覚えていたリルルは、店主に話しかけた。丸いふっくらした顔の店主は、嬉しそうに照れて、頭にかぶっていた白い帽子を手に取ってくしゃくしゃに丸めながらお辞儀した。

「はい。コーヒーにあうと公爵様が仰って下さったのが嬉しくて、コーヒーもさっそく店で扱わせていただいているのです。」

「焙煎のみのものと、粉砕済みのものとが同じ値段で内容量を変えて販売されています。近い将来私たちの港町の商店街で共同のミルミキサーも買いたいと話をしているんですよ? この街には異国の商人も来ますからね。」

 女将は既に流通経路を確保済みな様子で胸を張った。

「へえ…。まだまだ値段は高いでしょうに、嬉しいな。私、コーヒーには砂糖とミルクが欲しいわ。また機会があったら、コーヒー寒も作ってほしいな。」

 聞き慣れない言葉に座が静まる。

「リルル、思い付きを話すと皆がびっくりするだろう、」マックスが戸惑う商人たちの気持ちを代弁するように言った。

「リルル様。コーヒー寒ですか?」

 海鮮やというくらいだし、ゼラチンより寒天でしょ、とリルルは思った。

「えっと、天草って海藻を乾燥させて粉末にしたものを、コーヒーに混ぜて冷やすと、コーヒー寒が出来るの。生クリームを乗っけて食べるときっと美味しいわよ?」

「コーヒーかん…、てんぐさ…、」商人たちはリルルの言葉をお告げのように、譫言のように繰り返している。

「女将、天草は扱っているか?」と喫茶店の店主が尋ねると、女将は頷いた。

「ああ、夏にところてんってやつを皇国で食べるから、輸入はしているけど、あれはそういう使い方をするのかい?」

「女将の海鮮やは感心するよ、何でもあるのだな。リルル、何か思いついたことを言ってみろ、女将なら何でも叶えてくれるぞ。」

 マックスが呆れたようにけしかける。若様に褒めて貰えたと、女将は感激で目に涙を潤ませていた。

「コーヒー寒が出来るなら、コーヒー飴も作ってほしいな。ちょっと甘めに作って、眠気覚ましにお仕事中でも食べれるような感じで。」

「仕事中に食べれる飴ですか! 夜勤の者たちが喜びそうですね、」と、海鮮団子を食べていた騎士の一人が、思わず口を挟んだ。

「あの、リルル様。コーヒーってもしかして、眠気覚ましに飲むものなんですか?」

 おずおずと手をあげて、海鮮やの従業員の丸顔の女性がリルルに尋ねた。リルルに言われて即興でチーズボールを作って以来、彼女の海鮮やでの扱いは『リルル様の弟子』だった。

「ええ、眠れなくなるから夜はコーヒーを飲まない方がいいって、私は教えてもらったわ?」

 海鮮やの従業員たちは「朝からコーヒーだな…」、「今度から朝食にはコーヒーだ…」とざわついた。仕入れで早起きする生活も、冬の時期はきつくて眠くて辛い。

「リルル様はほんと、よくご存じなのですね、」

 女将が感心したように呟くと、マックスが「リルルは公務で外国へ行くことが多いからな。ここへ初めて来た時は、遠く東方の国まで公務へ出かけていた、」と代わりに答えてくれた。

「お姫様を迎えに来た商船団の船が入港していた時ですね。本当にリルル様をお迎えに来ていたのですね。」

「ああ、あれはペンタト(マティ)ニークの国(・パレータ)の船だったな。」

 半年も経っていないんだわ。リルルは女将の顔を見つめた。この人たちは私を受け入れてくれる。リルルも好感を持って接していた。

「ええ。そういえば、女将さん、今日、遠く東方の国の船が入港するのでしょう?」

「そのようですね。朝から港が騒がしいです。」

 整備の領官が口煩く歩き回っているとは言い難いなと、庶民たちはこっそり思う。

「それまでには戻らないといけないな、」

 マックスの言葉に頷いて、リルルはさっそく入れて貰った砂糖とミルクたっぷりのコーヒーをちょっぴり飲んだ。甘くて苦くて、気分が高揚する。

「美味しいわ。マックス、飲んでみる?」

「ああ、いいのか?」

 リルルからカップを受け取ると、マックスは「甘いな、」と言いながら飲み干してしまった。


 リルルとマックスが見つめ合って「コーヒーに合うね。美味しいね、」と言ってチーズボールを食べている様子を、女将たちや従業員、街の店主たちは幸せな気持ちで眺めていた。

 手の届かないと思っていた王女様と公爵家の若様が、目の前で自分たちの作ったものを食べて美味しいと言ってくれるなんて、なんて幸せなんだろう。


 リルルは自分たちを囲む大人たちの隙間を縫って、子供たちが入ってきていることに気が付いた。

「あら、その袋、」

 女の子が持っていたのは、コーヒー豆の袋だった。店の名前なのか、隅には『バーバティカ』とハンコが押してある。他にもコーヒー豆の袋を手に持っている子がいた。どの子も、絵の部分が残るように折りたたんで持っている。そんなにコーヒーは流通してるのね、とリルルは嬉しく思った。

「ほら、お前たち。リルル様の前で黙ってないで、ご挨拶なさい、」と丸いふっくら顔の店主が言うと、子供たちはにっこり笑って、「リルル様、いらっしゃいませ」とお辞儀した。人懐っこい笑顔に、さすが商店街の子たちだわ、とリルルは感心する。

「これ、美味しいのよ? みんなも貰って?」

 リルルが目の前に広がるさまざまなチーズボールの世界を手で紹介すると、子供たちは振り返りそれぞれに自分の親の顔をちらりと見て、親が頷いたのを確認してから、照れくさそうに手を伸ばした。思い思いにいろんな味のチーズボールを口に運んでいる。

「その袋、どうしたの?」

 もぐもぐと食べる子供たちを見渡してから、リルルは『バーバティカ』の袋を持っている子に尋ねた。

「お父さんに貰ったの。とってもかわいいから、捨てるの、嫌だったの。」

 丸いふっくら顔の店主を振り返って見上げ照れ臭そうに女の子が言うと、他の子たちも、「珍しいし、いい香りがするんだ」と言って微笑んだ。

 可愛いんだ。嬉しいな。リルルは自分の描いた絵を気に入ってくれる人がいて嬉しいなと思った。

 マックスはいくつかめの海鮮団子を口に放り込む。

「それは、リルルが描いたのだ。その絵の権利を私の父に譲った交換条件が、この街でのコーヒーの試飲会だ。」

 女将は目を見開いて、リルルを見つめた。街の店主たちも驚愕していた。

「絵を…、この鹿の絵を、リルル様がお描きになったのですか。」

「私たちの為の試飲会と権利を交換…? そんな…!」


 あまりのことに、誰もが言葉を失った。

 王族が絵を描いて、報酬を自分ではなくて街に還元して下さるなんて…!

 どう考えたってコーヒーの試飲会なんかよりも価値のある絵だろうに。平民の私たちの為に、惜しげもなく譲ってくださるなんて…!

 ものを知らない平民を騙して搾取する貴族が多い中、私達に黙って、恩をきせるでもなく私達に利益を与えてくださるようお取り計らいいただけるなんて話は、今まで聞いたことがなかった。


「この鹿の絵、リルル様が描いたの?」

 目をキラキラ輝かせて、女の子が大事そうに袋を胸に抱きしめ、リルルを見上げた。

「ええ、南部の自治州の人たちの大切な、神話に出てくる鹿なんですって。コーヒー豆は自治州の人達にとって大切なものだから。」

 このコーヒー次第で、自治州で暮らす者たちの自立した生活が開けてくるはずだった。先ずは食料の供給が行われていた。生活が整えば、教育も潤うだろう。

 リルルは女の子を見つめた。この子が得るような喜びが、自治州の子供たちにも得ることができるようになるといいな。

「コーヒー豆の木がきっかけに、この国がひとつになればいいなあって、私は思うわ。」

 リルルが微笑むと、子供たちは絵を広げてまじまじと見つめた。

 捨ててしまうようなコーヒー豆袋の絵を、大人たちが大事にしているリルル様がお描きになったんだと思うと、ただの絵がとても大切なものに思えてきていた。貴重なコーヒーが、さらに貴重に思えた。

 心に何か響いたような子供たちの顔を見て、大きく頷いて女将は涙を溢しながら力強く答えた。

「なります、してみせます。」


 マックスは感激と感動で泣いている女将や、無言で顔を伏せて涙している店主たちの様子を見て、コーヒーの試飲会をやって成功したのだなと実感した。リルルの絵を使ったのも成功だったと思う。新しいことを始めるなら、誰もが関心をもって取り組める方が上手くいく。


「私たちが、このコーヒーを大事にこの領に広げます。」

「港町はこの領地で一番の街ですから、コーヒーも一番売るとお約束します!」

「コーヒーに合うものを考えて作って、その売り上げで南部にもこのグロケット領にもお金が回っていくように、我々は頑張ります。」

 コーヒー豆を売り上げたお金は国庫に入るんだけどね、とリルルは思った。まあ、そんな細かいことは言っても仕方ない。

 鼻水を流しながら泣いている女将に、思わずリルルは自分のハンドバックからハンカチを取り出して手渡した。

「女将さん、使って。」

「リルル様…、」

 女将はハンカチを握りしめ、とうとうわんわん泣きながら、奥の厨房の方へと走り去ってしまった。何人かの女性従業員も後を追いかけている。

「リルル、そろそろ帰るか? 出迎えの準備の時間が来るだろう?」

 壁の時計を見上げるとマックスの言う通りだった。紅茶を飲み干し、リルルは微笑んだ。

「帰って着替えないと怒られそうね。」

 テーブルの上の食事は、マックスや子供達が食べてくれてほとんど片付いていた。リルルは名残惜しそうに自分を見上げる子供たちに、「またね」と微笑んだ。

 立ち上がってマックスに手伝ってもらいながらコートを着ていると、マックスがベレー帽を直してくれた。自然にお互いを気遣い向かい合う二人の姿は、『新婚さん』に十分に見えていた。


「リルル様、若様、今日はありがとうございました。」

 頭を下げて海鮮やの主人が微笑むと、街の店主たちも目に涙を滲ませ微笑んでいる。

「ハンカチは、女将さんにあげるから気にしないでと伝えてね。私、女将さんのああいう熱いところが好きよ。初めてここに来た時に聞いた、この街の名物を作りたいっていう気持ちがとても素敵だと思ったの。」

「リルルはそういう気持ちを持つ者たちの助けになりたくて、コーヒーの試飲会をしてほしいって言っていたな。」

 マックスの腕にリルルは手を絡ませながら、照れて小さく微笑んだ。

 店主たちが目を見開いて、マックスの顔を見つめていた。さっきから、リルル様も若様も、耳を疑うようなことばかり仰っておられる…!

「マックスは、私がしたいようにしたらいいって言ってくれたもの。マックスもそう思っていたんでしょ?」

「ああ、私の領地を盛り上げてくれる者たちの気持ちは、宝だからな。」

 マックスの言葉に感動して涙で顔を上げられなくなってしまった主人は震えながら、「ありがとうございます、」と繰り返して、他の店主たちとリルルたちの後姿を見送った。

 若様に認めてもらえた、宝だと言ってもらえたと、街の店主たちはお互いに肩を叩きあって喜んで咽び泣いていた。


 海鮮やの表の通りは軒並み『臨時休業』の札が下がっていた。リルルたちが出てきた海鮮やも『休業中』と札が下げられ、通りには観光客はまばらだった。

 休んだりして良かったのかなとリルルは思ったけれど、隣を歩くマックスは黙って微笑んでいたので、気にしないことにした。

 騎士たちに護衛され、リルルたちは身分が観光客にバレることなくグロケット城へと帰っていった。

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。