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悪役令嬢の歩き方  作者: 高坂千穂
  11月
52/161

52、黙って見つめていたいもの

 翌朝、クグロワもサミラも快く買い食いの外出を許してくれたので、変なの、反対しないのねと思いながら、リルルは迎えに来たマックスと一緒に朝市に出かけることになった。

 ロビーですでに待っていたマックスは白いシャツにカーキ色のチノパンを履いていて、芥子色のジャケットを腕にかけていた。品の良い葡萄色のワンピース姿のリルルを見つめて、「今日は帽子は被らないのか?」と尋ねる。

「ええ、今日は髪を巻き上げているから、帽子は無理なの、」とリルルはまとめた髪を指さして答えた。漆黒の髪を目立たなくするにはまとめた方がいいとのサミラの提案だった。

「確か、お忍びの若夫婦って設定だったでしょ?」

 襟足から覗く背筋が色っぽい。ふたりで並ぶと、新婚旅行に来た観光客のようだなとマックスは思った。

「ああ、そうだったな、お忍びの新婚夫婦だ。」

 マックスは満足そうに言うとジャケットを羽織り、リルルの手をしっかりと恋人つなぎに握ってにっこりと笑った。


 朝市が開かれている港は、観光客や周辺から売りに来ている農民や市民、新鮮な海産物を仕入れに来ている周辺の商人たちで大層な賑わいだった。

 マックスにはぐれないようにと肩を抱き寄せられながらリルルは人混みの中を歩き、護衛もない状態でこんなところを歩くなんて生まれて初めてかもしれないと思いながら市場を見て回った。


 海鮮やは女将が報告してくれていたように、従業員が前回来た時の倍はいて、隣の店は本当に食堂に様変わりしていた。

 リルルとマックスに気が付くと、女将は顔を高揚させて「いらっしゃいませ、」と言い、マックスが海鮮団子を二人分頼むと、隣にいた主人が真っ赤な顔をして、カキの貝殻のお皿の上に二つずつ載った海鮮団子をリルルに手渡してくれた。

「ありがとう、」と微笑んだリルルの顔を、ふたりはのぼせたような顔で見つめている。

 従業員たちが商品を手にわらわらと集まってきて、リルルやマックスに、「ぜひこちらも、」と串揚げやイカ焼きなどを勧めてくれた。

 リルルがマックスを見上げると、マックスは小さく頷いて「全部貰おう、」と言ってお金を渡していた。

「滅相もございません、」と言いかけた女将に「今日は新婚の若夫婦なのだ、許せ、」と笑って、きちんと支払いを済ませていた。

「マックスってかっこいいのね、」とリルルが微笑むと、女将や主人は顔を真っ赤にして、「最高の方ですから、ぜひともこの先もご一緒にお越しください、」とリルルに頭を下げていた。

「だろう? 私もまた来たい。これは隣の食堂で食べていっても構わないか?」

「是非にお願いいたします、」と頭を下げた女将が自分で先導してくれた。売り子役はいつの間にか店の若い者に交代していた。


 海鮮やの横の食堂は急拵えにしてはしっかりとした内装で、普通に街にあるようなカフェみたいだわとリルルは思った。扱っているのが海産物じゃなくてスイーツなら女子受けしそうなんだよね、とも思う。

 店の中は丁寧に改装し美しく磨かれていて、以前は寂れた空き店舗だった事を知っているマックスは感心していた。リルルを喜ばせようと、この者たちは時間をかけて準備をして待っていてくれたのだろう…。

「ここは定食屋だったんですよ、前々から話を付けてはあったんですが、なかなか踏ん切りがつかなかったんです。」

 女将はリルルの為に椅子を引いて座らせ、「こちらは私どもの感謝の気持ちです、」とマックスの前にさらにお茶やカキや海鮮団子を運ばせた。ハシが添えられていたので、やっぱりフォークや串より便利だよねとリルルは思った。

「観光客だけではなく、この周辺の住民たちも買いに来てくれるようになりました。一個売りもしていますから、学校帰りの子供たちも来てくれるんですよ、」と女将は笑った。

「どうぞごゆっくり、」と言いながら店の奥に行ってしまった女将の後姿を見送って、リルルはマックスと朝食代わりの海鮮団子や串揚げを食べ始めた。


 ※ ※ ※


「マックスは、あれからここへは来たの?」

 カキを食べながら、マックスは少し考えるようなそぶりで黙った。

 海鮮団子、やっぱりネギや青のりや鰹節があると味が違うわね、とリルルはハシで食べながら思う。団子と言っても、味も見た目も揚げたタコ焼きにしか思えない。イカを抜いたらタコ団子なのかな。

「リルルと来ようと思って我慢していた。」

「嬉しいわ。待っててくれたのね。」


 カキを食べながら、パンよりはご飯が欲しくなるわね、と姉リルルの味覚の思い出からリルルは思った。ご飯、頼めばあるのかな。

 お姉ちゃんが、この国にはお善哉があるはず、と言っていたのを思い出す。小豆、見つけられるかな。女将さんは知っているかな。


「女将さんはわざわざ王都まで来てくれたんでしょう? 来ようと思わなかったの?」

 リルルは無意識にマックスに尋ねた。パクっと二つ目のカキを食べるリルルをマックスが凝視していた。

「どうかした?」

「いいや、お楽しみは大事に取っておくのが好きなんだ、」とマックスは答えた。


 夢の中のリルルにしか話していないことを、現実のリルルが知っているのをマックスはおかしいと思ったけれど、口にはしなかった。

 秘密はお楽しみだ。気のせいではない。ゆっくりと時間をかけて知っていく方が楽しいに決まっている。


「ふうん?」

 リルルはお茶を飲みながら、マックスの手元で順調に減っていく串揚げや海鮮団子を眺めていた。マックスってよく食べるよね、とリルルは、団子食い競争があったらマックスの一人勝ちじゃないかしらとこっそり想像した。

「あのね、今、思いついたんだけどね。」


 前世で姉リルルは弟とタコ焼き機でカステラを焼いていた。リルルは受け継いだ記憶の中から、いくつかの成功したレシピを思い浮かべた。

 記憶のディスク(アーカイブ)を姉リルルがゲームに夢中になっている間にこっそり幾つも見ておいたおかげで、チョコレートを食べて受け継いだ意識以上の知識をリルルは自分の中に持っていた。


「なんだ?」

「タコやイカの代わりにクリームチーズを入れても美味しいかなって思ったの。上にかけるのは蜂蜜かメイプルシロップでね。」

「甘そうだが、うまそうだな。」

 海鮮やで売るには向かない気もするな、とマックスは思った。

「女将さんに言ったら作ってくれるかな。」

「ああ、面白そうだな。」

 マックスはにやりと笑うと、店の奥の方でマックスたちを覗き見ていた女将を手招きして呼んだ。

「なんでしょうか。お代わりを持ちしましょうか?」

 女将は手招きして、すでに何かを店の若い者に頼もうとしていた。

「いいや、違う。リルルが海鮮団子の菓子を考えてくれた。聞いてみるか?」

「ありがとうございます、是非ともお聞かせください、」女将は目を輝かせて、確実に店の若い者を手招きして呼んだ。


「お砂糖と卵を生地に加えて、一口くらいの大きさの、チーズ入りのドーナツにするの。チーズはクリームチーズがいいわ。上にはシロップをかけるの。」

「ドーナツですか、わかりました。今すぐに作らせます。感想をお聞かせください。」

 女将と並んで話を聞くなり、リルルをじっと見ていた若い者は興奮気味に「わかりました、やってみます、」と、店の奥の厨房へ伝えに行った。

「チーズですか。小さい子供や若い女性が来てくれるようになると、客層が広がりますね。」

 女将がのぼせたように呟いた。お菓子にしてしまう発想はなかった。確か厨房には若い娘がいたはずだ。お菓子に応用する提案も、彼女ならこなしてくれるだろうと期待する。

「海鮮団子はタコやイカが苦手な子供にはいまひとつ受けがよくないと、主人と思案していたのです。まさかこんな形で道が開けるとは…!」

 マックスはリルルに「まだ食べられそうか?」と尋ねた。こくんと頷いたリリルを見て、マックスは、無理でも食べると言いそうだなと小さく溜め息をついた。言い出した手前、王女様は責任をとるつもりだろう。

 ふわっとチーズの甘い香りが、店の奥から漂い始める。

「…マックスはまだ食べられそう?」

「リルルの言うチーズボールを食べないと、気になるからな、」とマックスは笑った。リルルの代わりにいくらでも食べるつもりだった。美味いことを期待したい。

 チーズボールに名前、決まっちゃったわね、とリルルは思った。リルル焼きじゃなくてほっとする。


 店の奥の方から、さっそく出来立ての大量のチーズボールを大きな丸皿に載せて、店の若い者たちがやってきた。「女将さん、めちゃくちゃいい匂いですよ!」と興奮している。

「では、リルル様の前でシロップをおかけしますね、」と女将がチーズボールにフォークで線を描くようにたっぷりとシロップを垂らした。

 甘い香りが広がって、リルルたちのテーブルに香りにつられた者たちが集まってくる。

「マックス、先にどうぞ、」とリルルが進めると、マックスは頷くと串にひとつ刺して、はふはふ言いながら食べてしまった。

「どう?」

「これはうまい、リルル、これはうまいぞ、」

 目をキラキラ輝かせてマックスは言った。女将の表情は明るくなり、うんうんと何度か頷いている。

「女将さんもどうぞ、」とリルルはひとつ貰うと、残りを女将や従業員たちに勧めた。

 シロップのおかげかそこまで熱くないチーズボールは程よく甘くて、リルルはチーズ入りサーターアンダギーのシロップ掛けって感じかしら、と思った。これはおやつに山盛り食べたいかも、と思う。

 ひとつパクっと食べた女将は「ウマーい!」と目を輝かせて言った。ひとつずつ貰った店の若い者たちも目を輝かせて頷いていた。

「女将、これはいけるぞ。また店が大きくなるな、」とマックスがにやりと笑うと、女将は黙って何度も頷いている。

「シロップではなくてバターでもおいしそうよね、こうやって山盛りに積み上げて、上にクリームとバターを載せても美味しいと思うわ。」

 リルルが手で山を作って説明していると、マックスがくっくっと堪えながら笑った。

「リルル、ここは海鮮やだぞ、それでは完全に街の喫茶店だろう?」

「それもそうね。お城に帰ったら、料理長にお願いしてみようかしら。」

 何気なくリルルがそう言うと、女将が必死な形相でリルルに頭を下げる。

「やります、やらせてください。ここの市場には店はいくらでもあります。海鮮団子で儲けさせていただいたお礼を街にしたいのです。リルル様に教えていただいたチーズボールを伝えて、他の店の者たちと協力して売ります。是非、この街で作らせてください。」

 目をぱちくりしてリルルがマックスを見つめた。街規模でやるの? とびっくりしてしまう。

「味比べをしたら、店同士も刺激になります。」

「ほう、店によって味を変えるのか? 楽しみだな。やってくれると、またリルルは結果が気になって、この港に来てくれるだろうからな。私もその方が楽しい、」

「そうね。また来ようかな。紅茶とチーズボールのお店かあ。いろいろ買って帰って食べ比べも楽しそうね。冬が近いし、すごく素敵だわ。」

 リルルが指を組み合わせて首を傾げ、冬の寒さを想像しながら呟くと、女将は何度も頷いた。

「持ち帰れるように箱詰めして売れば、海鮮団子もチーズボールも、土産として売れると思います。」

 リルルたちのテーブルに、もう一皿チーズボールが店の奥から届けられた。

 フォークにひとつ刺して食べて、マックスは「これはうまいな。王都にも土産にして持って帰りたいくらいだ、」と笑った。


 海鮮やでしっかり食べておなかが満たされたリルルは、マックスの腕に手を絡めて店を出た。女将たちは「またのお立ちより、お待ちしております、」と何度も頭を下げて見送ってくれた。

 お土産に早速箱詰めしてもらったチーズボールを手に、リルルは上機嫌でマックスに「ホテルで待ってるクグロワたちにあげたいの、」と微笑んだ。

 珍しく上機嫌だなとマックスは思いながら、リルルの顔を見つめた。


 リルルがいなかった2か月の間、黒髪にリルルを思い出して、高等学校で見かけて見つめていたラウラとは雰囲気が違う。あっちが太陽ならこっちは月だ。初等学校の頃見かけたリルルとラウラが並んだ姿を思い出して、あの頃から二人には差があったのだと思う。

 誰にでも明るく微笑む太陽はみんなのもの。

 こっちの月は、私だけの月だ。夜に私を惑わしたり、道のないところに道を作る。


「あとで迎えに行くから、一緒に帰ろう。リルル。」

 リルルは目を見開いてマックスを見上げた。

「ほんとに一緒に帰るの?」

「ああ、王城まで送り届ける。」

 決定事項な口ぶりなマックスを見上げて、クグロワとロックの甘酸っぱい話はまた今度に先送りかあ、とリルルは残念に思った。


 ※ ※ ※


 グロケット公爵領からの帰り道は、本当にマックスと二人きりの馬車旅となった。

 クグロワとサミラはロックの用意した馬車に3人で乗り、リルルたちの乗ったグロケット公爵家の馬車を追いかけて来てくれてはいた。

「あのね、マックス、ずっと二人っきりで落ち着かないの。」

 流れていく景色を見ながら、リルルはぶーたれた。サミラのロマンスとかクグロワのロマンスとか、リルルは期待していた話が聞けなくて残念に思っていた。

「私の傍で眠っていればいいだろう?」

「何かするでしょう?」

 マックスはにっこりと微笑んだ。何かをしてほしいのだろう、と思ってしまったのは内緒だった。

「何もしない。」

「ほんとに?」

 マックスはリルルの瞳を見てニヤッと笑う。何かって何のことだろう、と色々考えてしまう。バレないようにさらりと嘘をつく。

「神に誓って何もしない。」

 そんなわけないじゃん。そのニヤケ顔、怪しいったらないわ。

「昨日だって何かしたじゃない?」

「そうだったか?」


 昨日グロケット城で行われた夕食会では、グロケット公爵夫妻もオルスもリルルを歓迎してくれて、和やかに夕食会は終わった。案外早く帰らせてもらえるのかなとリルルは思っていたけれど、そんなに世間は甘くはなく、リルルはそのままお茶会へと場所を変えて流れ込んでしまった。

 お茶会が終わった後、リルルはマックスに送りがてら月を見に行こうと誘われて、城の屋上へと上がった。

 見晴らしのいい丘の上に聳えるグロケット公爵家のお城からは、遮るものがないので遠く水平線の彼方まで見渡せ、深い夜の海に浮かぶ大きな月が輝いて見えた。

 綺麗ね、と微笑んだリルルに、そうだなと呟いて、マックスはリルルを抱きしめて、深くキスしたのだった。


「マックスってば、いつだってキスしてくる気がする。」

 不機嫌そうな顔をしてリルルが呟くと、マックスはにやりと笑った。


 キス程度で文句を言われてもなあ。

 君は私の夢の中でそれなりのことをしてくれているのだよ、と言っても信じないだろう。所詮は私の願望だ。それぐらいをやってから文句なら言われたい。この場で再現したっていい。キス程度でなんて比較にならないと判るだろう。


「あのなあ、リルル、離れていた時間が一体どれくらいあったと思う? 毎日だって会いたいのに、2カ月もいなかった。いくらキスをしたって追いつかないだろう。」


 キスしたくらいでは法には触れないのだからいいだろう、と言いそうになって、マックスは黙る。体をつなげた程度でも、法には触れない。婚約者だから、子供が出来ても婚前子と呼ばれるだけだ。

 目の前の彼女が望まないからしないだけだ…。私は彼女を愛している。


「結婚するわけじゃないもの、しなくてもいいと思う。」

 マックスとするキスは後々怖い気がするのよね、とリルルは警戒する。キスした関係だから責任取らせてほしい、なんて言い出しそうだもの。

「婚約はしている。私と結婚しない方があり得ない。」

 ムーっと眉を顰めてリルルはぶーたれた。結婚なんてまだ先の話だし、婚約者だって絞っていない。

 しかも、まだリルルはミーシャをあきらめてはいなかった。夢の鍵も手に入れてもいないけれど、まだ可能性はあると信じている。

「今朝だって、朝市でずっと腕を組んでいたもの。触りすぎだと思う。」

「新婚の若夫婦なら当たり前だ。リルルを迎えに行ったし、海鮮やも連れて行っただろう? みんなお忍びだと理解してくれたではないか。」

「お忍びな割にはすごくバレてたわ。リルル様って名前、呼ばれてたもの。」

「私はマクシミリアン様とは呼ばれなかったな。」

「マックスみたいに、何かあだ名を考えておけばよかったわ。」

「リルルはリルルだからな。」

 リルルにリルル以外の呼び方なんて思い浮かばないなとマックスは思い、そういえばと思い出す。

「リルルには、カーチェの会という集まりがあるようだな。」

「ええ、エリースたちや彼女たちの妹たちが仲良くしてくれているの。」

 エリースは今年、マックスと同じクラスになっていた。

「あれは…、意外だな。あの者たちは自分たち以外のものを排除するのが好きな女たちだと思っていた。」


 マックスはあれほど貴族貴族した女性たちを知らないと思う。自信に満ちて金がかかった格好をしてつんと澄ましている様子は、なかなか他の学年ではお目にかかれない。


「え? そうなの?」

「貴族貴族した連中だからな。私たちの学年は丁度、公爵家の娘がいない学年だから、侯爵家の娘たちの天下だ。」

「学年によっていろいろ雰囲気があるのかしら。」

 リルルが首を傾げると、マックスは笑った。

「リルルの学年は、王女のリルルが一番上だろう? そのリルルがこんなだから、リルルの学年は他の学年に比べてかなりのんびりしていると私は思うが?」

「そうなのかな。」


 王女だからってみんなの人気者じゃないもの、と、リルルは思った。

 婚約者がやたらと多いのと、愛想があまりよくないから嫌われているだろうと自分では思っている。


「ラウラ様の学年は上下の序列がはっきりしていて役割が明確だ。それに比べてリルルの学年は緩いぞ。リルルにそういうこだわりがないからだろうな。」


 マックスの見たリルルの学年の印象は、リルル以外はみんな平等で、親の爵位に関係なくまとまっている印象があった。リルルと婚約者のティンカードを遠巻きに見守っているという、一致団結感すら感じられた。

 同じ婚約者としては少々面白くない状態だなとマックスは思っていた。


「そうなのかな?」


 周りの者たちは本人たちに気が付かれないように状況を楽しんでいるのだろうな、とマックスは思った。他の学年の婚約者が近寄ってこないように、二人を隠している気配すらしていた。


「私の学年は、エリースたちのような貴族貴族した、貴族の嫌な面が出ている階級社会がそのままのような学年だ。私が公爵の息子らしく振舞うと喜ばれる。」

「ああ、マックスって俺様って感じがかっこいいって話ね。」

 いつかエリースたちがそう評していたことを思い出す。

「私は俺などと自分のことを言うことはないが?」

「俺様って雰囲気って、他の人の意見を聞かないってことじゃないの?」

「エリースたちの意見を聞いていても仕方ないだろう。私には私のやるべきことがあるのだからな。」

 リルルはこういうところが俺様キャラに思われているんだろうなと思う。

「マックスって、案外人のことをきちんと見ているのね。」

「案外とかきちんととか、リルルはさらりと失礼なことを口にしている気がするのだが、気のせいだろうか?」

 実は筋肉馬鹿だと思ってましたとは言えないよね、とリルルは苦笑いをする。

「ちなみに、オルスは婚約していたりするの?」

「話を変えたな、リルル。ああ、オルスは隣のリチェット伯爵領の跡取り娘のセシリカ嬢と婚約している。将来婿養子に行くようだ。」

「一緒に領地経営はしないの?」

 兄弟で領地経営をするのだと、アーリャは言っていたなと思い出す。公爵や公爵家はそういう者が多いのかと、リルルは勝手に思い込んでいた。

「ああ、私の領地は国の主要港として担う役割がある。王都から優秀な人材を領官として雇い入れた方が公正な判断も出来るし、いざという時に迷わないで済むからな。」

「迷うの?」


 マックスはリルルの瞳を見つめた。家族で有事に当たると意見が割れてしまい動けない時があるのだと、リルルは知らないのだろうなと思う。家を残すために答えを絞らないといけない。舵取りに失敗してしまうと、家が潰れてしまう。冷静な判断をするときに、第三者の意見を入れた方がより可能性は高まる。


「リルルが私の元へ嫁に来てくれれば、迷うことはもっと減るだろうな。」


 有事の際には王城が助けとなる情報を提供してくれるだろう。先頃の海戦のように、とんでもない情報が手に入るかもしれない。


「私は王都で暮らすのよ?」

 リルルは首を傾げて目を細めた。夢を見た時のことを考えて、あまりお城から遠く離れて暮らしたいとは思っていなかった。

「王都とこの領は馬を飛ばせば4時間程で移動できる。そんなに遠い距離ではない。リルルが望むなら、王都の屋敷にいればいい。」


 結婚相手を住む場所で選ぶのなら、王都に住む者に限定するつもりなのだろうか。マックスは腹立たしく思い、口を閉じて窓の外を見て気持ちを紛らわせた。我が領地は田舎だと言いたいのだろうか。そんなことではないのだとしたら。

 もしかして、リルルは結婚自体を望んではいないのだろうか…? 婚約者を沢山持つのはカモフラージュなのか? 何かできない理由でもあるのか?


 黙ってしまったマックスは、流れていく景色を何か考え事をしながら見つめている。突き放したような言い方に横顔を見ながらリルルは、かっこいい人だけど確かに俺様キャラだわと思った。リルルが好きな人の行く後ろを黙ってついていくような性格なら、これほど頼もしく思える人もいないだろうと思う。

 リルルは時見の巫女という秘密を抱えている。結婚するなら守ってくれそうだけど、リルルは今のところ、マックスに対して結婚を考えられない。


 私、そういえば婚約者を増やしたこと、マックスに伝えてないわ、と気が付いた。お城に帰ったらお父さまやお姉さまにもなんて言われるだろう。


 急に後ろめたい気分になってきて、リルルはマックスから少し身を離して、馬車の窓にもたれて窓の外を眺めた。

ありがとうございました

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