37、思惑通りにいかないもの
「やっと捕まえた。」
リルルはティンクの夢にやっとつながった喜びで、ティンクに会うなりいきなり抱きついた。ティンクのオルフェス領の白い家の静かな中庭の、リクライニングチェアーに座って本を読んでいたティンクを押し倒す。
「久しぶりだね、リルル。一週間か、それぐらいぶりか。中つ国? それともまた別の国?」
「ええ、私は今、中つ国にいるわ。」
リルルは体を少し離して、ティンクの顔を嬉しそうに見つめた。優しい午後の日差しの中に、ティンクの金髪が輝いて見える。緑色の瞳が、優しい眼差しで自分を見上げている。
「明け方に起きて水を飲んで、寝なおしたの。たぶんね、こっちとそっちとは6時間かそこら、時間差があるわ。」
「へえ…、私はさっきまで本を読んでいて、寝たのは日付が変わるころだな…、時間差は確かにそんなところだろうな。」
「ティンク夜更かしなんだもん。早くに寝てくれないと会えないじゃない。」
起き上がり腰かけ、くすくすと笑ったリルルを見つめて、ティンクも起き上がると隣に座り、「元気にしてるのか?」と尋ねた。
「船の中ではほとんど寝ていたわ。だから、今は元気。大丈夫よ?」
「会うには早く眠る必要がありそうだな…。」
自分に会うために無理をさせるのは気が引ける。ティンクはリルルの手を握った。夢でも、会えると嬉しいものだな、と指で擦った。
「11月3日はお昼寝して欲しいわ、」と、リルルは冗談めかして本音を伝えた。ティンクはどう答えるのだろう…? バーカって言うかしら。
「わかった。夕方には寝るようにするよ。」
すんなり快諾してくれたティンクに、リルルは目を見張った。ティンクが素直だと気持ち悪い、と思ってしまったのは内緒だった。現実での、いつものノリを期待してしまう。
リルルが出国してからの様子を伝えようと、ティンクは記憶を遡った。
「こっちは、ラウラ様のお相手が決まったよ。」
「いつ?」
「土曜かな。日曜には城内で働く者たちに内々に知らされた。一般に公布されるのはもう少し先だろうな。それまでは、機密事項だ。」
「へえ…、」お父さまが言っていた通り、土日に決まったんだわ、とリルルは思った。日曜の午後に中つ国に来てからもう何日か過ぎていて、今日は午後から面会の予定も入っていた。
「驚かないんだな。」
「コニール様、でしょ?」
「ああ、そうだよ、」ティンクはリルルの頬に何度かキスして、手を握った。夢でするキスってなんだか物足りないよね、とリルルは思った。でも、会えないよりはましだった。
「あんな奴じゃなくてよかった。あいつは、どうなったか知ってるかい?」
「教えて?」
「宣誓書を書かされてたよ? 素直に負けを認め、コニール・フォート・リュラーの忠実なる僕として一生涯を賭けて仕えることを誓うってね。」
「すごいね。ティンクが知ってるってことは、機密事項とはいえ知らされたの?」
「ああ、すごいよ。ラウラ様と婚約解消をする条件なんだって聞いたよ? 破棄されて賠償金を支払うか、解消されて宣誓書にサインするかの2択だったんだって聞いた。」
「賠償金って、もしかして私に手をあげたから?」
リルルは躊躇いがちにティンクの瞳を見つめた。
ティンクは優しくリルルの髪を撫でた。
「それもあるけど、タッドリー様は国の貴重な他国との貿易の契約書を汚損したりして修復が大変だったらしいよ? そういう細かい弁償費用を、王配であるヨハネス様がちまちまと立て替えておられたらしいよ?」
「うわ…、お父さま可哀そう…。」
「ほんと、同情するよ。」
ティンクを顔を見合わせてリルルが笑うと、二人はおでこをくっつけあって、お互いの頬を撫でた。
「学校が始まってるのに、お城に通ってるなんて、ティンクは暇なの?」
「いいや、忙しいよ? リルルがいないから、しばらく行かないつもりだった。」
「なら、どうして?」
「この前みたいなことが小姓たちにも起こったら、と思ったら、お城に足が向かってた。一人でも大人がいた方がいいだろ?」
「ティンクってかっこいいね。」
ふふふとリルルに笑いかけて、ティンクは静かに言った。
「同じように思った元小姓は沢山いたみたいで、執務室の小姓部屋には小姓たちよりも多く元小姓たちがいたよ。西の塔の警備の小姓部屋には、非番を利用して元小姓の騎士や将校たちが来ていた。」
「あら、会いたかったわ。」
リルルは、あちこちで遊んでもらったなあと、懐かしい顔ぶれを思い浮かべた。
「みんな、リルル様をよく守ったって、褒めてくれたよ。」
「ありがとう、ティンク。」
「もっとやれば良かったのに、とも言われたけどな。」
くすくすと笑うリルルの手を撫でて、ティンクはリルルは笑うと可愛いなあと見つめていた。
はっと気がついて、リルルは話を切り替えた。時間はあるようでない。
「私、今日は王都にいるの。この国の貴族と昼食会なんだって。」
「へえ…、私は、普通に学校だ。ラウラ様のご婚約が調ったからこっちはお祭り騒ぎだよ。」
「いいな、見たかったな。」
「ラウラ様の卒業を待っての、御成婚と同時に即位が今のところ有力な見立てだよ。」
「でしょうね。コニール様も今、師範学校に通われていらっしゃるものね。」
リルルの頭を撫でて、ティンクは静かに囁いた。
「…賭け事をして結婚相手を決めなくてはいけない程、ラウラ様は迷われていたのだろうか。」
リルルが見た夢の中のラウラは、コニールを馬鹿にしたタッドリーに静かに怒っていた。
「賭け事で勝って、理屈抜きに白黒はっきりさせた方が、禍根が残らないとお姉さまはお思いになったのかもしれないわ。」
「運も実力のうち、かあ、」ティンクはリルルの髪を指で梳いて、何かを考えていた。
私はそんな風に決めないわ、とリルルは言おうとして、言葉を飲み込んだ。
ティンクの瞳は暗く濁っていた。ああ、お姉さまも、そういう瞳をさせるくらいなら、結果を神様のせいにして賭け事にして決めた方がいいと思ったのかもしれないわ、と思い直した。
「その日まで、傍にいたい。私は、リルルが好きだ。」
自分に言い聞かせるように呟いたティンクにそっとキスすると、リルルは「もう行くね、」と立ち上がった。今ここで結論を決めるつもりも、告げるつもりもなかった。
リルルは微笑んで手を振って、別れを告げた。
※ ※ ※
中つ国のアーサー国王に会ったのは平日で、リルルの国から中つ国へ派遣されてきている高齢の大使のゼノンとペンタトニークと3人でお茶会に招かれた。
日を改めてハープシャー公爵とも会うと聞いていた。
この国で私に会いたいのは、ゲームの攻略対象の親たちだなんて、なんて面白い展開なんでしょう、とこっそり思った。
中つ国に駐在しているリルルの国の大使は名をゼノンと言い、8大公爵家のひとつのピフルール公爵家の三男で前公爵の弟にあたり、元小姓の出身でもあった。
リルルの祖母の時代の、いわゆる『時見の巫女が二人もいて即位したばかりの頃の、神がかり的な政治的手腕を持つ祖母の統治する、奇跡の栄光の時代』を知る人物で、ちょっとメンドクサイおじいちゃんだった。
リルルの亡くなった祖母のエレナと親しくしていたので、リルルとは中つ国に来る時には必ず顔を合わせる間柄でもある。
リルルの今回の訪問は公務ではないので、お忍びということでペンタトニークに用意された服を着た。髪も後ろでひとつに三つ編みにして、正装ではなくアンサンブルの紺色のスーツ姿で、どう見てもペンタトニークの商会の関係者にしか見えなかった。ペンタトニークも大使も普通にスーツ姿だった。リルルたち一行は海外からの商談に来た異人という設定なのだろう。
颯爽と着こなすリルルの姿を見て、美人秘書という設定だなと思い、ペンタトニークは「リルル様が袖を通されたと言うだけで、同じものをと問い合わせてくる者がいるのです。着こなしていただけると実にありがたい、」と笑った。
なんだ、私、歩く広告塔なのか、とリルルは苦笑いをした。
ペンタトニークの商談が済むと、人払いをして、広い客間の中にはいかついおじさんと少女のリルルの4人だけが残った。部屋のドアの外には騎士たちが出入りを監視していた。この部屋を出たら、きっと侍従や侍女たちの視線が痛いわ、とリルルは思う。
丸いテーブルに座って4人でお茶って不気味ね、と国王を見ると、にっこりと微笑まれてしまった。
…マックス兄弟はクマを狩れそうだけど、アーサー国王はライオンを捻り潰せそうなのよね、とリルルは体つきを観察した。背が高く大男だけれど、顔立ちは美しく凛々しい。金髪で翡翠な瞳も妙に色気がある。
薄い茶金髪で薄い黄緑色の瞳のゼノンも背が高く、昔は鍛えていたのだろうなという印象がある。この人は杖でイノシシをひっくり返せそうだわ、とリルルは観察する。
ペンタトニークも筋肉質だった。おじさまは、せいぜい闘牛でロデオって感じだわ。
…などと、人の顔を見ながら、リルルは失礼な感想ばかり考えていた。
そんなリルルの視線をどう勘違いしたのか、アーサーは嬉しそうな顔をした。
この国は王妃の他に寵妃がいるんだっけ。リルルは自国にはない文化に微妙に嫌悪感を抱いた。
女王が統治するリルルの国は、一夫一婦制で、愛人は認められていなかった。愛人を持ちたければ婚姻関係を全くゼロにしなければいけない、という法律まであった。つまり、結婚してはいけなかった。結婚しながら愛人を持つと重い罰金刑があった為、既婚者で愛人を作る人は稀だった。
私は愛人を作る趣味はないわ、とリルルは思った。婚約者は沢山いても、いつかひとりに絞る予定だから自分は違うのだと思っていた。
「リルル様は、この国で来年から生活されるようにとご教育を受けられており、通訳なしでもご自分でお話もお出来になります。」
はじめに大使が告げると、大柄な大男な国王はリルルを驚いた表情で見た。
「ほう、リルル殿は話せないし理解できないと、私の国の貴族は話していたように思うが、違うのだな。」
「ええ、その方が都合がいいので、ペンタトニーク公に通訳を雇ってもらいました。」
正確な発音で答えリルルがにやりと笑うと、国王は「本当に通訳がいらないのだな、」と呟いた。
「私が話せることをご存じなのは、ペンタトニーク公だけです。皆様もご内密にお願いしたいですわ。」
「そうか、分かった。この国はいかがかな、リルル殿。」
「ええ、楽しいです。ホテルではなく、ペンタトニーク公の別荘にお邪魔しておりますので、とても気楽ですわ。」
ペンタトニークの別荘は各国にあって、どの国も港と王都にと最低ふたつはあるようだった。中つ国でも最初、国で最大規模のハープシャー公爵家の港の近くにある別荘に滞在させてもらっていた。クグロワたちは、自主的にペンタトニーク家の侍女たちの仕事に参加させてもらって、楽しそうに打ち解けていた。中つ国の言葉は高等学校で習っているので、クグロワたちは片言で話せた。
リルルはそういうのも旅行というのだろうかと思ったりもしたけれど、彼女たちが楽しいならいいかなと思い始めていた。
「リルル様のおかげで、こちらから連絡を取りたくてもなかなか難しいようなお方も、お会いしたいとご自分から寄ってきてくださいますからな。商談も上手く捗っております。」
リルルはおかげで毎日よく知らない貴族のどうでもいい会食に付き合わされ、しみじみと『ただより高いものはない』と痛感していた。
通訳を介してニコニコ微笑んで時々相槌を打って食事をするだけの会食では、リルルが言葉を理解できないと勝手に思い込んでいる中つ国の貴族たちは言いたい放題だった。
リルルの珍しい容姿に始まり、母や姉の話、リルルの国の話、遠く東方の国の話、中つ国の話…。
リルルは戦争を忘れた平和呆けした大人どもめ、と思って聞き流していた。
中つ国は軍事力が弱い国で、実際にリルルの母国と遠く東方の国が戦争を始めたら、『贅沢に慣れ貿易に頼るあまり、流通の恩恵を受けられず、生活物資の供給が止まってしまうだろう国』だと、リルルはロマニールや初等学校の教師から学んでいた。
「ほう、そこでもやはり、話せないし、聞いてもわからないふりをしておられたのだな。」
「ええ、おかげでいろいろ聞けて楽しかったですよ?」
リルルが腹黒く微笑むと、国王は「あまり楽しい話ではなかったようだね、」と笑った。
ペンタトニークは、リルルが目を伏せて理解していないふりをしているのを信じる演技をしてくれているのか、リルルにはきな臭い話を通訳させなかった。
戦争が始まったら海運が止まり、事業が傾きペンタトニークの小さな国は潰れてしまうだろうと、リルルは思う。
火種は南方の大陸にいつも燻っていた。リルルが開戦する夢を見てリルルの国が回避しても、遠く東方の国が開戦してしまえば東側の物流は狂っていくだろう。
「私の国は平和を望みますから、情報はないよりは多い方が助かりますわ。」
国王は静かにリルルの瞳を見つめた。
「確か今年の初め頃、リルル殿の国で、遠く東方の国と南方の大陸の国の船が、何やら衝突がありましたな。」
「ええ、お気の毒なことでした。」
リルルはそっと目を伏せた。ゼノンがコホン、と咳ばらいを一つした。
「我が国の港近くで、危うく海戦となるところでした。遠く東方の国は騒がしい国ですな。ラウラ様の婚約者に二人も名を連ねておきながら…、」
あれは本当はリルルの国との海戦だったとは、ここにいる者たちは知らないのだわ、とリルルは思った。お父さまが私の夢を聞きたがるのはこういう情報合戦を見抜くためなのだわ、と改めて思った。
国王はリルルを見つめていた視線をふっと柔らかいものに変え、優しく尋ねた。
「ラウラ・クリスティーナ王女のお相手は、いったいどのような方たちなのだろうな。」
「どの方も素晴らしい方たちですわ、」タッドリーを除いてね。
「ありがたいことに、私の息子もその一人です。」
ペンタトニークがそう言って微笑むと、ゼノンも頷いた。元財務官出身のこの大使は、この国に派遣されてくる前から、ペンタトニークと仲が良かった。
「確か、今、中つ国へ留学されていらっしゃいますな。」
「ええ。ありがたいことに、編入学が叶いましてね。国王陛下、入学の許可をいただき、ありがとうございました。」
「いやいや、試験さえ通ったのなら、彼の実力なのだろう。私は結果に許可を出しただけだ。」
あれ? ペンタトニークって、寄宿学校へ編入してるの?
「私も、来年から入学をさせていただくので、しばらくご一緒させていただけますわ。ミカエル王太子殿下ともお会いできるのが楽しみです。」
「あの子は少し変わっているから、結婚相手にはブルーノ殿の方がいいと思うぞ、」
国王は含みを持たせて、にやりと笑った。
「どちらでも構いませんわ。私も、婚約者を多く持てるものですから。」
「今、何人婚約者がいるのだ?」
「12人です。」
そのうち進行形は4人で、8人はいなくなっちゃったけどね。
「ミカエルには婚約者がいるからな。私は勧めんが、まあ、ミカエルと婚約することになっても、歓迎はしよう。」
「あら、ありがとうございます。」
攻略者のお父さんの許可を貰っちゃったもんね、とリルルは上機嫌になった。
「そうなった場合は、私の息子にハープシャー公爵殿のご息女をいただけますでしょうか?」
「ああ、構わんよ。本人がそう望むのなら、それでもよかろう。」
ん? 今なんて言った?
「ブルーノ様は、ハープシャー公爵家のシャーロット嬢と恋仲なんですか?」
リルルが確かめるように尋ねると、ペンタトニークは気まずそうに頷いた。
「恋仲になりたいと願っているような、まだまだな関係だ。シャーロット嬢はミカエル王太子殿下と婚約中だからね。」
「私の息子は今のところ手放す気配がないようだからな。すまんな。」
「いやいや、これはあいつが悪い。ブルーノは身の程知らずにもラウラ様との婚約を解消を願い出ていて、ハープシャー公爵のご息女のシャーロット嬢との婚約を私に言って来ておるのです。中つ国へ留学して寄宿学校へ通っているのも、シャーロット嬢の近くにいるため、なんだよ。」
「えー!」
リルルは思わず驚愕の声をあげてしまった。
ゲームと違うじゃん。ゲームではブルーノはエリックと一緒にローズを庇ってシャーロットと敵対するのに、どういう展開で恋焦がれてたりする事態になっているの?! 婚約を願うとか、信じられない!
しかもブルーノって、ゲームの後半戦の、リルルと同じ時期に出現する隠れキャラクターだよね? リルルだってゲームに登場していないのに、どうして先に登場しちゃってるの?
絶句して言葉を失っているリルルの驚いた様子が面白いのか、国王はにやにやと笑っている。
「リルル殿はブルーノ殿をご存じなのか?」
「ええ、私の国にペンタトニークのおじさまがいらっしゃる際に、時々一緒に遊びに来てくれてましたから…。」
この前会ったのはいつだったっけ、とリルルは考えた。あれ、もしかして姉リルルと溶け合ってからは会ってないのかな。
考え込むリルルを見て、ペンタトニークは淡々と話し始めた。
「ブルーノは、自分の婚約がどういう意味を持つものなのかを知らない愚か者ですから、ラウラ様とではなく、リルル様と仲良くさせていただいておりましてな。ラウラ様に直接婚約解消を言い出せるほどの勇気もなければ、会ってみようとする勇気もない愚か者なのです。」
「では、ラウラ・クリスティーナ王女と、向き合ったこともないと申されるのか?」
「ええ。私の父や私の考えを理解しようとせず、私の海運王という結果だけを見て、それがどんな苦労の上に成り立っているのかも、考えたことがない様子なのです。リルル様の国の後ろ盾があることの意味も、恐らく理解しておりません。」
「ラウラ様と婚約することで自身も守られ、船団も守られているのだと、あの者はいつか気が付いてくれる日が来るのでしょうか。」
リルルは早ければ来月には気が付くと思うわと思ったけれど、黙っておいた。ラウラの婚約者の決定はぎりぎりまでは話さないようにと言われていた。中つ国へと情報を積んだ船便が届くのは、リルルの国からは早くて5日後だ。日曜にお城の中で漏れた秘密は、恐らく噂話として外へ漏れてしまうだろう。ペンタトニークが知るのは、早くて今週末、ブルーノが知るのは、もっと後だろう…。
ブルーノの分はきっと別の誰かが届けるんだわ。リルルが持っている婚約解消の通達の書類は、遠く東方の国の王子達の分だけだった。
「お父上が直訴されての婚約でしたな、あの必死なお姿は私も心を打たれました、」と大使がうんうんと頷いている。まるで見ていたようね、とリルルは思う。お城で財務官時代にあった出来事なのかしら。
「お守りの婚約でしたわよね、おじさま。」
リルルが確認すると、ペンタトニークもゼノンも小さく頷いた。
「亡くなった父の気も知らないで、婚約解消を希望するとは…、本当に愚かな奴だ。」
静かになってしまった部屋の雰囲気を一変させるかのように、国王が呟いた。
「リルル殿はペンタトニーク公のことを、おじさまと呼ぶのだな、私もそう呼ばれてみたいな。」
「国王陛下をおじさまとお呼びするのですか? お嫌じゃないならそうしますわ。」
何しろゲームだと嫁と舅の関係になる。照れちゃうじゃない、とリルルは思った。
「おじさまでもアーサーでも構わん。」
アーサーはさすがに無理、とリルルは思った。「おじさま、で。」
「よいよい。リルル殿、次回は建国記念日に会えるのだな。旅の幸運を祈って再会を誓おう。」
国王が握手を求めてきた。リルルは両手でその手を握った。大きな手は鍛えているのかしっかりしていた。マックスの手もこんな感じで、この人の方が、もっと厚みがあるわ。
「また会いましょうね、おじさま。今度お会いするときは、私はまた、話せないリルルのふりをしているでしょうけれど、お許しくださいませ。」
にっこり笑ったリルルに、「美しい人は話せないくらいの方が、神秘的で趣があっていいものだよ、」と国王は笑った。
ありがとうございました




