22、前向きに捉えた方がいいもの
リルルは少しドアを開けて夜風に火照った体を覚ましながら、見慣れない庭園を見つめた。星の煌めく夜だった。
2月に入り、週末に王都の公爵邸で行われたグロケット公爵の誕生会に、リルルはマクシミリアン・サウルの婚約者として招待されていた。
無事に婚約者として数曲ワルツも踊り、ちょっと涼んでくる、とマックスの手を離れて中庭へと続くバルコニーへと出ていた。
この国の王都は凍てつく寒さでも雪は降らなかった。柔らかい桃色のドレスに身を包み、巻き上げた髪には花のかんざしを差してもらって、美しくお化粧も施されているリルルは、ガラス張りのバルコニーから夜空を見上げた。国のある大陸の南端や標高の高い地方は雪が積もるとは聞いていた。こんな夜は雪でも降っていそうだなと思う。
「リルル、」
露出した腕を包み込むようにして、リルルの背後からマックスが抱きしめてきた。上品な花のようなウッディな香りに包み込まれる。タキシード姿の背が高く筋骨隆々なマックスに抱きしめられると、肉厚感を凄く感じた。
「あのさ、くっつきすぎだと思うよ、マックス、」
ドキドキしちゃうじゃない、とリルルは頬を染める。
照れた顔を見られそうで、振り向くのが怖くて、夜空を見上げたままリルルは文句を言った。
「婚約者なんだからこれくらいいいだろう、嫌か?」
リルルは花の香りがする。沈丁花か? 甘く強い花の香りなのに爽やかで、薔薇ではなさそうだ。マックスは、鼻をリルルに近付けて、香りを嗅いだ。
息があたるから耳元で話さないで、とリルルは身震いする。
「嫌だと言ったらどうするの?」
「慣れてもらう。」
ああ、もう!
くすくすと笑い始めたリルルに、マックスは巻き上げた髪の香りを嗅ぎ、首筋に唇を這わせた。くすぐったくても我慢して耐える。
「ダンス、踊れるんだな、」
「ええ、練習したもの。」
その一言を聞くために頑張ったのよ、とリルルは思った。練習を言い訳にミーシャと踊れたのは嬉しかったし、ティンクと踊ったのは自信になった。
「…ラウラ様が、遠く東方の国の王子達を王都に呼びつけているそうだな。」
「ええ、事後処理をさせるんですって。」
リルルの見た夢の通りに、海賊船を装った南方の一国の略奪船は、グロケット領から出国した遠く東方の国の支配下にある国の一つの国の船団と交戦になり、沖合で双方の船がいくつか沈んでしまった。
「被害を受けた船に、幸い死者はでなくて済んだそうだ。演習航海中の救護船がたまたま航行していたからな。」
たまたまではなく父の手配だろうなとリルルは思った。リルルの夢が当たらないように努力しても当たる可能性があると想定して、父や宰相たちは幾重にも策を練って準備したのだろう。
「そう。それは僥倖ね。」
「ああ、被害が少なくて何よりだと私も思う。」
王都からの出港予定の変更に渋々従ったグロケット領の食糧運搬船は難を逃れ、他の貿易船も痛手を負うことはなかった。
王配である父は、ラウラと共に遠く東方の国に危機管理の徹底を要請する書類を送った。救護したことをしれっと恩に着せ、自国の沖合で交戦となったことを嘆かわしいと抗議した。
「ヨハネス殿下から、日付まで指定して出港の停止の命令が下った時は何事かと思ったが、殿下はよほど質のいい間諜を手駒に持たれているのだろうな、」
何気なく呟いたマックスの言葉に、リルルは驚いた。
「マックスも今回の命令を知っていたの?」
「ああ、私は一応次期当主だからな。父上が私を使って、リルルから情報を得てこいとまで言っていた時は笑ってしまった。」
「何も聞いてこなかったよね?」
リルルがマックスに会うのは久しぶりだった。学校が違うと、約束でもない限り会う機会もない。
「リルルにそんなことを尋ねているようでは、守ってやれないからな。」
くるり、とリルルを自分と向き合わせて、マックスはリルルの頬を撫でた。見つめる瞳には熱がこもっている。また照れてしまって、リルルは俯いた。
「今回の一件で、父はヨハネス殿下に借りがひとつ出来たと笑っていた。私は、リルルと婚約したから得た恩恵だと考えている。」
「どういうこと?」
「リルルと婚約しなければ、そういう情報も得られなかっただろうなと思った。」
確かにそういう一面はあるかもしれない。でも、父がそういう身内贔屓をする采配を今までしてきたとは思えなかった。
マックスはリルルの頬を撫でて、ゆっくりと囁いた。
「感謝してる。」
「たまたまじゃないの?」
「たまたまでもいい、リルルが私の手の内にずっといてくれるのなら、」
リルルを包み込むように抱きしめて、マックスは耳元で囁いた。
「嫌がらないのだな、」
「抱きしめておいて嫌がれだなんて、抵抗してほしかった?」
リルルは照れ隠しにマックスの背中に腕を回して、お姉ちゃんが喜ぶかなと思いながら背中を撫でた。自分を抱きしめている腕も触ってみる。ここ、確か上腕二頭筋って言うんだっけ、姉リルルが絵を描いてくれて、ここを触ってきてほしいとペンで矢印を付けて部位の名前まで教えてくれたのを思い出す。
姉リルルはいよいよ透明になってきていて、そろそろリルルも時間がないように感じていた。
叶えてあげられる望みは今のうちに叶えてあげたかった。付き合いが長い姉リルルの為に出来ることといえば、中つ国に留学することを除くとそんなことぐらいだった。
「…こういう時に体を触るのか?」
「こういう時以外に触る機会がないんだもの、力瘤とかできたりする?」
お姉ちゃんは泣いて喜びそうだなと思いながら、リルルは尋ねてみた。ぜひとも力瘤にぶら下がってきてほしいと言われたなあ。
かといって姉リルルの好みはマックスではないらしいので、リルルはどこまでやればいいのか判らないなと思っていた。姉リルルのためとはいえ、リルルが触っていたら勘違いされちゃうよね、と思う。
じーっとリルルの顔を見つめて、マックスは何かを考えている表情になった。
「リルル、泊っていくか?」
「大丈夫、酔ってないから、ちゃんと帰れる。」
リルルは笑って答えた。「さっき炭酸水を貰ったわ。お酒じゃないやつ。」
そういう意味ではないのだが、とマックスは思ったけれど、急ぐことはないだろうと考え直した。好奇心で尋ねているだけなのかどうかはゆっくりと確かめていけばいい。
バルコニーで抱き合う二人の姿を、室内から公爵達が見て微笑んでいるとはリルルは気が付かないでいた。大人達は今回の王都からの命令の結果を得て、王族との婚姻を確固たるものに変えようとしていた。第二王女リルルの降嫁先として申し分ない自負と二人の相性が良好である現状を考えれば、後は自分達が上手く外堀を埋めていけばいいだけなのだ。
リルルの体の感触を確かめるように撫でるマックスは、リルルの唇を見つめた。
「キスしても?」
ちゃんと聞いてくるあたりが見かけよりも育ちの良さが上回る人なのね、とリルルは思った。
「また今度。」
チュッとマックスの頬にキスをして、照れて頬を染めてリルルは「筋肉を触らせてくれたお礼、」と笑った。
※ ※ ※
リルルが姉リルルの部屋に行くと、部屋の中はすっかり片付いていて、広い部屋の中にはこたつがポツンとあるだけだった。今まで主に姉リルルがゲームをするために使っていた道具も機械も棚も何もなく、ベッドすらなかった。
すっかり透明な部分だらけになっている姉リルルはこたつに背を丸くして入っていて、部屋に入ってきたリルルに微笑みかけると、「これあげる、」と赤い包みをくれた。ピンクのリボンがかけてある。
隣に座って、姉リルルを見上げたリルルに、「今までのお礼、」と笑った。
「今日、マックスの筋肉、触ってくれてありがとう。すごいムキムキだったから満足した。」
「あんな感じでよかった?」
「ええ、十分。ごめんね、変な事頼んだりして。」
上腕二頭筋ってあれで合ってたんだ、とリルルは少しほっとした。
「大丈夫、リルル、あれぐらい平気だから。」
「もうリルルはお姉ちゃんなんだから、リルルって言っちゃダメだよ? 私って言わなくちゃ、」
「やだなあ、お姉ちゃん、お別れみたいなこと言わないで?」
くすくすと笑いながらリルルが冗談めかして言うと、姉リルルはふふっと笑った。
「リルルと一緒になろうかなって思うの。ごめんね、そろそろ限界みたい。」
「嫌よ、まだ傍にいて?」
ふるふると首を振ったリルルに、姉リルルは微笑んだ。
「それ、ちょっと早いけどバレンタインデー。食べてみて?」
包み紙を解いていくと、中には大きなハート形のチョコレートが入っていた。
「リルル、好きでしょ、チョコレート。」
「うん、好き。バレンタインも好き。」
リルルの国では男性が女性に花束を贈る日だったけれど、毎年姉リルルはリルルにチョコレートをくれていた。小さなハートのチョコレートで、食べるとちょっとだけ、疲れた。
「食べてみて?」
疲れたりしない? リルルはそう言いかけて、最後にくれるプレゼントにケチをつけるみたいで申し訳ないなと考え直して、黙った。
チョコレートをかぷっと齧ると、やっぱりちょっと、体にどういう訳か負荷がかかる感覚がした。
「ごめんね、リルル、最後まで食べてね。それ、私の記憶や思い出の塊なんだ。」
食べるのを止めようとしたリルルに、姉リルルは微笑んで頼んできた。
「どうやって私と混じり合うかを考えた時、それが一番リルルにとって楽かなって思ったから、リルルが学校に通い始めた頃から少しずつ渡していたけど、もうゆっくりはできないみたい。最後だからちょっと大きいから…、大変だろうけど、食べてね。」
リルルに手を添えている姉リルルの手が、どんどん空気に溶けていく。
「お姉ちゃん、嫌よ、行かないで、」
「行くんじゃないの、一緒になるの。リルル、私達はもっと早くに一緒になるべきだった。あなたの精神が未熟なうちに、もっと早くに溶けあうべきだった。」
チョコレートが口の中で溶けるよりも早く、姉リルルが空気に溶けていく気がして、リルルは懸命に目を凝らした。浮かんでくる涙が、姉リルルを余計に見えなくする。
「そのチョコレートは最後まで食べるのよ、私は一緒になって、ずっとリルルの中にいるわ。私のことはお姉ちゃんと呼べなくなっても、あなたの記憶の一部になって、昼間もあなたの心の中にいるから。」
「きっとよ? 尋ねたら答えてね、いろいろ教えてね、」
「自分の頭でも考えるのよ、リルル。私はあなたの一部なのだから。」
姉リルルの声は、小さな声でも、リルルの心に響いた。
チョコレートが無くなる前に、姉リルルは消えてしまった。
リルルは泣きながら、チョコレートを頬張った。
夢なのに疲れるダルさを感じながら、最後まで食べきった。
「終わったわ、お姉ちゃん、」
真っ白な部屋にはこたつも消えて、リルルだけが残った。
やがて、部屋は黒い闇の中へと崩壊し始め、リルルが足元から落ちそうになった時、気が付けば自分の部屋へと降り立っていた。
星空の下の花畑の中にあるベッドの上に座って、リルルはぽろぽろと零れ落ちる涙を拭って、寂しくてたまらないと思った。ベッドに寝そべって泣いていると、自然に眠ってしまった。
夢の中で眠るなんて変なの、とリルルは思った。次、起きるのは夢の中なのかな、それとも現実なのかな。くすりと笑って、リルルは考えた。どっちでもいいけど、今日は疲れたわ。
眠ってしまったリルルを、黒い夜風がふわりと撫でた。
※ ※ ※
なかなか起きてこないリルルを心配して、リディアがリルルの様子を見に来てくれた。
「おはようございます、リルル様、いかがなされましたか?」
ベットの端に背を向けて座るリルルを見て、「起きていらっしゃるならお着替えでもいかがです、」とついてきたサミラが提案する。
「ええ、大丈夫、どうってことないから、」
リルルは大きく伸びをして、落ち着いた様子でナイトウェアを脱ぎ始めた。
「リルル様、今日はいかがなされましたか?」
リルルの寝起きの悪さを知っている侍女たちは驚いた。リルルはいつも半分寝ている状態で起きてきて着替えも甘えたようにやってもらい、あまり頭が起きているとは言えない様子で朝食を食べるのが『リルル』だった。目の前のリルルは自分で服を脱いでいる。
「ん? 別に、これぐらいは自分で出来るわ?」
首を傾げて、リルルはカロヨンが手にしていた下着を一瞥して、「ありがとう、貸して、」と言った。渡された下着も背を向けたまま着替え自分で着替え終えたリルルは、目を見開いて自分を見つめている侍女達の顔を見て、目をぱちくりとした。
「ちょっと調べたいことがあるから、図書室に行ってくるね、」と言って朝食の後、部屋を出てしまったリルルの後ろ姿を見送って、侍女たちは顔を見合わせた。いつもの休日のリルルはだるそうにソファアに座ってしばらく考え事をした後、やってくる講師や家庭教師たちの話に付き合い、ダンスの稽古をしたり、遊びに来るエリースたちや侍女たちの噂話を聞いてお茶をして、のんびりと過ごしていた。
「舞踏会が終わった反動でしょうか。」
カロヨンが心配そうに呟くと、サミラも頷いた。
「ここのところ、緊張されていたご様子ですからね、夢を見るのが怖いのかしらと思って拝見してましたけど…、」
リディアの言葉に、カロヨンもサミラも深く頷いた。
「リルル様の夢のおかげで戦争回避になったのは凄い事ですが、ヨハネス様にお話されていた夢の様子を少しだけ聞いた私でさえ恐ろしいと思ったんですもの、あんな夢を毎回ご覧になっているのだとしたら、眠るのはそりゃ怖くなりますわ、」
「カロヨンから聞いた時、私も怖いと思いました。時見の巫女様って、大変なお役目なのですね。」
「あのお小さいリルル様が時見の巫女様だなんて。私はお傍に長く使えさせて頂いていますが、いまだに信じられないですわ。でも、だからお休みの日はあんなに疲れていらっしゃるのだろうと思って、ゆっくりとしていただけるようにしていますけど…、今日はどうしたのでしょうね、」
「お着替えも御自身でおやりになってましたね。」
「ええ、びっくりです。まるで小さい妹がいきなりお姉ちゃんに育ったみたいで、とても寂しくなりましたわ。」
ふふふふと3人は微笑み合った。
「私達の可愛らしいリルル様が、お姉さんにおなりになったんですね。」
「クリストフ様と何かあったのかもしれませんね、」
「こうやって一歩ずつ大人におなりになってしまうのですね。寂しいですが、成長を見守らせていただけるのは、大変光栄なことですね、」
「ええ、ほんとに。」
リディアは頷くと、「昨日の公爵邸の舞踏会も、実質社交界デビューなされたようなものですものね、」と微笑んだ。
「ご婚約者様のところへいつか嫁がれる日が来るまで、リルル様をお守りさせて頂きたいですね。」
サミラが寂しそうに呟くと、カロヨンも小さく頷いた。チスエルは今月で退職するらしかった。自分たちを取り巻く環境も変わってきている。
「さあ、お昼までに、衣替えを済ませてしまいましょう、出来ることは早めに、春物に入れ替えましょう。」
手を叩いてリディアは気分を切り替えて、二人の同僚を励ました。
リルルは図書室で、書庫の奥の方にある中つ国の文献を調べていた。姉リルルと一緒になったことで、中つ国の図書や資料は読むだけで沁み込むように言葉が理解できた。今まで辞書がないと読めなかった言語が読めるのってすごく便利、とリルルは思った。
中つ国は中央の大陸の大きな国だけあって、発行される書籍や情報が手に入りやすいらしく、近況も事細かに判った。
王太子ミカエルの婚約者の名前も、現在の国の状況も、遠いこの国にいながらよくわかった。
「ふうん、ハープシャー公爵の娘のシャーロットと婚約は10歳と10歳…。」
あれ、ゲームの公式の記録では11歳と10歳じゃなかった? ミカエルの誕生日に婚約したんだよね? ミカエルって早生まれで、確かこの国で言う初等学校にあたる基本学校に通う前に婚約が決まったから、4月始まりの初等学校へ通わなかったとあった気がするけど? 4月始まりの学校で12歳から15歳まで学ぶのなら11歳で入学するよね? もしかしてシャーロットの誕生日辺りで婚約してるの?
もしかして私がこの世界に干渉を加えているのかな。
転生物の物語だと、転生者の記憶や思い出が世界に影響を与えて歯車が狂っていく。
リルルは生まれてから、転生して生まれていている姉リルルの前世の記憶を使って、この世界の歴史に干渉したのかどうか考えた。
姉リルルの認識だと、この世界は程よく日本の便利な生活が取り入れられていたけれど、蒸気船や馬車に頼る生活を考えると19世紀半ば頃の世界に近い文明だろうと思った。
何か新製品を開発したり提案したりしていないはず、誰かに余計なことを伝えていないはず…。姉リルルはかなり慎重にリルルに接してきていた。世界を変えるとゲームに影響すると思い、自重していたのだった。
考えれば考える程、時見の巫女としての世界への干渉の方が多い気がしていた。
だいたいゲームでは、リルルは時見の巫女なんて能力を披露していなかった。時見の巫女なんて、半分庶民ローズより公爵令嬢シャーロットより十分貴重な存在だと思う。
「ちょっと情報が足りなすぎる気がする。」
何かがおかしい。
眉を顰めて呟いて本を広げているリルルを、司書達は朝から勉強とは素晴らしいと微笑ましく思い、見守っていた。彼らはティンカードは今日に限って遅いなとやきもきもしていた。
リルルは壁際の柱時計を確かめて、ティンクが登城してくる前に図書室を出た。
今会いたいのは、リルルが執着するミーシャで、ティンクではなかった。リルルのご機嫌を取っておかないと、自由がなくなる。
執務室の近くまでくると、出勤してきたミーシャに会えた。
「おはよう、ミーシャ、」
リルルは手を振って駆け寄って、ミーシャの腕に触れながら、見上げた。リルルなら、きっとこうしたはず。
「おはようございます、リルル様。廊下は走ってはいけません。コケたら大変でしょう?」
「ミーシャの前で転んだら、抱き起こしてくれる?」
「しません。誰か…、侍女を呼びます。」
うっかり触ると大変なことになると、過去の経験からミーシャは警戒した。
「婚約者なのに触れてはくれないのね。」
「私は沢山いるうちのひとりでしょう?」
「ミーシャが結婚してくれるなら、ミーシャひとりにするわ。」
「朝からする話ではありません。」
「じゃあ、いつするのよ、」とぶーたれたリルルに、ミーシャはそっけなく、「リルル様がまずは高等学校に通われてから、そういう話はしましょうか、」と話を先送りにしてしまった。自分の進路も決まっていないのに、人生を決めてしまうなんて、ミーシャには出来そうになかった。
「で、なんの用なんです?」
「この前は、練習に付き合ってくれてありがとう。おかげで失敗なく踊れたわ。」
照れながら礼を言うリルルが可愛いくて、ミーシャは頭をくしゃくしゃと撫でて、「またお付き合いしますよ、」と笑った。
嬉しそうに微笑んで、「またね、」と去って行ったリルルの後ろ姿を見送って、ミーシャは、こういうのは悪くないなと思った。
ありがとうございました




