表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
42/63

39.あいつは死神だ。悪魔だ。不幸を呼ぶガキだ!

 生き残りの大隊と合流するため移動を開始した。そのころになると沙耶の様子はいつも通りとなる。賀堂も沙耶を気に掛けるがブラッドラットを撃った直後の顔が頭に残っていた。

 経験上、似たような境遇の人間は見たことがある。一時的な興奮状態に陥るので珍しい事ではない。沙耶の場合は興奮ではなく悦そのものだ。まるで昔の扇彩華を見ているようだった。



 第2大隊が籠っているコンクリートに覆われた建物に入るとやつれた短髪の女性が現れた。



「助かりました。私は『青風』の清水です。あなた達はどこの部隊でしょうか?」

「第7補給部隊『老狼』。俺は小隊長の賀堂だ」

「賀堂って……あの、守護官の賀堂様ですか。しかし、なぜ補給部隊が?」



 彼女が疑問に思うのも致し方ない。賀堂らは司令部の命令を受けたのではなく独断で動いている。



「いや、俺が司令部に救援を要請しても奴らは動こうとしなかった。勝手に来たんだよ」

「なんと……。補給部隊の方は大丈夫なのでしょうか」

「それについては心配ない」



 清水に大まかに戦況についてと第2先行大隊に救援が来ないことを説明するとがっくりと項垂れてしまった。



「そんな……。私たちにはもう弾薬が僅かにしかありません。第1大隊とは連絡が取れませんし風間隊長も帰ってきません。正直、持ちこたえるのは難しいです。多くの人間を失いましたので……」

「第1大隊は軍商混合部隊だったな。何があったか知らねぇが今はてめぇらを心配しろ。この部隊は一時、俺が預かる。意義はあるか?」



 清水は「いえ、ありません」と言うと取り合えず中へと建物内に賀堂たちを招き入れた。中へ入ると疲労しきった人間ばかりだ。壁に背もたれる者、ケガを負い横になっている者、睡魔と戦いながら見張りをする者。様子を見る限り長くは持たない印象だ。



「まずは整理しよう。第2大隊は既に戦力的部隊ではない。正直、後続の部隊を頼るしかないだろう。その部隊も伏見が合図を出していないとなると他の先行大隊の救援を期待したいが……」

「それも難しいね。敵前逃亡は反逆罪に掛けられる。つまり僕たちはやるしかないのだよ。出来るか出来ないかではない。断行の一択だね 」



 綾崎が嫌味たらしくつぶやいた。編成時に伏見について不安要素がある事が的中したからだろうか。人命は二の次の人間だと言うことがよくわかる。



「まず、俺たちがやるのは人命救助。風間の行方も分かっていないからな。清水、まだ見つかっていない隊員はどのくらいだ?」

「ほとんどは風間隊長が救出されました。しかし、あの小さな女の子。舞って子を救助に行ってから戻ってこないのです」

「どこにいるか検討はつくか?」



 清水は「……はい」と言うと窓際まで歩き彼方に指をさした。賀堂たちはそろって指先の方向に目をやると他の瓦礫同然の廃墟の家屋よりも目立って高い建築物だった。恐らく過去に立ち並んだビルの一つだろう。周りにもそれらしきものが存在するが崩れ落ちている。



「……遠いな」

「舞は最後まであそこに残りました。私たちが撤退する時間を稼ぐって言いまして……」

「君たちはたった一人少女を残して逃げたのかい?」



 綾崎が毒を吐いた。その瞬間、場は凍り付いた。沈黙の中の沈黙。反論はなく誰もが面を上げることはなかった。いや、上げられなかったのだろう。清水は顔をしかめ、音が聞こえそうなほど歯ぎしりをした。



「綾崎さ――」



 沙耶が空気を読んで綾崎を止めようとするが賀堂が制止した。沙耶は賀堂の顔を見上げるがいつも以上に険しい顔つきであった。



「……自分から言い出したのです。私は適合者だ。貴様らが残るよりずっといいだろうって。風間隊長が止めるように言いましたが舞は残りました。おかげで被害は最小限に抑えられましたよ」

「でも、舞ちゃんは帰ってこなかった。それで風間が救出に行ったのだろう? 何人だ? 何人で助けに行ったんだ?」

「――ッ。風間隊長……一人です。やめるように言ったのです。もう死んでいるはずだ。助けに行くのだったら一時撤退する意味はないって。だけど、隊長は行ってしまいました。隊員を見捨てることは出来ない。皆が行かないなら一人で行くと……」



 ギリギリと歯を食いしばり眼光を見開いて話し出した。綾崎はその姿を見下すように顎が上がっている。



「で、一人で行かせたと。どうやら筆頭商隊の『青風』は僕の見込み違いだったようだ。仲間を平気で見捨てる奴はクズだ」



 慈悲のない言葉に清水の腕はワナワナと震えていた。下手をしたら腰に付けているホルスターから拳銃を取り出してもおかしくない状況だ。しかし、清水は呼吸を落ち着かせる。



「……だから、……だから私は舞を『青風』に入れるのを反対したのです。絶対に不幸が起きる。商隊員が危険に会うって言ったのに隊長は聞き入れてはくれなかった。あいつは死神だ。悪魔だ。不幸を呼ぶガキだ!」

「……君は知っていたんだね。舞ちゃんの事を」



 綾崎は息をつくと肩を落とした。そして清水に背を向けると見張りをすると行ったまま建物から出ていってしまった。

 賀堂はため息をついて清水に歩み寄る。



「内の奴がすまねぇ。後で言っておく」



「……いえ、こちらこそ。何と言えばよいのでしょうか。余りにも的確に突いてくるものですから私も冷静ではありませんでした」



 視線を落とし縮こまる。手を目に当てる姿を見ると情けなさを感じているのだろうか。



「風間の事は俺が何とかしよう。お前たちはここの守備を。弾がねぇのは分かっている。第4大隊及び司令部に救援要請をした後に第1、第3大隊に通信を試みてくれ」

「分かりました。……司令部は動いてくれるのでしょうか」

「やってみないことには始まらん。何度も要請しろ。とにかくしつこくだ」



 清水との話を終えると綾崎を探しに建物を後にする。「行くぞ」と沙耶に声を掛けると「待ってください」と困惑気味の沙耶は賀堂の背中を追った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ