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【完結】終末世界の不死商隊  作者: 稚葉サキヒロ
名古屋軍討伐隊
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37.大人は嫌ですね

「ダイヨンセンコウダイタイ、キュウエンニムカエ」

「コチラダイヨンセンコウダイタイ、オウセンニテフカノウ」



 司令部と前線からの連絡が絶えない。状況報告では第2先行大隊が壊滅。第4先行大隊は敵の猛攻により動くことが出来ない。しまいには後のやり取りで第1及び第3大隊の通信不能と報告される。



「これは芳しくないね。第一大隊に関しては軍の部隊じゃないか。一体何があったのかな」

「市街戦なのがまずいのだろう。人よりも動物の方が動きは機敏だからな」



 見通しの良い原っぱならまだしも生物たちは既に人間に捨てられた街を拠点としている。多くのビルや家屋が立ち並ぶ中、LEによって破壊された瓦礫が散らばり足場も悪ければ見通しも悪い。地の利は生物側にあると言う事だ。

 だが、軍人及び商隊員に構成された先行大隊がいとも簡単に壊滅するとは考えにくい。それに第2から第4大隊には筆頭商隊が所属する戦術的大隊である。要の先行大隊が崩壊した暁には名古屋討伐隊の勝ち目は大いに失われてしまう事と同じだ。



「ともかくだ。無線が繋がらないのは仕方がない。動作が不安定なのはよくある事だからな。それよりも第2大隊の筆頭は誰だ? そっちは壊滅したことが分かっているからな」

「ちょっと待って。えーっと」



 綾崎が棚から資料を引っ張り出し編成表を探し出す。その間に二人の様子が騒がしくなったのに気が付いてか沙耶がテントに戻ってきた。



「どうかされましたか?」

「ん? あぁ、第2先行大隊が壊滅。想像以上に苦戦しているらしい」

「えっ? でも、先行隊は特に有力な人たちが集まっているのではないのですか?」



 沙耶の言うことはもっともだ。より、強者を集めた先行隊で敵を掃討し、後続の強襲部隊で敵を畳みかけるのが作戦草案だ。これは、指揮官の伏見中将が出した案で参謀らも同意したらしい。だが、結果は連絡が取れない、壊滅、足止めを食らっている状態でとても敵を叩けるとは思えない。



「あった、あった。第2大隊は……、参ったね……、『青風』だ」



 綾崎が重々しい口を開いた。『青風』と言えば賀堂らが名古屋を歩いている時に出会った風間という青年が商隊長の筆頭商隊だ。



「はぁ……、ったく」



 賀堂もさすがに風間の事の安否を考えると頭が痛いようだ。複雑な想いがある事だろう。口にはしないが態度で現れていた。

「『青風』がいても厳しいか。これは死人が多そうだね」

 飽くまでも客観的に綾崎は言った。それが無責任とか薄情ではなく冷静な判断の元、言葉にしたに違いない。二人とも非情な人間ではないのだ。



「えっ……?」



 青風と聞いて沙耶はある少女を思い出していた。舞と名乗っていた少女だ。小学生ぐらいの背丈で黒い髪の毛を後ろで一つに結い、黒のレザーコートにジーンズ姿の少女だ。

 あの少女は確か『青葉』と一緒のはず。そのことが頭から離れない。



「賀堂さん! あの、名古屋で会った女の子を覚えていますか?」

「覚えている。ちいせぇ癖に俺と一緒の人間だからな」

「あの子『青風』と一緒にいますよね?」



 賀堂は沙耶が話を持ち出した時から何を言わんとしているかは想像が付いていた。だが、とやかくは言わず話を聞いてやった。そして出した言葉が



「だからどうした?」

「えっ? だって、賀堂さんと同じ適合者じゃないのですか? もしかすると死んでしまうかもしれませんよ。あの女の子も商隊長さんも!」



 賀堂の冷たい言葉が信じられなかったのだろう。目を見開き声を荒げる沙耶は感情のままをぶつけた。



「あぁ、そうだ。ここはそういうところだ。おめぇが何を言いてぇかなんてよく分かっている。うんざりするほどにな」



 パイプイスに座る賀堂の声もいつもとは違う。はっきりと言葉を述べるがどことなく力がない。別に沙耶の言うことを否定するわけでもない。



「おめぇが少しだけ顔を知っているからって助けてやりてぇと言いてぇんだろ? それは誰だって同じだ。人間って不思議なもんでな。少しだけでも顔を合わせただけで手を差しだしたくなる」

「じゃあ、助けに行くのですか?」



 沙耶は聞いた。賀堂の真正面の椅子に座って顔を伺うように尋ねた。



「……いや」

 賀堂は首を振るだけだった。



「それは上が決めることだ。勝手なことは出来ん」

「大人は嫌ですね」

「その通りだ。何かに縛られて自由に生きることが出来ない。それが大人だ」



 沙耶の毒舌はその通りだ。賀堂は補給地点を任されている以上勝手なことは出来ない。だが、筆頭守護官として、先行隊の人間よりも長い年月を生きる長老者として若い命が散るのを見ているだけというのも好かん。



「コチラ……ダイニダイ……タイ、カザマ。ナカマノキュウエンノタメ、トツゲキスル」

「ジョウキョウホウコクヲセヨ」



 司令部から流れる言葉は至って事務的だった。風間の言葉はそれが最後で他の人間に代わり状況を説明する。



 第2先行大隊は敵の奇襲を受け後退。部隊は散り散りになり壊滅状態に陥ったが再集結し何とか持ちこたえていたらしい。だが、時期に包囲され補給路が断たれてしまった。苦渋の決断で補給路を確保すべく敵陣を突破しさらに後退をする。援軍が来ないと分かると敵中に置き去りにした仲間を救出すべく風間が突撃を敢行したということらしい。

 現在は数十名で戦線を持ちこたえるのに精いっぱいで突破されると足止めを食らっている第4小隊が挟み撃ちにされる危険があるという。



「後続を出せ。何をモタモタしている」

「それはないね。何せ後続はほとんど軍人に構成されている。意味が分かるかい?」



 綾崎が賀堂を諭すように言う。つまり、伏見中将は商隊で構成された部隊を捨て石にするつもりだというらしい。



「賀堂さん!」

「……分かった。司令部と掛け合うか。賢い大人は交渉することが出来るからな」



 賀堂は沙耶のヘルメットを叩くと無線機の前に座わり通話を開始した。


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