奪還編 奪われた死⑤
世界を決めるは意思。
煮えたぎり混沌に限りなく近く、だが閉じ込められた不定形をもって形作られた世界の形を作り出すのは、数多の世界で伝説となった勇者や聖女と呼ばれた者達が抱く強き意思。
せめぎ合う意思により万華鏡のように形を変えていく世界において、恒久的な拠点を作るのは難しい。
強固な意志を持つ者が拒めば同じ世界にいようとも巡り会えず、弱者はどこまで逃げようとも強者に望まれればその眼前へと引きずり出される。
全ては心。それによってこの世界のルールは、強者は決まる。
だから勇者は、聖者は、賢者は、覇王は、永遠と戦いを続ける。
己の思いを、欲望を満たすために。
故に楽園。ここは楽園。
強き者が永遠の命を得て、他者が持つ永遠を奪い、限られた無限の力を得ようと、死者の出ない死闘を繰り広げる世界……
「よごじなざい! それはあだしだちのものでずっ!」
超重量フレイルにより潰れた頭蓋を再生する間もおしみ、武装シスターは砕け散った歯と共に聖句を下し厳命させる。
それは世界に愛され世界を魅了する聖女にのみ許された絶対命令権。
彼女の声に振るえた世界はその支配下に置かれ、戦場に崩れ落ちてなお藻掻いていた巨人から皮と肉と血をぎちぎちとはぎ取り、地獄の苦痛を与え、その意思を砕き永遠をうばおう責め苦を与える。
「やらせるか! 生成ロジック45から70! 痛覚遮断! 構築ギガントサイボーグ!」
若きマッドサイエンティストが義手となった右手を振るい亜空間倉庫を開放。
空中にぽっかりと浮かんだ虚空よりあふれ出たドローンは、巨人の肉体に取り付き、瞬く間にその欠落を埋め、さらに強化していく。
「感謝するドクター! 潰れろ復讐に捕らわれた愚者どもが!」
生身を維持していた片目に憤怒の怒気を込めた巨人が再生途中の右腕に、雷を纏わせながら振り下ろす。
轟く轟音と共に周囲数キロにプラズマ放電が扇状に展開され、一度に数百以上の強者達が、敵も味方も関係なく大地と共に吹き飛ばされる。
消し炭となって霧散する肉体。だが魂は滅びず。
「粉々にしてくれてありがとう! デカぶつさん! こっちのほうが早いです! 世界よ錆びて朽ちよ!」
完全に肉体が滅びた瞬間に即時に復活したシスターはまたも世界に命令を下し金属どころか世界そのものに朽ちて錆びさせる自殺命令を下す。
その咆哮を合図に一騎当千の勇者達が、さびつき崩れ落ちていく金属の鱗の下から皮膚を再生させ始めた巨人へと向かって、数百年も続く、数えることさえも無意味となった突撃を開始した。
それは不死者達の戦い。英雄達の戦い。
この世界で得た不死を持って、己の世界に復讐しようとする者達の。
この世界で得た不死を持って、さらなる世界を手に入れようとする者達の。
「醜悪な……気分が悪い。 畜生道に落ちた餓鬼共が」
相手の心を折るまでいつ終わるとも知れない死闘に心血を注ぐかつて自らの世界で英雄と呼ばれた者達のなれの果て。
どこが楽園だと吐き捨てた縁は、戦場で繰り広げられる死のない戦いに怒りをあらわにする。
誰もが死なない故に起きる、仲間を傷つけることも、己の身を守ることもしない、ただただ敵を屠ろうとして繰り広げられる欲望のぶつけ合いでしかない。
無論戦いとは欲のぶつけ合いであり、無条件で神聖視する気は縁にもない。
だが”縁”を司る神の一柱である縁にとって、相手の全てを拒絶し絶とうとするこの行為を認めることなど出来ない。
「ふふ。お怒りですね縁様。よろしければあちらの方達に思い出させる程度ならすぐに出来ますが、楠木様いかがなさいますか?」
まるで幼児達の戯れをみているかのように朗らかな笑顔で姫桜がくすくすと笑うと、硬い表情を浮かべていた楠木へと尋ねる。
何を思い出させるか?
それは聞くまでもない。玖木の頭領は、九鬼の頭領、姫桜とは鬼王。
世界を救う力を持つ英雄の群れなど、過去に幾度も違法召喚主世界を殲滅してきた殲滅の九鬼にとっていつものこと。
違法召喚主とその世界に、報復し、戒めを与えることこそが玖木の本質。
だがそれは日本国異界特別管理区第二交差外路『特二稀鬼院』としての玖木だ。
楠木ならば、今は特三だから無しだと軽口混じりに即座に否定するいつものやりとりだが、
「……姫さんは隠形に集中で頼む。すり抜けてあいつらの街に向かう。主力が戻って来るまでに、紹介してもらった協力者にコンタクトを取りたい」
いつもなら軽口で否定する楠木は、硬い表情を崩すことなく、掌の小石を強く握りしめる。
預かった小石は各勢力の拠点に築かれた建物の欠片であり、その繋がりをたどることでこの万華鏡世界でも迷うことなく、拠点街へと到達することが出来る羅針盤の役割を持つ。
死が無い世界。己も他者も傷つけることに躊躇がない世界。
力ある者が思い通りにする世界。
縁も姫桜も強者故に普段と変わらぬままに判断できるのだろう。
だが楠木は弱者。
故にこの世界における弱者である、違法召喚被害者が感じているであろう恐怖を感じ取ることが出来る。出来てしまう。
「ふん。下らぬ輩に関わる時間は惜しい。行くぞ」
「ふふ畏まりました。かくれんぼを続けましょうか」
楠木は弱者である。
大切な者を、無くした者を今も助けられぬ弱者である。
だからこそ必ず召喚被害者を取り戻すという、その強固な意志は絶対に折れない。
その心地よい弱さを尊ぶからこそ、超常の力を持つ神と鬼は、ただの人を愛で、付き添っている。
ちょっとしたご縁で同じような設定で書いてる作品を拝見しまして、
あーやっぱりこういう話も好きだわと確信。
モチベーション回復して7年かけなかったのに2時間で続きがかけました。
永宮未完の方を書く予定がこっちになるとはw




