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幼い頃の神崎司にとって、如月夏希は世界で一番大切な女の子だった。
いつも一緒にいた。
庭を走り回るときも。
食事をするときも。
家族同士のパーティーで大人たちの話に飽きてしまったときも。
二人でこっそり抜け出して、屋敷の裏庭で遊んでいた。
「司くん」
「ん?」
「大きくなったら何になるの?」
「父さんの会社を継ぐ」
「じゃあ私は?」
司は少し考えてから、当たり前のように言った。
「俺のお嫁さん」
「……え?」
夏希の頬が赤くなる。
「だって、ずっと一緒にいるだろ」
「……うん!」
小さな夏希が笑った。
その笑顔が、司は大好きだった。
だから。
その約束を壊したのも、司自身だった。
きっかけは、一通の手紙だった。
高校生になった司のもとへ、夏希からだと思われる手紙が届いた。
そこには、残酷な言葉が並んでいた。
自分との婚約は家同士の都合。
神崎財閥の跡取りと結婚できればそれでいい。
自分自身を愛しているわけではない。
司は何度も読み返した。
信じたくなかった。
けれど、ちょうどその頃から夏希が少しずつ距離を取っているようにも見えた。
本当は、それも誰かが仕組んだものだった。
夏希が司に渡そうとしていた手紙を隠し。
司に届くはずだった贈り物を捨て。
二人が会う機会を減らした。
それでも司は知らなかった。
だから、傷ついた。
――ああ。
――俺だけが、本気だったんだ。
そう思った。
それから司は、夏希に愛情を見せなくなった。
好きだったからこそ。
これ以上、自分だけが傷つくのが怖かった




