第一話 聖剣エクスカリバーを持つ魔王
最強とは何を指す言葉なのか。
それはシンプル「最も強きもの」の事だ。その言葉に嘘はなく、地球上で…否、宇宙で最も強きもの。それが最強だ。
そして、また一つ問おう。最強の存在とは何か。
世界を闇から救う勇者?魔法を極限まで鍛えた大魔法使い?悟りを極め、極地へと達した僧侶?
捉え方は人それぞれだが…少なくともこの物語の主人公。神野ヒカルは違っていた。
「僕の将来の夢は最強の魔王になる事です!」
即行で指導室送り。
ここ魔法学園は、超エリートのみが通える名誉ある学園…そして、その学校に通う僕も超エリートなのだ。
神野ヒカル(12)。貴族育ちのお坊ちゃん…。生まれつき魔法と武術の才能があり、将来は勇者候補としても名高い。ただ、日々の鍛錬は欠かさず、夢は常に最強であった。
しかし、最強とは世界有数の富豪よりも、歴史に名の残る魔法使いよりも難しい存在……何よりも最もな存在なのだ。
「今日は流石に怒られすぎたな〜。」
「そりゃぁ、あんなこと口走るからだろ。」
「流石にびっくりしたね…まさか魔王とは。」
昼休み食堂で食事をとる僕と友達のジンとマル。
「てか、魔王ってそんなに変なこと言ってる?別に夢なんだし許してくれないものかな?」
「流石にね〜。魔王はよく市民も殺しているし、勇者はその魔王を討伐する職業だ。ただ、今の魔王はすっごく強くて、なんせ300年負けてないとか……!」
苦手なブロッコリーをどかしながら、僕に説明してくるジン。こう聞くと納得だな、怒られるのも…。
「ただ、ヒカルって子供の頃からずっと最強を夢見てるよな。まだ子供だけど。」
「当たり前だ!魔王は圧倒的最強の存在!そして、その魔王になることは夢ではなく明確な目標!」
2人は呆れたような顔で僕を見るが、俺はそんな目を気にする事なく、ステーキにフォークを刺した。
僕は毎日鍛錬をかかさなかった。たとえ台風が来ようとも、トルネードが来ようとも、魔物が襲来しようとも……。
そうして、僕は力をつけた。
まず、家に帰ると同時に木刀を手に取り家を出る。
家から遠く遠く歩いた場所にある森。その中に修行場所がある。
森を抜けると、そこには滝と大きな岩があった。
僕はそこに立ち、目を閉じて木刀を構える。肉体が自然と同化する。その時を待つ……。空から落ちてくる水滴。体につく虫になど気を取られる事なく、ただ木刀を前に構える。
その瞬間目を開け、僕は全力で木刀を振り返る。
木刀から放たれた斬撃は滝に届き、”水”を切った。
そうして僕は肩の力を抜き、僕は素振りを始める。超高速でありながら、ものすごく丁寧な所作。
1日3万回の素振りを終えたところですでに日は沈んでいる。親もこの修行を承諾してくれているが、いつも遅くて心配をかけてしまう。
きっかけは分からない。いつからかも覚えていない。
ただ、物心ついた時から、最強を夢見て、魔王を志していた。そして、それはいつしか目標へと変わり、常人の百倍ほどの鍛錬を積んだ。
ただ、夢見てただけだ。男の子が最強を夢見ることなど、一度はあるだろ?
それが5歳からで、その夢がまだ続いているだけ。目標という延長線上で。
そうして、僕の鍛錬の日々は続いた。
変化と言えば、あの日から6年が経ち、十八になったことと、一人称が俺に変わっていた事ぐらいだろう。それ以外は何一つ変わらない。性格も顔つきも目標も。
そんな俺の人生に転機が訪れるのは、18になってから三日後のことだ。
「ヒカル…ついにこの日が来たな。」
マルが俺の肩に手を置きながら、学園を見つめる。
「俺たちもここまで成長したんだ。魔法学園高等部の正式な卒業!」
ジンは拳を握りしめながら、喜びで体が震えている。
「今までありがとな……、魔法学園……」
俺たち3人は今までの思い出に浸る。苦しい鍛錬、めんどくさい授業…今となればあらゆるものが思い出だ…!
夕方になり、俺はいつもの道を3人で帰る。するといつもは広場があるはずの場所に人だかりが出来ているのに気づく。
「なんだろう?見てみるか。」
そして、俺たちが前に出ると、その広場の真ん中の岩に剣が突き刺さっていることに気づく。
「これはアーサー王伝説の聖剣!エクスカリバーに違いない!!!」
その時真横で老人が大きい声を出し叫ぶ。
「じいさん、そのエクスカリバーってなに?」
「エクスカリバーはかのアーサー王がまたれたとされる最強の剣!!!アーサー王の光魔法がこめられており、今から300年前の最強の勇者もこの剣を抜いたとされているのだ!!!」
俺はその会話の中に出てくる最強という単語に反応する。確かに、教科書に出るほど聖剣勇者の話は有名だ。なんせ今の魔王が誕生するまで世界の脅威を1人で守っていたとか。
大人の人たちが大人数で必死に抜こうとしたら、岩自体に破壊魔法を放つがビクともしない。特殊な魔法の加護が加えられているようだ。
「これって俺も抜いてみていい?」
俺が剣に指をさし、その老人に話しかける。すると、周りの大人が一斉に声を出し笑う。
「オメェさんみたいな見習いに勇者の素質はねぇよ!」
「聖剣は人を選ぶんだ!君は勇者でも最強でもない!」
大柄の男達が俺を囲み嘲笑う。しかし、そんな声は無視し、人混みを掻き分けながら剣の前へと立ち、片手で柄を掴み、最大の魔力を込める。
「うぉぉぉおおおおぉぉお!!!!!!!!!」
俺が全力で聖剣を抜こうとする。と、同時に岩から眩しい光が放たれる。
「あ、アーサー王様の光!!!」
老人が大きい声で叫び、倒れ込む。俺はそんなのに構ってられないほど全力で引き上げる。
「…オラァァァァァアアアア!!!!!!!!」
その瞬間岩が弾け飛び、聖剣が姿を現す。その神々しい光魔法と最強の名に恥じないオーラは周りにいる大人を圧巻させる。
ここから神野ヒカルの勇者伝説が始まる…予定だった。
それからというものはとっても忙しかった。地元の記者からのインタビュー。王宮にも招かれ、家では毎日ご馳走を食べた。
なんとなくで抜こうとしてみた聖剣だが、正直抜けると思ってなかったので、ものすごく戸惑っている。
「まさかこんな事になるとはね…。」
マルが俺を観ながら喋りかける。
「あぁ、まさかヒカルに伝説の勇者の素質があるとは…学園では優秀だったけど、それはヒカルの鍛錬あってこそだと。」
「俺が1番びっくりしてるよ。まさか、聖剣がたまたま抜けただけで伝説扱いなんてな。」
俺は背中にかけた聖剣を取り出し、それを見つめながら感傷に浸る。
「ただ、よかった!最強の夢が叶いそうで。」
「……そ、そうだな。」
「どうしたんだ?そんなことより、魔王城へ明日から1人で向かうんだろ?その為に集まったんだから。」
「そんだぞ?お前が勇者となり、この世界を救ってくれることを期待してるぜ!!!」
「お、おう。頑張ってくるわ!」
そうして、翌日。俺は村から離れて魔王城へと向かった。
それからはいろいろあった。勇者として魔王を倒してくれるという期待の眼差し、現在の魔王が強すぎるあまり心配の眼差し。そんなものがたくさんあった…たがらこそ、俺は村のみんなの期待を背負って頑張る…なんてことはなかった。
「勇者なんてやってられるか!俺は魔王を目指してるんだよ!魔王を!!!」
俺は1人跡地となった魔王城で座り込む。正直魔王討伐は余裕だった。日頃の鍛錬が身を結んだのか、聖剣エクスカリバーが強すぎるのか。ま、その両方だろうな。とりあえず余裕だった。
「ヒカル様、新魔王誕生を祝福致します。」
「おう!ありがとな」
こいつは吸血鬼のローズ・リード。なんせ前の魔王が性格ゴミすぎて、すぐに俺のところへ寝返ってくれた。そのおかげで円滑に倒せたのなんの。
「ローズ。カルラ。ナフス。俺が今日から魔王だ。これからもよろしくな。」
俺の前に跪く3人に一つ挨拶をしてから、俺はすぐに仕事に取り掛かる。
まずまず「勇者として旅に出た俺。ただ、実は魔王倒した瞬間新魔王になりましたー!」って話は流石に世間は許してくれませんよ。
だから俺は対策をとった。それは「魔王を倒すと同時に勇者も死んじゃったよ作戦」だ。今から部下の3人には、一緒に旅に出た仲間のフリをしてもらい、村へと向かってもらう。そして、泣き真似をしながら俺の死を伝える…そうすることで俺の存在は世間から死んだことにされ、俺は心置きなく、魔王になることが出来るのだ!!!
……っていうことをしたのが一年前。そして、ここからは魔王になった神野ヒカルではなく、一般生徒として、魔法大学に潜み込む、神野ヒカルが姿を変えたもう1人の人物。ルヒカ・マージョの話だ。
よぉ、俺だ!ルヒカ・マージョだ!魔王になった俺は姿を変え、魔法大学に入ることができたぞ!なんせ魔王城は暇すぎるからな!
そうして俺は魔法大学の廊下を歩いていると知っている顔に出会う。
「今日の講義って何時からだっけ?忘れたわ。」
それは幼馴染のジンとマルであり、幾度となく見てきた顔に心が躍る。
「何時だっけ、間に合わなかったやべぇぞ…。」
2人が話しているのを隙に俺が割って話しかける。
「君たち僕と同じ講義だね!一緒に行かない?」
俺は心の中と話している時の一人称を使い分けるという高難易度の技を使いながら、2人に話しかける。
「えっとー、ごめん。君の名前は?」
マルが俺を警戒したようにきいてくる。珍しい感覚だ。
「ごめんごめん。俺はルヒカ。ルヒカ・マージョだ。気軽に読んでくれ。」
2人は俺にすぐに打ち解け、また話す仲となった。やっぱり中身は変わってないからか、俺はヒカルに似ているという話をよくするな。ヒカルの話を出す時の2人は少し悲しい顔をしていて、見てて嬉しかった。
「なぁ、ルヒカ。君の夜食べに行くかい?」
俺は夜ご飯を誘われ、快く承諾しようとしたが、脳内に通知が届く。誰かが魔王軍領地に入った時の通知だ。
「ごめん、今日は無理かも!また誘ってくれ!」
俺はそういうとすぐに大学の人の少ない屋上へと走る。
肌寒くなる季節となり、太陽が沈むのも早い。
「ナフス。今なら現れていいぞ。」
俺が人がいないことを確認し、合図すると目の前の闇からナフスが現れる。演出かっこいいなー。
「すみませんヒカル様。今、魔王軍領地に勇者と思われる人物が仲間を連れて侵入しました。こちらで対処は可能ですが、いかがなさいますか。」
「いや、いい。初の魔王の仕事だからな。俺が行かせてもらおう。」
俺は《神野ヒカル》の姿に戻り(少ししか変わらんが)、
服も魔法で早着替えだ。
「流石…ヒカル様お似合いでございます。」
「ん、ありがとう。そんなことよりも先に向かっといてくれ。俺もすぐ行く。」
そういうとナフスはまた闇へと消えていく。
俺は屋上から大学を見下ろす。夜の静まり返った大学…俺は拳に微弱の魔力を込め、床を触る。
「光あるところに影は生まれ、闇深き陰濃いところに希望は灯る。眩き絶望よ、昏き救済よ。双極の力をもって現世の理を縛れ。」
闇魔法と光魔法を混合させた塊を床に放つ。それは俺の存在を世界に知らしめる。そして”最強”の魔王としての証。
大地は揺れ、大気も変わり、雲がなくなる。
「さぁ、宴と行こうか。」
俺ーーリード・マイバスは勇者だ。生まれた時から才能があり、小さい村で育ったが、それは王国にも目がつくほどだった。ただ、俺は怖がりだった。いくら自分が強かろうとも、魔王と戦うのは嫌だ。そんな時、聖剣勇者の登場で俺は魔王城に行かなくて済むはずだった。なのに!なんで死んじまうだよ!
魔王城を目の前にして、俺はまだビビり倒している。
ただ、俺には仲間がいる。一緒に旅をしてきた大魔法使いジュン。傷ついた時癒してくれた僧侶のマニー。そして、俺の親友でもある戦士のゴンドラ。コイツらとならどんな敵でも勝てるという自信があった。
俺は衝撃だった。魔王城最上階で見た光景がだ。
魔王って言ったら、とても大きな巨体であり、ツノとか翼とかがあって、そんで持ってとても硬そうな鎧を着てて……とにかく、そういう魔王を予想していた。ただ、目の前に立っているのは俺と同い年ぐらいの男性。
黒い髪、白と黒と赤の服に背中には剣をしまっている。
…とにかく想像と違っていた。
「お前たちが勇者どもか。」
魔王が話しかけてくる。俺たちは剣を構え、警戒体制を取る。
「安心しろ、合図もないのに襲ったりはしない。少し話がしたくてな。」
魔王は両手をあげて敵意がないことを示す。
「ここまでの旅。どのようなものであった。」
「…俺たちは厳しい修行を重ね、村のために、世界のためにお前ら魔族と戦ってきた!俺がお前をここで倒す!!!」
俺がそう答えると魔王は頭を掻いてそっぽを向く。その姿に怒りを抱いたジュンは攻撃魔法を仕掛ける。
「【雷槍】!!!」
ジュンは三回ほど杖を振り、魔王目掛けて魔法を放つ。すると電気が集まり、大きな雷の槍が魔王を襲うが、魔王はあっさりと指でそれを消してしまう。
「話そうと言ったのに……仕掛けたのはそちらだぞ?」
魔王は俺の顔を見て、大きな笑みを浮かべながら椅子から立ち上がる。
(見逃すな、見逃すな、見逃すな!!!)
いつ仕掛けてくるかわからない魔王に魔力を全開にする。
魔王は二歩、3歩と間合いを詰めると同時に、その瞬間視界から消える。
「!?!?!?」
その瞬間俺は頭を掴まれていた。気づかなかった。目の前にいたことをじゃない。掴まれて床に叩きつけられたということに気づかなかった。それほどに魔王の攻撃は速かった。
「グッッハァ!!!」
俺は床に叩きつけられ、そのまま突き破り下へ下へと落ちていった。俺は落ちている間、笑いを浮かべた魔王の赤い目を見るしかなかった。
床を突き破り、1番下へとつく。俺は加護の魔法で致命傷を回避し、すぐに剣を構え直した。
そして、俺はまだ驚きの光景を見た。
魔王を剣を構えている…。その剣からは単純な魔力云々では説明がつかないほどの光魔法。そして、魔王自身の闇魔法が混ざっていた。
あの剣は間違いない。聖剣エクスカリバーであった。
なぜ聖剣を持っているのか。なぜ魔王が人なのか。なぜそれほどに強いのか。そんなことはどうでもいい。どうでもいいと思えるほど……魔王の剣は美しかった。
「構えろ勇敢なる勇者よ。」
俺は魔王に言われ、我に帰る。いや、あの時俺には魔王を殺すなどの気持ちは一切なかった。ただ、この魔王とやりたい。一戦交えたい。ただその感情だけを疑わず、剣に炎を纏った。
「我は勇者リード・マイバス!!!この名の下に!俺は貴様を倒す!!!」
俺が魔王城全体に響き渡る声を出す。
そして、魔王は大きく剣を振り上げる。俺も答えるように猛ダッシュで魔王に斬りかかる。
「流石だ勇者よ。少しは楽しめたぞ。」
「うぉーーー!!!!!!!!!!!」
魔王はそう言い残し、剣を振りかぶる。
そして、俺の人生は幕を閉じた。だが、悔いは何一つないと思う。
神野ヒカルは1人戦地を無心で眺める。
「楽しかったなー、あいつ強かったもんな。」
「ヒカル様お疲れ様です。既に勇者パーティーの他の方は村に送り届け、安否も確認されました。」
「ん、お疲れ様。ナフスはゆっくり休んでくれ。」
俺は最強を目指して魔王になった。勇者で世界を救うのではなく、魔王で世界と戦うことを選んだ。悔いはない。そして、俺は今世界の美しさを知った。魔王になり、聖剣を持った俺でさえ届かないほどの強さの者はまだまだいる。俺は最強になるために、全てを喰らうことを決めた。こうして聖剣魔王伝説が始まったのであった……。




