第四十九話 「朝の談話」
日が上がりきった頃、私は目を覚ました。昨日の事はよく覚えていないし、ちょっとした頭痛と気持ち悪さに襲われた。
「あぁぁぁ…これが二日酔いかぁぁぁ…」
「おうラルダ。起きたか」
「クレス…君も相当飲んでたよね?なんで平気なの?」
「体質の差だな」
「私、お酒向いてないのかぁ…?」
「普通だろ。俺が異常なだけで」
すまし顔でそう言われてもなぁ。どうしようかこれ…『究極治癒』で治せるかも微妙なんだけど。まあ一か八かやってみよう。
「『究極治癒』………あれ、これ解毒作用もある?」
「知らなかったのか?治癒魔術は究極形まで極めると解毒作用も付与されるんだぞ」
「ウッソだろお前…。めっちゃ便利じゃん」
「知らずに使ってたのか…」
そりゃまあ治癒魔術な訳ですし、解毒が備わってるとか分かるわけないじゃん。少なくとも私が読んでたラノベでは別物だったし。まぁそんなこんなで二日酔いは一瞬で覚めた。
「…未だに剣聖とチャゼルはぐっすりだねぇ」
「レイシュに関しちゃ朝弱いしな。無理に起こすと斬り落とされちまう」
「剣聖は優しいからそういう事しないと思うよ」
「そうか?まぁ、いいや。お前に話があるんだが」
「話?」
そう聞き直すと、クレスはこくりと頷き、話をしだした。
「お前は、今この世界で戦争が起きている事を覚えているか?」
「…勿論だよ。でもおかしい事があるんだよね」
「あぁ、お前が言うおかしい点というのはおそらく俺が今から言う事と合致しているだろう」
私はさっきとは違う空気に少しばかり息をするのを止めてしまった。とりあえず体に空気を送り込み、クレスに向き直した。クレスはそれを確認して続ける。
「何故、こちら側に人間側が長耳族の森を焼却して以来、何もしてこないのか。お前がおかしいと思うのはそこじゃないのか?」
「そうだね…」
「これはだな…。あくまで俺の推測なんだが…」
「…」
「人間族の頂点、人皇は、こちら側を一発で終わらせかねない何かを隠し持っていると思う」
「一発で?」
「あぁ」
こちら側の陣営を根絶やしにしかねない兵器…もしかして旧英雄か?いや、無いな。旧英雄達は怒りの日以外では召喚出来ない。…いや待てよ。もしあちら側で簡易的な怒りの日が起こせていると仮定すれば…それも考える気がする。
「俺もお前も同じ考えを持ったみたいだな。そうだ。彼方は何柱かの旧英雄を召喚し、従えている、と仮定している」
「だけどそんな事は可能なの?簡易的な怒りの日を引き起こすなんて…」
「それはお前に語りかける神がよく知っている。おい最高神、教えてやれ。なるべく俺に聞こえる様、実体でな」
『ねぇ、美玲。あいつあんな事言ってるけど出るべきかな?』
「(さぁ?出れば良いんじゃない?)」
『しょうがないなぁ。美玲がそう言うなら実体で話そうか』
神がそう言うと、家の外から何かが落ちてくる音が聞こえた。そして同時に家の扉に手を掛ける音が聞こえた。 なんだあの神、行動早過ぎだろ…。
「やぁ、月神、そして美…ラルダ。降りてきたよ」
「出たな変態神」
「変態だなんてそんな…まだ引きずってるのかい?」
「当たり前だよ。幼女で致そうだなんて…なんか…うん…」
「なんだこいつ、幼かったお前で致そうとしたのか!?うっわ…ねぇわお前…」
「あの時は色々余裕が無くてね…抑えなきゃいけないモノが有ったからさ」
クレスの顔に影がどんどんさしていく。駄目だ、こいつが口を開く毎にクレスの神に対する信用度が下がっていく気がしてならない。…いや、もう下がりきってるのか。
「ていうか、本題はそこじゃないだろう!?」
「あっ、そっか」
「そっか、ってなんだい!?」
「うるせぇ、剣聖が起きる。静かに話せ」
「全く、なんなんだい君達は!」
「さっさと話す事だけ話して帰れ」
「あぁ分かったよ!そうしてやるよ!」
いつもこんな感じなのだろうか?だとしたら本当にうるさい仲だね。
「こほん…。えっと、簡易的な怒りの日の実現だが、可能っちゃ可能だよ」
「そうなの?」
「うん。だってあれは僕でも抑えきれない大規模な旧英雄召喚術みたいな物だしね。下位の旧英雄一柱や二柱ぐらいなら召喚術師200人ぐらいで召喚出来るよ」
「んで?そうして召喚できた旧英雄共を従えているのか?人皇ってのは」
「人皇だけではないかもねえ。恐らく人間の国一つ一つに一柱ってとこかな、人間の国は人皇の含め8つ。つまり旧英雄は八柱居ることになる」
「前の怒りの日を見てた感じ、下位の旧英雄一柱の戦力は国二つ分ってとこかね。全員が下位のそれだとしたらあっちの戦力は旧英雄だけで国16国分…。上位のが混ざってりゃそれ以上か。それが団結してこっちに襲ってこられりゃあ敗北どころか消し飛ぶぞ」
「私達も召喚して対抗すれば良いんじゃないの?」
「召喚術はこっちよりあっちに部があってね。魔族陣営内では召喚は不可能だ。魔神王が所持している神器でもね、あれは一応人間は召喚出来ない仕組みだから」
ふむ、無理か。こりゃあ参った。どうしたら良いんだろうか?戦力を潰そうにも旧英雄の戦力が大き過ぎて変わらないし、旧英雄を殺そうにも私達で殺せるかが難題である。私がどうしたものかと悩んでいると、クレスは含みのある笑みを浮かべながらこう言った。
「月神がラルダに終末定理を与えたのはこの為かねえ」
「だろうね。しかも『先導』や『霹靂』、他にも多くの魔力を孕んでる。いざとなれば国一つの戦力、いや、この大地の生命全ての主導権を握れる彼女は魔族陣営の最高戦力だ」
「ちょっとまって」
「「ん?」」
「私はそんなにつ、強くな…いよ?」
いやそんな不思議そうな顔しないで。やめて、そんな顔しないで。
「君はこの世界では最強とまではいかないが、伝説クラスではあるんだよ?それで強くないって発言はちょっと、どうかと思うけどね」
「まあ、分からなくもないがね。だが最高神の言う通りだラルダ」
「…。そんなに期待されてんの?私が?」
「うん」
「あぁ」
あっはい。そうですか。あれー?おかしいな…。私は確かこの異世界で平和に暮らしたかった筈なんだけどなぁ…。…そうだ。平和に暮らしたい。その為にこの世界に降り立ったのに、私の故郷は焼き払われた。あの時は剣聖に憎悪を抱いていたが、元を辿れば元凶は人皇。善人である剣聖を曲げてしまった張本人。それに両親も多分奴の足下に居る。そう考えれば、私が動かなきゃな。
「おや、何かスイッチが入った様だね」
「どうした?」
「ねえ、神様」
「何かな?」
「次の仕事は人族陣営の戦力を削ることで良いかな?」
「…!…おぉ。良いよ良いよ。だけど君だけでは絶対に駄目だよ。ここに居るメンバーで仕事を遂行するんだよ?」
「うん。私は今回も救世主らしい事はしないけど、良いよね?」
「そこは君の好きな様にやれば良いさ」
「…話は決まった様ですね」
私達三人は声のした方向に振り返った。すると、剣聖が目を覚まし、何やら薄く微笑んでいた。
「聞いてたのか?」
「えぇ。神様が騒いでた時から聞いてましたよ」
「ごめんねレイシュ。こいつが悪いんだ」
「結構疲れも取れたので良いんですけどね。それより、人族の国潰しですか」
「うん。剣聖も来てくれる?」
「勿論ですよ。私は貴方がロンゴヴィギナに帰るまでは貴方の保護者ですから」
「ありがとう剣聖」
「いえいえ」
「さて、と。僕は帰るよ。話は済んだしね。ここから先は君達がやるんだ。僕は君達がどうやって国を潰すか、傍観してるよ」
神はそう言って光の粒子となって消えた。本当に行動が早いなあの神は。
一つの物事が終わると、また一つ、物事が増える。だから人生は飽きないし、楽しいものだ。生前の分に合わせて生きれる事を嬉しく思う。私はこっちに降り立ってまだ四年しか経っていないけどね。合わせると20歳、まだ若い。
私達はチャゼルに事情を話し、すぐに出発の準備をした。チャゼルは『国潰し?派手で面白そうなのだ』と言って快く承諾した。まぁ『大地』の取得に役立ってくれると嬉しい。
そして夜、私達は新たな大地へと出発した。




