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第四十二話 「沈む夕日」

 少し高めの丘陵にて、一人の槍使いが座っていた。


「ふぅ…」


 彼女は毎日のようにこの丘に登って、毎回同じ位置に座って夕日を眺めている。日に日に日没の時間がズレていくのを見ているので飽きないのだろう。


「奴が見てて飽きない、と言っていたのもわかるかも知れないな…」

「やっぱ此処にいたか」

「誰だ?」


 後ろから男の声がしたので、その方向へ振り返る。そこには声がした通り男が居た。白髪赤眼。強そうで、何処かはっちゃけてる感じ。


「毎回毎回家屋に放火してんのはお前だな?」

「……そうだとしたらどうする気だ?」

「そうだな…まぁ爆弾にして花火にするぐらいかね…」

「…」

「冗談だからそんな目すんなよ。一つ確認してぇだけだ」

「確認?」


 槍使いが困惑した顔で聞き直すと、男はこくりと頷き、一つの紙を出してきた。そこには何て書いてあるのか分からない文字が書いてあった。


「これが読めるか?」

「いや、読めないな」

「あれ?じゃあ別人なのか?」

「別人ってなんだ…。(わたし)に似てる人でも居るのか?」

「瓜二つっていうか…」


 男は暫く唸っていたが、突如何かを思いついたかのように手を叩いてこう言ってきた。


「そうだ!胸元を見せてくれ!あいつには大きな火傷跡があった筈だ!」

「お前燃やすぞ」

「なんで!?」

「いきなり女に胸元見せろって…デリカシーが無いでしょうが…」


 男はハッとした顔になり、「すまない」と言いながら頭を下げた。それを見た槍使いは溜息を一つし、話を戻した。


「それで?なんか用?」

「あぁ、最近家屋火災が多くてな。槍使いの女性が毎度のごとく現れるって話を聞いて、ちょっと俺の知ってる奴にそういう奴が居てな、そいつかと思ってここに来たらお前が居たわけだ」

「成る程…それで人違いだった訳だ」

「すまない…」

「あぁいや、お前の予想していた人とは違うだけで、火災の原因を作っているのは(わたし)で合っているぞ」

「…ならこれ以上はもうやめろ。やめなければ斬る」


 そう言って男は腰の剣に手を掛けようとしたので慌てて手で静止させて、槍使いは慌ててこう言った。


「まぁ待て。原因は(わたし)だが意図的にやっている訳ではないのだ!」

「は?そんなのにわざとも何も無いだろうが」

「私の魔力は時刻が昼に近くなればなるほど周囲に影響を及ぼすようになる」


 槍使いは己の魔力を一から説明した。「烈火(ブロウディングフレア)」。昼に近づくごとに自身の熱量が上昇していく魔力。それに伴い自身の魔力及び力量にも影響が及ぶ。正午を迎えた時熱量は木材なら燃えるレベルになるそう。それで毎日毎日火災が起きるそうで。


「満足に外も歩けないじゃないか…」

「ハズレってわけでもないが面倒な魔力だな…ドンマイ」

「私は一体どうすればいい!?」

「え、そうだな…?」


 男は考える。放火っていう罪もあるが何というか可哀想だし、なんとかしてあげたい。そう思うものの、良いところが……。そこで男は閃いた。


「俺らの城に来てみるか?まあ放火で罪人指定だから牢獄に入ると思うが、快適だし良いと思うぞ」

「飯は出るか?」

「ん、おう。一応人並みの生活は保証できる。もし与えられなかったら俺が言っとくよ」

「お前、良い奴なんだな…」


 そう言って槍使いは感激したような笑みを浮かべた。その表情を見た男はくすりと笑い、


「何、似たような奴が居ただけだ」


 と答えた。すかさず槍使いは尋ねる。


「本当にそいつは吾と瓜二つなのか?」

「おう。髪の色以外全部な」


 そんな事もあるのかと槍使いは思った。槍使いは満足したかのように立ち上がり、その数秒後に男が立った。


「さ、行くぞ。えっと…」

「シリアだ。牢獄で世話になるな」

「ん。俺はクレイだ。牢獄での生活は任しとけ」


 こうして、二人で頷きあってから城へと向かった。時刻はすでに夕刻。月が現れる時間であった。月は珍しく、赤かった。


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