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第二十二話 「譲渡」

 雪もどんどん溶けていき、新しい生命が芽吹き始め、少しずつ暖かくなってくる季節になった。私は個人的にこの季節は嫌いなのである。花粉は飛ぶし、後輩が入ってくるから先輩らしい態度を取れ、と先生がうるさいので、嫌いだ。まあ今の私は長耳族で生前とは違うので花粉の影響は受けないし、忌々しき先生も居ない。何も恐れることなく、春を堪能出来る。


「んぅ、んー!」


 ぐっと伸びをする。いい朝だ。日差しが暖かくて、眠気が交じる私を目覚めさせてくれる。朝は大好きだ。


「よっ、と。サテラ…はまだ寝てるか」


 私が使わせて貰ってる部屋にはサテラも居る。サテラがこの家に来てから、私が独り占めしていた部屋に入ってきたのだ。大体、私が起きるとつられる様に起きるのだけど、最近は起きるのも遅いし、目にくまを作ってボーッとしてることもある。一体何をしているのだろうか?


「まぁ考えててもしょうがないか…よしっ」


 私は眼帯をする。最近は魔力総量も多くなってきて、魔力眼にも魔力が供給される様になったからか、勝手に開眼して眼がおかしくなっちゃうのだ。それを抑える為の眼帯である。ウェインさんとの模擬戦の時に「猟眼(スナイパーアイ)」を初めて使ったのだけど、本当にこれは弓や銃とかの遠距離武器専用の魔力眼だな、と痛感したものだ。何せ結構な距離だったけど目の前に居るような感じだったもの。


「んぅ…朝ですかぁ……?」

「おー、起きたかねぼすけ。また夜更かししてたの?」

「んー……」


 サテラが起床した。薄い灰色地味た髪が凄まじくぼっさぼさである。彼女は巷でいうスーパーロングヘアーで、目覚め以外の時はとても綺麗な見た目である。まあ「転輪」で容姿年齢共に私と同格になったので可愛らしいと言った方がいいかも知れないけど。


「ほら、おいで。髪といてあげるから」

「はぁ〜い…」


 ごそごそ、と音を立てながらベッドから降りてくる。絶対こいつ朝苦手だな。


「最近寝ぼけてばっかりじゃん。夜更かしして何やってるの?」

「……あふっ…んん、隣の部屋からギシギシって音が聞こえるんですよ、それがうるさくて…」


 隣の部屋、クレイさんの部屋だったかな。その部屋から軋む音。……あぁ。そういう奴かあ、私は大嫌いなんだよね。そういう卑猥な事。


「そういう時は、壁をトントンって叩いて見るといいよ。きっとピタッと鎮まると思うし」

「そうなんですか?今日聞こえてきたらやってみます!」

「おー、やってみー?」


 こうしてサテラに役たつ(要らない)豆知識を吹き込むのも風習になってきた。記憶を失ったサテラに知識を吹き込むのも私の仕事なので、斡旋しなければならない。ところで、サテラはこの前自分で敬語を辞める、と言っていたものの、辞めたのは一瞬だけですぐに敬語に戻った。結局の所、敬語の方がキャラが合ってるって気づいたのだろう。


「そういえば、ラルダ先輩はどうして弓士と言ってるんですか?雷術師って言った方がいいと思うんですけど」

「うーん、単純に魔術よか弓使った方がしっくりくるし、それにその〇術師っていう法則が分からないの」

「法則?」

「うん。例えばサテラって譲術師、って言われてるじゃん。その譲ってなんなの?」

「あぁ、簡単な事ですよ。私の魔力は概念や思念等を相手に譲る物です。だから何かを譲る魔術師、譲術師です」

「成程ねぇ」


 そこまで聞いて、質問が出来たので聞いてみる事にした。


「サテラの魔術はどう言うものなの?」

「あぁ。えっと、まず私が思念した物を相手にこじ付ける「牽強付会(トラブルギフト)」ですね。この魔術は対象とした人物や物に私が送った思念をこじ付けてその通りにしてしまうと言うものです」

「有能だね。それ、死ぬっていう思念送ったら死ぬんでしょ?」


 そう言うと、サテラはちょっとだけ恥ずかしそうに下を向いて言った。


「生と死に関わる事を送れば私も巻き込まれます。まだ私の魔力は、その…不完全ですから」

「不完全なんだ…。でも十分だと思うよ。他は?」

「そうですね…私の五感の内どれかをピックアップして、それを相手に譲り上乗せする「五感譲渡(センスギフト)」です。視力を受け渡せば私の視力は無くなりますが、受け渡した対象の視力は二倍になると言う事です」

「聴力を受け渡せば、聴力が二倍になるって事か…。使う時は合図とかが必要だね」

「はい、その時はよろしくお願いします」

「まだある?」

「ありますよ。魔力を放つ為のマナを譲る「魔力譲渡」や「牽強付会」と似ていますが、対象のステータスに何らかの強化及び弱体化を及ぼさせる「変質譲渡(ストレンジギフト)」など」

「なんというか援護用って感じだね」

「そうですね」


 という感じで話も終わり、髪もとき終わったので、暫く何をする事なく、ボーッとしていると、ドアが叩かれた。


「はい?」

「僕だよ、ラルダ。少し部屋に入れてくれないかな?」

「おじ様のお願いを拒否するわけ無いじゃん」


 そう言ってドアを開けてやる。するとおじ様が入ってきて、近くにあった椅子に腰を下ろした。そうして、こう口火を切った。


「二人とも、仲良くしてるかな?」

「はい」

「うん」

「そっか、なら良いんだよ」


 そう言って、彼はニコリと笑った。そのまま沈黙が続き、なんだかおじ様が苦しそうな苦笑いをしているように見えた。何かあるな、と思い「同調(リンク)」を開帳する。すると、直ぐに情報が流れ込んできた。


「おじ様、何か……」

「もうとっくに「同調」で分かっているんだろう?」

「………」


 私は静かに頷いた。彼の言おうとした事は手に取るようにわかる。だけど、それを私達に言いに来るっていうのはどういう事なの?ていうか…《降臨者》って何?


「まあそういう事なのさ。君達は危ないから此処に居て欲しい」

「待って、《降臨者》って何なの?名前からして凄そうだけど」

「私は内容がさっぱり分からないんですが…」

「あぁ、君達は知らないんだね」


 彼曰く、戦争が勃発し、それが何らかの理由で泥仕合になったりして一向に決着が付かない場合、これ以上の泥仕合化を抑止する為に神が異世界より召喚する者。それが《降臨者》らしい。


「今回の泥仕合化の理由は恐らく戦況低迷だろう…。未だあの一件以来、あっちも仕掛けて来ないし、こっちも仕掛けていないからね。恐らく、今回(降臨者》が僕らの領土内に現れたのは、魔族陣営を敗走させる為に、数を減らしに来たか」

「…そういえば、なんで此処は戦争中にも関わらず、米とか、水とかが多いの?普通おかしくない?人間族側も同じなの?」

「良いや、あっちはそうでも無いさ。僕が忍びであっちに居た時、皆貧相な暮らしをしてた。だが、こちらはそういう点では優位なんだよ。召喚術の神器、ヴェンデッタが有るからね」

「何それ?」


 初めて聞く名前だ。あの本に載っていたかもしれないけど、多分興味無くて飛ばしたか?そう思っているとおじ様が説明をしてくれた。神器ヴェンデッタ。別名繁栄の大杯。召喚術を極まで磨いた魔術師のみが操れる杯で、欲しいものを念じれば水でも食べ物でも量や重さなど関係なく虚無から召喚出来るらしい。あほくさ。


「それをウェルトが持ってるってこと?」

「うん。だからそれのおかげで文明は進歩して人間族より進歩した。でも欲深いあいつらの事さ、人間族は我々に劣る事を認めず、神器を奪おうとしているのさ。それで僕らは抵抗しているのさ」

「なるほど」


 サテラはボーッとしているので気にしない。そうか、その為に戦ってるのか…。でもな……私は別にそんな事の為に戦いたい訳じゃない。皆の復讐の為に戦うのだ。



 あ、そうだ。長耳族の子供たちは生きてるって話だし、私が長耳族を先導しよう。出来るか知らんけど。

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