幽霊屋敷2
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日曜日、当日がやって来た。
良秋は結局友人達と自転車で現地に赴いた。良秋は建物が実際にあったことに感動した。この幽霊屋敷もいずれ新規に別の建物が建って、もはや場所を特定することすら不可能に成るだろう。
屋敷には既に何人かの子供達が来て待っていた。キュラー夫人が化けて出るのは夜だから、まだ間があった。言い出しっぺのスピーカーは遅れていた。
「あいつ、ほんまに来るんかいな?」
「スピーカー、うちでチャーハン食ってた。すまん。すまん。忘れてた。後で行くわ、って・・・」
と幹事長役の小柄な森やんが言った。
やがて本人が到着する。チャーハンの臭いが仄かに漂う。
「すまん。すまん。チャーハン食ってた」
見ると、みんながお化け屋敷の前の、ガードレール内の歩道に、自転車を勢揃いさせている。これでは歩行者は通れないし、バレバレである。
智慧者のスピーカーが言う、何とかしろ、と・・・。
訳知りの良秋が知恵を貸す。緑地の入り口の車止めの森蔭が良い、と・・・。
みんなは良秋の手柄を褒めもせず、ただただスピーカーに則って良秋の場所に駐めた。良秋はブウブウ不満である。
戻ってみると、みんなはトタンの入り口を気にし出していた。幽霊屋敷は周りをトタンで囲まれていて、出入り口はこの一カ所開いた隙間しかない。鉄の鎖が掛かっている。容易に身を屈めて通れそうである。良秋は安易に中を伺った。いきなり衝撃が走る。尻を蹴られたのである。思わず幽霊屋敷の敷地内の地面に突っ伏していた。
「あたた・・・誰だ、今蹴った奴は!」
振り向くと、 一人だけ笑っている奴がいる。みんなが嫌そうな顔している。倍良本だ。一応言っとくが、嫌われている者である。
「早よ入れ」
ニヤニヤ笑いをしてる。
「勝手に入ったらあかんねんで」
小型の猿に少し似ている 森やんが言う。
「こいつが蹴りよったんじゃッ!」
「こあつ(小松原)が一番最初に入りよった~」
冷やかす、べら本。
「お前が蹴ったんやないけ!」
と良秋。
「誰れが蹴ったって?人聞きの悪い。まあ、奥さん。まあ、奥さん。(しばし沈黙)。おい、そこ退け」
べら本が罷り通る。
その後をみんなが自然入って来る。
「一番最初に入ったのは誰や?」
スピーカーは声が嗄れている。魚屋のおっさんみたいだ。
「スピーカー、声どうしたんや?」
「分からへん」
喋り過ぎだろう。
「一番最初にお入り遊ばしたのは、一体何処のどいつ様でしょーか?って」
スピーカーが言う。
「小松原や。小松原」
みんなが唱和する。
「メモしとこ」
「せこいゾ、スピーカー。まあ、なんツー、せこい奴」
スピーカーは森やんと後々までの確認をとる。
「森やん君。ここは一つ証人が欲しいものだな。ハイ、スピーカー部長(声音を変えて一人二役)。(しばし沈黙)。悪い奴やな、小松原。お前一人、責任取れよ」
「なんでやねん?前から知ってたけど、何ツー、せこい奴。(しばし沈黙)。稲荷田君、君、オレがケツ蹴られたの、側で見ていたやろ」
「・・・・・・ボク知らん。陰で見えなかった」
「嘘こけ。真後ろにいたんやから丸見えやったやろ!目があったわ!お前見たん、オレ知ってるゾ!お前ら、どいつもこいつも、スピーカーの肩、持ちゃ~がって」
みんな沈黙。(それがどないしてん)。
「ハハハ。やめとけ。やめとけ。見苦しい。往生際の悪いやっちゃなー。必死やのーこいつ。泣っきょんでーしまいに」
べら本。
「誰が泣くねん。どついたろか?」
「冗談や、冗談。マジになんなよ」
べら本は肩を抱き寄せ
「止めろ!」
良秋は振り払った。(気色の悪い)。
やがてしばしの後、べら本はスピーカーが遅刻して来たことに怒りをぶちまけた。
スピーカーとべら本は幼稚園の頃から対立していて、事ある毎にべら本はスピーカーにくってかかった。スピーカーは小さな頃から人気者で、それが悔しかった。
スピーカーはリーダーシップがあり、人望も厚いのに対し、べら本は不人気で根性がひねくれていて、それでもって一匹狼だった。スピーカーは時々強引の度が過ぎる嫌いがあり、ややもすればワンマン独裁に陥り易かった。だが一方にある、べら本の言う事が正論なのかと言えば、全部自分に都合のいい間違ったことばかりであった。
べら本はみんなを小馬鹿にして、年上や大人と付き合うことが多かった。それだけ見ればスピーカーと似ているが、スピーカーとの違いは、スピーカーが大人の知識をみんなのために使おうとしているのに対して、べら本は自分のためだけに使っていることであった。
大人達もスピーカーに子供らしさ、親しみを覚えるらしい。彼はリーダーとして大人達にも認められていた。一方、べら本は評判が頗る悪かった。ママさん達の井戸端で釣れる、これは魚釣りで言えば「外道」であった。
「おい、リーダー、この後どないすんねん?」
スピーカーは答えない。
「おい、スピーカー、この後どうすんねやと聞いとんねん」
スピーカーは森やんと談笑を始めた。
「昨日のテレビ・・・ウ、ウワッハッハッハ」
「お~い、スピーカー、お~い・・・。(しばし沈黙)・おい、この喋りぃ!」
「べら、うるさいゾ、ギャアギャア、ギャアギャア。べら、黙れ。ベランダ」
いつものことだが周りが騒ぐ。
スピーカーは不機嫌にズボンのポケットに手を突っ込んだまま、右左・一歩二歩と前に進み出る。
斜め前に右左「ぺッ」「ペッ」と唾を吐くと
「誰れがリーダーや?リーダーに成った覚えないゾ」
魚屋のおっさんである。
「お前がみんなを連れて来たんやから、お前がリーダーやろ」
スピーカーは首を大きく右左に、二往復・四度立て続けに、唾を「ペッ」「ペッ」「ぺッ」「ぺッ」と素早く吐く。
「スピーカー・・・」
周りからクスリ笑いが漏れる・・・。
「知らんわ」
「責任逃れすんな!」
スピーカーは唾を「ペッツ」「ペッツ」「ペッツ」「ペッツ」「ペッツ」「ペッツ」と首を鶏のように念を入れて右左素早く三往復・六度吐く。
「こいつ、何怒っとんねん?みんな、オレが連れて来たんか?来たいから来たんやろ?」
周りは「そうだ。そうだ。来たくて来たんだ(すっかり忘れてた)」と言った。
すっかり四面楚歌のべら本だが、慣れているので、これくらいではへこたれず、
「おい、口から先に生まれた奴、この後どうすんねん?なんも考えてへんねやろ?」
「うっさいわ。考えてるわ」
「嘘吐け。ほな、どないすんねん?言ーてみ」
「・・・・・・あかんわ、こいつ、あかんわ」
「なにがあかんねん?」
「団体行動出来ん奴やわ。あかんわこいつ」
べら本、笑み。
「そうだ、ベランダ、洗濯もんでも干しとけ」。「ベランダ、雨降るゾ」。周りから野次が飛ぶ。
べら本は目をパチパチさせ、「フフフ」と無音の薄らふくみ笑いをして、フェイドアウトした(この辺か)。
良秋がダメージから回復した頃洗川君が小声でボソボソ
「小松原君、洗濯機、こうたん?」
「おう、こうたで。こうた」
「どんなん?」
「なんかこう『絞り機』付いてる奴やわ」
「絞り機てなに?」
「こう、二つのローラーみたいなもんで絞って行くねん。洗川君とこのんはどんなん?」
良秋のテンションが少し高いので、洗川君は少し残念そうに
「うちのは脱水機やわ・・・」
「ほおぉ。どっちが新しいのかな?」
知らぬが仏。
「木の冷蔵庫が一番新しいんじゃ」
いきなり森やん。
「モンチッチー・・・」
森やんの言うのは、中に氷を入れる木製の冷蔵庫である。今時、何処で氷を仕入れているのか?それの方が難しいだろう。
森やんのうちはスピーカーが揶揄する程貧乏なのである。森やんは自分でもそれをギャグにしていた。
森やんのうちの洗濯機は当然、どっちも付いていなかった。多分非常に小型だろう。子沢山で小型。むしろ、洗濯機自体、あるのかどうかさえ不明だった。因みにスピーカーのうちは小金持ちである。
「スピーカー、何か考えがあるのか?」
みんなに丁度聞こえる具合に、軍師役の諸口君が口を利く。
「グループを二つに分けようと思う。一つは庭を見張る。もう一つは建物の中を探す」
自然みんなはスピーカーの所に集まった。スピーカー直属でなかった良秋はグズグズしていて、べら本の所に回されてしまった。(なんでこんな奴と・・・トホホ)。良秋とべら本達はたった二人っきりである。
スピーカー達は瞬く間にいなくなってしまった。素早い。べら本は早く済ませようと正面玄関から(そこ以外侵入経路はないんだが)正面突破を図る。良秋は情けなさそうにべら本の後を金魚のふんの如く付き従って行く。いよいよ本格的に探検が始まった。
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